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魔法科高校の神童生

作者:星屑
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Episode14:執行人

 
前書き
お待たせしましたー。もう、ほんっとすみません!実生活が忙し過ぎて…これからもこのくらいのペースになってしまいそうです。本当にすみません。 

 
第二小体育館。通称・闘技場に、異変を感じた隼人は駆けつけた。扉を開けた瞬間に、目についたのはなにかを囲むように形成された人ごみ。よく見れば、その人混みの中心で乱闘が起こっていた。
いや、乱闘ではない。たった一人の一年生、それに二科生に、剣術部総掛かりで殴りかかっていた。それを見た途端に加速魔法を発動しそうになるのを、隼人はその二科生が誰かを悟った途端にやめた。
騒ぎの中心で大立ち回りを演じているのは、他でもない、同じ風紀委員の達也であった。確実にして正確。そう形容すべき戦いで、剣術部を受け流している。
その様子を見た隼人は、張っていた肩を降ろし、視界を覆うサイオンに吐き気を覚えながら周囲を見渡した。と、その人混みの外側に、隼人は先日知り合ったばかりのオレンジ髪の少女を見つけた。


「やあ、エリカ」


「あら、隼人じゃない」


覚えているかな、という懸念を抱きながら声を掛けた隼人に対して、エリカはすんなり返した。それに軽い感動を覚えながら、隼人は気を取り直して騒ぎの中心に目を向けた。


「なにがあったの?」


「そりゃもう、色々と」













エリカに聞いた話しによれば、どうやら達也が違反行為をした剣術部二年を拘束したところ、かくかくしかじかの理由で剣術部の部員がヒートアップ。ついには達也に襲いかかったという。



「小学生か…」


「ホントよね」


まるで子供のような反応をしてこうなった剣術部員を隼人とエリカはうんざりして見た。
とはいえ、このまま達也一人に任せていては恐らく時間がかかってしまう。それは是非とも勘弁してほしい隼人は、一度溜め息をついて漆黒のグローブを嵌めた。
どうやら剣術部は、二年生の部員、桐原先輩が逮捕されること、更にそれをしたのが二科生であることが不満らしい。とはいえその不満の内訳は、4:6で二科生が関係しているほうが強いだろう。ならば、一科生の隼人が止めればある程度は緩和できる。隼人はそう踏んだ。しかし、口だけで言ってもダメなことは承知なうえ、


「エリカ、俺も止めに行ってくるよ」


「うん、行ってらっしゃい」


否定もなくスラリと見送りの言葉を言うエリカに隼人は苦笑いして、負の加重魔法、即ち減重魔法を使った。
体にかかる重力がなくなっていくのを感じて、隼人は地面を力強く蹴った。その瞬間、隼人の足があった場所から波紋状に強い振動が伝わった。足が地面を蹴ったときの微弱な振動を、魔法で指向性を持たせ、更に強力にしたのだ。地震にも似た揺れに野次馬の集団が揺れ、達也を囲んでいた剣術部員も思わず動きを止めた。
その、まるで時が止まったかのような空間に隼人が降り立ち、


「はい、そこまで。これ以上やるなら風紀委員長に言いつけるぞ!」


責任を思いっきり丸投げした。



















ピチョン。薄暗い空間に水滴が落ちた。至る所に転がっている異臭を放つその存在を見ながら、青い髪をもつ男は嫌悪感を露わにして歩みを進める。分厚い靴底が床を叩く音のみがやたら響く。
そして男は、不意に俯けていた顔を上げた。見上げた先にあったのは一つの重厚な扉。男は溜め息をつくと、一度瞼を閉じた。そして開く。


「20人弱か……」


男は日本語でそう呟くと、手を扉に触れた。


「さて、仕事の時間だ」


掛けていた狐の面を被り直し、男は自分の背丈の1.5倍はありそうな扉を吹き飛ばした。





『反政府組織イェツァー壊滅』。その報告が大亜連合中に流れたのは、そのすぐ後のことだった。













「いやー、災難だったね達也」


「責任丸投げしたお前に言われてもな……」


清々しいまでの笑顔でそう言ってのけた隼人に対する達也の返答は苦笑い気味のものだった。
それもそのはず、先程の乱闘を止めに入った隼人は自分の力で解決しようとせず、学校を統べると言っても過言ではない三巨頭の内の一人、風紀委員長、渡辺摩利の名前を使って脅したのだ。


