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神々の黄昏

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第三幕その九


第三幕その九

 グンターが出て来てだった。彼の前に立ちはだかって言うのだ。
「グートルーネのものに手を触れるというのか」
「だとしたらどうするのだ?」
「それは許さん」
 ここで彼は剣を抜いた。ハーゲンは槍を手にしたままだ。
「アルプの子よ、下がれ!」
「黙れ!」
 しかしここでハーゲンは叫ぶ。
「そのアルプのものをアルプの子が要求するのだ!」
「何だと!?」
「指輪は私のものだ!」
 グンターが指輪のことを聞いて驚いているところに槍を突き出した。グンターは家臣達が二人の間に入るより先に胸を貫かれた。そうしてその場に背中から倒れてしまった。
「グンター様!」
「何ということを!」
「指輪だ!」
 ハーゲンは庭の中央に置かれているジークフリートの亡骸に駆け寄りその指輪を奪おうとする。するとそのジークフリートの亡骸がだ。
 不意に指輪をしている左手を上に突き出してきたのだ。仰向けになっている彼の亡骸がである。
「なっ!?」
「亡骸が!?」
「何故」
「生きている、いや違う」
 ハーゲンはそのジークフリートの亡骸の前で立ち止まってしまった。そのうえで言うのだった。
「死んでいる。しかしこれは」
「全ては終わろうとしています」
 そうしてだった。庭にだ。今ブリュンヒルテが出て来たのだ。その姿はこれまでとは違っていた。神であることを取り戻した様に神々しいものだった。
 その彼女が来てだ。そうして告げるのだった。
「貴方達の嘆きも今は何の意味もありません。私は今復讐の為にここに来ました」
「復讐に」
「何の復讐に」
「貴方達全てに裏切られたその復讐にです」
 こう言いながらだ。ジークフリートの亡骸の枕元に来たのである。そしてまた言うのであった。
「気高い英雄の死に相応しい嘆きの声は私の耳には聞こえません」
「貴女が来たことで」
 グートルーネは恨みに満ちた目で彼女を見ながら責めてきた。
「あの方も兄上も」
「哀れな女よ、黙るのです」
 しかしブリュンヒルテは彼女を一瞥してこう言うだけだった。最早彼女のことなぞ何でもなかった。今のブリュンヒルテにはだ。
「貴女は彼の妻ではありませんでした」
「では私は」
「ジークフリートの妻は私」
 このことをはっきりと告げた。
「ジークフリートが貴女に会う前に私に永遠の契りを誓っていたのだか
「では私は本当に」
 それを聞いてだった。グートルーネはその場に崩れ落ちてしまった。
 家の女達が彼女を何とか立たせようとする。しかしだった。
「私は全て踊らされていただけ。ハーゲンによって」
 そのまま崩れ落ち動かなくなってしまった。ブリュンヒルテはもう彼女を見ておらず厳かに告げるのだった。その厳粛な面持ちで。
「ラインの岸辺に大いなる薪を積み上げるのです」
「薪を」
「それをですか」
「そうです。そして勇士の亡骸をそこに」
 誰もが言われるままだった。ジークフリートの亡骸をそこに置いて薪を積んでいく。ブリュンヒルテはそれを見ながらさらに命じるのだった。
「グラーネを」
「グラーネ?」
「彼の馬です」
 それをだというのだ。
「かつては私が乗っていたその馬を」
「ではその馬に乗られて」
「ここを去られるのですか」
「そう、この世を」
 この場ではなかった。この世である。ハーゲンはこの間身動き一つできなかった。完全にブリュンヒルテの神性の前に人形となっていた。
 そうしてだった。ブリュンヒルテはさらに言うのであった。
「私はその馬で彼の後を追い勇士のいと聖なる誉れを分かちたいのです」
「それが貴女の望みなのですか」
「そうです。そして」
 言葉は続く。
「彼の光は日光の様に私に明るく輝きます」
 今度はジークフリートを見て言っていた。
「私を裏切った無二の清き人、私を欺き友に信義を尽くした人」
 ジークフリートのことに他ならなかった。今彼は薪の中に横たえられている。そして薪はその周りに次々に積まれていっている。
 
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