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リリカルなのは 3人の想い

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4話 一条 京介side

「ああくそが! 時よ、足を休め、選ばれし者にのみ恩恵を与えよ! スロウ!」

 悪態と共に魔法をもう何人目かわからない転生者にかける。
 すると、たった今こちらに飛びつこうとしていた転生者の動きが急に遅くなる。
 その転生者にスロウがかかったことを確認してからたこ殴りにし、その場から逃げ出す。
 もうずっとこの調子で他の転生者に襲われ続けている。
 なんか出会う度に「俺の嫁!」だとか「今助ければフラグが!」とか言って走り寄ってくる度に正体不明の悪寒を感じ撃退している。
 だが正直そろそろ限界だった、体が子供になっているからか体力が以上に落ち、心臓が破裂しそうなほど脈打ち、いくら酸素を吸おうとしても浅い呼吸を繰り返すばかりで肺が痛い。
 どこかで休息をとろうにも、土地勘がない場所で下手に行き止まりに行ってしまえばどうなるかわかったものではない。
 更に変態に掘られそうになり、撃退のために魔法を連続使用。精神力がガンガン削られていくのを感じていた。

「ひるがえりて来たれ、幾重にもその身を刻め……ヘイスト!」

 気力を振り絞り速度を上げるためヘイストをかけ走り出す。
 自分が早くなったという周りが遅くなったような感覚の中、兎に角身を隠せる場所を探してかけずり回る。
 街の異変に気づいてはいるのだろうか、どの家も固く戸を閉ざし、窓はカーテンが引かれている。
 途中黒髪の男に銀髪の少年と黒髪の少年がゴミクズのように吹き飛ばされるのを見たが、かまっている暇はなかった。

「見つけた!」

 ちっ! またかよ!
 声のした方を向くと銀髪オッドアイがこっちに走ってくるとこだった。

「大地の怒りがこの腕を伝う! 防御あたわず! 疾風、地裂斬!」

 同時に拳を地面に打ち付ける、その瞬間、転生者の足下から一部の地面ごと吹き上がった衝撃波が転生者を弾き飛ばす。
 この調子で色々な技や魔法を使ってるうちに、俺が今使える術技を確認することができた。
 まず攻撃魔法、これは基礎系しか使うことができなかった、つまりはラ系を含む上位系は使えなかった。
 次に特技系、これは武器がないと使えないのが多く、今はとりあえず素手で出せるものしか使えない。
 最後に補助・回復系、これは回復は攻撃魔法と同じく基礎しか使えなかったが、驚くことに補助系はほぼ使えた。
 これはありがたいことだった、特に現在生き残れているのはこれのおかげと言ってもいいだろう。
 単発しか打てない上、下手をしたら何回も使わなくてはいけない可能性がある以上、一度かければしばらく効果が続くのは実に使い勝手がいい。
 とは言えこちらの所謂魔力が切れそうなのは変わりない、残念なことにアスピルは攻撃魔法系にでも分類されるのか使うことができなかった。

 ドドドドドド………

 そんな事を考えているとどこからともなく、地響きが響いてきた。

「邪魔すんな!」

「うるせえ消えろ!」

「俺のハーレムの邪魔なんだよ! 死ね!」

「結婚しよう! 俺はロリでもペドでもいけるぞぉおおお!」

「うぉおおお! 俺は幼女が大・好・き・だぁああああ!!」

 変態だ! 変態が砂塵を巻き上げて走ってきた! 無限わきかこんちくしょお!!
 恐ろしいまでの悪寒に襲われ、すくみそうになる足を無理矢理動かし建物の陰に隠れる。
 もちろんこの程度で逃げ切れたとは思っていない。
 違う意味での恐怖を押さえつけ精神を集中させる、そして移動系魔法のテレポを発動させ、一番近くの建物の中へと移動する。

 トンッ

 軽い音を立てて足の裏が床につく。
 あ、やべ今思ったけど俺土足じゃん、靴脱がなきゃな……。
 屈んで靴を脱ごうとするが、グラリと視界が揺れる。
 気づけば視界が横倒しになっていた。
 体に感じるひんやりとした冷たさで、床に倒れたのがわかった。
 立ち上がろうとするが心とは裏腹に体は気怠く、動こうとしない。
 疲れ切った体はそのまま心地よいまどろみへと落ちていった。

