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やはり俺達の青春ラブコメは間違っている。

作者:殻野空穂
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第三章
  小さな教室で彼の心は巻き戻る。

 奉仕部のある空き教室の前についた。……中から音はしない。

 ――ですよねー、ちょっと分かってた。だって今、朝ですもん。それにしても普通なら恥ずかしくなって部室から飛び出すかもな……。だが、俺だけ熱くなっても俺は別に恥ずかしくないわ! 恥ずかしい、という感情は人間が群れから追い出されないために、失敗を繰り返さないように、本能に刻まれたものだ。つまり俺にはそんなにない。……なぜなら群れてないし見られてないから。つまり、今俺は全裸なわけだが恥ずかしくはない。……もちろん全裸なのは嘘だよ? 半裸だよ?(嘘)

 まあ、『恥ずかしくないと感じる』。俺が失敗を繰り返すのはその価値感の所為なのかもしれない。だが、それを失敗とは認めない。なぜなら群れていない俺の(おこな)ったそれを、失敗か否か判断できるのは俺だけだからだ。俺は失敗してもいるし、それなりに成功もしているつもりだ。

「とりあえず入るか、ここまで来たわけだし」
 俺は何となく扉を開いた。まわりの奴らは部活動の最中で「ソレー」だとか「イクヨー、ハァア!」だの声がする。いっやぁー楽しそうですねえ。俺は本でも読もうかしら、ぺらり。

「いいよねぇ、この主人公。ヤンキー(づら)のくせして美少女とおんなじ部活に所属して、ハーレム築いちゃうなんて……。おっと、危うく本を引き裂きかけた」
「何をしているのかしら? それと、私はあなたと同じ部活動、ここ奉仕部に所属しているはずなのだけど」
 がらり、と音がして、見慣れないのが入ってきた。奉仕部部長? の雪ノ下雪乃。

「……ハハッ、うっかり忘れてました。現実(リアル)美少女(おんなのこ)さん。……朝から部活動なんて感心感心。でも無関心だな。ポケットに入っているやも知れない丸まったレシートのシワの数くらいに気の遠くなるほどどうでもいいなぁ。……ハァ、それにしても討鬼○のダイマエンが強すぎて早くも詰んだのはどうでもよくないなぁ、修正が必要だなぁ……。(おも)に俺の操作技能(コントロールテク)的に見て」
「あなたは、この奉仕部で変わる必要があるのよ。『認知』されるために。だから――」
「だから、どうしたらいいの? 君、方法もわからないのに何かを変えられるの? ドラえ○んの秘密道具ですら使い方を知らなくちゃ機能しないぜ?」
 俺がだるそうに尋ねると、雪ノ下は、続けて口を開いた。

「だから、方法を考えるのよ。世界から核を廃絶するにしても、比企谷くんが言っていたように太陽を西から昇らせ東に沈ませるにしても、あなたを()()るのも、無理難題でも必要とあらば方法を探すのがここよ」
「でも、それは無理難題だけに無理なんだい」
「いいえ、決して無理ではないわ。だって、変わらないといけないもの。……それに、あなたが変わらないと気が済まない人だっているはずだわ」
「いやいやいやいやいやらしい奴め。それこそ在るわけがないよ、絶対にありえない。だって今俺、君の目の前にいるけど気づいてないもの。……ああ、もう少しでその桃色の唇に俺の、モノガッ……!」
 俺が息を切らし、悶えながら言うと雪ノ下はびゅっ、と海老のように後ろに飛び退く。……ちなみに今の『びゅっ』で勘違いした奴は今日から変態を名乗ってもいいぞ。

 雪ノ下はハァハァ、と息を切らすと間髪入れずに怒鳴り声をあげる。
「貞操の危機っ……、この変態(ごみ)っ! あなたは世の為、人の為に人知れず死ぬべきよ!」
 と、怒鳴り散らす彼女は(ごみ)の胸板にちょこん、と小さな背中を預けていた。……ヤバイよ、すっげぇ良い匂いがする。最高にこのままでどうだっていい、超満足。長くて艶々した黒髪は早朝の風に吹かれ、さらさらと俺の頬に触れている。雪ノ下は俺より背は小さくて、ちょうど頭が俺の胸辺りにあり、つまりは普段の態度とのギャップがすごい。すごい良い、匂い。
 ごめん、○鷹。俺も今日からハーレム作っちゃう!?

