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ランメルモールのルチア

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第二幕その七


第二幕その七

「どうかここは」
「ならん、この男だけはだ」
「私もだ」
 そしてエドガルドも言うのだった。
「ここは何としてもだ」
「斬る、誰もを」
「神が祝福される場です」
 彼はその彼等に対して神の名を出した。
「神は人を殺すことを好まれません。剣で人を殺める者もまた剣によって滅びます」
「くっ、わかった」
「それでは」
「今は収めよう」
 三人は何とか剣を収めた。だがエンリーコは怒りを抑えきれない顔でエドガルドに問うた。
「言え!」
「何をだ」
「何故ここに来た」
 それを問うのであった。
「誰が貴様をここに誘ったのだ」
「運命だ」
 エドガルドは昂然として言葉を返した。
「私はそれによって来たのだ」
「だからだというのだな」
「そうだ、ルチアはだ」
 彼は今度はきっとした顔でルチアを見据えた。ルチアは彼のその強い怒りに満ちた目に顔をさらに白くさせてしまった。
「私に永遠の愛を誓った」
「それはもうお忘れ下さい」
 こう返すライモンドだった。
「どうかそれは」
「それは何故だ」
「ルチア様はもう他の方のものです」
「何っ!?」
「これを御覧になって下さい」
 ここでエドガルドに結婚契約書を見せた。そこには確かにルチアのサインがあった。
 彼はそれを読んだ後でまたルチアを見据えた。そのうえで言うのであった。
「震えている」
「エドガルド・・・・・・」
「そして取り乱している」
 彼はそのことをすぐに見抜いた。
「これは貴女の字なのか」
 契約書を手に彼女に問う。
「それで間違いないのか」
「・・・・・・はい」
 雪の様に白くなった顔での言葉だ。
「その通りです」
「わかった」
 それを聞いてまず頷くエドガルドだった。そうして己の指輪を外しそうしてそれを床に叩きつけ足で踏み躙った。そのうえで忌々しげに叫ぶのであった。
「貴女は裏切った」
 怒りに満ちた目でルチアを見据えて言ったのだった。彼女はもう何も言えなくなっていた。
「神も我々の愛も」
 そしてさらに言う。
「呪われるのだ、何もかも。私は最早誰も愛さないし全てを憎む」
「何ということを」
「指輪を踏み躙るとは」
「言った筈だ。私は全てを憎むと」
 実際にその目には最早憎悪と憤怒しかなかった。そして悲しみと。
「ならば私は」
 再び剣を抜いた。それを見てまたエンリーコとアルトゥーロも剣を抜いた。
 双方の後ろにそれぞれの兵士達がつく。彼等も剣を抜いていた。
「出て行くのだ!」
「最早許してはおけぬ!」
 エンリーコとアルトゥーロがまた叫んだ。
「この怒りを抑えることはできん」
「今ここで殺してくれる」
「そうだ、もう許せん!」
「出て行かなければ血で償ってもらう!」
 兵士達も怒りに満ちていた。そしてエドガルドと彼の兵士達もまた。
 剣を抜き今にも戦わんとしていた。
「いいだろう、一人残らずだ」
「血祭にあげてやろうぞ!」
「我等が一人もいなくなろうともだ!」
「戦いの中で果てる!」
 こう言って剣を手にして叫ぶ。まさに一触即発だった。
 そしてエドガルドは言うのだった。
「邪な心の女に私の死は素晴らしい光景だろう。その亡骸を踏み躙り満面の笑顔で裁断に向かいそこで神の祝福を受けるべきなのだ」
「神よ、どうか」
 ルチアも言うのだった。
「お救い下さい、この恐ろしい時に望みを御聞き下さい」
 悲しみと苦しみに満ちた顔での言葉だった。天を仰いでいた。
「この世には何の望みもありません。どうかこの限りない悩みの祈りを御聞き下さい。どうか私のこの世で最後の願いをです・
「どうかここは」
「御気を確かに」
 ライモンドとアリーサはそのルチアを左右から支えて励ます。
「そしてエドガルド殿、貴方は」
「どうかお逃げになって下さい」
「逃げる必要なぞない!」
 しかし彼はそれを聞こうとしない。
「今の私にはもう」
「ですがここはどうか」
「お下がり下さい」
「生きよというのか、私に」
「そうです」
 その通りだと彼に告げるライモンドだった。
「ですからここは」
「・・・・・・くっ」
「エンリーコ様」
 そして彼にはノルマンノが傍に来て言う。
「宴の場です。ここは」
「収めよというのだな」
「そうです、ですから」
「致し方あるまい」
 彼もそれに頷いた。アルトゥーロもだ。
「それではだ」
「はい、それでは」
「全ては永遠の慈悲の前で和らげられます」
 ライモンドの言葉だ。
「たった一つの悲しみに対して数限りない喜びが与えられることもまた人の世です」
 こう言って双方を下がらせた。エドガルドは己の兵士達を引き連れ忌々しげに広間を去った。ルチアは遂に気を失いアリーサがそれを支える。宴の場は騒乱の坩堝となっていた。
 
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