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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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黄巾の章
  第18話 「……心配なのですよ、貴方のことが」

 
前書き
酷い目にあいました。詳細はつぶやきで。 

 




  ―― 孔明 side 宛 ――




「張遼様より伝令! 城の内部にさしたる障害なし! このまま突破して北門へと抜けるそうです」
「わかりました。すぐに孫策さんと翠さんに伝令を。二人の部隊は残敵の掃討に入るように伝えてください。なお、火矢は厳禁です」
「ハッ!」

 私の指示に新たな伝令さんが走り去る。

「えっと……負傷した兵隊さんは、すぐに治療をしてください。それと、んと、もっと火を炊いてください」

 雛里ちゃんの命令通り、すぐに篝火は燃え盛るように炊かれ始める。

「ここの戦闘は……もう終わるね」
「うん。だけど、大丈夫かな……」
「北門のこと……?」
「うん。盾二様と馬正さんが間に合っているといいけど……」
「だ、大丈夫だよ。盾二様だもん。きっと、大丈夫だよ」

 雛里ちゃんは、そう言いつつも声が少し震えている。
 ……うん。
 私がしっかりしなきゃだめだよね!

「北門の状況はまだわかりませんか!?」
「は……まだ伝令も斥候も戻ってきておりません」
「急がせてください。それと……」

 私が新たな命令を伝えようとしたときだった。

「で、伝令! 北門から本隊と思われる集団に包囲を突破されました!」
「!!」
「そ、そればかりか……て、敵に劉備様が捕らえられたとの事!」
「なっ!」

 と、桃香様!




  ―― 張遼 side ――




「うりゃりゃりゃりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ウチの飛龍偃月刀が、向かってきた黄巾の首を跳ね飛ばす。

「ザコにかまうな! そのまま突っ切るんや!」

 城に篭る残敵を放置して、目指すは敵の将が逃げたと思われる北門。
 黄巾の兵は、まったく統制が取れておらず、ぱらぱらと向かってきては蹴散らされていく。

「張遼将軍! 北門が見えました! すでに戦闘が始まっている模様です!」
「ちぃっ! 急ぐで、お前ら!」
「「応っ!」」

 ウチが先頭となり、北門を抜ける。
 そこは、義勇兵と黄巾が乱戦となっておる。

「神速張遼、ここにあり! 黄巾よ、死にたくなければ降伏せぇ! せえへんのやったら、死んでまうでぇ!」

 ウチは、固まっていた黄巾の背後から馬で踏み潰すように蹴散らしていく。

「愛紗! 鈴々! 桃香! どこにおるんやっ!?」
「張遼殿ーっ!」

 ウチの叫びに反応する声。
 向かってくるんは……誰や?

「あんさんは……?」
「は! 馬元義改め、馬仁義です!」

 は?
 ……あ、ああー。

「髭ないし、髪型かわっとるからわからんかったわ」
「これは失礼! それよりも、大変です! 劉備殿が連れ去られました!」
「なんやて!?」

 桃香が連れ去られた!?

「愛紗や鈴々はどうしたんや!」
「負傷して、今は輜重隊にて治療中です! 逃げた黄巾本隊はおよそ三千! 私は、盾二殿にここを任されて指揮をしております!」
「盾二はどうしたんや」
「盾二殿は……お一人で追撃する、と」
「なっ……!?」

 あの、向こう見ず!
 どんだけ一人で何でも片付けようとすんねん!

「ちい……なら、うちが行く! ここは任せ……」
「あら。ならわたしが行くわよ」
「「!?」」

 ウチと馬正が振り返る。
 そこには、全身が血にまみれ、褐色の肌なのか、鮮血の肌なのかわからんような孫策の姿があった。

「張遼将軍にもしものことがあったら大変だもの。馬を貸してもらえばすぐに行くわ」
「し、しかしあんさん……」
「それにわたし、まだ劉備って()に会ってないのよねー……どんなの子なのか見たいしー」

 そう言って部下を馬から下ろして、ひらりと跨った。

「あ、後から来る冥琳――周瑜に『任せた』って伝えておいて。すぐに助けてくるから、あとよろしくー」
「ちょ、おまっ」

 ウチが止める間もなく馬を走らせる孫策。
 あああっ!

