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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第九十三話 もう大丈夫だ!

 闘悟はカイバを見下ろし大声を張り上げていた。
 無論そのせいで皆の視線を一気に自分へと引きつけてしまった。
 だがそんなことは全く気にしていられない。


「ど、どうしたことでしょうか? いきなりトーゴ選手が叫びましたが?」


 モアは首を傾げながら皆の代弁者(だいべんしゃ)となる。


「何かあったのでしょうかフレンシア様?」


 モアはフレンシアを見るが、そのフレンシアが凄く真剣な目つきで闘悟を見つめている。
 その闘悟の真剣な顔つきを見つめている。


「フ、フレンシア様?」
「モアさん、しばらく様子を見ましょう」
「……は、はい」


 闘悟はそんな二人のやり取りは気にせず、カイバに言葉を投げかける。


「どうしてほしい!」


 カイバは闘悟を見つめる。
 上半身を起こしている。
 気絶の振りをすっかり忘れている。
 その様子を見たグレイクは舌打ちをする。


「ト、トーゴ?」
「お前の言葉を聞きてぇ!」
「え?」
「お前はどうしてほしいんだぁっ!」


 カイバはそんな闘悟の言葉を聞いて口を歪める。
 闘悟は黙ってカイバを見つめる。


「妹を……」


 誰もがカイバに注目する。


「妹を……ヨッチを……」


 すがるように闘悟を見る。


「助けて……くれ……助けてやってくれよぉぉぉぉっ!!!」


 カイバの心からの叫びを聞いて闘悟は一言だけ言う。


「早く言えバカ!」


 そして、闘悟はその場にいるグレイクを指差す。


「おいてめえ! てめえらの思い通りになんか絶対させねえからな!」


 グレイクはポカンとした表情をしていたが、ハッとしてカイバを睨みつける。


「キ、キサマ! まさか話したのか!」


 カイバはビクッとなってグレイクを見たが、闘悟はそれを遮(さえぎ)るように言葉を放つ。


「安心しろカイバ! オレを信じろ!」


 カイバは闘悟に視線を戻す。
 すると闘悟は闘武場の一番高い場所まで一気に飛び上がる。
 皆はそれを目で追う。
 闘悟が何をするのか興味があるのだろう。
 闘悟は静かに目を閉じる。
 すると、魔力が闘悟を中心に広がっていく。


「こ、これは魔力!」


 モアは感じたまま声に出す。


「ええ、どうやら彼は魔力を広げているみたいですね」


 フレンシアが解説する。
 だが彼女は驚愕していた。
 彼女は魔力を視認できる能力を持っている。
 そのためにヤーヴァスの正体にも気づいた。
 もちろんそれは言葉を濁して正体はモアには教えなった。
 驚愕した理由は、闘悟の青い魔力がどこまでも広がっていくからである。
 それこそ止めどなく流れてくる魔力の膨大さに呆れさえ感じる。


「まだ広がっていく……? 一体どこまで……? 底は見えなかったけどここまで……?」
「フレンシア様?」


 魔力視認できないモアはフレンシアの呟きは理解できない。
 いや、視認できないのはこの場にいる者ほとんどだ。
 ただ闘悟が魔力を解放しているだけだと思っている。
 その膨大な魔力には愕然とするが、その広大さは気づいていない。
 だが、闘悟の魔力は軽く闘武場を一瞬で越え、グレイハーツを覆うまでもう後数秒だった。


 大丈夫だ……オレならできる。
 カイバの妹の魔力なら、昨日視てる。
 だから…………探せるっ!


 その場にいる者は、闘悟が何をしているのか意味が分からないだろう。
 闘悟はグレイハーツ全体を自身の魔力で細部まで覆う。
 それはあたかも海に王国ごと沈ませて、水を行き渡らせるかのようだ。
 魔力は闘悟の意志そのものであり、肉体そのものだ。
 魔力で触れたものは、闘悟にその存在を教えてくれる。
 初めて行う行為だったが、魔力は魔力で感知できる。
 ヨッチの魔力は以前感じているので、自分の魔力を広げて彼女の魔力を探そうと思ったのだ。
 だがこれは誰もができるわけではない。
 常人の魔力量ではグレイハーツどころか、闘武場を覆うのも不可能に近い。
 ヨッチがどこに囚(とら)われてるのか分からないこの状況では、最低でもグレイハーツを覆うくらいの魔力は必要になるだろう。
 闘悟なら、たとえグレイハーツの外にでも魔力を広げられる。
 だからこそ、これは闘悟にしかできない探索方法だった。
 時間も無い、この場に一番適した策だなのだ。


「……見つけた」


 すると、闘悟はその場から一瞬で姿を消す。
 誰も目で追えなかった。
 ヤーヴァスもその事態に愕然とした。


(私が見失った……っ!?)


