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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第十六幕 「それぞれの思惑は交わることなく」

前回のあらすじ:天中殺とお説教は切っても切れない関係


~1029号室~

「・・・っていうことがあってさ~。いやー参っちゃうよね~」
「・・・知らなかった」
「え、そうなの?」
「今日は久しぶりにオリムラとホンネが来なかったから・・・寝てた」
「そうなんだ?」

就寝前の他愛もない会話。ベル君(ベルーナは語呂が悪いのでそう呼ぶことにした)は返事こそ返さないものの一応人の話は聞いている。だから私こと佐藤はその日一日にあったことの整理がてら、こうしてベル君に話しかけている。あくまで一方的であり、今回の様にベル君から言葉がかかることは珍しい。なお、朝の事についてお礼を言ったら目尻が僅かに下がった。ひょっとしたら照れてる時の表情かもしれないのでメモっておく。

最近ベル君との距離感とかが少しずつ分かってきた気がする。彼はどうやら「消極的な友好関係」を理想としているようだ。そこそこ距離を取ってそこそこ気を遣って、特に言葉のやり取りを求めるわけでもなく話しかけ、偶に気を使ってあげる。それ位のちょっと味気ない位の距離感が彼の理想のようだ。
私は昔から特別親しい友人はいなかったため時に気まずくは感じないというのもあってか、同居から一週間以上たった今でも特に問題は起きていない。・・・べ、別にボッチだった訳じゃないんだからね!
そういえばベル君が普段何をしてるかは聞いたことがなかったが・・・なるほど普段はあの二人と一緒にいるのか。今までにない情報だ。ベル君は原作キャラじゃないから情報が全くないし、こういう細かい所も覚えてた方がいいだろう。

「ちなみに私も暇なときに会いに行っていい?」
「・・・・・・いい」
「そっか。じゃあお休み~」
「・・・お休みなさい」

その言葉と共にぱったり布団に倒れ込み、そのまま寝息を立て始めたベルくん。彼は尋常でないほど眠りに就くのが早い。前に本当に寝てるか確かめるためにほっぺをむにむにしてみたことがあるが、全く起きる気配を見せなかった。その無防備な寝顔は年齢不相応に幼く見える。

「・・・寝顔可愛いな。写メ撮っておこうっと」

ピロリン♪

しかしこうも無防備だと色々いたずらをしてきたくなる。が、世界に4人しかいない男性IS適性者の一人であるベル君は恐らく常時監視されていると考えて良いだろう。ほっぺむにむに位なら問題はないが、それ以上となると流石に怪しまれたりするかもしれない。よって今日はほっぺぷにぷにくらいで済ませておくことにする。ハリツヤがありどんだけ美肌なのか聞きたくなるくらい心地よい弾力が指に返ってくる。正に赤ん坊の肌というやつだろうか?肌触りも抜群、女として羨ましい。

ぷにぷにぷに・・・

「やーらかいなー・・・一度でいいから抱き枕にしてみたいな~・・・はっ!イカンイカン自重しろ私・・・」

とかいいつつもほっぺをつつくのはなかなかやめられない佐藤さんであった。



~side ベルーナ~


サトーさんは不思議な人だ。
最初は何処にでもいそうな人だと思った。(そもそも日本人の顔の区別など余りつかないのだが)
だがそれは思い違いだった。本当は見せたくなかった診断書を見せた時、彼女は驚きはしたが、それだけだった。

“なかなかにヘビィな過去があるみたいだね・・・いいよ。ついでに学校内でもなんか困ったことあったら頼っていいし”

憐みも蔑みもしない、ただ僕がそういう部分を持ったひとりの人間であるの認識したような、そんな風だった。それでいて僕の事を根掘り葉掘り聞こうともしなかった。
だから僕は、サトーさんは周囲に無関心な人なのだろうと思った。僕がどこの誰でどうなろうと自分の知ったことではない。そう言い切れる人なのだろうと。正直、冷たい人間は楽でいい。こっちに関心がないから干渉してこないし、こちらもあまり気を使う必要がない。だから、サトーさんのその言葉には驚いた。

