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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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崑崙の章
  第1話 「えろげ?」

 
前書き
ようやく新章、開始です。もちろんオリジナルルートですよ。
思った以上に長くなったので、分けるか悩みましたが……お待たせするのも悪いと思い、長文ですが1話にまとめました。 

 




  ―― 盾二 side 宛 ――




「よっと……ふう。こんなもんかな?」

 麻袋の口を、紐で縛り終える。
 中には日持ちする携帯食料、地図、着替え、路銀に自作した登山道具。
 身に纏うは、AM(アーマードマッスル)スーツ。
 そして背後の腰には、オリハルコンナイフ。

 旅立つ準備が、これで完了した。

 さて……と。
 俺は、麻袋を担ぎ上げて部屋を出る。
 そこにはいつものように――

「行かれますか?」

 馬正が立っていた。

「ああ。今日まで警備、ありがとうござ――いや、ありがとう。助かったよ」
「なんの。またお帰りになったら私が警備させていただきますとも」
「……本職を忘れるなよ?」

 一応、将扱いにしてるんだからさ。

「もちろんです。留守中、漢中の守りはお任せください」
「ああ。頼りにしている……辞令がくるのは今日か明日だったな」
「はい。とはいえ下賜するのは張遼殿ですからな。帰ってきたら『ほい。まかせたで』で終わりでしょう」
「ははは。違いない」

 俺は廊下を歩きながら笑う。

 結果として、黄巾の乱は終結に向かっている。
 俺たちが白蓮の領地から出立して約半年。
 いや、半年以上だろう。
 結局のところ、洛陽からの正規軍と諸侯連合軍により、張角を初めとする黄巾三姉妹は討ち取られたとのことだ。
 正規軍に同道した曹操の部下、夏候惇が首級をあげたと報告されている。

 頭目が死ねば、あとは掃討戦だ。
 残党はまだ蠢動しているが……すでに論功行賞は始まってる。
 うちもそのことで、先日から霞が洛陽に呼び出されていた。
 すでに褒賞の内容は内々に決まっていたが……

「まあ、引継ぎと移動の準備は進んでいるんだ。ゆっくりやってくれ」
「はあ……しかし、本当によろしいのですか? 張遼殿を待たずに旅立たれるなど……あとで恨まれますぞ?」
「そうか? ちゃんと霞が洛陽に向かう前に挨拶しといたし……大丈夫だろ」
「いえ、そうでなく……」

 ?
 いったいなんのことだ?

「……はあ。やはり主は鈍感ですな」
「なっ!? いや、そう言われても意味わかんねぇし!」
「不憫ですな」
「……えっと、なにかまずいんですかね、馬正さん?」
「……私が言うことではありませんので」

 えー、なんでだよ!
 亀の甲より年の功っていうじゃないか。
 とはいえ……本当に何で気にするのかわかんないんだけど。

「ええい! 今日出るってのは皆に言ったんだ! いまさら撤回できるか!」
「……張遼殿が泣きながら追いかけなければいいのですが」
「だから、なんでそうなるんだよ。理由を言ってくれ!」

 俺が、があっと唸るが、馬正はただ首を振るばかり。
 俺が何したってんだ、まったく!

「主よ。これだけは言っておきます」
「お、おう」

 お?
 答えてくれるの?

「途中で新しい女性をあまり引っ掛けてこないでくだされ。孔明殿と鳳統殿が泣きますゆえ」
「俺はナンパ野郎じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 人を何だと思っているんだ!