 ……と、まあ冗談は由比ヶ浜さんの胸の谷間にでも挟んで置いといて、雪ノ下を俺から引き離さなければ。正直むせ返ってしまうほど、甘い香りがする。早くしないとマジで意識が天に召されて召し上がってしまう。
 俺は雪ノ下の肩を優しく掴み、その感触をへぇ、と知りながら彼女を押し退ける。

「やっぱり見えてないじゃないか。俺はずっと君の後ろにいたんだから、君の唇なんか見えてないし見てないよ。……あと、誰も見えてないのに喋るなんて怖くなかった? 怖がらせてしまったら、その顔を写真に撮っておかないと……」
「……こう言うことが起こらないためにもあなたを知る、いえ……、知覚する必要があるのよ」
 雪ノ下はぐたり、と項垂(うなだ)れ、邪魔な(おれ)を追っ払うように小さく首を振った。
 その遠心力で長い髪がさわさわと揺れる。――これが俺の頬を撫でていたと思うと、なんか感激。

 俺は心の中でカメラのシャッタースイッチを連打した。もう、実際カメラを持ってたら○橋名人もびっくりする、えげつない速度(スピード)で……。

「こう言うことはどんどん起こってくれちゃっても構わないんだけどなぁ」
「……はぁ、もう死んでほしいわ。頼むから……」
 雪ノ下が懇願するなんて実は珍しいことなのではなかろうか。
 ……いやすっごい下向きな理由だけどさ。もはやひた向きと言っていいほど死を望まれてるんですが……。

「じゃあせめて死に場所くらいは選ばせてくれよ、俺も一人の男なんだから、自分の没する場所くらいは決めさせてくれ。何て言うんだろう。こう、『いい人生だった……』って最期に言い残せるようなさ」
「へぇ、じゃあどこがいいの? ちゃんと私が連れて行ってあげる……。どこでも良いわよ、遠慮しないで」
「分かった!」

 しかし、言ってはみたが、結局どこで死のうか。男だったらやはり「遺骨は海にまいておくれ」とか……いや、それは海に迷惑だ。そうだ、雪ノ下に迷惑を掛ける死に方をしよう!

「雪ノ下さん! 俺、雪ノ下さんの腹の上で死にたいな! ほら死体が見つかったときに誤解される……かも?」
「 死 ネ ェ ッ ! 」
 ちょ、雪ノ下さん声怖い。
 そして刹那、雪ノ下の白くて小さい可愛らしいお手手(てて)が、がっしりとしたグーを作って、俺の額を貫いた。ぐほぉあ…っ。

              ×      ×      ×

 数分後、教室のドアがぬるっと……違った。ドアがガラッと開いて、奴がぬるっと現れた。


 言うまでもない。『腐敗型エイリアン』だ。とても目が腐っている。触れると即死。ちなみにバリアーも効きませ―ん!
 と、俺は銃を構えるポーズをとったが、よく見ると比企谷八幡だった。なんだよびびらせやがって。
 俺がエイリアンと勘違いしたその男は、俺の変わらずに果てた姿を見るなり声をあげる。

「お、おい雪ノ下。その足下の肉塊はなんだ?」
「桐里くん、だったものよ……」
 誰が桐里くんだ誰が。桐里くん、いきなり出てきて既に惨殺死体とか、哀れなり。
 それと、俺も大概失礼だが、こいつらも失礼だ。何だよ肉塊って……。

「俺まだ生きてるし、雪ノ下に殴られて鼻血出してるだけで、ぴんぴんしてるんだけど? 何なの? 俺は元気でも肉塊の価値しかないの? お前ら怖いよ!」
「なんだ桐里、死んでたのか」
「おお!? 会話が噛み合っていないぞ! 肉塊ではなくなったけど死んでんじゃん、生きてる俺の価値 死人じゃん。お前ら何なの? 異世界転生でもして価値観狂ったの、ねぇ?」
 俺がわめくと開きっぱなしの戸からひょっこりとナマ足が突き出てくる。
 部室に訪れたのは由比ヶ浜結衣だった。……なぁんだ、結局みんな揃うのかよ。
 
「やっはろー、って桐山くんが地面に這いつくばって……、うえぇっ、血!? ワ、ワ、ワッ! 桐山くんの顔が血だらけだけど?」
 あ、ごめん鼻血……。あと、ワ、ワ、ワッって、あんたはの○太くんかよ。

「由比ヶ浜さん、ごめん。もしよければティッシュをめぐんでくれないかな?」
「あ、うん。ちょっと待ってね……」
 由比ヶ浜さんはスカートのポケットやら缶バッジがびしびし付いたリュックサックの中をがさがさと探し回り、数分して、「ごめんないや」と申し訳なさそうな顔をした。
 
