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鋼殻のレギオス IFの物語

作者:七織
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四話

「では、好きに動いていいのですね」
「いいけど、本気出しちゃだめよ—。バトルマニアのあんたが本気なんか出したら町が壊れちゃうから」
「それは厳しいですが善処させていただきます。せっかくの機会をつぶされたくはありません」

 ここはグレンダンの王宮、その中でも女王、アルシェイラ・アルモニスが好んで居ることの多い庭園だ
 先日の戦場でのことを早速女王に報告。そして同時に自分がその力を試してみたいと申し出た。(無論、そのまま言うほど馬鹿ではないため、有望な武芸者の成長を助けるためなどと言った。速攻でバレタ)
 どうやらやはり、女王は彼——レイフォン・アルセイフの事を知っていて放置していたらしい。さほど興味はなさそうに了解をしてくれた

「ああ、後曲がり間違っても殺しちゃだめよ。たとえやる気がなくとも、グレンダンの民であり、有能な武芸者を減らす気は私にはないから」
「………分かりました。陛下の仰せのままに。ではこれで」

 そういい、この場からサヴァリスが去って行くのをアルシェイラは眠そうに見送った
 返事までの沈黙が気になったが、まあ大丈夫だろうと思う。もし本当に暴走しかけたらデルボネが教えてくれるだろうし、別にいい
 そして思うのは件の少年レイフォンだ。若干十歳にしていくつもの大会で優勝し、サヴァリスに目をつけられた哀れな天才少年
 天剣を持っていない以上、サヴァリスには勝てないだろうし、仮に勝ったとしたならそれを理由に天剣にし、一つ空いた枠が埋まるだけ。レイフォンにとっては災難だが、まあ、運が悪かったとあきらめてもらおう。サヴァリスに制限をつけただけでも感謝してもらいたいくらいだ。それにささいな嫌がらせでもある
 天剣が空いていて、力があったとしても本人が嫌がっているならと思っていた、だが

(仮だとしても、私が主催したことになっている大会で手を抜く子には少しお仕置きね〜)

 アルシェイラは性格が悪かった。そしてもうそのことからは思考を閉ざし、目を閉じて体から力を抜く
 やっぱり、仕事をほっぽり出しての休憩は格別ねー。と思いながら、相手にしてもらえずにいながらも健気に頑張る影武者(仮)が涙目で来るまで、アルシェイラは心地よい陽気に包まれて昼寝を始めた



「レイフォンおかしつくって—」
「ぼくもぼくもー」
「ええ!?リーリンには言ったの?」
「いってないよー」
「リーリン、ごはんたべてすぐだとおこるもん」
「レイフォンにいさんはやさしいから」
「うーん、でもリーリンが怒るから……」
「いいじゃん、ねえつくってよー」
「ばれなきゃいいじゃん!」
「ねえ、つくってつくってー!」
「え、えー。う〜ん。じゃあ、リーリンには内緒だよ?」
『わーい!』

 汚染獣の大群を相手にしたのもつい先日、レイフォンは家である孤児院で年下の子供たちにせがまれてお菓子をつくっていた
 小さい頃から家事の手伝いをしてきたレイフォンは、掃除洗濯買出しに料理と一通りの家事ができる。流石に幼馴染のリーリンには劣るものの、その腕は確かであり、押しに弱いレイフォンはよく、子供たちからお菓子を頼まれてしまうことが多々ある。そしてその度にリーリンから文句を言われるのはもはや恒例である
 子供たちにお菓子を作り終わり、それを渡してすぐ、リーリンが声をかけてきたのでレイフォンは慌てた

「わあ! な、何か用、リーリン?」
「? うん、そうなんだけど、どうかしたの?」
「い、いや、何でもないよ、うん。それよりも何の用?」

 あまりにも挙動不審なレイフォンが怪しかったため、必死に隠そうとしている背中側を覗き見る。そこにはまだ洗い終わっていない器具が出ており、いつものようにレイフォンが子供たちにお菓子を作ってあげたことに気づき、溜息が零れる