“いやそれは気になるでしょ人として!!朝目が覚めたら同居人がぽっくりとかマジでシャレにならないから!!
 ・・・って、ごめん怒鳴っちゃって”

その声には本気の心配と不安、そして最後の言葉にしっかりとした気遣いが感じられた。この人は真剣に僕のことを心配していた。僕はこれでもその人がどんな人間か、言葉を交わせばすぐ分かる。だからこう思った。『不思議な人だ』と。そもそも普通なら年相応に僕の事情なんかが気になって仕方ないはずなのだ。なのに彼女はそれ以降ただの一度も事情を聞こうとはしなかった。かと思えば年相応に人を心配することもある。何というか、彼女だけ感じている世界観が違う気がした。
だからなのだろう。僕は少しずつサトーさんに話しかけるようになっていた。

「・・・っていうことがあってさ~。いやー参っちゃうよね~」
「・・・知らなかった」
「え、そうなの?」
「今日は久しぶりにオリムラとホンネが来なかったから・・・寝てた」
「そうなんだ?」

矢張り深くは聞いてこない。だが僅かに意外そうな顔はしている。こちらが話すまで待っている、という事だろうか。それともあまり興味がないのか・・・

「ちなみに私も暇なときに会いに行っていい?」

これまた意外。サトーさんがこんな風に自分から聞き返してくるのは珍しい。おそらく興味がない訳ではないのだろう。それでも今まで聞いてこなかったのは・・・ひょっとして、僕との距離感を図っていたのだろうか?これくらいの聞き返しなら許容範囲、と言った感じに。
少し悩み、サトーさんなら僕を困らせるようなことはしないだろう、という結論を出した。

「・・・・・・いい」
「そっか。じゃあお休み~」

その返事で十分だったのか、それとも単純に話すことが無くなったのか、彼女はそこで話を切り上げた。

「・・・お休みなさい」

赤の他人だというのに何となく接しやすいサトーさん。思えば日本に来るまで寝つきが悪かったのに、この部屋に来てからは良く眠れるような気がする。気付かないうちにサトーさんに心を許していたのだろうか。
・・・眠いし考えてもしょうがない。寝よう。

明日はサトーさんに起こされずに自力で起きられるかな・・・?

~side out~



~side ?????~

「ふんふん・・・」
「なぁ、どんな感じなんだ?」
「う~ん、佐藤さんがべるるんに一方的に話しかけてる感じ~?」
「一方的って・・・それはベルーナの嫌がることリストに入ってるんじゃ?」
「いや、ちょっとちがうね~・・・佐藤さんはべるるんに返事とかを期待してないみたいだよ~?」
「なるほど・・・返事を返さないって分かってるから敢えて会話を成立させようとしない・・・
 そして向こうが乗って来た時だけ会話をするのか。佐藤さんはテクニシャンだな」

「・・・一夏。それに布仏も・・・一体何をしてるんだ?」
「「勉強会(~)」」
「・・・・・・はぁ、盗聴まがいのことをするのは趣味がいいとはいえんぞ?」

1029号室のドアにべったり張り付く二人を箒が発見したのは数分前。小声で何やら話しながらずっと部屋にいる佐藤さんとデッケンの会話を聞いている。
この二人、デッケンに拒絶されたあの日から毎日のようにタッグで保健室に押し寄せてはあの手この手でデッケンと友好関係を築こうとしている。なんでもクラス内で「ベルーナ君と友達になる会」なる非公式サークルを作って日夜デッケンと仲良くなる方法を模索しているらしい。・・・本人が来るなと言っているのにわざわざ向かっていくのはこの二人のお人よし精神ゆえだろうか。来られる側はいい迷惑だろうが。ユウなんかは会ってすぐ「彼は積極的に近寄られるのが苦手みたいだ」と判断してか時々しか近づいていない。箒の心情からすると、正直ユウの対応の方が正しいと思っている。