「そっか。ならいいよ。時間をとらせてごめんなさい」
 正直、俺のためにティッシュを探してくれただけで、もう満足です。もう探さなくてもいいから。何なら鼻血くらい流しっぱなしでいいから……。
 いや、深く考えるのはやめよう。どうやら汚れてしまった床のため、という可能性が浮上してきた。

「あ、う……でも、ちょっと待って! ハンカチならあったから!」
「……え?」
 驚く俺をよそに彼女の取り出したるは一枚のハンケチーフ。
 それには洒落た柄が入っており、いかにも『女子』って感じだ。どれだけ女子っぽいか分かりやすく説明すると、比企谷がそれを持っていたのを皆が知ったら瞬く間にクラス中で、比企谷はホモ or ゲイ……と噂されるレベル。それどころか材木座産 材木豚 には普段、ほむぅ……と、言うところ、ホモォ……とニヤつきながら言われ、俺の人生オワタ! まである。
 それくらい女の子っぽい。なんかこの話の後だと聞こえが悪いが……。
 
 ただ、単純に由比ヶ浜さんのハンカチを俺の鼻血で汚すのは、あまりにも忍びない。そして後ろめたい。困った顔をする由比ヶ浜さんを顔に覆ったハンカチの端から申し訳なさそうな目で見る。そんな俺が目に浮かんだ。俺はそこまでして鼻血を止めたくはない。

「いや、遠慮するよ」
 それが俺の結論だ。
 鼻血を垂らしながらニコッと笑う俺は、制服の袖で鼻をおさえた。
 由比ヶ浜さんはそんな俺を見て、少し呆れたような顔をする。

「でも、どうせ桐山くんも悪かったでしょ? 雪ノ下さんが怒るくらい」
「……へ?」
 悪い? 俺が? 何で?
 意味 が分からない。自分はすぐに忘れられたから、怒られなかったから罪の意識もない。俺は悪くない。
 でも、ようやく気づいた。

 ――こいつらには忘れられてない。
 考えられる限り、最高の最悪だった。

 自分を忘れる者に怒りを覚えるくせに、覚えてもらったら罪を被る。最大の矛盾。
 今までの自分がこれ以上なく災いした。

 つけ入る隙のない完全無双、完璧。そんな何をしても誰にも、そして俺にも否がない『俺』が突然瓦解した。嘘や誤魔化し、出鱈目、そんな何かで塗りたくられた本当はヒビだらけの碧玉を一人の少女に見破られた。それは困る。

「でも俺は、悪くなかったよ?」
「もう違うよ? 桐山くんのしたこと、私は覚えてるし」
 そう言って彼女は例の缶バッジ付きのリュックから、一つのネームプレートを取り出す。大きさは家の表札よりでかい、100円ショップの額縁みたいなやつだ。

 ――それを俺の首に掛けてきた。

 途端、目の前の景色に色がつく。
 
「……誰?」
「お前、桐山か?」
 もう桐里とは呼ばないんだな……。
 どうやら理解した。彼女がスーパーに行ったついで、100円ショップで購入したこの首輪はきっと彼女の中では鮮明な記憶として残っている。つまり、今、俺は認知されている。どういう人間としてかは分からない。が、『自分を苦労させた人間』としてだと言うことは察しがつく。
 彼女の記憶を形にしたネームプレートには平仮名で俺の名前が書いてある。

 ……え、何で俺の名前知ってんの? も、もしかして俺のこと好きなのかなー、ドキドキ。――なんて比企谷じゃないから勘違いはしないまでも、今まで何のストレスも感じてなかった俺にはちょっとストレスだ。
 人に覚えてもらった感覚がこんなにも煩わしいとは……。

 自分は人との関わりが持ちたくない訳ではない。そう思っていたが、どうやら俺はいつの間にやら人嫌いになっていたようだ。

「外したいときは外してもいいよ。ほら、困るときもあるかもだし……」
「困るとき? ああ、そうかい……。雪ノ下、君、由比ヶ浜さんに何かしら吹き込んだね?」
 俺はキッ、と雪ノ下を睨み付けた。こんのヤロォ……。俺のたいして勉強しなくても全教科十位以上の頭脳(笑)が瞬時に答えを導く。
 シミュレートするとこうだ。

              ×      ×      ×
 
雪ノ下「(桐ヶ谷くんが覚えてもらえない。これは彼の勝手な行動を許し、下手をすると学校全体が混乱に陥る可能性もある、危険)とりあえず平塚先生に連絡ね。彼の更正を真っ先に行う必要があるもの」