 もちろんヤーヴァスだけでなく、その場にいる誰も、闘悟の姿を視認できた者はいない。





 その頃、闘悟は広がった魔力を戻し、ある場所まで来ていた。
 そこは廃屋(はいおく)だった。
 グレイハーツの片隅にある廃屋は、人気が無い場にひっそりと建っていた。
 闘悟は物陰からその廃屋を見つめる。
 その中には、囚われたヨッチと、それを監視している『黄金の鴉』の輩が大勢いた。


「ここか……」


 人数は把握している。
 あとは掃除するだけだと闘悟はその場を動いた。





「おい、今の魔力なんだ?」


 男の一人が先程感じた魔力に疑問を持つ。


「さあ? でも一瞬で消えたから別に気にする必要なんてないだろ?」
「まさか闘武場で闘っている奴の魔力だったりしてな!」


 笑いながら冗談交じりに言う。


「そりゃねえだろ? ここまでどれくらいあると思ってんだよ?」
「そりゃそうだ! そんなことできる奴は化け物だよな! ははは!」


 そんな化け物が近くにいることに誰一人として気づいていない。


「な、なあ? それよりさ、この獣人可愛いよなぁ」


 男は部屋の隅で震えているヨッチを怪しそうに見つめる。


「い、いや……」


 ヨッチは体を両腕で抱えて小さくなる。


「こんな仕草もそそらね?」
「おい、お前ってロリだっけ?」


 男の一人は呆れながら肩を落とす。


「ちょっとくらいなら、いいよな?」
「……勝手にしな」


 呆れ交じりにそう言うと、他の男達と一緒に部屋から出て行く。
 男の行為を眺めていたくは無いのだろう。


「へへ、そ、それじゃ」
「ち、近づかないで!」
「あ、安心しろって! 大丈夫だからよ!」


 息を乱しながらヨッチに近づく。
 目がギラギラとしてて気持ちが悪いとヨッチは感じる。


「こ、来ないで! お兄ちゃんっ! 助けてぇっ!!!」
「声をいくら出そうが……いいや、いっそのことその方が燃える……」


 その時、ドガッっという音が背後でする。
 何だと思い見てみると、ドアを壊しながら、先程出て行った男の一人が壁にめり込んでいる。


「な、何だ一体?」


 男はめり込んでいる男を見つめていると、ギシギシと音を立てながら黒髪の少年が現れた。


「けほけほ! こんな空気の悪いとこに女の子を監禁すんなよな」


 それは間違いなく闘悟その人だった。





「何だてめえは! どうやってここに!」
「あ~鬱陶(うっとう)しいから返答は無しな」


 すると男は青筋を立てて怒鳴る。


「このガキが! だがここまで来たところで無駄だ! ここには十人以上の……あれ? ていうかお前は……っ!?」


 男は何かに気づいたようにポカンとする。
 それはヨッチも同じだった。
 この人は昨日自分の兄と一緒にいた人だ。


(確かトーゴって人だ……何か凄く有名だった気がする)


 学園から帰ると、いつもこの人の話を楽しそうにカイバは話す。
 そのことを覚えていたヨッチは、もしかして自分を助けに来てくれたのではないかと少し期待感が膨らむ。


「トーゴ……アカジ……」
「ん? ああ、オレのこと知ってんのか? でもま、時間無えから!」


 そう言うと、闘悟は彼の顔を殴り吹き飛ばす。
 実は彼は昨日闘悟の対戦相手だったのだ。
 闘悟の『魔震脚(ましんきゃく)』で一蹴(いっしゅう)された者の一人だった。
 だが闘悟はもちろん知らない。
 闘悟にとっては、何でも無いその他大勢でしかないのだ。


「さて、えっとヨッチちゃんだっけ?」
「は、はい……」


 どうやら、いきなり現れた少年が、男達をあっさりと吹き飛ばしたことに恐怖を覚えている。
 未だ怖がっている彼女を見て、闘悟は安心させるように頭を優しく撫でる。
 ビクッとなってヨッチは目を閉じる。


「もう大丈夫だ。カイバの所に帰るぞ」
「え?」


 兄の名前を聞き、目を開ける。
 するとそこには優しく微笑んでいる闘悟が目に入った。


「怖かったな?」


 頭を撫でられながら、安心感が広がっていくのを感じる。
 まるで氷が、温かな光で徐々に溶けていくかのような感覚で、ヨッチの警戒心が解けていった。


(この人の撫で方……気持ち良い……お兄ちゃんと似てる……)


 目を細めながら気持ち良さそうにしていた。


「ちょっとごめんな」
「え? きゃ!」


 いきなり闘悟に抱えられたので声を上げて驚いた。
 いわゆるお姫様抱っこなので、物凄く恥ずかしい。


「あ、でも他の人がすぐにやって来るかもしれないです!」


 ここには十人以上の監視者がいるのだ。
 この騒ぎに気づき一気に来られれば、幾(いく)らなんでも逃げ切れないと思った。


「他? ああ、ここにいる奴らなら全員倒してやったよ。半日は目が覚めねえって」
「う、嘘……」


 窓から見える景色に唖然とした。
 そこには大(だい)の大人が何人も倒れていたからだ。


「そんじゃ行くぞ!」
「きゃ!」


 闘悟に抱えられ、窓から飛び降りる。
 そのままの格好で、急いで闘武場へと戻る。

 
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