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剣風覇伝

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第九話「吸血鬼」

 三十人はいるだろうか?美女といえど吸血鬼なのだ。それが、斧や、こん棒を持っている。伯爵の合図で一斉にうちかかってくる美女たち。その顔は、血を求めて快楽に浸って暴力のままを尽くそうとしているのに、その反面、苦しんでいるような哀しさを帯びている。だがその一撃一撃は当たれば必殺の威力があり、タチカゼが躱していなければ、あきらかに骨を砕き、肉を裂いただろう。
 しかし、タチカゼには当たらない、彼の国には人の心を鏡のようにして相手の一挙手一動作を果ては相手の心の動きまで、察知する法がある。
 静の心法というものだ。
 彼には彼女らの心がわかる、もとは同じ人間である人々の血を吸ってでしか生きられない彼女らの哀しみ。その目には、これまで伯爵にさせられてきた暴力の数々が映っている。
 そしてそれがタチカゼの心をまた怒らせる。
「御免!」
 動きの大きい力まかせの攻撃をかわして当身だけで次々に彼女たちを気絶させていく。
 なるべく、苦しまぬように一撃で。
 ガシャン。
 最後の一人が武器を取り落して沈み込むとタチカゼは構えを解いて伯爵と対面した。
「俺に、半人前の力まかせな攻撃は効かん。どうやら吸血鬼とは力や速さは人間より上でも武の法は知らんようだ」
「ふん、その使用人どもはわたしが夕食としていただいたいわば混血のできそこないよ。しかしこの町には美女が多くてな、こうやって、わたしの身の世話をさせていたのさ。私は人の心などたやすく操れる、暗示をかければどんな人間もわが下僕と化すのだ。私をそいつらと一緒にするな私は数百年の間、人間の上に立ってきたのだ。我が剣は、岩でさえたやすく切り裂く執事よ、この者の剣を持ってきてやれ、それから私の剣もだ。タチカゼよ。私は、紳士であるから対等の勝負を申し込もう。だが、間違ってくれるな。ヴァンパイアは剣で切り裂こうとも平気で立ち上がるということを」
「俺の剣を返してくれるか、なるほど、剣技には自信があるようだな。ならば好意は受けておこう。だが一つ言えばおれも剣には自負がある」
 執事は刀と伯爵の剣を持ってきた。
「噂では、貴公の国には抜き打ちからの切り込みの技があるらしいな?タチカゼ殿?」
二人はほとんど同時に剣を取った。
「詳しいな、抜刀のことか?見せてやろう!」
 タチカゼはほとんど初動を見せず、剣を抜き放った。
 だが、伯爵は剣を鞘から少しだしそれで受けた。
「ふう、あぶない。だがやはり遅いな。私の目は剣などは止まって見える」
 驚いたのはタチカゼだ。俺の抜刀が止まって見える?な、ならば、俺の太刀筋は全部読まれたのと同じだ。
「焦っているな、いっておくが私の剣は、速いぞ、止められるか?」
 すると伯爵は、剣を抜き放った、その剣は空間を恐ろしいスピードで制圧していき、自分の鼻先一寸をかすめた。
「おっと、これは失礼服を台無しにしたな」
 タチカゼはすんでのところで見切ったと思った。タチカゼはおもむろに自分の体を見た。タキシードは肌一枚を残してズタズタに切り裂かれていた。
 愕然とした。見えなかった。まるで見えない。こいつはなんだ?
 ふと伯爵の影が大きく見えた。
 タチカゼはおびえるように距離を取る。
 その時、伯爵の顔が一瞬怒りで大きく歪んだ。その声は怒りに震えている。
「臆したなぁ?私の前で無様な姿を見せおって、なんだ怯えた犬のように下がりおって、もうちょっとできるかとおもって期待した自分が馬鹿だった。ええい!もう死ね!」
次の一撃は、怯えが入ったタチカゼを容赦なく襲った。あまりの一撃に刀は砕かれ。そして自分は宙に舞いあがり、天上のシャンデリアに串刺しになった。
「ふん、屋敷が人間の血でけがれたわ。執事よ、こいつを十字架にでも吊るして町の連中にさらしてやれ。我が城と屋敷を脅かすものは何人もこうなるとな!はははこれであと百年はわれの繁栄は約束された。天馬なんぞに乗ってきたからどんな傑物かと思えばなんのことはない、ただの臆病な犬だったな」
 伯爵の高笑いがあたりに響き。タチカゼは血を吹きだして意識を失った。
 
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