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剛球攻略

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第二章

 西本はあらためてだ。選手達を鍛えなおした。その練習は基礎から叩き込んだものだった。
 自ら選手達にトスバッティングを施す。とにかく自ら前面に立って彼等を育てた。その中でだ。
 打線はだ。次第に見るべき若手が出て来ていた。
 羽田耕一に栗橋茂、佐々木恭介、平野光泰、梨田昌孝、有田修三、石渡茂、吹石一徳といった顔触れが育ってきた。その彼等を見てだ。ファン達は目を輝かせて言った。
「これは凄いで」
「ああ、若くてイキのいい奴ばっかりや」
「近鉄ひょっとしたらな」
「ああ、やれるで」
「優勝できるで、これ」
「阪急に勝てるわ」
 こうだ。目を輝かせて言う。しかしだ。
 西本は彼等を見てもまだ笑わない。こう言うだけだった。
「力と力の勝負やったらや」
「力の強い方が勝ちますね」
「山口の力は桁外れや」
 即ちだ。その剛速球の力はだというのだ。
「あんな速くて球威のあるボールを投げる奴は今までおらんかった」
「それではここは」
「あいつ以上の力を手に入れるんや」
 その成長していく近鉄打線を見ての言葉だった。今西本の目の前では実際に彼等がバッティング練習をしている。それぞれ見事な素振りを見せている。
 だがそれでもだ。西本は笑顔にならずに言うのだった。
「さもないと勝てんわ」
「阪急にはですね」
「うちのチームは確かに強くなった」
 その実感はあった。彼が一から育てたチームだからだ。
 だがそれだからこそだ。余計にわかることだったのだ。
「それでも阪急も流石や。そしてあいつもや」
「山口をどうするか」
「それにかかっとる。山田を打ててもや」
 当時の阪急のエースだ。アンダースローから繰り出すシンカーが武器だ。この山田にしても西本が育てた選手である。阪急を作り上げたのも彼だからだ。
 その阪急に勝つにはやはり山口を打つことだった。それでだ。
 昭和五十四年近鉄は前期リーグ優勝を果たした。そしてだ。
 後期は阪急が優勝した。西本がかつて育てたチームを今育てたチームがぶつかる。まさにそうした戦いだった。
 西本はそのプレーオフがはじまる前にだ。こう選手達に言った。
「勝てるで」
「俺達勝てるんですか」
「阪急に」
「そや。絶対に勝てる」
 こうだ。彼等に対して断言してみせたのだ。
「そして山口を打てるんや」
「あの山口をですか」
「俺達がですか」
「そや、絶対に打てるで」
 こう彼等に言ってだ。暗示めいたものをかけたのだ。
 そしてだ。そのうえで試合に赴くのだった。
「それで勝てるんや」
「あの化け物みたいな剛速球をですか」
「俺達は打てるんですか」
「これまでのことを思い出すんや」
 こうも告げるのだった。
「そやったらわかるな」
「あれだけ練習してきましたし」
「それならですね」
「あの剛速球打つ練習もしてきました」
「そやったら」
「負ける筈があらへん」
 西本の言葉は強かった。
「何があってもや」
「はい、それじゃあ勝ちます」
「勝ってきます」
 こう応えてだった。彼等は試合に赴くのだった。その試合はだ。
 まずは第一戦は近鉄が勝った。近鉄は打線だけでなく投手陣も成長していた。西本の選手育成は投手陣にも及んでいたのだ。 
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