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鋼殻のレギオス 勝手に24巻 +α

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四話

『邪魔するな、だと。何処の奴らだ』
『この時に立ち上がった我らを侮辱する気か』
 リンテンスの一言に念威内で怒りの声が噴出していた。
 先の声が表すように『邪魔だから手出しするな』と取れる内容に武芸者としてのプライドを傷つけられた者が続出したのだ。
『失礼します。私はエルスマウ・キュアンティス・フォーア、グレンダンで念威繰者を務めています』
 エルスマウがグレンダンと名乗った途端、新たなざわめきが走る。
 槍殻都市グレンダン。年中汚染獣と戦い続ける『狂った都市』、それに伴い『武芸の本場』と呼ばれ、サリンバン教導傭兵団という傭兵集団が活動していたことも含め放浪バスの拠点『交通都市ヨルテム』、電子精霊の生まれ故郷『仙鴬都市シュナイバル』と共に多くの都市で名前が知られている数少ない都市の一つである。
『どういうつもりだ、そのグレンダンの者が』
『私達グレンダンの剣があれと戦う際に巻き込まれてしまいます。出来るだけ近づかない様お願いします』
『グレンダンがどれほどのものか、我等の意志を止める事は出来ん』
『サリンバン教導傭兵団、確かに強くはあったがそこまでの者達ではなかった』
 グレンダンの近くに他の都市は無いため戦争による実力の伝播は殆ど無いといっていい。
 サリンバン教導傭兵団に所属していたエルスマウは傭兵団を低く見られることに不満を覚えるが、それは抑えざるを得ない。サリンバン教導傭兵団も強力な猛者の集まりとして名を馳せており、ほぼ全ての都市で教導できる実力を備えているが決して他の武芸者が並べない、と言う程ではない。
 そもそも傭兵団はある程度能力の低い武芸者でも汚染獣との戦いに生き残れるように指導するものだ。グレンダンと他の都市、その両方を知るエルスマウはその事を良く知っていた。
 だがこれから戦いに出る天剣授受者は違う。あらゆる武芸者の常識を超絶する規格外であり、天剣授受者と比べられるのは同じ天剣授受者だけなのだ。
 そして言葉で説明しても理解も納得もしてもらえない、見て感じてもらうしかない、とエルスマウが折れる。ほぼ全ての都市対エルスマウという構図なのだから仕方が無いともいえる。
『わかりました、ですが最初は見ているだけに留めていて欲しいのです。その上で加わると言うのなら止めはしませんが』
 落とし所して行った提案は何とか受け入れられるものだったようで直ぐに飛び出そうという所は無くなったようだ。



