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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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黄巾の章
  第16話 「呼んだ?」

 
前書き
個人的にですが、私は孫策さん実は大好きです。
というか、孫三姉妹が大好きです。

 

 




  ―― 馬正 side 宛 包囲陣内 ――




「第一回! 盾二様を盗られるな! 対策会議ー!」
「わーパチパチパチー」
「……なんで私はここにいるのだろう」

 私は、二人が手を叩く前で頭を抱えている。
 今の私は、髭も剃り、髪を整えてすっきりした顔をしている。
 髭を剃るとあまり威厳がなくなりそうで、本当は嫌だったのだが……

「何を言っているんですか! 馬正さん、お髭剃って髪を整えたら、ずっと若くて格好よくなるじゃないですか! 雛里ちゃんのためにもずっとそうしていてください」
「…………(うんうん)」

 いや、確かに何度も泣かれるから、どうしたらいいか盾二殿に聞いたら……

『うーん……髪整えて髭剃ったらどうかな? 男には格好いいと思われても、女性は意外に髭が嫌いな子が多いし』

 その言葉で剃ってみたら……

「ずっとそのままでいてください!」
「…………(コクコク)」

 あからさまな態度の変化に戸惑う。
 ……そんなに髭が嫌でしたか。

「で、なんで私はここにいるのですかな?」
「なんで!? 聞いてないんですか!?」

 ?
 孔明殿は、驚愕した顔でこちらを見ている。

「昨日、孫策さんと言う方が、盾二さんに結婚を迫ったそうです!」

 なんと!?

「孫策という方は、どんな女性なので?」
「……なんでも、袁術軍の客将で、えっと、江東の虎といわれた孫堅さんの娘さんだそうです」
「孫堅……ああ。長沙の太守だった方ですな。確か亡くなったと聞きましたが」

 鳳統殿の言葉に、しばし唸る。
 確か本人が亡くなったことで、力で抑えていた各部族や賊が蠢動(しゅんどう)し、その事で太守を罷免されたはず。
 今は南陽太守の袁術殿に身を寄せている、と聞いたことがある。

「その方と盾二殿に面識が?」
「本人はないそうです。初めてお会いしたと」
「は、初めてですか……それは俗にいう、『一目惚れ』というやつですかな?」
「は、はわっ!?」

 一目惚れ、の言葉に頬を染める孔明殿と鳳統殿。

「一目惚れ……素敵かも」
「だ、だめだよ、朱里ちゃん。篭絡されちゃ……相手は敵だよ」
「は! そ、そうです。そうでした……私達から盾二様を奪い取ろうとしているんです!」
「そうだよ……負けちゃだめだよ……ただでさえ、敵は多いんだから……」
「そ、そうだね。桃香様に愛紗さん、翠さんにもしかしたら霞さんだって……」
「盾二様は、誰にでもお優しいから……」
「私達こそが盾二様の一番に……」
「うん……だから孫策さんには……」
「「ふ、ふっふっふ……」」

 …………
 こ、恋する乙女は盲目ですな……

「そう……私達は盾二様を、孫策さんの魔の手から守らねばなりません! そこで……馬正さん!」
「は、はい?」
「私達……盾二様の臣ですよね!? きょ、協力してください!」
「お、お願い、します……」

 ………………
 羨ましい、というのだろうか?
 それとも……ちょっと怖い?

「ま、まあ……私に出来ることでしたら」
「「やった!」」

 二人がそろって手を合わせます。
 ふむ……すみませんな、盾二殿。
 どうやら、私もお節介のようです。




  ―― 盾二 side ――




 ゾクッゥ!

「!?」

 俺は周囲を見回す。

 黄巾が篭城する宛城。
 それを包囲しているのは、俺たち董卓・孫策・義勇兵、三軍合同の陣の中。
 包囲の兵は、孫策軍一万を加えて三万ほど。
 対する篭城している南陽黄巾軍は、およそ二万。
 だが、堅牢な城壁に守られた城に対して、まだ編成中の俺たち。

 未だこちらの引継ぎの再編が済んでいない為、現在は睨み合いが続いている。 
 その陣の様子を見るために、俺はここにいた。

 まだ陽は天頂にあり、これからさらに暑くなってくるだろう。
 にも関わらず……なにか、とんでもない寒気を感じた。
 なんだろう……もしかして孫策さん?