  ―― 孔明 side 宛 大手門 ――




「いいですか、盾二様! 女性にはあまりお優しくし過ぎないように! ただでさえ、盾二様は女性に優しすぎるのですから!」
「えっと、うんと、そうでしゅ。あと、あんまり女性に近づき過ぎないようにしてください。たぶん向こうから擦り寄ってくるでしょうから」
「君らまで何言ってくれやがりますか!?」

 私達の言葉に、盾二様が顔を紅くして叫びます。
 大手門では、私達二人のほかに、桃香様、愛紗様、鈴々ちゃんの三人が盾二様のお見送りに来ています。
 本当は霞さんもいるはずだったんですが……ちょうど洛陽に呼び出された時期と重なっちゃいました。
 きっと大急ぎでこっちに向かっていると思うんですけど。

「まったく……俺はどこのエロゲの主人公だよ。そんな補正はないぞ?」
「えろげ?」

 よくわからない言葉に、桃香様が首をかしげています。
 えろげ……言葉の意味はよくわかりませんが、とにかく淫靡(いんび)な気がします。

「こっちのことだ。ああ、桃香。たぶん明日辺りになるだろうが、霞が辞令を持ってくるだろう。それを受け取ったら予定通り、漢中へ向かってくれ」
「うん。わかっているよ。あとは、ご主人様からもらった本のとおりにすればいいんだよね?」
「ああ……大まかに書いてあるから、現地の状態を考慮して修正して実施して欲しい。その辺りは朱里や雛里とも相談してくれ」
「はい。任せてください」

 そう言って、にっこりと微笑む桃香様。

「基本、君が良いようにやってくれ。朱里も雛里も、君を俺だと思って仕えるように言ってある。わからないことは二人に聞けば解決するはずだ」
「うん。お願いね、二人とも」

 桃香様がこちらに微笑みます。

「「お任せください!」」

 私と雛里ちゃんは揃って声を上げました。
 その様子に、盾二様も微笑んで頷いています。

「サポート……補佐は、愛紗、君に任せたよ」
「お任せください、ご主人様。桃香様をサボらせはしません」
「し、しないよぉ」

 愛紗さんの言葉に、ぶうっと顔を膨らませる桃香様。

「にゃははは! お姉ちゃんならやりかねないのだ」
「ひっどーい!」
「ははは……じゃあ、鈴々も頼むぞ。しっかり桃香を守ってやってくれ」
「もちろんなのだ、お師匠様!」

 元気に笑って答える鈴々ちゃん。
 その様子に頷きながら、その頭を撫でる盾二様。

 ……いいなぁ。

「愛紗も鈴々も、漢中を含めた梁州(りょうしゅう)は新しい州だ。混乱も多いはずだし、近隣の邑や街もすぐには安定しないだろう。その隙に賊の横行も多いはずだ。兵の調練はしっかり行ってくれ」
「「応っ(なのだ)」」

 二人は腕を組んで頭を下げます。
 ……直臣ではないとはいえ、主人と仰いでくれているのは私としても嬉しい限りです。

「馬正、朱里と雛里が状況をまとめたら、すぐに治安活動に動いてくれ。例の警護施設の建設とその指揮はお前に任せる」
「はっ! 必ずや早期に立ち上げましょう」

 馬正さんが臣下の礼をとり、跪きます。
 その姿は、さすがは元漢の要職にあっただけに、しっかり儀礼に(のっと)ったものでした。

「朱里、雛里。二人は大変だが、出来るだけ急いで情報と現実のすりあわせを行ってくれよ。わかっているとは思うが、それがどれだけ早いかで初期の治世は決まる」
「「はい、お任せください!!」」

 私と雛里ちゃんもそれぞれ臣下の礼をとりました。
 盾二様……必ず貴方の期待に応えて見せます!

「うん……」

 盾二様は、頷いてみんなを見回します。

 …………ぐすっ。
 はっ、だめだめ!

 絶対に涙なんか流さないって決めたんですから!