「・・・あっ!べるるんが返事を返したよ~」
「マジか・・・佐藤さんパネぇ・・・な、なに!?佐藤さんが保健室に来ることを許容した・・・だと?」
「すっかり心を許してるね~・・・これは佐藤さんを直接味方につけるのがいいかな~」
「・・・もうすぐ消灯時間だ!いい加減に部屋に戻らんか二人とも!」
「「・・・は~い」」

なお、箒の一声が無かったら二人に佐藤さんの独り言が聞かれるところだったのだが、これも運命のいたずらなのかもしれない。

~side out~



~side 楯無~

『・・・寝顔可愛いな。写メ撮っておこうっと』

ピロリン♪

部屋の中の音が盗聴器を通して聞こえてくる。同時に隠しカメラから映像も。今日も彼女に特別不審な様子は見られない。むしろ年相応、と言った感じだ。

(・・・やはり白か?でもまだ判断を下すには尚早・・・暫く様子見を続けるしかないかしら)

さて、佐藤さんにはこれまた全く自覚がないのだが・・・実は彼女、軽いスパイ疑惑がかけられている。とはいえあくまで軽いもので、そこまで真剣に疑われているわけではないのだが。

何故か?それは彼女が何というか・・・“変”だからである。
IS学園に入るには第一にIS適性、第二に厳しい面接と入試試験、そして第三にISに実際に乗った模擬戦、そして更識家による怪しい所がないかの洗い出しの4つで合格する必要がある。

まずIS適性。これは一般人でも無料で調べることが出来、余りにも適性が低いとそれだけ評価に響く。佐藤さんの適性値はS・・・この時点で実は結構大事件である。何故なら“S”は適正評価の最高値であり、世界を見渡してもヴァルキリー(モンドグロッソ部門優勝者)と呼ばれる5人くらいしかいないからだ。適性はISの経験を積むことで上がることはあるが、彼女は公式記録でIS騎乗経験ゼロにも拘らずこの結果を叩きだした。正直10年に一人とかそういうレベルの逸材だ。
しかも彼女はISの知識を学ぶための予備校などに一切行かず、通信教育の類だけで勉強していたにも拘らず筆記試験で5位という素晴らしい成績を残している。故に学園でもめったに選ばれない“特待生”に選ばれているかなり稀有な人材なのだ。
だが、それが既に怪しい。ISパイロットの中にはIS学園に通う前から企業などに雇われテストパイロットをしている子もいる。そんな子なら試験などわざわざ勉強するまでもなく知っているし、適性も高い子が多い。そういった背景一切なしに急にこんな結果を出すのは、はっきり言って異常だ。

考えられるのは単純に二つ。一つは佐藤さんが類稀なる才能を持っていること。しかし彼女の学生時代を調べてみると、優秀ではあるが飛び抜けているほどではなかった。家族関係、友好関係、周辺からの評価、その他もろもろも割と普通で良い所も悪い所もあまりない。親族にISに関わる人間もいない。報告の一つによるとISパイロットになることには強い憧れを持っていたようで、IS学園設立前後からISの勉強を始めていたという報告もある。その時から隠された才能が開花・・・とも考えにくい。何故なら入試試験には基礎科目も多く含まれる。試験では満点近い成績を出していたのだから学校でも同じくらいの成績が出ているはずである。

彼女の成績を小中学校合わせて調べてみると、常に(全国平均と比べ)上の下・中辺りをふらふらしており周囲が良い点を取っても悪い点を取っても彼女は全く揺るがなかった。ついでに彼女が真面目に勉強しているところを見たものはあまりいないという・・・なんか怪しい。意図的にそれ位の成績をキープしていたとも考えられる。ちなみに実技試験では素人以上玄人未満と言った感じの実力を発揮した。素人にできる動きではないが、経験者のそれに比べるとお粗末。何ともコメントし辛いものだった。・・・なんか変だ。

