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ソードアートオンライン―死神の改心記―

作者:波亜多
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死神

“死神”と呼ばれる男がいた。

二年前、デスゲームとして開始したSAOにおいて、PK―プレイヤーキルとは、最も忌避されるべき行為だった。
実際、数ヵ月間はそういう事例は起きなかった。
一層時点での鬱憤のたまった感じを見るに、それはどちらかと言うと殺人そのものにたいするものと言うよりは、自分が引き金を引いてしまう事を恐れていた、という方が正しかったが。

だが、その危うい状態は突然崩された。

あるひとつのパーティーがたった一人を残して全滅したのだ。
それだけなら珍しい事ではない。むしろ、まだデスゲームに慣れていなかったプレイヤーの多かったそのころとしては、ままある悲劇だった。

生き延びた1人のプレイヤーカーソルが赤に染まっていなければ。

SAOにおいて、一般プレイヤーのカーソルは緑だ。それが他のプレイヤーにダメージを与える等すると、オレンジになり、街に入れない等のペナルティが課せられる。
そして、“赤”となるのはー
他のプレイヤーのHPを全損させたとき、すなわち“殺人者”を表す。

その男は初の殺人者として“始まりの街”にて大々的に裁判が行われた。
集まったのは、数百人。とはいえ、その内のほとんどが興味本位の参加だっただろう。
裁判自体も、HP全損による償いなどという短絡的な結論は認めないという比較的穏便なものだった。
―はずだったのだが。
抑圧されてきた感情が爆発した。
集まった数百人のうちの約半数が死による償いを望んだのだ。
論議は次第に熱を増し、恐らくSAO初であろう数百人単位での戦闘に発展した。
なんとも仰々しい響きだが、基本は一対一のデュエルの集合。いくら激情に駆られていたとはいえ、注意すれば死者などでないはずだった。
だが、その予想は易々と覆されてしまう。

立て続けにプレイヤーの爆砕音が響いた。
同時、数十人のプレイヤーが拘束された男の周りに躍り出る。
突然の事に混乱する一般プレイヤーたちは、だがしかし、一つの声によって水をうった様に静かになる。
その発声源は、拘束された男の隣に立つ一人のプレイヤーだった。
黒のフーデッドケープに身を包むそのプレイヤーは、決して目立つ格好はしていなかったが。フードのしたからでも分かる整った顔立ち。最早完璧とも形容できるような、見る者を引き込むような笑み。澄みきった、だがどこか癖のある声。
それらすべてがそのプレイヤーを、その場にいるすべてのプレイヤーにとって特別たらしめていた。
そこから状況が急変する。
その場の支配者曰く、殺人ギルド“ラフィンコフィン”の結成、曰く初の殺人者である男を“死神”として崇める。
そのような事を一方的にまくし立てた“ラフィンコフィン”―“ラフコフ”は、ついでに男の拘束を解いて去って行った。

戻った混乱に乗じて男は逃げ、隠れ蓑として中層の気の良いパーティーに加わった。
彼らは男を“死神”と知ってもしいたげる事はなく、男はそんな彼らのアットホームな心地よさに甘えた。
だが、ここからが本当の悲劇の始まりだった。
―男が加わって1ヶ月、パーティーは男を残して全滅した。
迷宮区でトラップに引っ掛かったのだ。
失意の男を拾ったパーティーがあった。だが、そのパーティーも、次も、その次も彼の加わったパーティーは全滅した。
次第に噂は広がる。
“仲間殺し”、“大量殺人者”
モンスターによるものからレッドプレイヤーによるものまで、原因は様々だったにもかかわらずそんな否定的な噂ばかりが流れたのは、やはり彼が初の殺人者であり、“ラフコフ”の崇める“死神”だからだろう。
逆にそこまで言われているにもかかわらずなんの実害もないのは、“ラフコフ”のお陰でもあるのだが。
だが男は、どれだけ蔑まれ、恐れられ、周囲からひとが居なくなったとしても、不満とは思わなかった。
いくら自分が手を下さなかったとはいえ、もし彼とパーティーを組まなければ気の良い彼らは死なずに済んだかもしれない。
数回の全滅でそれが分かっていたにもかかわらず、結局は人の暖かさから離れられなかった自分に責任はあるのだから。


“死神”ことザインは、そう話を締め括った。
 
 

 
後書き
何か分かりにくい文章かつ駄文ですいません。
感想とか、よろしければ...
 
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