 走るニーナとクララ、その先にいるのは獣。
 都市を上回る巨体と全てを焼き尽くさんとする炎を纏い、純粋な怒りに染まった瞳を持つ四足の獣・嘗ての廃貴族ヴェルゼンハイムである。
 迫ろうとするニーナたちを威嚇しようとしてか天に向かって咆え猛る。
 ただの声だがその大きさは並ではなくそれだけで振動となって伝わる。剄技「戦声」に相当するものとして辺りに伝わる。
 だがそんなものは副次的な効果でしかなかった。
 獣の頭上の空に大きな穴が開く。夜ではない黒が、そこにある。
 奥行きのない、平坦な、絵の具で画用紙を塗りつぶしたような黒がそこに広がっていた。その黒を縁取るように七色の光が垂れ下がっている。
 獣を包む炎がますます高く燃え盛り、その量と勢いを増していく。
 それだけではなく大地にも新たな影が出現していた。
 手には思い思いの形をしたノコギリ状の刃の錬金鋼を持ち身に纏うのは黒を基色に白いラインが入ったローブ、そして顔には嘗ていたとされる獣、狼を模った仮面をつけている。
『狼面衆』と呼ばれ都市の裏側、そして世界の裏側で暗躍する者達。イグナシスの下この世界を破壊しようと企む者達だった。
 既にイグナシスは存在しないがもはや普通の存在に戻れる訳も無く、オーロラフィールドに漂う魂の欠片と成り果てようとしていたところにヴェルゼンハイムの意志に引き摺られて再びこの世界で実体化したのである。また、若干ながらもこの世界で活動していたものも集まってきている。
 この世界の破壊を望むという点では一致しているものの狼面衆もヴェルゼンハイムにとっては敵である。
 この世界以前からあるフェイスマンシステムを下地にしているとはいえ狼面衆もこの世界によって生まれたものであり、結局のところ破壊対象であることを理解してはいるがこの世界を終わらせる事は狼面衆単独の力ではもはや不可能であり危険だとわかっていても引き返すことができない状況にあった。
「こんな時にまで出てくるなんて暇な方達ですね。あ、でも今回は表に出てきてる訳ですからいつもとは少し違いますね」
「だがこれほどの数を出してくるのは見たことが無いぞ。それに倒しきることは出来るのか」
「そうなんですよね、倒したっていう手応えが無いですし幾らでも沸いて来ますからね」
 それを見ても緊張感の無い声を出すクララ。武芸者としては平均的な力量しか持たない狼面衆は個々であれば普通の武芸者にも倒せるレベルであり、集団であってもクララは脅威を覚えない。
 所詮狼面衆程度の力ではどれほど集まろうともクララの敵ではないからだ。ただ数がいると多少面倒だと思う程度のことである。
「一気に蹴散らして行くしかあるまい」
「ま、そういうことになりますよね。それじゃ、行きますか」
 二人とも剄を練る。突っ込むとは言ってもクララの剄技は中距離戦向けが多いのだが。
 ニーナが放とうとしている剄技は決まっている。
 ディックから教わりその後数多の場面で使用してきた技。
(まさか先輩に対してまた使う羽目になるとはな)
 グレンダンでもぶつかり合いを経験した、それぞれの意志を通すため退けない戦いだった。
 だが今回はそれ以上、ただ勝って己の意志を通すのではなく倒すために放つ。
 揺れそうになるニーナの脳裏に同時に教えてくれた言葉が過ぎる。
『己を信じるならば、迷いなくただ一歩を踏み、ただ一撃を加えるべし』
 その言葉を胸に刻み、足を踏み出し、技を解き放つ。
 活剄衝剄混合変化、雷迅。
 一陣の風となり、刹那の光となり、轟きを従えた雷光となって駆け抜ける。
 進行上にいる狼面衆はニーナに触れる前に消滅していく。直接触れないものもニーナが纏った雷、そしてその速度が生み出す衝撃に打ち倒され消えていく。
 ヴェルゼンハイムとの間を一瞬で踏破し鉄鞭を叩き込む。
 炎を撒き散らしその身に届くと衝撃にその巨体が揺れる。収束点を中心として大きくその身が抉れヴェルゼンハイムの体が大きく飛び散る。
 対してクララは狼面衆を無視して直接ヴェルゼンハイムを狙う。
 師であるトロイアットはその場の気分で技名を変えるがクララにそういった趣味は無い。
 レイフォンとの戦いでも使用した己の剄を光と熱に変える剄技。
 外力系衝剄の化錬変化、昇曜光輝。
 高圧縮された剄から放たれる特殊な波長の可視光線を、大気の密度を変えて作ったレンズで凝縮光とする技だ。
 近くに寄ってくる狼面衆は燃やすまでも無く胡蝶炎翅剣で斬り裂く。
「うーん、思ったより効きが悪いみたいですね。……あら」
 クララが造った陽球の隣に一回り巨大な陽球が並ぶ。
「先生、遅いご出勤ですね」
「そう言うな。お前が勝手に飛び出して行ったんだろう、元弟子。ま、確かにいまいちみたいだな」
 師と話していると緊張感が無くなると思うクララ。トロイアットは寄ってくる狼面衆にもレンズを向け燃やしているが、出力としては倍以上になったにも関わらず、与える影響はそれほど増えた様には見えない。
「ウザ、ウザ死ね」
 後方から幾筋も太い光条が伸びヴェルゼンハイムに突き刺さる。バーメリンの天剣『スワッティス』が剄弾射撃の最大出力で撃たれているのだ