平塚先生「なにぃ! やはりあいつはそんな能力(スキル)を隠していたか……。ふっ、最初から気づいていたさ。あの飄々とした態度、濁ったようで怪しさを持った目『平塚先生』……っは!」

雪ノ下「とにかく桐ヶ谷くんの更正を『桐ヶ谷? そんな生徒はいないぞ?』……え?」

平塚先生「つまり我々も名前を知らなかった訳だ。そうだ、同類のニオイがする比企谷に奴の情報を聞こう」

 prrrrrr――。(呼び出し音)

比企谷「もしもし、平塚先生ですか。ええ、桐――何とか君のことですか? そう言えば、由比ヶ浜はあいつの名前呼んでましたけど?」

平塚「そうか、ありがとう。では、切るぞ。……ふぅ、由比ヶ浜の家は……っと」

由比ヶ浜「あれ、平塚先生? あ、桐山くんの事ですか? は、はいそうですか。……桐山くん、名前を覚えてもらえないのが嫌だったんだ。わかりました、はい!」

               ×      ×      ×

 そして、俺と公園で会った、と。雪ノ下は差し詰め、由比ヶ浜にさんに『実は彼、自分の名前を覚えてもらえず、落ち込んでいるらしいの』とか何とか。いや、ただの憶測だけど……。

「何で俺のためにそんなこと……ああ、奉仕部の依頼か。律儀だね……」
「それもあるけど……、桐山くんのこと、信じたかったから!」
「信じる?」
 信じるってなんだっけ? えーっと、宗教とか? 違う。俺が分からないのは『信じられる』ことだ。
 信頼される。つまり、彼女は嘘吐きの俺の、言葉や行動、これも違う。まどろっこしい物じゃなく『俺』そのものを信じたいと言っているのだ。……俺を認め、見留めたのは、俺を信じるため、俺に嘘を吐かせないためか。

「桐山くん、ホントに霧みたいに消えちゃいそうで怖いんだよね……。あたし、桐山くんの話、信じたいから!」
 そう言うことだ。

 ――信頼。それは嘘だ。いいや、嘘と言うより一方的な勘違いだ。嘘を吐かず人を騙す。それが信頼なのだろうか。相手は自分のこんなところを信じ、尊敬し、好み、素晴らしいと思う。
 だが、実際、そのほとんどは勘違いである。信頼は思いの(ほか)、脆い。それは、信頼が嘘に限りなく近いからであるわけで、キャラなんか存在しない、数学が得意な『キャラ』は高校生になったら難しくなった数学についていけなくなって、誰にでも優しい『キャラ』は何時しか醜い現実に愛想を尽かし暴力に身を任せたり、唯一無二の親友だった『キャラ』は実は陰で自分の評判を悪くする、陰湿で最低なやつだったり、尊敬していた『キャラ』だった体育の先生は夜な夜な体育倉庫で教え子達を犯し続ける変態だったりする、そんな現実において、信頼は糞の役にもたちゃしない。信頼なんてのは独りよがりのオナ二――(割愛)。

 まあ、そんなわけで俺は信頼され、罪悪感を覚えるのだ。
 騙してしまった。自分はホントはもう数学が得意なキャラじゃないのに、お前って数学得意だったよな、すげぇよ、なんて言わないでくれ、もう尊敬なんてしないでくれ。
 自分は優しい人間だった。いやホントは君に好かれたいからキャラを作ってたのかもしれない。もうだめだ。信じられないんだ、何もかも。もう、好きだなんて言わないでくれ。……もう、君を信じていれるかさえ、怪しいんだ。
 ごめんよ。こんな俺をまだ親友と呼んでくれるかな、俺を信じてくれるかな……。無理だよね、分かってるさ。俺も無理なんだ。何でも出来るお前が妬ましくて、妬ましくてしょうがないんだ。もう、親友でも何でもない。あれはキャラだったんだ。
 そんな目で見るな。俺はもう教師じゃないんだ。しくじったよ。バレてしまったんだ。悪いが俺はお前に尊敬されるような素晴らしい、人間じゃないんだ。……あなたは生徒に親身に向き合ってくれる? 違うんだ。信頼があれば、俺が疑われるなんてことは、あり得ないだろ? ……ハハ、ハッ……。