▼▼

「ん……くぅ……」

 ……ん…………眠いな……。
 一体どれぐらい時間がたっただろう、一瞬意識が覚醒するが再びゆっくりと浅いまどろみの中へと沈んで行こうとする。
 何とかそれを阻止し意識をつなぎ止め、まだ半分眠ったままの頭で現状を確認する。
うっすらと開いた瞳に映るのは、薄暗い月明かりに照らされた部屋だった。
 ベッドやクローゼットがあるとこからするに寝室なのだろう。
 だとすると今すぐにでもこの場を離れるべきかもしれない、いつこの部屋の主が帰ってくるかわからない以上、とどまり続けるのは得策とは言い難いだろう。
 腕で体を支え起きあがろうとする、だが体を起こしきった辺りでバランスを崩し、今度はさっきまでとは逆に仰向けに鈍い音を立てて体が倒れてしまった。
 その際に体から毛布が滑り落ちる。
 ……………毛布?
 そんなものかけたっけかなあ? たぐり寄せて顔を埋めてみる。
 うん、このもふもふ感、間違いなく毛布だ、こうしてると幸せな気分になって何もかもどうでもよくなって眠くなるなあ。
 どこかで扉が開く音とかもどうでもよくなるなぁ……。

「あっ、目え覚めたんやね」

 声が聞こえるがやはり体がだるく、頭を軽く縦に動かすにとどまった。
 と言うかこの人は誰だろう?

「随分長いこと寝とったけど大丈夫なん?」

 今度は首を横に振る。

「どないしたんや? どこか悪いん?」

「……眠……ぃ」

 そう答えて毛布に顔を埋める。
 だというのに毛布はこの腕をすり抜け消え去ってしまった。

「ほらいつまでも寝とらんと、体も汚れとるんやしお風呂わかしといたから入ってきいや」

「うい………」

 ノロノロと体を体を起こし、今度こそ立ち上がる。
 一歩二歩と足を前へ動かす、だがまたすぐに足から力が抜けた。

「ちょっ! 危な!」

 前のめりに倒れたはずが何故か頭が心地よい柔らかさに包まれた。
 なんだろこれ、低反発枕とも違う柔らかさ、温かい包み込まれるような心地よさ、なんだか今まで嗅いだことのない甘い香り。
 何か落ち着くな。

「まったく甘えたさんやな」

 次の瞬間頭を”触られた”感触に思わず肩がびくりと動き、とっさに後ろに跳びすさった。
 だが重心が後ろに傾き、そのまま支えきれず今度は体が後ろ向きに倒れる。
 ゴトンという鈍い音と衝撃が後頭部に走る、背があまり高くなかったおかげか気を失うようなことはなかった。

「う、ううう~~~…………」

 流石にこの年代にもなって泣くなどという真似はしなかったが、あまりの痛みに後頭部を押さえながら謎のうめき声と共に地面をのたうち回ることになった。
 あ、やべ軽く涙目になってきた、体が小さくなったから涙腺緩くなってんのかなあ。

「だ、大丈夫なん!?」

 もう少し無理っぽいです。
 痛みが少しずつ引き、意識もはっきりとしてきた。
 そしてようやくまともに声の主を見る、月光に照らされて煌めく茶髪のショートカット、今にも零れ落ちるのではないかと思える程大きなどこまでも澄み切った青い無垢な瞳、きめ細やかな肌は化粧っけこそないものの健康的な色をしている、まごう事なき美少女だった。
 だが恐らく人が最初に抱く印象はそこではないだろう、彼女は足が不自由なのか車椅子に乗っているのだった、恐らく大半の人間は最も目立つそこに目がいくのだろう。
 まあとりあえず、

「あんた誰?」

「いや、それは私の台詞やで」

 む、それはそうだな確かに人に名前を聞くときは自分から名乗るべきか、いいだろう! 全力で名乗ってやる!!

「なんだかんだと聞かれたら答えてあげるが世の情け。世界の破壊を防ぐため、世界の平和を守るため、愛と真実の悪を貫くラブリーチャーミーな敵役。ムサシ! コジロウ! 銀河をかけるロケット団の2人には、ホワイトホール! 白い明日が待ってるぜ! にゃ~んてな!」

「ポ〇モン!? しかも懐かし!!」

 1人3役は疲れるぜ。

「そして俺は一条 京介だ」

「脈絡なさすぎひん!?」

「まあ、気にしないで名前教えてくんない?」

「何なんやこのマイペースさは!」

「それが俺クオリティ」

林道や黒木によくお前が居ると話がガンガンそれていくとか言われるけど、気にしない気にしない。
 むしろガンガンいこうぜ!

