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恋は無敵

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第一章

      恋は無敵
 乃木坂麻美子には誰も声をかけない。
 これは性格が悪いとかそういう問題ではない、ましてや外見の問題でもない。
 性格は温厚にして謙虚、公平で心優しい。しかも律儀である。
 容姿端麗だ、ふわふわとした薄茶色の長い髪に丸い眼鏡がよく似合うおっとりとした目に白く整った人形を思わせる顔立ち、胸は大きく足も奇麗だ。ウエストも引き締まっている。
 成績優秀であり運動はそれ程ではないが悪くはない、しかも家は資産家だ。
 だがその家が問題だった、絹織物の大店であり日本各地に支店を持っている、だがその家の主がというと。
「あの日本人を強引にシュワちゃんにしたのが兄貴かよ」
「身長二メートル、体重百二十キロ、筋骨隆々」
 アメリカンフットボーラーの様な体型だ。
「握力は三桁に達し百二十キロのダンベルをあげる」
「趣味はトライアスロン、柔道六段空手五段剣道五段」
 武道の勝人でもあった。
「そんなのが兄貴だからなあ」
「しかも極端なブラコンでな」
「乃木坂にストーカーいたけれど睾丸をぐしゃ、だったらしいぜ」
「ぐしゃ、か」
「ああ、ぐしゃ、だよ」
 男が最も恐れることだ。
「で、今オカマになってるらしいな」
「おいおい、そりゃ怖いな」
「変に言い寄った隣町の不良は全治半年でやっぱり睾丸が、らしいしな」
「そんな怖い兄貴がいるからなあ」
「しかも店の主になったからな」
 全国に展開している大店の主だ、それなりの力もある。
「そんな恐ろしいことしても揉み消せるみたいだからな」
「呉服の筋であちこちに顔利くらしいな」
「政治家とかにも人脈あるんだって?」
「そんな兄貴がいてどうして声かけられるんだよ」
「声かけた時点で睾丸だぜ」
「そんなの勘弁して欲しいよ」
「全くだぜ」
 こうした話をしていた、そしてだった。
 誰も麻美子には声をかけなかった、女友達はともかくとして言い寄る男はその兄乃木坂哲章のせいでいなかった、だが。
 この彼大島渉は同じクラスにいる彼女を見てこう呟いた。
「やっぱり奇麗だよな」
「おい、下手に好きになったらまずいぞ」
「相手を考えろ、相手を」
「乃木坂にはあの兄貴がいるんだぞ」
「和製シュワルツェネッガーがな」
 その危険極まる彼の存在がここでも出る。
「柔道六段、空手五段、剣道五段だぞ」
「合気道も四段で薙刀三段、居合六段なんだぞ」
「身長二メートルでそれだぞ」
「しかも得意技はタマ潰しだぞ」
 段以上にこれが人々を恐れさせていた。
「御前一生男として生きていけなくなるんだぞ」
「しかもそれってどれだけ痛いかわかってるだろ」
「握り潰される痛みわかるよな、男なら」
「それならな」
「諦めろ」
 これが結論だった。
「さもないと一生後悔するぞ」
「タマがなくなったら御前それこそ」
「この上なく痛いだけじゃ済まないからな」
「死程後悔することになるぞい」
「それはわかってるこえれどさ」
 だが、と返す渉だった。
「やっぱり可愛いよな乃木坂って」
「可愛いことは可愛いけれどな」
「性格もいいし頭もいいしな」
「得点はかなり高いよ」
「この学校でもかなりポイント高いぜ」
「トップだろうな」
 だがそれでもだった、何しろ麻美子には彼がいるのだ。
「あの兄貴さえいないとな」
「八条大学柔道部の車周作と言われたあの兄貴がいるからな」
 懐かしい柔道漫画の何処かとある野球漫画の馬鹿親父を思わせる風貌の師匠の名前が出た。 
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