「じゃあ、みんな。そろそろ……」
「ちょっとまちぃーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「は?」

 あ。

 ものすごい勢いで馬を走らせてくる人がいます。
 たぶん……というか、もう誰かわかっているんですが。

「じゅんじぃーーーーーーーーっ!」
「あ、し、霞?」

 霞さんが、馬から飛び降りるのと、馬がヘタって倒れるのがほとんど同時でした。
 そのまま走って盾二様の前にきて……

「ウチが帰る前に旅立つとは何事やーーーーーーーっ!」
「う、うわっ!?」

 息も荒く盾二様の元まできて、胸倉を引き寄せました。
 見れば全身汗だくになって、髪もぼさぼさ。衣服も乱れ……って。

「ちょ、ちょっと! し、霞! しあさん! 胸、胸!」
「関係あるかーっ! ウチが戻るまで待っとれってゆうたやろがーーー!」
「だからむねぇっ!」

 あの、その。
 たゆん、とゆれる胸が、さらしから……

 むう。
 なんかムカつきます。

「し、霞さん! おっぱい、おっぱい出ちゃってる!」

 桃香様が慌てて周りの人から隠そうとしています。
 愛紗さんは、溜息を吐いて頭を抱え。
 鈴々ちゃんは、ケタケタと笑い。

 馬正さんは後ろを向いて見ないようにして。
 雛里ちゃんが顔を真っ赤にして手で目を覆って……あ、隙間から見ているのね。

「ぷっ……クスクス」

 私はいつの間にか笑っていました。
 自然に出た笑いでしたけど……ちょっとわざと笑いました。
 少しだけ……涙が出るのを誤魔化しながら。

 そして――盾二様は旅立っていきました。
 笑顔のままで。




  ―― 盾二 side 白帝城近郊 ――




 宛を出てから、既に十五日。
 馬に乗りつつ、指南魚という方位磁石を使って旅をして。
 ようやく長江まで辿り着いた。
 長江の畔まで行き、馬に水を飲ませて近くの木に手綱を繋いでおく。

 しかし、この時代に方位磁石があったとは驚きだ。
 てっきり創られた世界だからか? と思ったのだが、聞いてみると百数十年前にこの指南魚というのが作られたとの事。
 そういえば後漢の時代は占いが神聖化されるほどだったというし、占いにおいて方位は重要な役割を持っていたはずだ。

 意外と古くからあったのだな、としきりに納得しつつも、長江の川縁で腰を下ろす。
 さすがは長江。
 川というより、どこかの海の入り江か湖かと思えるほど広い。

 俺はその自然の景色を堪能しつつ、携帯食であるクッキーを取り出す。

 意外に思うだろうが、このクッキー、実はどんぐりからできている。
 どんぐりのクッキーは、日本や中国の縄文時代からあった。
 まあ、出来栄えは現代のクッキーなんかとは比べ物にならないぐらいにまずい。

 何しろ砂糖を入れないのだ。
 食べられる、という程度のものでしかない。

 だが、現代のクッキーで味覚が酷く贅沢になっている俺が、そんなもので満足できるわけがない。
 もちろん知識を総動員して作りましたよ、現代版クッキー!
 まあ、小麦で作るとあんまり日持ちしなくなるわ、しけって美味しくなくなるわで携帯食とはいえなくなるんだがな。

 だからどんぐりのクッキーに砂糖をまぶして、さらに火で炙ってみました。
 固く縛った小袋から一つだけ出して、パクっと一口食べる。
 結構美味しいが……やはり小麦粉で作るものには及ばない。

 しかも砂糖を使うから、気をつけないと蟻やら虫やらがすぐに沸いて来る。
 保存器具なんてもちろん、軽くて丈夫なプラスチックなんてないからどうしようもない。

(そのうちどっかでポーキサイトでも掘るか……いや、それはアルミか。プラスチック……あ、石油か。精製なんてどうやったっけ)

 原油の精製は蒸留装置が必要だ。
 おまけに大量の精製には、場所も設備もいる。

(作ってはみたいが……さすがに時間かかるだろうな。知識もないし)

 蒸留ぐらいはできても、それをプラスチックにするための工程がうろ覚えだ。
 天然樹脂の製法ぐらいは知っているが……合成樹脂はなあ。
 しかも出来たとしても大量精製は難しいだろうし、なにより焼却すると毒素もある。

(迂闊には広められない……か。こうなると未来の知識も迂闊に出せないな)