「まったく、いつもご飯を食べてすぐにお菓子はダメって言ってあったでしょ。なんで作っちゃうのよ」
「ええと、その。………ごめんなさい」
「レイフォンは甘すぎるのよ。だから子供たちが味をしめて頼んでくるんだから。ちゃんとしてよね」
「う、うん。分かったよリーリン。それより、何のようだったの?」
「まったくもう。ああそうだ、ちょっと買い物に行って欲しかったのよ。卵が少なくて、明日の朝の分が無さそうなの。今朝見たときはまだ有ったように見えたのに、見間違えてたみたい」

 いつもならこのままもう少し文句を言われるのだが、今日は頼みごとがあるお陰でそれが少ないらしい。なのでそれに乗じてこの場を去ろうと決めた。戦略的撤退である

「分かったよリーリン。じゃあ、行ってくるね」

 買ったものを入れる袋と財布を持ち、早々とレイフォンは買い物に出掛けて行った




「最後に卵を買って終わりかな」

 リーリンに頼まれた買出し。卵だけじゃなく、少なくなっていた物も一緒に頼まれたので先にそれを買い、割れやすい卵を今から買いに行くところである
 少しでも安いところで買いたいため、今いる店から少し歩いた所の店に入り、卵を手にとってお金を払い、袋に入れる
 買出しの為に夕飯の用意はリーリンに任せてしまったため、今日のおかずは何だろうなーと考えつつ、店があった通りの角を曲がり孤児院の方に向かおうとし

 曲がってすぐ、サヴァリス・クォルラフィン・ルッケンスがこちらに向けて凄く良い笑顔を向けているのを見てレイフォンの思考は停止した


「やあレイフォン・アルセイフ。この間の戦場以来だね」

 朗らかに話しかけてくるサヴァリスの声で、停止していた思考が戻ると同時にレイフォンは足を止めず、咄嗟に返事を返した

「ええ、クォルラフィン卿。では僕はこれで」

 グレンダンの頂点でもある天剣の一人に対し、この態度は失礼かもしれないがそんなことを考えている場合ではない
 レイフォンの感が、幾つもの戦場で培ってきた第六感が、この場に居続けるのは危険だと全力で警告を鳴らしている
 そのため足早にこの場を離れようとするが、その望みは叶わなかった

「まあ、待ちたまえ」

 そう言われると同時に肩を掴まれて止まらされる。その手の力の強さから考えるに逃がすつもりはないのだろうと判断し、諦めて向き直る

「あの、これから帰らなきゃいけないんですが、何のご用でしょうか?」

 その言葉を聞くと同時に、待ってましたと言わんばかりの笑顔でサヴァリスは言い放った

「僕と殺し合わないかい?」
「はい?」

 いきなりの発言に反射的に疑問が口から出る。と同時に振るわれた拳を紙一重で反射的によける

「ちょ!え?え?」
「いやぁ、まさか受けてもらえるとは。嬉しいですね。どんどん行きますよ」
「ちょ、や、は、ひぃ!? あ、あれは違います!」

 こちらの声など聞こえていない、とばかりに迫りくる猛攻を、荷物を持ったままレイフォンはひたすらにかわす

「なんで、こんなこと、するんですか!?」
「いえ、この間の戦場以来気になっていましてね。強い相手とは一度、殺しあってみたいと思いませんか?」
「僕は思いません!」
「それは残念。ですが、此処までだとは思いませんでした。少し、本気を出させてもらいます」

 その言葉と同時に、少しずつ速さが増す。それを必死でかわしながら、かわすごとに笑みが深くなっていくサヴァリスの顔を見てレイフォンは泣きそうになりながら必死で考える

(無理!こっちは全力でかわしているけどまだ向こうは余力がありそうだし、すぐに避けきれなくなる!早く逃げないと!)