「呼んだ?」
「うぁお!?」

 って、イターっ!?
 後ろには孫策さんが立っていた。
 お、俺の背後を取るとは……

「い、いつからそこに!?」
「たった今よ? ねぇ、それより……昨日のこと、考えてくれた?」

 そう言って、胸を強調して擦り寄ってくる孫策さん。
 そのままピトッと腕を絡んでくる。
 
「い、いや……そ、そもそも俺、貴方と会ったの昨日が初めてなんですけど!?」
「うん。私も貴方と会ったの、昨日が初めて」
「それがなんで急に夫だとか言いだすんですか!?」
「うーん……勘?」
「勘かよっ!?」

 思わず素で答えてしまった。
 というか、勘で結婚決めるってどういう神経しているんだ!?

「か、勘で結婚を決めないでください! そもそも俺は貴方のことは何も知らないんですよ!?」
「そんなのこれから知っていけばいいじゃない。なんなら今晩閨でも……」
「だから、なんで結婚より後回しなんだー!?」
「もう! なによ、わたしの事見惚れていたんじゃないの!?」

 う……いや、誤魔化しただけです。
 と、言いたい……言ったら殺されそうだけど。

「い、いや、確かに綺麗な方とは思いましたけど……いきなり結婚しましょう、はいそうですね、なんていう男がいるわけないでしょう!?」
「もー固いんだからぁ……」
「いやいやいや! 普通だからね!? 普通の反応だからね!?」

 ちょ……マジで、マジで頼む。
 誰かどうにかしてくれ!

「いいかげんにせんかーっ!」

 スパーン、という軽快な音と共に、隣にいた孫策さんの頭が沈む。

「いったーい! 誰よ、もう!」
「儂じゃ!」

 振り返ると、褐色の肌の豊満な胸の女性がいた。
 ……でかいな。

「なによぉ……(さい)じゃない。邪魔しないでよ」
「邪魔もなにもあるか! ここは陣内じゃぞ!? 兵の士気に関わるからやめい!」
「これは将来の孫呉に関わる事なの! 黄巾なんか後でどうとでもできることなの! だから……」
「だから、なんだと?」

 おや?
 別のところからも声がする。
 振り返ると、黒髪でこちらも褐色の肌の女性が、こめかみをピクピクしながらこちらを睨んでいる。

 ……さっきの人ほどじゃないけど、こちらもでかいな。

「あ……冥琳(めいりん)
「『あ……冥琳』ではありません。孫策様……ご自分の立場をわかっておいでか?」
「や、やーね……ちゃんと真名で呼んでよ……わ、わかっているわよ? わかっているからこうして……」
「こうして?」
「……そ、孫呉のために子種をもらおうと……」
戦場(いくさば)で?」
「………………」
「………………」

 うう……
 無言がつらい。
 というか……いい加減、絡ませた腕を離してくれないかなあ。

「……はあ。わかったわよぅ……」

 そう言って、すっと離れる孫策さん。
 た、助かった……

「うちの『バカ』が失礼しました……」
「ちょっと、冥琳! バカってなによ!?」
「あぁんっ!?」
「ヒッ!」

 うわ……あの女の人の一睨みで、孫策さんが後退(あとずさ)る。
 ちょっと、俺も怖かった……

「失礼しました……私は姓が周、名は瑜、字は公瑾(こうきん)と申します。孫策軍の軍師をしております」
「儂は、姓は黄、名は蓋、字を公覆(こうふく)と申す。孫呉の将をしておる」

 ほお……かの名軍師に孫呉三代の武将、黄蓋か。
 女性なのは、もう諦めた。

「ど、どうも……私は北郷盾二。董卓軍……というより、義勇軍を率いている劉備の軍師をしております。現在は董卓軍の軍師も兼ねていますが……武将として前線にも出ますので、よろしくお願いいたします」
「ほう……軍師であるのに武将でもあると」
「まあ、義勇軍ですからね。人材不足なので」
「ふむ……ちなみにお主が天の御遣いと聞いたのじゃが、ほんとうかの?」

 黄蓋さんが尋ねてくる。
 これ、毎回訂正しないといけないのかな……?

「正直、私にはなんとも。ただ、義勇軍の皆がそう思ってくれているのは確かではあります。まあ、この官吏が乱れた世の中で、誰かに助けて欲しいと願う民衆が、態のいい縋る存在として呼び出したもの、と思ってはおりますが」
「ふむ……まあわかる気はするがの。一応、官の人間としては耳が痛い話じゃ」
「すみません……まあ、ウチの大将である張遼も、その件についてはただの噂であるとしておりますので」
「御遣い云々は噂でも、その成した功までは噂ではあるまい? 損害なしで倍近くの黄巾を倒したと聞いたが」