 なにしろ全ての物事には、それを生み出す工程で利益と不利益が同居する。
 それはどんな創造物でも同じだ。

 例えば火薬。
 この時代にはないものの代表格だが、最も簡単な黒色火薬を作るためには大量の硝石、硫黄、木炭がいる。
 一見便利なようだが、実はものすごく取り扱いが困難だ。

 なにより爆発させた場合、その威力の割に黒煙が非常に多く、使う側の中毒症状を招きかねない。
 よく日本の種子島……火縄銃などが例に挙げられるが、あれを使用されていた頃、ヨーロッパを含めて黒煙による呼吸器障害と、使用者の顔への炸薬の被害も相当大きかったという資料を見たことがある。
 まあ、それでも胴丸を貫通する威力もあり、弓矢に比べれば格段の威力があるのは疑いようもないことだが……

 また、無色火薬と違い、黒色火薬は水に非常に弱い。
 粉末状の黒色火薬は吸水性が非常に高く、水を少しでも含むと爆発しなくなる。
 雨が降れば一発で使えなくなる。
 雨でなくとも水でも掛けられれば、鉄砲はただの棒でしかない。

 戦国時代の頃、日本では雨が降るたびに油紙を巻いて徹底的に水に濡れない様にしていたらしい。
 水に潜るときなど分解して、部品ごとに油紙に巻いたほどだったらしい。

 現代の無色火薬と薬莢が開発されるまで、水と鉄砲はそれほど相性が悪かったのだ。

(そう考えるとカノンとか、船に付けていた大砲も大変だっただろうな……すぐさびそうだし)

 日夜油をつけた布で、丹念に潮風を拭う毎日だったのだろう。

 そんな益体もないことを考えつつ、地図を広げる。
 かなり細かく記載された地図。
 本来はこんな詳しい地図は、洛陽の書庫にでもいかないとないだろう。

 そこは霞に出来るだけ詳細な地図を頼み、それを元に朱里と雛里によって補填されたものだった。
 とはいえ、それも益州周辺までしかない。

(目指す先はその先にある……)

 地図を確認して方向を定める。
 進む先は、まだまだ先だ。

「とりあえずは長江に沿っていくしかないな」

 俺は立ち上がって地図をまとめると、麻袋に突っ込んで肩に掛ける。

「その前に……街でちゃんとした飯を喰うか」

 クッキーじゃ、小腹しか膨れないしな。
 そんなことを考えながら、馬の手綱を取ってその背に乗る。

 白帝城までは、あと一刻(二時間)の道のりだった。




  ―― other side 白帝城 ――




「どういうことか!」

 ドンッと机を叩く音がする。
 思わず周囲の文官が、ビクッと身体を強張らせた。

 城内にある王座の間で、太守は冷や汗を流している。
 警備を担当している兵も、目の前で怒気を発している人物のあまりの剣幕に気圧(けお)されていた。

「わしは劉表殿の要請であるからこそ、巴郡(はぐん)からわざわざここまで来たのですぞ! それをもう用はないから帰れ? どういうことか、ご説明いただきたい!」

 怒気を(あら)わにして太守を睨みつける人物。
 その人物は、自身の大きな胸をたゆん、と揺らせながら太守を見下した。

「い、いや……わ、私は太守といってもただの文官でして……い、一時的にここを任されているにすぎず、で、ですので、その……」

 しどろもどろの太守に、その人物――女性は鋭い眼光をさらに険しくさせる。

「ヒッ! い、いえ、で、ですから! す、すでに江賊に成り下がっていた甘寧は呉に下りまして……その残党が暴れていたので劉表様が、ご自身の不在の間に頼るならば、き、貴殿をと」
「それは知っておるわっ! わしが言っておるのは、その要請に応えて来てみれば『もう用はないから帰れ』ということじゃ!」