「しゃ、しゃあない! おい、お前ら! 孫策についてけ! まかせるで!」
「「ハッ!」」

 ウチの直属の騎馬隊五百が、孫策の後を追う。
 まったく……命令も何もあったもんやないな。
 あとで文句いっとかんと。

「馬仁義っちゅうたな」
「ハッ!」
「周辺の義勇兵の指揮は任せる。ウチは、残りの騎馬隊で周辺を蹴散らしてくるで」
「承知!」

 馬正は、すぐさま周囲の義勇兵への指揮に走り出す。

「確かに指揮官のウチが、今ここを離れるわけにはいかへん……頼むで、盾二、孫策」

 ウチは、孫策の後ろ姿を横目で追いつつ、馬を奔らせた。




  ―― other side 宛 近郊 ――




「しょ、将軍! こんな女を連れてどこにいくんですか!?」

 兵の一人が馬を走らせながら尋ねてくる。

(ちっ……うぜえな)

 俺はぐったりとして動かない女を、馬に乗せたまま舌打ちする。

「うっせえな……こいつは追っ手が来たときの人質にすんだよ。いいからお前ら後方を警戒しとけ」
「は……しかし韓忠将軍。よろしかったのですか、ほかの仲間を見捨てて……」

 なに言ってんだ、こいつ。

「はぁ? お前、バカか? 見捨てて一緒に逃げ出している時点で、てめえも同罪じゃねぇか。クソみたいなこと言ってんじゃねぇよ」
「は……」

 ちっ、この腰巾着が。
 まあ、矢避けの盾として連れてきただけだしな。
 うまいこと逃げられたら置き去りにしとけばいいか。

 それにしてもうまいこと逃げられたもんだぜ。
 あの袁術なんていうバカ諸侯ならどうとでもなったんだが……音に聞こえた官軍の張遼じゃどうにもなんねえ。

 しかも袁術はいなくなって、その唯一の強敵だった孫策軍が残って官軍と合流されたんじゃ、俺たちなんぞすぐに殲滅されちまう。
 だから袁術が移動したすぐなら、向こうもまだ油断していると思ったんだが……これが大当たりだったぜ。

 その上、逃げる途中に一人で天幕からのろのろと出てきたこの女。
 こいつの身なりからしても、都から派遣された侍女かなんかだろうが……そこそこ身分のある女のようだ。
 なら人質として使えるだろうと拾ってきたんだが……すぐにぐったりとして気絶しやがった。
 まあ騒がないし、おとなしいならばちょうどいい。

 さて……このまま行き過ぎると、袁術軍がいるかもしんねえな。
 ここら辺で東か西に進路変えるか……西は長安。董卓の本拠地……まずいか。
 それに……確か東に潁川黄巾軍の波才がいたな。
 そこまで逃げ込めば……
 となると……

「おい、お前ら。ちっと考えがある」

 さて、このバカども……俺のために死んでもらうか。
 俺はその隙に逃げさせてもらうぜ!




  ―― 盾二 side ――




 俺は一人、闇夜を駆けていた。
 空には煌々とした月明かりがあるとはいえ、今は夜。
 なるべく岩陰や、斜面を利用しながら前方の松明を見失わないように疾走(はしって)いる。
 
 この闇夜で一人、松明もなしに馬で走るのは自殺行為だ。
 だが、松明を使えば相手にこちらの場所と数を教えるようなもの。
 だから、俺は馬から下りて自分の足で走っている。

 前方に見える集団の松明の数からして、相手は少なくとも三千。
 さすがの俺でも、一人でどうこうできる数ではない。
 
 だが、俺はスプリガンだ。
 ……候補生だが。
 まともに正面からではなく、潜入・工作としてスニーキングで人質を助け出せばいい。

(問題は場所だ。いったいどこに桃香がいるのか……)

 三千の集団に紛れ込むにも、相手は馬での移動中。
 この闇夜で思うように行軍速度が上がっていないために、徒歩(かち)で追いついたが……

(せめて銃火器があればなんとかなったが……今の手持ちはオリハルコンナイフひとつか。サイコブローがあるとはいえ……乱発すればすぐに尽きちまう。さて、どうするか……)

 そう考えていると……前方の松明がゆらゆらと揺れだした。

(……?)