「いや、でも効果的面だったでしょ?」


「まあ、確かにな…」


そう。隼人が摩利の名前を出したあのすぐ後、激昂していたはずの剣道部員たちが誰一人の例外もなく青い顔をして退いていったのだ。
その様子を見て流石の隼人も「渡辺委員長…一体なにやったんだ?」と呟かずにはいられなかった。


「んま、大事にならなくてよかったね」


そう言って隼人は、視線を闘技場の出入り口に向けた。


(達也が剣術部員と戦ってるときと、俺が介入したときに感じた視線……なんか、きな臭いな…)


「どうかしたのか?」


「ん?いやなんでもないよ。さて、達也、俺はこれから美術部に行くから」


「サボるなよ」


「サボんないよ!」


もはやお決まりとなった問答をして、隼人は足早に闘技場を去っていった。


















「あれ、エイミィ?」


「あ、隼人だ」


美術部のデモンストレーション場所へ向かう道中で、隼人はばったり一人で歩くエイミィと会った。


「一人でどうしたの?紅葉さんとかは?」


隼人が何気なくそう聞くと、エイミィは何故かバツの悪そうな表情を浮かべた。ちなみに紅葉とはエイミィの友人のことだ。隼人はエイミィの紹介によって彼女と出会ったのだが。


「あー…それが、はぐれちゃったのよね」


「なるほど。あり得そうだね」


隼人との初対面のときの紅葉を思い出して、揃って苦笑いを漏らす。今頃、本人はくしゃみの一つでもしているだろう。


「じゃ、一緒に行く?」


ひとしきり笑ったあと、隼人がそう言って手を差し出すと、エイミィは笑みを浮かべてその手をとった。


「もちろん!」


そこからはもう、エイミィの独壇場だった。握った手を離さずに、隼人をあちらこちらへと引っ張っていく。そしてやはり女の子とは目移りがしやすいもので、隼人がろくに見れもしないうちに、次々と移動と見学を繰り返す。そしてただでさえ人ごみが苦手な隼人は、そのハイスピードについていくことができずに、開始僅か数10分で軽いグロッキー状態だった。
それでも隼人はなんとか笑みを浮かべて、エイミィについていく。
そう、全ては、彼女の笑顔のためだけに。























激動の部活勧誘の時間も終わり、無線で達也以外帰宅の指示が出されてから、俺は人気のない廊下を歩いていた。ぼーっとして思い出すのは、途中、襲ってきた無頭竜の男のセリフ。確かに彼は、俺の全てを知っていると言っていた。
だがそれは、まやかしだろう。なにせ、消失を始めとして、俺の魔法の完全な理論は俺ですら分かっていないのだから、見ず知らずの男、おそらくはその背後にいる組織にも分かるはずがない。だが、ある程度、例えば俺が暗殺家業をしている、などのことは掴まれているかもしれない。敵は国際的な犯罪組織。相手を消し去ってしまうことはできるだろうが、正体がバレてしまう可能性は極めて高くなる。それは決して褒められたことではない。
ならば、どうするか。


「………行くか」


軽く溜息を吐き出して、覚悟を決める。これから行うのは、常人には罪を課せられる行動。だが、魔法という存在の裏に住む俺には、むしろ許可が降りている行動。逆に、九十九家としては正体の露見こそが罪となってしまう。
人としての罪か、九十九家としての罪か。
そのことについて悩むことは多々あった。けど、俺が彼女を守るにはその方法しかなくて。
だから俺は、『九十九』隼人として生きていく。差し当たってはまず、俺の正体を知っているあの男を殺す。消すのではない。無頭竜への牽制も兼ねて、徹底的に潰す。
そうしている内に、いつの間にか殺気立ってしまっていたのか


「九十九か?」


俺は背後に迫る巨躯の存在に気づくのが遅れてしまった。腹にズンと来るような声を聞いて、慌てて振り返る。するとそこにいたのは、圧倒的な存在感を放つ、俺のよく知る人物だった。


「十文字、先輩」


巌のような巨躯に、他者を従えうる王者のみが纏える雰囲気。
十文字克人。当校の部活連会頭にして最強の三巨頭の一人、そして十師族の一角である、『十文字家』の次期当主という数多くの肩書きを持つ人物だ。またそれに比例して魔法の技術も卓越しており、消失を使った俺でも勝つのは難しかった。
ちなみにこの人と俺の交流は以外と深く、よく模擬戦をして遊んでもらっていた。しかしそんな彼も、俺が、九十九家が暗殺家業をしていることは知らない。知られてはいけない。