さて、もう一つの可能性・・・彼女が他国若しくはどこかの組織から送り込まれた間諜であることだ。
実は秘密裏にIS学園に入り込むための教育を施されており、IS学園に確実に入るために試験では本気を出したとか。考えられないではないが、いくら経歴を洗ってもそんなそぶりも痕跡も発見できない。しかし一度疑ってしまうと彼女の行動に疑わしい点もある。

先ず彼女は“日本の代表候補生にならないか”というスカウトを受けている。代表候補生とは将来国家代表になる可能性さえあるポジションであり、なれば国から好待遇になったり専用機をもらえたりするエリートである。ところが佐藤さんは話を聞くなり“面倒は嫌いなのでパス”の一言で断ってしまった。普通本格的にISパイロットになる気ならこれだけのチャンスを棒に振ったりはしない。だが彼女は何度声をかけても“ならない”の一点張りだった。

次にIS関連の企業や研究所から“テストパイロットにならない?”というお誘いが彼女の下に届く。これだけ優秀な人材なら企業としてもぜひ欲しい。だが彼女はこれもすべて蹴った。企業や研究所と契約を結べばそれなりの後ろ盾にもなるにもかかわらず、彼女はまたもや“やらない”の一点張りで断ったという。未だに彼女のスカウトを諦めていない企業もあるが、彼女がそれを受ける様子は一切ない。
これは常識では考えられない事、アンビリーバボーな行為である。ISパイロットに憧れているにもかかわらずこれらの事をすべて断るというのは正直異常な行為だ。確かにそういった立場にはそれ相応の責務が付きまとうとはいえここまで頑なに拒む必要はないし、受けるメリットとデメリットを考えれば明らかにメリットが勝っている。・・・ますます怪しい。まるで繋がりを断ちたがっているようだ。

そして素行。何だか説明しにくいが、考えや言動が妙に大人染みている。世界に4名しかいない男子を前にしても世界最強の織斑千冬を前にしてもリアクションが薄い。薄すぎる。ベルーナと同室になった日も初対面の割にはやたら落ち着いていたし、それどころか最近は対人恐怖症の筈のベルーナと学園内で唯一友好関係を持つ生徒となっている。ついでに時々挙動不審・・・やっぱり何か怪しい。

しかも、時折男子生徒(ちょくちょく女子生徒も)を観察するようなそぶりを見せたりあからさまに監視したりしている。集音マイクまで用意していたのを見た時は流石にクロかと思ったが、どうも本人的には趣味の領域のようだ。

いくら調べてもやはり経歴に怪しい所は見当たらない。しょうがないので監視は続けているが・・・

ぷにぷにぷに・・・
『やーらかいなー・・・一度でいいから抱き枕にしてみたいな~・・・はっ!イカンイカン自重しろ私・・・』

「・・・ただ少し変わってるだけで、普通の子・・・よねぇ・・・?」

実は佐藤さんがベルーナと同室になったのは楯無が手を回したからである。男性適性者の中で唯一後ろ盾らしい後ろ盾を持たない上にISに乗れないベルーナは、はっきり言って重要度が低い。だからこそ佐藤さんが尻尾を見せないかの餌代わりにこういう事になるよう手を回したのだ。
結果は見ての通りである。だが・・・やはり彼女は変だというイメージを、楯無は拭えずにいた。

今日も佐藤さんは自覚無く周囲から普通じゃない目で見られている。自分がもう既にモブと言えない人物になっていることに気付くのは、果たしていつになるのやら・・・
 
 

 
後書き
長いわ戯けが!と自分を罵倒してみる。
登場キャラが増えるとどう出番を作るか考えるのが難しい。主にシャルとモッピーはまだ余り出番がない時期だからなお難しい。 
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