 悪いけど僕は君に嘘を吐いたんだ。

 自分は……、ごめん。本当は忘れられたり、覚えてもらえないことが嫌だったんじゃないみたいなんだ。鬱陶しいんだ。無かったものが、無くなったものがそこにあるだけで……。もう、遅すぎたんだね。きっと僕はマトモじゃないんだ。
 騙してごめん。今も鬱陶しいと思ってごめん。帰りたいと思ってごめん。etc,etc.で省略しようと思ってごめん。(割愛)しそうになってごめん。(笑)ってコメディにしようと思ってごめん。この状況で胸をチラ見してごめん。神風来いとか思ってごめん。起こらなくてチッ、て舌打ちしてごめん。ごめんをスマソにしてまたコメディにしようとしてごめん。ごめんに飽きてきてごめん。
 ただ――、
「俺の悪いとこを信頼してくれたら嬉しい」
 矛盾? いや、違うね。

 信じてたよ、君はもう数学苦手だって。顔見りゃ分かるよ。
 あなたは優しいだけじゃないって知ってた。でも、信じてる。あなたは私のことは信じてくれるって。だって私はあなたを信じてるから。
 お前は俺の陰口ばっか叩くよな、知ってるぜ? でも、信じてたよ。お前は謝りに来てくれるって……。
 本当だったらあんたは教師失格だ。でも信じていますよ。その言葉が嘘だって。被害者の女の子証言したようですよ。自分に暴力を振るったのは、人気者で保健体育を教えていた、あの○○先生だったそうです。安心していいですよ。もう脅された通りに嘘の証言なんかしなくても。それにあんた、僕以外からは信頼なんかされてませんよ。……ですよね、科学の△△先生?  
 
 ――こんな風に信じてほしい。ってか最後なげぇ!

「俺は醜いだろ? そして見にくい。そんな俺を信頼するって言ってくれるんだ……。騙される覚悟もしておいてよ?」
「うん!」
 並大抵の人ならふざけんなって言うとこだろ……。これが優しさか? どこか違う気もする。



「どうやらあなたの認知には成功したようね。霧山くん?」
「ま、案外簡単だったな、俺たち何もしてねぇし……。おい、そろそろHR始まんぞ」
「あ、ホントだ! じゃあね桐山くん、お先ー!」
 勢いよく走り出した由比ヶ浜さんを皮切りに、比企谷と雪ノ下も歩き出す。
 去り際、雪ノ下が、
「次の休みにあなたの髪を切りに行くわ。……あなたをよく見てから気づいたのだけれど、その髪の長さでは顔をよく覚えてもらえないし……恥ずかしい話だけど、怖いわ。……どうせ美容室に行っても認知して貰えなかったんでしょう? 絶対に次の日曜日、奉仕部に来なさい」
 ――だ、そうです。

 面倒だと思ったが、胸のモヤモヤはすっかりとれた。ホント、感謝しなくちゃなあ。騙されてくれるほど優しい人がいたってことに。それを受け入れてくれる人がいたってことに。
 とりあえず本でも読もうか、まだ続きなんだ。

 落ち着いた、まるで城の一室にいるようだ。射してくる太陽の光がカーテンから溢れだし。教室を柔らかな色で包む。これだ、これだよ俺の求めていたものは。
 安息の地で一人ぼっち。ただ、覚えている僅かな人たちの記憶で、この日常が組み立てられていく。
 それにしてもこのプラカードみたいなネームプレート。少し邪魔だな。
 丸まった字で『きりやま きりや』と書かれているそれを首から外し、机に立て掛けた。

 女の子から初めて貰ったプレゼントはとても、俺には勿体なかった。
 
 ネームプレートを外すと音が掻き消え、景色は脱色が施される。もはや文字と、単純な線しかないこの僕の現実でずっと飽きずに本を読んでいたかった。彼女がくれた名札をずっと眺めていたかった。

 最近のラノベみたいに真っ白けで僕以外誰もいない現実で、そのネームプレートだけは落ち着いた城の一室に射す日の光のように柔らかな色彩が施されていた。
 時が止まっていた気がした。
 
 

 
後書き
しんどい……。もうだめだ、駄文しか書けない。←いつものこと。

しかも原作回でもなんでもねぇ(-_-;)
原作? なにそれ食えんの? みたいなレベル。
でも次からはわりと原作回。もはやこの回が何だったんだってなるくらいの。

それと、ダイマエンはこの後、何とか倒しました。癒ミタマ強し!
……一体、どれだけの人がこのネタを分かってくれるのだろう……。

この作品(笑)について分からない点があれば感想欄にて。
批評 & 感想 お願いします。ちなみにこの作品(笑)は10%の妄想と、同じく10%の自己満足。
そして80%の夜のテンションでできています。悪しからず……。
 
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