 その女性は、今にも太守の胸倉を掴み上げて、締めあげそうな雰囲気を出していた。
 さすがに警備兵も、剣呑な雰囲気になる。

「で、ですから……江賊の残党との話し合いがつきまして。こちらが上納金を出せば、おとなしくすると……」
「賊に金を渡して見逃してもらうと!? 貴様ら、それでも漢の官吏かっ!」
「ヒイッ! お、おやめください、厳顔将軍!」

 厳顔――そう呼ばれた女性は、怒髪天を突く勢いで太守に吼えた。
 既に文官の一人が、その怒気に当たって気絶している。

「江賊如き、わしが一息に滅ぼしてくれるわ! そやつらの根城に案内(あない)せい!」
「む、無茶です! こちらには江賊に対抗できるだけの船がないのです! 貢がねばどうやって民を守れというのですか!?」

 今にも卒倒しそうな太守に代わり、文官の一人が止めに入る。
 厳顔はその文官を睨みつつ、言われた内容に顔をしかめた。

「むう……それこそ敵の根城を叩けばよいではないか。やつらの根城とて長江の上にあるわけではあるまい」
「根城があったとしても、長江に逃れてしまえば、追う手段がありません! それではいつまた報復に戻ってくるかわかりません!」
「ぬ、ぬう……だが、元を断たねばいつまでも搾取されるだけではないか」
「そこまでおっしゃるのでしたら、厳顔将軍。巴郡の水軍、その全軍を出してずっとこの白帝城を守っていただけるのですか?」
「そ、それは……」

 文官の正論に二の句が告げなくなる厳顔。
 厳顔の収める巴郡とて、長江のすぐ傍に位置する場所だ。
 それなりに水軍があるが、それとて防衛は出来ても他の街まで守れるような軍勢ではない。

「確かに江賊如きに金銭を払うのは屈辱の至り。しかし、我らが民を守るために苦渋の決断をしたのです! それをお考えください」
「…………すまん」

 文官の必死の言葉に、謝罪の言葉しか出なくなる厳顔。
 目の前で激変した武人の姿に、太守である文官は椅子からずり落ちそうになった身体をようやく起こした。

「……そういうわけです、厳顔殿。今、江賊と新たな火種を作るわけにはいかなくなったのです。重ねて申し訳ありませんが……お引き取りくだされ」
「くっ……」
「むろん、今回の出兵の費用は、御礼と御詫びも合わせて後日必ず……」
「そんなものはいらん! わしを見損なうな!」
「…………」
「……すまん。失礼する」

 太守と文官の申し訳のないという視線に耐え切れず――
 厳顔は、その場を後にした。




  ―― 盾二 side 白帝城 城下街 ――




「うまっ! てかなんであるのさ、麻婆(まーぼ)!」

 俺は適当に入った菜館の菜譜にあった、見知った名前に、思わず頼んだ。
 この時代、まさかないだろうと思っていた料理の名前がそこにあったからだ。

 その名は……麻婆豆腐(まーぼーどうふ)

「……トウガラシって南米原産だよなぁ」

 確か世界に広がるのは、十五世紀以降のはず。
 ああ……まあ、創られた世界だからもうなんでもアリかもしれない。

「そういや、鈴々に連れて行かれた屋台にラーメン……しかも鹹水(かんすい)っぽいの使っている麺があったな……まあ、いっかぁ、うまいし!」

 下手な考え休むに似たり。
 もうそれで全部説明付けときゃいいや。

 だってうまいんだもの。

「うまい! おかわりください!」
「あいよぅ! 兄ちゃん、美味そうに食うねぇ。旅の人かい?」

 店の店主らしきおっちゃんが、嬉しそうに尋ねてくる。
 そこそこ混んでいる店なのに、一人で切り盛りしているようだ。

「ええ。ここから西に向かおうと思っています。親父さんはここで長いんですか?」
「ああ。親父の代からここで店構えてるよ。親父が隠居してからもう十年程かな……あいよ、麻婆、おまちっ!」

 ごとっと置かれる大盛りの麻婆豆腐。
 おお、なんか最初より増えてないか?