 リーリンごめん、と心の中で呟き、両手で抱えていた袋を片手で落とさないように強く抱え直し、空いた右手で錬金鋼を復元する
 何をするか気になったのだろう。笑みをより一層深くしながら、サヴァリスは動きを止め、少し距離を置いてこちらを見ている。周囲を見てみれば、いつの間にか人気のない町はずれにまで来ている
 それを好機と思い、剣を地面に向けて振り下ろし、舞い上がった瓦礫や土砂を戦声で持って弾き、幾多もの閃断を放ち疾影を使いながら相手に近づく
 相手の視界を隠し、疾影と閃断によって気配を隠し、レイフォンがサヴァリスを自分の間合いに捉える瞬間、旋剄によって近づく気配を作りだし、

————内力系活剄  旋剄

 全力で背後に向かって全力の旋剄を使い、路地に入ると同時に殺剄を使い、レイフォンは逃げ出した



「逃げられてしまいましたか」

 放たれたものを全て潰し、服に汚れ一つない姿のまま、サヴァリスは呟く
 やはり、大したものだと思う
 いくら全力とはまだ遠くとも、自分が放った攻撃は、最後まで一度として当たることは無かった
 武器を復元した時は向こうも本気になったかと期待し、結局逃げられてしまったとはいえ、その後の対応は見事の一言
 自分にさえ通用する気配の演出に、たどることのできない程の精度の殺剄
 天剣を相手にし、ほぼ無傷で逃げられる相手がどれほどいようか
 そのせいで、最初は様子見程度だったはずなのに段々と興が乗り、後少し続けていれば自制がきかず、危なかったかもしれない

(そういえば、殺してはだめだと言われていましたね。危ない所でした)

 まあ、彼ならば自制できなくなっても死ななそうだとは思う

(向こうからの攻撃がなかったことが不満ですが、まあ、仕方ないでしょう。まだ、これからがあるのですから。陛下にも了承されていますしね。さしあたっての問題は……)

 そう思いつつ、振り返る
 最初は気をつけていたというのについ自制が緩み、赴くままに力を振るいかけ、所々破壊の跡が残る町並み。この辺りは中心街から離れ、人気が殆どないのが救いだろう
 町を壊すなという命令を守れなかったことを思いながら、ま、いいか。と結論づけ、サヴァリスは次の事を考えながら帰って行った



「ハァ、ハァ、ハァ。やっと帰ってこれた〜」

 あれから殺剄を維持し続け、人気が多い所を選んで帰ってきたレイフォンはやっと孤児院に辿り着いて息を吐く
 運動量からすればさほどのものではないはずなのに、精神的な負荷によって何倍もの動きをしたように感じられる
 そして当初の目的を思い出し、袋の中を見る

「やっぱり卵が割れてる……」

 他の物は大丈夫なのだが、やはり卵は先ほどまでの激しい動きで割れてしまっている。これではリーリンに渡せない
 普通に考えれば、卵が割れた程度の被害ならば安いものだが、そんなことは頭にない

(どうしよう。これは僕がお菓子でも作るのにでも使って、リーリンには謝ろうかなぁ)

 そんなことを考えながら中に入って行くと、既に夕食の準備が済んだのか、台所の方からエプロンをつけたリーリンが出てきた

「あらレイフォン。遅かったわね。何かあった?」
「ええと、うん。その、色々とあったんだ」
「?そう? ああ、それとよく見てみたら卵はまだ有ったのよ。私の勘違いだったみたい」
「そうだったんだ」
「うん。行かせてごめんね、レイフォン。晩御飯の準備は出来てるから、買ってきたものは仕舞っといてくれる」
「うん、わかったよリーリン」

 たわいもない会話を終え、リーリンは部屋の方へ行ってしまう
 言われた通りに台所に行き、買ってきた物を仕舞いながら、割れた卵はリーリンに気づかれる前に使おうと、レイフォンはそう思った

 
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