 俺は近くの岩陰に身を隠し、松明がゆれる前方に目を凝らす。
 しばらく足を止めて、なにかの指示が飛んでいる……チャンスか?
 いや……こんな荒野の真ん中じゃ、近づいたとしても身を隠せない。

(どうしたもんか……)

 そのまま四半刻(三十分)が過ぎようとした頃――
 松明がゆらゆらと揺れ、その光の塊が分かれだした。
 どうやら半数がここに残り、半数が東へと進路をとっている。

(まさか……二手に分かれる気か?)

 まずい。
 桃香がどちらにいるかわからない以上、どちらも放って置くわけにはいかない。

(どちらに桃香がいる……? 東に行くほうか? だが、あちらが先行部隊で残るのが本陣だったら……いや、残るほうは殿(しんがり)かもしれん。こちらが追っていることを見越したのだとしたら……)

 桃香を人質にしているとすれば、殿(しんがり)にするほうが理屈は通る。
 だが、そう思った矢先に、残ったほうが西へと移動を開始していく。

(ぬ……やばい。先程分かれたのが囮だとしたら……こっちが本命か?)

 どうする?
 どちらに賭けるか……

 一瞬の逡巡。
 その時、後方の暗闇にちらりと光が見えた。

「む!?」

 振り向くと、松明の光がゆらゆらと揺らめいている。
 それと同時に、騎馬の足音が聞こえた。

「敵……いや、援軍か!?」

 俺は月明かりに目を凝らす。
 先頭は……あ、あの桃色の髪は!




  ―― 孫策 side ――




 たぶんこの辺だと、わたしの勘が告げているんだけど……
 勘を頼りにこちらへと馬を奔らせるわたし。

 たぶんこの辺で合流できると思ったんだけどなあ。

「孫策様! 本当にこちらで宜しいのですか!?」

 後ろを走る董卓軍の騎馬兵が、そう問いかけてくる。
 さてどうしよう。
 勘でここまで奔って来たって言うべきかしら?

 わたしの兵ならともかく、あの張遼直属の兵じゃ絶対信じてくれないわよね~……

「あー……うん。そうね、もうちょっとだけ――」
「孫策殿!?」

 あ、やっぱりいた。

 わたしの前にあの天の御遣いが現れる。

「あーよかった。合流できたわね」
「どうしてここに!? 宛ではまだ戦闘中では?」
「あーうん。張遼将軍が貴方を追おうとするから、代わりにわたしが来たのよ。まあ、それはともかく、劉備ちゃん、攫われたんだって?」

 わたしの言葉に、少し驚きつつ頷く御遣い。

「時間がないので簡潔に言います。相手は二手に分かれました。どちらかに桃香がいます。正直、どちらを追うか迷っていましたので助かります。今前方にいる部隊を任せてもいいでしょうか?」

 御遣いが示す先には、西へと移動しようとする松明の集団があった。
 数は……千か二千というところか。

「貴方だけでもう片方を追う気? さすがに無茶じゃないかしら?」
「いえ、私一人ならどうとでもなります。問題は二手に分かれた片方に桃香がいて、そちらを取り逃がした場合、人質である桃香を殺す危険があります。それは避けたい」

 んー……確かに。
 逃げおおせれば、人質なんて足手まといなだけでしょうね。

「じゃあ、あちらを私が相手にすればいいのね?」
「お願いします。とはいえ、寡兵なようですし、無理であれば監視だけで……」
「……ちょっと。わたしを見縊らないでくれる? あの程度なら例え寡兵でも倒せるわよ」