「バンッ、バンッ、バンッ。ってとこかしらね」
 アルシェイラも右手を銃の形に作り指先から膨大な剄を発射する。錬金鋼を使用していないがバーメリンと同等以上の威力を叩き出す。
 貫通するまではいかないが穿った部分は肉を抉り内面を露にする。
「恒河沙に散り裂けろ」
 万にも億にも届くとされる無数の鋼糸、その全てに十分な量の剄が乗りリンテンスの周囲で動く時を待っている。
 通常鋼糸は一本一本では見ることも難しいがこれほどに集まると幾らかは見えるようになる。
 剄を見た場合もっと苛烈で剄の煌きで中心に立っているリンテンスの姿が見えなくなるほどだ。
 リンテンスの指と共に鋼糸が動きを見せる。リンテンスの周囲で幾つも円錐を作り上げ、指を僅かに動かすだけでヴェルゼンハイムに向けて殺到させる。
 外力系衝剄の変化、繰弦曲・跳ね虫。
 投げ放たれた巨大な円錐はヴェルゼンハイム、それも先に攻撃したものが付けた傷に突き刺さり、爆発を連鎖させながら巨体の中に潜り込んでいく。
 変化はさらに続く。体内へと潜り込んだ鋼糸はすさまじい速度で円錐の形を解きほぐし、その過程で暴れまわるこうしが体内から切り裂いていく。絡まった糸が反動を持って解れていくかのように、その斬線は無秩序で容赦がない。
 もとからあった傷をより深く、激しく抉り出しあたりに飛び散らせる。
 受けた衝撃にヴェルゼンハイムの炎が勢いを増しそれぞれを狙って伸びる。
「おいおい、随分と見境なしだな。クララ、少し引くぞ」
 途中で狼面衆を巻き込むものもあるがヴェルゼンハイムが気にすることは無い。流石に近づく事ができず皆一様に距離を取る。
 一時的に伸びた炎が収まった時、現れた姿に息を呑む。あれ程に与えたはずの傷が殆ど無くなっていたからだ。
 そして異変は続く。飛び散ったヴェルゼンハイムの欠片、それらが地面に落ちると全員が見慣れた姿へと形を変える。
 汚染獣、雄性体の一期か二期、それに相当する姿やツェルニに振って来た巨人の姿となる。
 更に、落ちた先に狼面衆がいた場合、狼面衆を取り込み更に奇怪な姿へと変化していく。
「あー、あそこまでいくともう老性体って呼んでもいいんじゃないんですか。あっちも何でもありって感じですけど、どうやってるんでしょうね」
「それもだがあの回復力、あれだけの傷を一気に回復されるとかなり大変だぞ」
 呆れたようなクララにニーナが同意する。
「ふん」
 そんな少女達を横目にリンテンスが再びヴェルゼンハイムに向かう。
「リンテンス様、ちょっと待ってください。あれを殴った端から汚染獣が生まれてきたんじゃ大変すぎますよ」
「再生するというのならそれ以上をもって叩くしかないだろう。相手がどんなものであろうと同じことだ」
 止めようとするが一顧だにされない。
「まあ待て、あの穴を塞がない限り奴を倒すのは難しいぞ」
 横から新たな声が届く。その先にはアイレインがいる。
「あの穴から入ってくるオーロラ粒子を利用して再生や分体を作っている。今潰す準備をしているから少し待て」
 そう言われ頭上を見上げると影が一つ、ハルペーだ。
 バーメリンは露骨に疑わしそうに見ているが、アルシェイラやトロイアットはどうするのか興味深げに見つめている。
 機械であり兵器であるクラウドセルの全身が発光している。
 ハルペーの主要部分を除く全てのナノマシンをエネルギーの発生機関とし、そして凝縮しようとしている。解き放たれたエネルギーは界面の揺らぎを呼び起こし穴を埋めるだろう。
 目標は設定するまでも無く巨大で、あとは十分に溜まったところで射出するだけだ。
 撃鉄が落ち、ハルペーは自らの身を構成するクラウドセルをも焼き焦がしながら膨大なエネルギーの塊を眼前の穴に向けて吐き出した。
 目も開けられない程の眩い光とそれに伴う轟音が世界を支配する。
 収まった時、空に開いた穴が消えているのと引き換えにハルペーは自らを構成するクラウドセルの約八割を失い風に吹かれるぼろきれの様になっていた。
「これでさっきほどの再生能力は維持できん。後は周りも含めて潰すだけだ」
 そう言い放つと眼帯をはずし、その奥にある茨輪の十字を刻んだ右目を露わにする。
 歩き出し狼面衆が襲い来るがアイレインに到達する前に消え失せる。両手に銃を保持しているが一発も撃つことなく視線を遣るだけだ。
 だがそれだけで狼面衆の姿が消える。良く見るとその場所に茨輪の十字を刻んだ眼球があることに気付く事が出来るだろう。
「ほらあんた達、ボケッとしてるんじゃないわよ。穴も無くなったんだしいくわよ」
 アルシェイラの号令と共に第二幕の幕が上がった。








・二連雷迅は使いません。理由としてニーナの雷迅は両手の同時攻撃である。なのでもう片手で追撃、ということはありえない筈だから。
・何で狼面衆を取り込んだ方は老性体クラスか。狼面衆がオーロラ粒子の塊のような描写があったから(ドゥリンダナ戦の前)、栄養が多ければ成長もいいって事で。

 
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