 耳が早いな……
 まあ、あれから一月は経とうとしているし、伝聞ぐらいは大陸全土に広まわっていると考えるべきか。
 義勇軍で、噂をばら撒いたしなー……

「まあ、全部が私の仕業、ではありませんよ。義勇軍の皆のおかげです」
「では、真だと?」
「結果自体は本当ですから」
「むう……」

 黄蓋さんが黙ると、その横にいた周瑜さんがこちらを見る。

「軍師としてお聞きしたい。どうやったのですかな?」
「そんなに大したことは。六千で一万の時は、誘き出して罠に嵌めました。董卓軍との共同戦線では、山の砦に籠もっていたので炙り出して、奇襲です」
「……さすがに詳しくは教えてはいただけませんか」
「まあ、軍師が手の内を全て曝け出しては軍師といえないでしょう。ただ、私はできるだけ損害は少なくしたい、と思っています」
「それは……まあ当然ですな」
「ええ。私にとってはこの世の全ての軍師が師匠ですから」

 周瑜、孔明、陸遜、鳳統、荀彧、賈駆、それに郭嘉に程昱。
 およそ軍事や政治に携わったこの時代の人間の知恵は、後世においても非常に有益だ。
 だからこそ、目の前にいる彼女もまた未来の人間、その全ての師の一人なのだと、俺は考えている。

「この世全ての軍師が師匠……貴方は大層な志をお持ちのようだ」
「私が? ……そんなことは初めて言われました」

 俺に志?
 俺は一刀さえ無事なら……

「ご謙遜を。他者の策や政道を全て身に蓄え、発露しようする。それは志なくば行おうとするものではありますまい」

 俺の……志?

「この戦での貴方の戦術、この公瑾、楽しみにさせていただきましょう。では……いくぞ、雪蓮」
「あん、待ってよ……痛っ! みみ、耳をひっぱらないで! 痛いからっ!」
「やかましい、お前には説教だ」
「めーりーん……お願い、かんべんしてー」
「やれやれ……では、儂も失礼する」

 俺は三人を呆然と見送った。

 俺の……志?
 俺の(やりたいこと)って……なんだ?

 一刀を助けた後……この世界でなにをしようとして……?

 そう考え、なにか……そう、なにか致命的な事が抜けている気がした。
 それは――

「おい、盾二!」

 翠の声で霧散してしまった。




  ―― 馬超 side ――




 がるるるる……
 思わずあたしは、孫策たちが去っていった方向を睨む。

 あいつは敵だ!

「す、翠? ちょ、顔が怖いって! どうしたんだ?」

 どうしたんだ?
 どうしたんだ、だって?

「そんなもん、決まっているだろうが!」
「うおっ?」

 よりにもよって、あたしの初こ……ゲフンゲフン!
 ともかく!

「アイツには油断するなよ! いつ寝首をかかれるかわからないぞ!」
「い、いや、さすがにそれはないだろ。黄巾は共通の敵だし、官軍であるこちらと敵対するメリット……得がない」
「そういう意味じゃない! あたしの盾二に……」
「は?」

 ……え?
 あたし、今誰になにをしゃべっている?

「はわっ!? じゅ、盾二?」
「は?」

 あわ。
 あわわ。
 あわわっわわわわわ!

「○×▲■$%&! は、はわーーーーーーーっ!?」

 きゃーっ!
 今、今もろに、もろに告白しそうになったー!?
 あ、たし、あたしの、盾二って……ぎゃーっ!?
 
 あたしは盾二の顔が見られず、その場を駆け出していた。




  ―― other side ――




「なんだ、あれ?」
「ほっとけ。御遣い様の周辺はいつもあんなもんだ」
「そうだな」

 ――羨ましくも、関わりあいになりたくない。
 義勇兵と董卓兵の思惑は、合致していた。




  ―― 周瑜 side ――




「まったく、貴方ときたら……」
「わ、悪かったわよぉ……ごめんね、めーりん」

 私の目の前で正座をしている雪蓮。
 この行き当たりばったりな主は、本当にどうしてくれよう……

「……でも、わたしの言ったとおりだったでしょ?」
「……なにが?」
「あの天の御遣いよ。あれは孫呉百年の礎となるわ。絶対に捕り込みたいわね」
「捕りこむって……簡単に捕りこまれる感じではなかったぞ、あれは」

 確かに低姿勢の裏に隠された自信と、歳に似合わない深慮遠謀は感じられたが……

「策殿はそう言うが……儂にはいまいち信じられませなんだ。本当にそれだけの価値があの小僧にあると?」

 祭殿は、そういって頭を掻く。

「もっちろんよ……といっても、いつもの勘なんだけどね」
「策殿の勘は、すでに予言といっても良いぐらいじゃからな……信じはするが、正直儂はまだ納得は出来ん」
「祭殿の言われるとおりだ。しかも初対面で言ったそうだな、夫になれと」
「そうよ?」

