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DQ1長編小説―ハルカ・クロニクル

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Chapter-1 第4話

Dragon Quest 1 ハルカ・クロニクル

Chapter-1
旅立ち~ガライの町 
第4話

「あ、そうだ」
イアンは口を開く。
「はい?」
「これから予定は?」
「ガライの町に行こうかと思ったんですが、…夕方ですね」
図書室は真っ赤に染まっていた。夕日の赤だ。
「今日は止めときな。夜は昼よりも魔物が凶暴になるというぜ。俺の友人は夜のドラキーに殺されかけたんだ。まだ慣れないうちは町の外に出ない方がいいと思うぜ」
イアンは開いていた本を閉じると、立ち上がり、元の棚に戻した。ハルカは外を見ながら、確かにその通りだ、と頷いた。
「そうですね。まだ初日ですし、焦っていても仕方のないことです。じゃあ僕は城の寝室か宿屋に泊まることにします」
ハルカは本を魔法の道具袋に入れ、イアンに一礼した。すると、
「今日は俺ん家へ寄っていけ。俺の妻と娘もお前を歓迎してくれるぜ」
「…良いんですか?」
「ああ。さて、さっさと出ようか」
もうすぐ閉館時間だ、とイアンが呟いた。ハルカはイアンとともに図書室を後にした。

イアンの家はラダトーム城下町の宿屋の近くにある。隣には「食堂」と書かれた看板がある建物がある。イアンは俺の妻がやってるんだ、美味いから時々食べに来いよ、といってくれた。ちなみに本日は店は休みとの事。前日はかなりの多忙で疲れたらしい。
イアンがドアを開けると、美しい女性が立っていた。イアンの妻である。外見は若々しいが、服装は地味な物だった。髪は茶髪で、ロングウェーブヘアを後ろで束ねていた。
「おう、帰ったぜ」
「あなた、お帰りなさい。あら、彼がハルカさんね。いらっしゃい。あなたの事はイアンから聞いてるわ。私達はあまり力になれないけど、ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」
穏やかで親切なイアンの妻に、ハルカはホッとした感じを覚えた。
すると、
「あ、お客さん!初めまして。私、エリカと申します。お父さんがお世話になってます」
と少女が元気よく飛び出してきた。歳はハルカより年下のようだ。
「あらあら。ふふふ、あなた、ハルカさん、あそこの部屋の椅子に座っていて。私とエリカで料理を作ってあげますから」
「あ、どうも」
ハルカはイアンに連れられ、木製のテーブルと椅子の置かれた明るく広い部屋に通された。
テーブルの上にはオレンジ色のランチマット、中央に小さな向日葵の花が飾ってあった。
「素敵な家ですね。奥さんも娘さんも優しくて」
ハルカはドアの一番近く、イアンは角をはさみ向かって座る。イアンの右隣はイアンの妻サユリ、イアンとサユリの向かいに娘のエリカが座る。
「おう、俺の自慢の妻、サユリと娘だ!お前の事も理解してくれてるし」
イアンはハルカがロトの洞窟に行っている間に家族に話をしたらしい。
「僕にとってはありがたいです。独り旅なので、寂しかったりするんですよ」
ハルカは笑いながら言った。心の中では本当に寂しさを感じていたが。
「はい、食事よ。今晩は特別よ。メニューはハンバーグステーキよ」
「わーい!私、大好き」エリカが大喜びで椅子に座った。まだ子供っぽい性格だ、とサユリが言った。エリカは「私もう14だもん」とむくれていた。
「ふふ、僕も大好きですよ。僕は肉料理とスープ料理が好きですね」
「ほお、肉食か。野菜はあまり好きじゃないが、サユリとエリカの野菜料理は大好物だ」
「僕は生ものが苦手ですね。肉も魚も火を通していないと食べられません」
「まあ、生肉は危ないからな。俺ん家でも禁止なんだ。さて、頂くとするか」
テーブルの上にはきれいに仕上がったハンバーグステーキ、ポテトサラダ、コンソメスープが乗っていた。
ハルカ達はそれを口に運ぶ。味は食堂を営んでいるだけあり、とても美味であった。ハンバーグステーキの焼き加減もちょうどよく、ポテトサラダもコンソメスープもハンバーグステーキに負けていない程のレベルである。
「城の食事より僕は好きです」
「そうか。家庭の味の方が俺も好きだな」
「ふふ、ありがとう。ハルカさん、一人で旅をしているんですってね。大変でしょ?」
「ええ。でも、これは僕がやらなければならないって思うんです。ロトの子孫だと最初より確信持てる気がしたので」
「そうですね。ハルカさん、優しくて格好いいけど、何だか不思議な雰囲気ありますし!」
エリカの“不思議な雰囲気”発言にハルカは少し反応した。時々言われる言葉。やはり自分がロトの子孫であることを示しているのだろうか…。
(そういえば、戦士団でも僕は浮いていたな。関係あるのかな)
そう考えて一瞬不安になった。しかし、それで自分を信じてくれていると考えるといくらかホッとした(というか心強いと思った)。
「そうですね。僕は不思議な感じって時々言われる」
「そうか。お前はやはり勇者の血が流れているんだな。ハルカ、たまにでいいからこの家へ来い。ロトの伝説は人より少し違う程度の知識しか持ってないが、もてなしはするぞ」
「ええ。待ってるわ。もしかしたら食堂が多忙で泊まらせることは出来ないこともあると思うけど、食事なら用意するわ。料金は特別にタダにしてあげる。冒険のお話もお願いね」
「私も聞きたいです!」
ハルカはこの会話で、新しい家族を得たような気がした。
(イアンさんと親しくしてよかった…)
しばらくハルカはイアンの家族と談笑して、客用の部屋で一晩を過ごした(ついでに言うと、ベッドはふかふかで気持ちよいものだった)。