 わたしはすこしムッ、として言い返す。
 確かに兵の数じゃ負けても、わたしは孫呉の王となる者よ。
 黄巾ごときの雑兵などに遅れはとらないわよ。

「……失礼。ただし、侮らないでいただきたい。戦で自らを殺すのは相手を下に見ること。たとえ幾千、幾万の歴戦の将であったとしても」

 その言葉に、私の柳眉が逆立つ。

「わたしを侮辱する気?」
「違います。人を侮ってはならない、そう言っているのです」

 御遣いの目は真剣だわ。
 こちらを卑下するわけでも、尊大なわけでもない。

「例え一騎当千の英傑であろうとも、人を侮った時に死にます。彼を知り己を知れば百戦殆からず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆し……これは、貴方の祖の言葉でしょう」
「……はいはい。まるで冥琳みたいな事を言うのね」

 思わず、彼と冥琳が重なって見えたわ。

「……心配なのですよ、貴方のことが」

 え?
 その言葉に思わず、頬が赤くなる。

「きっと周瑜殿はね……」

 がくっ。
 ちょっと!
 期待させるんじゃないわよ!

「あーもう。はいはい、わかりましたぁ。無理はしないわよ。向こうに残った冥琳のことだもの。多分、今頃はこちらに援軍を出していると思うわ。無理ならそれを待つから大丈夫よ」
「そうですか……よい臣をお持ちなのですね。そして、貴方も彼女を信頼している」
「当然よ」

 冥琳はわたしの唯一無二の友だもの…… 

「ではお願いします。私は東に向かった部隊を追いますので……」
「貴方こそ無理しちゃダメよ?」
「はい……孫策殿」
「?」

 御遣いがこちらをじっ、と見つめる。
 な、なによ……

「ありがとう」
「!?」

 わ、笑った?
 今、笑った?
 うわ、うわ、うわ!
 なに、なになに!?
 何でこんなに顔が紅くなるのよっ!?

「しぇ、雪蓮(しぇれん)!」
「は?」
「わたしの真名! 『雪蓮』よ!」

 思わず口走っていた……

「……私、いえ、俺は真名がないから、盾二と呼んでくれ。ありがとう、雪蓮」

 そう言って、微笑む御遣い――いえ、盾二。
 そして、盾二は振り返ると、東へと疾走(はし)りだした。

 その後ろ姿を、ぼーっと見つめてしまう。

「そ、孫策、さま?」

 董卓軍の兵に何度も声を掛けられ、肩を揺さぶられるまで、わたしの意識が元に戻ることはなかった。




  ―― 韓忠 side ――




「将軍! このまま東ですか?」
「ああ……だが、馬がちいときつくなってきたな……奴らを撒くにしても、どこかで休ませねぇとだめか?」
「それなら……確かこの近くに邑があったはずです」
「あ、それ、俺がいた邑です。ここから東に十里(五km)ほどですが」

 ほう……邑、ね。
 そういや、ちっと腹も減った。
 糧食なんて持ってきてねぇし……ここらで補充しておくか。

「ならあいつらが足止めしている間に、そこへ身を隠すぜ。ついでに邑で飯と金を奪えばいい」
「しょ、将軍!? お、俺の邑に……ゲフッ!」
「あ~ん? なんかいったか?」

 俺の剣がそいつの腹に深々と刺さっている。

「安心しな。その邑の食い物と金は、俺が有効に使ってやるよ……じゃあな」
「ぎ、ぎざ、ま……」
「ふん!」

 俺が足でそいつを蹴り倒して、剣を抜く。
 そのまま落馬して、動かなくなったそいつを、周辺の兵が青い顔で見ている。

「んじゃいくぞ……ああ、そうだ。女がいれば好きにしていいぞ。そうだな……俺はこの人質をいただくか」

 俺は未だ膝の上に横たわる女を持ち上げて、首筋を舐めた。
 女の苦悶の表情が、俺の劣情を掻き立てる。

 へへっ……今夜はいい夜になりそうだぜ。
 
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