「どうしたんですか?」


俺がそう問うと、十文字先輩はいや、と言った。


「渡辺に呼び出されてな…これから、司波に桐原逮捕の経緯を聞きに行くところだ」


なるほど。部活連の会頭というのにも他に、十文字先輩は懲罰委員会にも所属している。恐らく、達也から話しを聞いて、今日逮捕された二年剣術部員、桐原先輩の処遇を決めるのだろう。


「お疲れ様です」


本当にこの人の仕事量には頭が上がらないね。誠心誠意を込めた俺の一礼。頭上で苦笑いする気配があって、流石に芝居がかりすぎたかな?と思ったとき、


「聞けば、どうやらお前も災難だったようだな」


この十文字先輩の言葉に、俺の思考が停止しかけた。なぜだ…なぜそんなセリフが出てくる?確かに俺が霊子光線過敏症とほぼ同じ状態であることは、十文字先輩も知っている。バカ騒ぎのせいで活性化したサイオンの奔流に飲み込まれたことへの言葉か?
いや違う。十文字先輩は、そんなことくらいなら言いはしない。
ならば、考えられる可能性はあと一つ。俺が、あの無頭竜の男に襲われたということを知っている。
それは厄介だ。狙われたのは俺、いや俺の力。十師族には、俺の本当の力のことは伝えておらず、また、両親に秘匿するようにと言われたことだ。もしあの時の会話が聞かれていたら、マズイ。
このままでは、気まぐれシェフ(姉さん)のUMAフルコース……
つまり人生BAD ENDに直行してしまう。それは、なんとしてでも阻止しなければならない。
思わず警戒を強めた(主に姉さんの料理の想像に対して)俺だが、



「その顔、やはりなにかあったようだな」


「………え?」


シット!!まさか、かまかけられてたとは思わなかった。くっそ。苦虫を噛み潰したような表情で固まってしまった。


「…なにがあったかは知らんが、気をつけろよ」


だが予想に反して、十文字先輩はこれ以上追求をしてこなかった。それを訝しむ前に俺は安堵を覚えた。
だから、この時の十文字先輩の警告の意味など考えもしなかった。


「……では、俺は用事があるんで」


そう言って、俺は足早に廊下を去った。


「……本当に九十九を、人間兵器にするつもりなのか…?」


誰もいない廊下に、克人の自問が響いた。














時は過ぎて夜。今日の昼間、魔法科高校に乗り込み、九十九隼人と接触を図った男、五十嵐修哉は窮地に立たされていた。
細い路地裏の突き当たり、月明かりしか照らすもののないこの場所で、彼の目の前に立つのは顔を隠した男。
自らの仲間であり、無頭竜の執行人であるその男の登場は、つまり修哉の無頭竜追放、及び死を意味していた。


「覚悟はいいか…?」


流暢な日本語。だが、執行人の男はラテン系のアメリカ人だ。
無頭竜は、勢力拡大のために危険を冒しつつ各国の凶悪魔法犯罪者を集めて回っていた。五十嵐修哉もその一人であり、執行人、ラファエル・ロドリゲスもそれである。だが、魔法力の差は歴然。修哉もかなりの魔法力を有するが、ロドリゲスには遠く及ばない。だからこそ、修哉は任務請負人に留まり、ロドリゲスは執行人にまで昇りつめたのだ。


「覚悟ったぁ死ぬ覚悟ってことか?」


無機質な目を向けて来る仲間に、修哉は苦笑いを浮かべた。


「死ぬってのはよ…よく分からねえんだわ。だから覚悟なんて言われたってなぁ……」


そうボヤいて後ろ髪を掻き回す。
今、生きている人間は、例え人を殺したことはあっても、死んだことは一度もない。だから、なにがあるか分からない。想像したときに湧き上がってくる本能的な恐怖だけが、人間が唯一持つ死についての情報だ。
身近に迫った死の恐怖を感じながら、修哉は薄く笑った。


「なにがおかしい…?」


低く響いたその声を、修哉は笑みを浮かべたまま聞き流した。


「ま、今の通りよ……死ぬ覚悟なんざできちゃいねえ」


今回の任務のために渡されたフーデッドローブを脱ぎ捨て、修哉は小型のダガーを取り出し、そして切っ先をロドリゲスに向けた。


「精一杯抗わせてもらうぜ、執行人さんよォ!」


月明かりのみが照らす路地裏、ヒビ割れたコンクリートを修哉は蹴った。

















ーーto be continuedーー






 
 

 
後書き
はい、いきなり出てきた修哉の話が続きます。でもまあ、多分、次くらいには終わるかな? 
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