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傷だらけのプレイヤー

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第一章

                                  傷だらけのプレイヤー
 長い選手生活だった。
 オリバー=ヴィレッジもだ。遂にこの日がだった。
「今日で最後だよなあ」
「ああ、ヴィレッジもな」
「これで引退か」
「今まで活躍してくれたけれど」
「もう引退か」
 観客席のファン達も残念そうに言っていた。彼はアメリカンフットボールの花形選手であり長い間活躍してきた。しかしその彼も引退の日を迎えていたのだ。
 それでファン達もだ。残念そうに言っているのだ。
「頑張ってくれたけれどな」
「寂しくなるけれど」
「怪我も乗り越えてやってきたんだけれどな」
「そうそう、怪我多かったけれどな」
 スポーツには怪我は付きものだ。アメフトはとりわけ多い。何しろ格闘技とさえ言われている程だ。それだけに怪我が多いのである。
 だがヴィレッジはそれを乗り越えてだ。活躍してきた。そして引退だった。
「最後の試合な」
「ああ、観てやろうな俺達も」
「最後の最後まで」
「最後の活躍瞼に焼き付けてやるさ」
 こう言ってだ。彼の最後のプレイを観ようとしていた。そのロッカルームでは。
 そのヴィレッジ、身長は二メートルを優に超えたアフリカ系の彼にだ。マスコミ達が殺到してだ。そのうえで彼に対してこう言っていたのだった。
「これで最後の試合だね」
「どうかな、やっぱり感慨深いかな」
「引退したら解説者になるけれど」
 もう将来のことは決まっていた。とりあえずだが。
「そのことも考えたりするかな」
「この試合はやり遂げるんだね」
「どうしても」
「そうだな。最後の最後までやりたいな」
 ヴィレッジ自身もだ。彼等にくだけた喋り方で話す。身振り手振りが多い。
「タッチダウンをしたいな」
「そうか。最後の最後までプレイヤーでいたい」
「そういうことか」
「俺はフットボーラーだ。それに」
 ここで彼は言った。にやりと笑って。
「ファーザーなんだよ」
「娘さんの為にもプレイしてきた」
「そうだっていうんだね」
「俺はアメリカンフットボーラーになりたかった」
 幼い頃の夢もここで話すのだった。
「それでハイスクールでもカレッジでも選手になって」
「そうしてプロになった」
「鳴りもの入りでね」
「ドラフト一位だったね」
 それだけ注目されていたのだ。最初から。
 その彼がだ。今度はこう話してきた。
「最初はファンと俺自身の為にやっていた」
「君自身かい」
「その為にもかい」
「食っていかないといけないからな」
 その為にもフットボールをしていた。この辺りは実に現実的だ。
「けれどそれでもな」
「それでも?」
「それでもっていうよ?」
「結婚してダイアナができた」
 尚この名前は有名なポップ歌手、彼がファンのその歌手から取ったものだ。
「そうしたらそれが変わったんだよ」
「娘さんの為にかい」
「フットボールをする様になったっていうんだね」
「ああ、そうさ」
 その通りだとだ。また言う彼だった。
「俺はそうなったんだよ。だから怪我をしてもな」
「ファンと娘さんの為にか」
「プレイする様になったんだな」
「そうなんだな」
「そうだよ。俺は変わったんだ」
 ヴィレッジの目は暖かい。そうした目での言葉だった。 
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