「よし! 今から要望に応えてガンガン話を逸らしていくぜい!」

「やめんかい!!」

「おふあ!!」

 少女の全力全開のつっこみがわき腹に突き刺さり、思わず口から奇声をあげて膝を突いてしまう。

「いい右持ってんじゃねえか………」

「えええ!? 私そんな強くやっとらんよ!?」

「あ、それ俺が単にわき腹弱いだけだから」

「そして一瞬で復活やと!?」

 どうにもわき腹だけは無理なんだよな。

「まあ、とりあえず名前教えてくれない?」

「もうええわ……」

「ありがとうございましたー」

「漫才もしとらへんわ」

 何故か疲れ切った様子の車椅子少女はため息をついた。

「私の名前は八神 はやてや、んで結局何で家の中で倒れとったんや?」

 おおう、そういやそうだった、人の家で倒れてるとか明らかに不審者じゃん。
 さてなんて言えばいいかな。

「因みになに考えとるん?」

「どー答えたら警察に突き出されずにすむかなあと………あ」

「本当のこと話そか」

 そう言う少女は逆らえる雰囲気ではなかった。

「アイサー、変態達に襲われて逃げ込んだ先が偶然にもここだっただけであります」

「変態さんてそんなんそうそうおるわけ」

 そう言いつつ少女は窓に近づきカーテンを軽く開けた。
 街をゴキブリの如くうじゃうじゃと埋め尽くす銀髪オッドアイ、それらは何かを探すかのようにあちこちの家をのぞき回ったり、時にはお互い漫画で見たことのあるような能力を使って潰し合い、美少女の姿を見るなり我先にと群がっていく。

シャッ!←(全力でカーテンを閉める音)

ガタガタブルブル←(体中から冷や汗が吹き出し、悪寒に体が震えている)

 ………え? 何あの数? まだあんなにいたわけ?

「………おったな」

「お願いしますかくまって下さい八神様!!」

 冷や汗を流しながら呟く八神に恥も外聞も全力でかなぐり捨てすがりつく。
 プライド? なにそれ? 食えんの?

「いやまあ、私も流石にあんなかに放り出したりせんて」

 女神だ女神がいる。

「ありがとうごさいます! 八神様!」

「様はいらんて、あと敬語もな」

「うい」

 朗らかに笑う八神の顔にドクリと心臓が不規則に跳ねたせいで、短くしか答えることしかできなかった。
 今のは一体なんだろうか? はっ! まさか恋!?
 いや幼女相手とか無いわ、………ないだろ? 無いと言ってくれよ俺!!
 きっとあれだ無垢な表情に俺の汚れきった魂が消し飛びそうになっただけさ! ………それはそれで悲しい気がするな。


「まあ、とりあえずさっきも言うたけどお風呂わかしたし入ってきいや」

 そう言えば俺ってば濡れ透けの泥だらけのままだったじゃん、流石に乾いてはいるけどやっぱ泥は落ちてないな。

「何から何まで本当にありがたい」

「気にせんでええよ、私もお客さんが来てくれたみたいで楽しいしな、ほな行こか」

 優しさが身にしみるねえ。
 そんなわけで、八神の車椅子を押して家の中を移動する。
 なんつーか静かすぎるな、こりゃ八神意外にはこの家にいないっぽいな。
 共働きで家にいないのかはたまた……、他人の事情に踏み込んでもしょうがないな、家庭の事情なんて他人が解決できるわけないんだし。
 ………恩人に対してこの対応が心苦しくないと言えば嘘になるが、下手に傷口を抉ったりするよりはましだろうと、半ば言い訳するように胸中で呟いた。