そして夜が明けた。
ハルカはイアンと彼の家族に見送られながらラダトーム城下町を後にした。
その時、サユリから食料を貰った。
「ガライの町まで最低でも数日かかるから。多めに保存食、作っておいたわ。暑さにも強い物よ」
「…!ありがとうございます」
本当にイアンさんの家族には親切にさせてもらった、僕も何か恩返ししなければ、とハルカは首に下げている竜の鱗を握り締めた。
「では、僕は」

ハルカはコンパスを取り出し、方向確認をしながら先に進める。
魔物に気をながら、食事と仮眠をとった。
その際、ホイミを習得した。

ラダトーム城下町から離れて2日目、竜王軍に滅ぼされたという小さな村に立ち寄った。
もちろん廃墟化していたが、そこには凶暴な魔物はいなかった。
その代わり、スライムとスライムベスの家族に出会った。
父親と娘がスライム、母親と息子がスライムベスだ。
魔物には人間に敵意のない者もいる。特にスライムやドラキー、ゴーストなど比較的弱い魔物にそれは多い。
「人間のお兄ちゃん、悪い奴やっつけるの?」
小さいスライムの女の子の言葉。
「そうだよ。王様に頼まれたんだ。お姫様も助けなければね」
今度はスライムベスの男の子が言った。体の大きさから言うと彼がお兄さんのようだ。
「頑張って。ぼくたちは竜王が憎いんだ。この村はスライムやドラキーに優しい村だったんだよ。でも、竜王軍のせいで、みんないなくなっちゃった。ぼくたち4匹だけで寂しいよ」
「分かった。今日はここに泊まって良い?僕は自分の食料食べるから。…少しあげようか?」
「いいや。あなたの分だけお食べになってください。私達は自給自足で生きていけますから」
父親のスライムがぷるんぷるんと体を震わせる。これは人間で言う、首を横に振るということだ。
「ありがとう」
ハルカはスライムの家族と一晩を過ごした。彼らから、小さな草餅を貰った。
「凄いね」
「いいえ。たまにここに人が訪れるんです。おもてなしの力も無いとね。いくらスライム族とはいえ」
スライムベスの母親はにこりと笑った。ハルカは微笑みながら、どうやって作って
いるかは聞いてはいけないかな、と思った。
「じゃあ、無事でいてね」
「はい、勇者さんこそ、頑張って」

そしてラダトーム城下町出発から4日目、ガライの町に着いた。
ガライの町は勇者ロトの時代に生きた伝説の吟遊詩人ガライが作った町だ。
町並みはラダトーム城下町とは違い、明るい色のレンガや木造作りが多い。
そこらじゅうに陽気な音楽や力強い音楽、寂しげな音楽が飛び交っていた。
そこでハルカは消耗品とほんの少しの食料(サユリが作ってくれた保存食に加え、スライム家族の作った草餅のおかげで余裕があった。草餅はハルカ曰く、驚くほど美味しかったとのこと)、松明数本を買った。
そしてここで、銅の剣を購入した。ただし、竹竿は売らずにとっておいた。
そして自分が勇者ロトの子孫ということ、竜王を倒そうとしていることを隠しつつ、情報を集めることにした。
しかし、ここの町の人は「知らない」というばかり。
音楽にしか興味がないのだろうか。
ただし、あることは聞けた。ガライの墓のことだ。
「そこへ行ったらいけないよ。強い魔物がうようよいるんだ。一ヶ月前に来た他の大陸の旅人が迂闊に入って、魔物に殺されちまったんだ。しかも訳の分からない結界まで張ってやがる」
ハルカはいつかは行かなければいけないとは思ったものの、まだ近づかない方が良いと判断した。
(焦って入って、死んだらお終いだからな。呪文と技ももう少し習得しなければ)
そして、なんとローラ姫の情報を得ることが出来た。
「ローラ姫は東の方向に連れ去られたと聞きます、誰か助けてくれる方はいらっしゃらないでしょうか…」
「いますよ」
「ああ、ならばその方に!」
「分かりました。僕が伝えておきます」
ハルカはあえて自分が助けに行くとは言わなかった。格好だけは立派な、まだ貧弱な武器を持った冒険者が助けに行くといっても鼻で笑われるだけであるから。
(アレフガルドをもう少し歩けるだけの実力がないとダメだろう。僕はラダトームから離れた事はないからな……ドムドーラ…)
腰に下げている銅の剣を見ながら、ハルカは思った。

ハルカは宿屋で一晩を過ごすと、ガライの町を後にした。
この日はいつも以上に暑かった。もしものことがあったら、キメラの翼でラダトームに一瞬で帰ろうと考えた。乱用はしない。キメラの翼にしても、何時か覚えるであろうルーラにしても、使用者の体力を奪う。乱用防止策なのだ。

体が少し大きなゴーストが現れた。普通のゴーストより1.5倍大きい。
「殺してやる、お前は勇者だろ」
ハルカは何も言わずに銅の剣を振り回す。
「そんなんじゃ俺は倒せないぜ」
「……」
ハルカは大きなゴーストをにらみつけた。そして一気に駆け抜けた。
「……十文字斬り!!」
ハルカの銅の剣は大きく十文字を描く。一瞬、それが光り輝く。
「なっ…」
ゴーストは一気にガス化して消えていった。
(剣技を覚えたか)
ハルカは少し嬉しそうに、しかしあまり大きな動きを起こさず、再び歩き出した。 
 

 
後書き
いろいろ無茶苦茶ですね(いつものことですが)。
Chapter-1はここまで。次回からChapter-2です。 
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