「美味そうに食べるから大盛りにしといたぜ」

 ありがたい!
 久しぶりに食べる美味い料理に、ご飯が進む進む。
 そういや、米も玄米じゃなく白米……まあいっかぁ!

「親父さん、飯もおかわり! できればドンブリで!」
「はははははは! お前さん、気に入ったよ! よっしゃ、まってな!」

 親父さんは、ラーメンが入るようなドンブリを取り出し、山盛りに白いご飯を載せてくれる。

「ほらよっ!」
「ありがとー! くー、からー! そしてうめー!」

 麻婆と白いご飯を交互に食べる。
 もう、めっちゃうまい! それしか言えない。

「んぐんぐ……ああもう! これだけうまいならやるっきゃないな!」

 俺はご飯の中心を別皿に分けて盆地のようにすると、そこに熱々の麻婆を注ぎ込む。

「お、おいおいおい! 麻婆をそんな……」
「いいからいいから! これがうまいんだって!」

 親父さんが慌てて止めにくるが、そこは日本人たるこの俺。
 麻婆ときたら麻婆丼でしょう!

「ばくばくばく……うめー!」
「……そんな喰い方したの、兄ちゃんが初めてだな。そんなに美味いのか?」

 親父さんが奇妙な顔で見てくる。
 周囲の客も皆びっくりしているようだ。

「あれ、やったことないの? こんな美味い麻婆ならやらなきゃ損でしょ!」
「……ちと俺も食べてみるか」

 親父さんが小さい小皿に飯を盛って、麻婆を掛ける。
 そして一口……

「むお! なんだこれ! めちゃくちゃうめぇ!」
「だろー!?」

 俺は、にやっとしながら自慢げにそう言う。

「お、親父さん、俺にも麻婆と飯くれ!」
「こ、こっちもだ!」
「俺にもそれを!」
「待て待て待て! 俺がこれ全部食ってからにしろぃ!」

 ははははは。
 親父さんが一番気に入ってら。

「おかーさん! あれ食べたいー!」

 うん?
 声がするほうを見ると、小さい女の子がこちらをもの欲しそうに見ている。
 ああ、親子連れか。

「そうねぇ……すいません、こっちにも一つもらえますか?」
「ああ、はいはい……順番に作るから待っててな!」

 母親らしき人が頼むと、食べ終えた親父がすぐに厨房へと引っ込んだ。
 これから大量に麻婆丼を作るつもりらしい。

「これはうちの新しい看板料理になるぜ……おい、兄ちゃん! 御代はいらねぇ、どんどん食え!」
「うお、ラッキー!」

 ははは、一食浮いちゃったよ。

 くいくい

 うん?
 袖が引っ張られている。
 見てみると、袖の下にさっきの女の子がいた。

「お兄ちゃん、それおいしい?」
「ああ、めっちゃ……いや、ものすごく美味しいよ」
「うー……いいなぁ」

 女の子はジーッと俺の手にあるどんぶりを見ている。
 ああ……この子、今すぐ食べたいのね。

 見れば厨房では、親父さんが大慌てで作っている。
 あの様子じゃ……来るまでまだ時間かかりそうだな。

「ちょっと食べてみるかい?」
「いいのー?」
「こら、璃々(りり)!」

 あ、お母さんが怒ってる。
 かなり美人な紫の髪の人。
 だけど……胸おっきいな、この人。
 もしかして、桃香より大きいかもしれない。

「あ、気にしないでいいですよ、どうせただになりましたし……えっと、君の名前は?」
「璃々ー!」
「それ真名じゃないのかな……?」

 ちらっとお母さんのほうを見る。
 お母さんが苦笑しながら頷いている。
 しかし笑っているってことは、呼んでいいのかな?

「えっと、真名呼んでいいの?」
「うん!」
「そっか……じゃあ、璃々ちゃん。お兄ちゃんの少し分けてあげよう」
「わーい!」

 璃々ちゃんが大喜びである。
 朱里や雛里といい……俺、幼女に好かれるのかな?