「ここやよ」

 とそんな事を考えているといつの間にやら目的地についたのだろう、八神の声に反応して足を止める。

「服は私の貸したるから、安心して入ってきいや」

「うい、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 八神から私服を手渡され脱衣所へと入っていく。
 というか幼女に私服を手渡される中身高校生な俺、やばい変態しゅ―――えふんえふんもとい犯罪臭がする。
 ま、まあ小学生ぐらいなら男女の仕切というか溝も浅いし、服の貸し借りぐらい普通なのかなあ。
小学生低学年って髪型と着てる服で外見的性別が決まるしな!
などと言い訳を並べていると、手に持っていた衣類からぱさりと音を立てて何かが落ちた。
 何が落ちたんだろ? とりあえず手に持っていた衣類を手近な場所においてから特に確認せず拾い上げる。
 なんだろうね、この丸まった布は? 試しに両端を摘んで広げてみる。
 それは逆三角形をした薄い布で、全体的に淡い桃色をしており、一部にリボンがついているのを除けば装飾は少ない、だが決して地味というわけではなくむしろそれが可愛らしさを出しているといえるだろう。
 そうそれは女性ものの下着、平たく言えばパンツ、変態さん達には所謂パンティーと呼ばれるものだった。

「アウトーーーー!!」

 所謂パンティーと呼ばれるものだった、じゃねえよ! 何冷静に解説しちゃってんの!?

「ど、どないしたんや!? 変態さんでもでたんか!?」

 声に驚いたのか扉の向こうから八神の焦ったような声が聞こえる。
 さて、ここで一度現在の俺の状況を振り返ってみよう、場所は人様の家の脱衣所、そこで恩人の下着を両手で広げている俺。
 通報されても文句を言えない情景がそこにあった。

「大丈夫なん!? 家の中に変態さんがわいとったんか!?」

 虫じゃないんだから。

「大丈夫! 大丈夫だから!!」

 そう言いつつ素早く移動しドアノブを押さえる、ここがドア付きでよかった。
なかったら俺の人生は終わっていたかもしれない。

「本当なん?」

 俺の剣幕におされたのか八神の声はおとなしめになった。

「大丈夫ほんと大丈夫、インディアン嘘吐かない」

「いつインディアンになったんや……」

「違うよ彼らとは魂で繋がり合った仲さ」

「……まあ、そんだけふざけれるんなら平気やな、でも何かあったら大声出すんやで、ええな?」

「うい」

 なんとかはぐらかすことには成功したか、とりあえずパン――もとい下着を手放す、風呂に入って何もかも忘れよう。


 ──────入浴中─────
 男が風呂入るとこなんか描写したって仕方ないよね。

 とは言え所詮は男の風呂、さほど時間もかからずあがる。
 八神の下着? ナニソレシラナイヨ。
 バスタオルで頭をゴシゴシ拭いて脱衣所の中を歩き回る、その時ふと目の端に鏡がうつった。
 そういや俺の見た目ってどうなってんだろ? 少なくとも子供になってるのは間違いないんだけど。
 俺の子供時代かぁ、写真嫌いだから撮ってないし覚えてないんだよね。
まあ、インドア派だったから色白だったのは覚えてるんだけど、それ以上はどうにも思い出せないな。
 そんな風に過去を懐かしみながら鏡の前に立つ。
 肩口で切りそろえられた茶色のショートカット、肌は白磁の様にシミ一つ無くきめ細やかだ、瞳は澄んだ翡翠色の軽い猫目、全体的に可愛らしさと穏やかさを感じさせる美少女がそこにいた。

「ノォオオオ!!」

 思わず両手両膝を地面に付き、絶望に暮れた。
 実を言うと俺は前世でも少し、ほんの少~~~し中性的な奴だった。
 影でリアル男の娘とか言われてた気がしないでもないが、断じて認めない!!
 そんな訳で俺は転生で見た目が変わってるのではないかと、結構期待していた。
 だというのに何故この方向性に変わったんだ!! 違うだろ! 俺はもっと男らしくなって欲しかったんだよ!! ほらFFのクラウドとかスコールとかさ!! これじゃどう見ても八神の色ちがい状態じゃんか!!

「京介ちゃん大丈夫か!?」

 すると声が聞こえたのか今度こそ八神がドアを勢いよく開けて入ってきた、その姿は頭にボウルをかぶり、麺棒とまな板を装備して完全な臨戦態勢だった。
 ていうか今ちゃんって言われた!?