 そうよ、って……
 この考えなしのでたらめ王は……

「普通の男が、じゃあ夫になります、と言うと思っているのか、雪蓮は」」
「えー? でもでも、わたしみたいな可愛い女の子に言われたら、普通はうんって頷かない?」
「ど・の・く・ち・が、そんな事を言うのですかな?」
「い、痛いっ! やめて! 耳はやめてっ!」

 訂正する。
 でたらめ、改め、バカだ。

「可愛い『女の子』……? 歳を考えられよ、策殿」
「祭に言われたくはないわよっ!」
「なんじゃとう!?」

 う……危ない。
 思わず頷きそうになってしまった。
 視線をそらすのと、感づいた祭殿がこちらを見るのが同時だった。

「なにかな、冥琳?」
「いえ、なんのことでしょうか?」
「ふんっ!」

 祭殿は絡み損ねたと、鼻を鳴らす。
 ふう……

「ともかく! 雪蓮の勘を疑うわけではないが、不確定要素が多すぎる。おまけに相手の了承も取れていない。そんな話を蓮華(れんふぁ)様や小蓮(しゃおれん)様にするわけにはまいりませんな」
「うー……でも、多分今を逃すと、二度と孫呉には来てくれなさそうなのよねぇ……」
「それも勘だと?」
「うーん……ちょっとわかんない、かな。孫呉には来てくれても、心から孫呉のためにってのはたぶんこれが最後、みたいな?」
「ふむ……」

 確かに天の御遣いの風評、それに多数の敵を損害なしで殲滅する智謀、その上武将ですらあるという。
 もし本当ならば、たとえ夫にしても引き入れたいと思うのは当然かもしれない。
 だが……

「彼は……すでに劉備を、主としているのだろう?」
「あ、それは違うみたいよ?」
「なに?」
「義勇軍をまとめているのが劉備らしいんだけど、その人の臣ってわけじゃないみたい。あくまで力を貸しているって感じ? まあ、劉備って娘には会えなかったんだけどね。あと、彼の元にはすでに三人の臣がいるそうよ」
「ほう。義勇軍なのにか」
「うん。えーと、はわわ軍師とあわわ軍師と髭おじさん、だっけな?」
「なんだそれは」

 それは……臣なの、か?

「兵の人から多少話を聞いた限りじゃ、それぐらいだったの。詳しくは調べてもらえる?」
「ふむ。よかろう。ただでさえ興味がある男だ。細作に詳しく調べさせよう」
「あら? 冥琳が男に興味を持つなんて……ひょっとして、惚れた?」
「ふん、ぬかせ。我ら孫呉の夫にしようとしていたお前がなにをいうか」

 私と雪蓮は、そう言って笑いあう。
 さて……確か、北郷盾二、といったな。
 あの男のこと……詳しく調べねばな。




  ―― 盾二 side ――




 ……疲れた。
 辺りは夕闇に包まれ、篝火が周囲を照らす頃。
 俺は天幕の中で、溜息をつきつつ椅子に座る。

 孫策さんの夫発言があってから、霞はにやにやしっぱなし。
 翠は情緒不安定で、怒ったり叫んでいたり……
 朱里や雛里は、どこから聞いたのか……朝には質問攻め、その後はなにやらこそこそと……そういや馬正はどうしたんだ?

 変わらないのは桃香たち三人ぐらい。
 でもそちらも……未だに割り当てられた天幕の中に籠もっている。
 出てくるのは、たまに食事を取りにくる愛紗ぐらい……あの鈴々ですら、食事が普通の人以下だ。

 はあ……どうしてこうなったんだ。
 俺は、俺の周囲の激動に流されるばかり……このままじゃ仕事すらまともに出来なくなりそうだ。

「どうにかしないとなあ……」

 呟きつつ、竹簡を取ろうとして……やめた。
 今日はもう……寝るか。

 そう思ったときだった。

「で、伝令! て、敵がっ!」

 その言葉に、跳ね起きる。

 どうやら……今日という日は、まだ終わっていなかったようだ。
 
 

 
後書き
今回の章では、ほかの妹が出せなくて、ちょっと残念無念だったりします。
まあ、その分は盾二くん苛めて晴らしましたので……

GM「大事なところだよー? 気付くかどうか判定ね」
翠「なあなあ、盾二ー」
盾二「気が散る! あー判定失敗!」
GM「あーあー。致命的だね」

こんな感じ?
いや、テーブルトーク好きなのでw

次回は、大事件? になる予定。
ちゃんと書ききれるかなぁ……

ps.タイトルの前に章を書いていましたが、読みにくいかもとの意見もあり、削除しました。 
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