「親父……さんは忙しそうだな。じゃあ、お椀持っておいで。こっちの綺麗なほうを分けてあげるから」
「うん!」

 ててて……とお母さんの傍に駆け寄り、小さなお椀を受け取ってまたこちらにくる。

「はい!」
「はいよ……じゃあご飯乗っけて麻婆かけてっと」

 手をつけていないご飯の部分を別皿から取り出して、皿に残っていた麻婆をかける。
 ちっちゃい麻婆丼、完成!

「はい、どうぞ……辛いからね、気をつけて食べるんだよ」
「うん! お兄ちゃん、ありがとう!」

 にぱっと笑顔でお礼を言う璃々ちゃん。
 小さいのに利発な子だな。

 ちらっと顔をあげれば、お母さんが頭を下げている。
 手をひらひらと振って気にするな、と合図する。

「おかーさん! お兄ちゃんにもらったー!」

 あーあーあー……そんなに走ると溢すぞ。
 そう思ったら。

「あっ!」

 がしゃん!

「…………」
「…………」
「「「…………」」」

 俺も、お母さんも、そして微笑ましい様子を見て和んでいた店内の客も。
 その全ての人が無言になる。
 転んだ璃々ちゃんは、割れた茶碗を見て……

「ふ、ふぇ……」

 あ。

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 あーあーあーあー……
 璃々ちゃんが盛大に泣き出してしまった。
 
 俺が椅子から立ち上がるのと、お母さんが立ち上がるのがほぼ同時だった。

「大丈夫か、璃々ちゃん……怪我はない?」

 俺が、璃々ちゃんの傍に屈んで慰めようとすると……

「璃々」

 おや?
 お母さんが厳しい顔で立っている。
 あ、あれ?

「泣くより前に、することがあるでしょう」

 お母さん……なんかわかりませんが、厳しすぎやしませんか?
 お子さん泣いているでしょうに……

「うぐっ、ぐしゅっ、ふぇ……」

 璃々ちゃんは、お母さんに言われると……頑張って泣くのを我慢して、涙を拭いて。

「お兄ちゃん……ひっく……ごべんなさい……」
「へ?」

 い、いきなり謝られた。
 ど、どういうことだってばよ!?

「せ……っひっく……せっがぐ……せっがぐもらっだのに、こぼしっ、くっ、ごぼじぢゃっで、ごめん、ださい……」

 ……………………

 あまりのことに、ぽかんとしてしまった。
 普通、この状態で謝ってくる小さい女の子なんているだろうか?

「ひっぐ……ぐじゅっ……ごめん、なざい……」

 璃々ちゃんは再度謝る。
 あ、いかん。
 ぼーっとしていたら、俺が怒っているみたいじゃないか!?

「い、いや、気にしないでいい、よ? 怒ってないから……」
「ぐじゅ……ひっく、ほ、ぼんと?」
「ぼん……ああ。ほんと、ほんと」

 俺はそう言って、頭を撫でる。

「ぐじゅ……ひっく……」

 璃々ちゃんは、ゆっくりとお母さんの方を見る。
 お母さんは厳しい顔をしていたが……ふっと顔を緩ませてしゃがみこむ。

「……よくできましたね、璃々」

 その言葉に――

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! おかあざぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 再度号泣して、お母さんの胸に飛び込んだ。

 ああ……我慢してたんだなぁ。
 璃々ちゃんもすごいが、それを厳しく躾けるお母さんもすごい。

 びーびー泣き叫ぶ我が子を胸に抱いて、お母さんがこちらを見てぺこり、と頭を下げた。

 いや、もう……なんていうか。
 母親ってこういうものなんだな、と不意に胸が熱くなった。

 俺にも母親がいれば……こういう人だったのだろうか?

「……麻婆できたんだけどな」

 ……親父、空気読め。 
 

 
後書き
盾二くんをようやく歳相応に書けました。
長かった……

補足ですが、火薬自体は6世紀頃にはすでにあったそうです。 
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