「どうしたんや!? 凄い声が聞こえたん…や……けど……」

 八神の声が段々と小さくなって消え入っていく。

「~~~~~~!?」

 そして最後にはよくわからない声を上げ、車椅子で出せる限りの最高速度を出して走り………でいいのかな? とりあえず去っていった。
 しばらくしてようやく精神ダメージから立ち直った俺は立ち上がる事ができた。
 しかし、八神は何であんな叫びを上げていったんだろうか? 
軽く首を傾げてから、崩れ落ちる原因となった鏡を睨みつける。
 …………あ、俺今全裸じゃん。
 別に露出癖や全裸癖があるわけではないので、いそいそと服を着てから気まずいが八神の後を追う。
 明かりのついている方へと進んでいくと、やがて最初に居た寝室らしき場所についた。
 恐る恐る部屋の中を覗いてみると、

「えええええ!? 嘘やろどうなっとるんや!? でも確かに―――」

 そこまで言って顔を真っ赤にして、頬を押さえ顔をブンブンと音がするほどに強く振った、以下エンドレス。
 こうやって見てるのも面白いけどそう言うわけにもいかないので、意を決して中に入る。

「あ………」

「うい………ただいま」

「あ、その……お帰り……」

「「……………」」

 ほうら気まずい。
 仕方ない俺から俺から話しかける。

「あの……服悪いけど借りてる」

 風呂から上がってどこを探しても元々着ていた服が見あたらなかったのだ、恐らく俺が風呂に入ってる間に八神が持って行ってしまったのだろう、と言うわけで今の俺は八神の服に身を包んでいる。

「え、ええよ、元々私が言い出したことなんやし……」

「ん……ありがとう……」

「気にせんでいいよ」

「「……………」」

 会話が続かないだと………。

「えっと、男の娘やったんやね」

「待ってくれ明らかに字がおかしい」

 この年代でそれを知っているのか!?

「ああ、すまんなあ、つい」

「つまり本音だと!?」

 クソォ! やはり前世の戒めからは逃れられないのか!
 思わず再び両手両膝を地に着いてしまう。

「ちょっ! 大丈夫なん!?」

「あまりのショックに立ち上がれそうにない………」

「そんなショックなん? 可愛いんに」

 ザシュウ!! 会心の一撃!! キョウスケは力尽きた。
 体からすべての力が抜け前のめりに倒れる、無邪気って………怖いね。

「えええ!? 私なんか悪い事言ってもうたん!?」

 八神が近づいて聞いてくるが、現在の俺はHPが0の状態、棺桶に入れられて搬送される立場だ、よって返事などできるはずもない。

「返事がないただのしかばねのようだ」

「思いっきり返事しとるやんけ!」

 その言葉と共に八神から足刀によるツッコミが飛んできた。
 やっぱりツッコミは関西弁が一番いい。

「全く痛いなあ、愛がないぞ愛が」

「愛は愛でも愛の鞭や、……ふぁ」

 何それ怖い。
 そして、最後のはあくびだったらしく八神は目の辺りをゴシゴシと擦った。
もう時間もだいぶ遅いからだろう子供には辛いのだろう。

「くぁ……」

 そして現在体が子供になっている俺も例外ではないのか、あくびと共に目がしょぼつき睡魔が訪れる。

「ううん……、もう時間も時間やしそろそろ寝よか」

「……うい」

 こちらも目の辺りを擦りながら首を縦に振って答える。

「悪いんやけどベッドの上に行くの手伝ってくれへん?」

「あい」

 八神は車椅子に乗っている以上やはりその手の行動は一人では辛いのだろう。
 段々と重く気怠くなっていく体に活を入れ、八神へと近づいていく。
 そして八神に抱きつくようにして腋の下を通して体の後ろに片手を通し、もう片方の手を八神の体の下に入れて抱き上げる。

「こ、ここまでせんでもよかったんやけどなあ」

 八神が何かを言っているが、もうすでに意識が朦朧とし始めている俺には何を言っているかまではわからなかった、そのままベッドへと移動するが、そこで問題が起きた。
 少女一人ぐらい軽いものだろうと思って運び始めたわけだが、問題は俺自身も今は子供の体になっているというとこだろう。
 朦朧としている意識の中体がグラリと傾いたのがわかった、とっさに体を捻り八神を下敷きにしないようにする。
 だがベッドに近づいていたのがよかったのか、背中に伝わってきたのは堅い床による衝撃ではなく、まるでどこまでも沈み込んでいくようなベッドの柔らかさだった。
 そしてそのまま意識も沈んでいくのを最後に感じた。
 
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