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メフィストーフェレ

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第四幕その四


第四幕その四

「私は貴女を愛する気持ちはありません」
「それはこれからでは?」
「いえ、ですが」
 ですが、というのである。
「私はそれでも」
「愛して下さらないのですか?」
「やはりな」
 今の彼の言葉を聞いて納得しているが残念な顔で呟くメフィストだった。
「これでは」
「ですから今はここで」
「ここで?」
「宴を楽しみましょう」
 そうするだけだというのである。
「それを」
「宴をですか。愛ではなく」
「はい、宴です」
 あくまでそれだというのである。
「宴をです」
「わかりました」
 エレナは残念そうだったがそれでも頷いた。
「それでは私もまた」
「宴を楽しんで下さいますね」
「はい、それで」
「では私達も」
「まずはお酒を用意して」
「そして御馳走を」
 ニンフ達はその周りで口々に言っていく。
「そうしましょう」
「今ここで」
「そして私達も」
「今はそれしかないな」
 メフィストも妥協であったが決断を下した。そのうえでの言葉である。
「それでは博士」
「うん」
「宴を開きましょう」
 こうファウストに対して告げるのだった。
「それで宜しいでしょうか」
「わかった」
 そしてファウストもそれでいいとしたのであった。
「それじゃあ今から」
「先程は黄金の林檎を出しましたが」
 そのことも話す。
「今度はです」
「何だというのだい?」
「黄金酒にそれと幾ら食べても尽きることのない肉に」
 そうしたものを出すという。
「あとは黄金の葡萄で如何でしょうか」
「神の食べる御馳走をか」
「そうです、ギリシアの神々の御馳走をです」
 それをだというのである。
「それで如何でしょうか」
「わかったよ。それじゃあ」
「はい、それでは」
 それに頷いてであった。こうして話を決めてだった。
 メフィストが右手の親指と人差し指を鳴らすとそれで美酒が入った杯と肉が置かれた皿が出て来た。それに葡萄もだ。どれもオリハルコンの皿である。
 その上の美酒と馳走を一同で食べていく。しかしファウストの顔は何処か空虚でありメフィストもそれを察して難しい顔をしていた。何かが決定的に変わってきていた。
 ファウストの書斎である。彼はその自分の書斎の机に座って物思いに耽っている。そしてその後ろにはメフィストが立っていた。相変わらず赤いタキシードに赤いバイオリンケースを背負ってキザな出で立ちである。
「巡れ巡れ」
 メフィストは立ちながら言っていた。
「尊大な思考よ」
「私はだ」
 ファウストはメフィストに背を向けながら述べていた。
「多くの世界を回ってきた」
「その通りです」
 メフィストも彼の言葉に応えて述べる。
 
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