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神々の黄昏

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第二幕その十二


第二幕その十二

「その力を手に入れる為には」
「彼の死が」
「そういうことだ」
「それでは」
 だが、であった。グンターはそれでも言うのであった。
 迷う顔で。今度は彼女の名前を出した。
「グートルーネ」
「あの娘がどうしたのだ?」
「我々は彼を彼女に与えた」
 このことを言うのである。
「夫を殺すということはだ、彼女の」
「それはそうだがな」
「止めておくべきか」
「いや、行うべきだ」
 これは引かないというハーゲンだった。
「絶対にだ」
「そうなのか」
「彼を迷わしたのは」
 そしてブリュンヒルテは言った。
「彼女のあの美貌。なら彼女にも報いが」
「明日我等はだ」
 ハーゲンはさらにグンターに囁いた。
「狩に向かおう」
「狩にか」
「そうだ、狩にだ」
 まさにそれだというのである。
「仮に出てそして彼を裁き」
「それをどう言い繕うのだ?」
「猪が彼を殺した」
 理由はそれだという。
「そうすればいいだけだ」
「そうしろというのか」
「そうだ、それならどうだ」
「そうだな」
 グンターは虚ろな調子で頷いた。
「ではそれでだな」
「そうするといい。ではだ」
 ハーゲンも杯を手にしていた。三人で飲む。だがここでグンターとブリュンヒルテは杯からの酒で手を赤く塗らしてしまった。不気味な赤だった。
「罪には報いを」
「偽りの忠誠には裁きを」
 グンターとブリュンヒルテはそれぞれ言う。
「その為に神々よ」
「今御照覧を」
(指輪は我がものとなる)
 ハーゲンは心の中で呟いていた。
(アルプの王よ、我が父よ)
 アルベリヒのことも思うのだった。
(見ているのだ、明日全てが決まるのだ)
 ハーゲンだけはわかっていた。全てが。そしてそのうえで空を見上げた。今そこには闇夜に隠れてニーベルングの軍勢がヴァルハラを目指さんとしていた。
 
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