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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第四十一話 どんな人だったのか……それよりもメイム、覚えとけよ!

「ありがとな」


 そう言いながら彼女の頭を撫でる。
 彼女は目を閉じながら気持ち良さそうに声を漏らす。


「ん……」
「あ、ごめん! いきなりやって!」


 前回もクィルに注意されたのにまた勢いでやってしまった。
 だって、ホントに妹みたいなんだもん! 


「ううん……いい……よ」


 よし! 言質(げんち)取ったぁっ!
 だからいいよねクィル?
 言い訳しながら満足するまで頭を撫でさせてもらった。
 ひとしきり和んだ後、手にした本を開いて見る。


「あ……でも……」


 ヒナが声を出す。


「何?」
「読める……の?」


 ヒナにしてみれば当然の疑問だ、闘悟は『ネオアス』の住人ではない。
 異世界人なのだ。
 普通なら、この世界の文字は読めない。
 だが、闘悟はヒナに向かって微笑む。


「大丈夫だ。この世界に来る時に知識をもらったからな」


 そうだ、この世界に来る時に、トビラから知識を頭の中に流された。
 その知識の中には『ネオアス』の言葉も含まれていた。
 だからこそ、こうやって会話もできる。


 ヒナは「もらった?」と疑問を投げかけてきたので、素直に自分が体験したことを説明してやる。
 そう説明すると、ヒナは納得したように頷いた。
 トビラというのに会ってみたいとは言っていたが、さすがに闘悟の力じゃ呼べない。
 少し残念そうにするヒナの頭を軽く撫でる。
 すると、機嫌をよくしたヒナは、本を読んでみるように言う。
 開いた本の中には、確かに異世界人のことが載っていた。
 どうやら、この本は二百年前の歴史書みたいだ。
 ヒナは闘悟が読んでいる間、別の棚の方へ向かった。
 そして、しばらく目を通していた闘悟は、ゆっくりと本を閉じた。


「なるほどな……どうやら過去に日本人がやって来たのは間違いねえな」


 その本の内容は、二百年前に『ネオアス』にやって来た人物の冒険譚(ぼうけんたん)のようなものだった。
 その人物は、変な光に包まれて『ネオアス』にやって来たらしい。
 そして、その人物は初めて目にしたこの世界の住人にこう言っている。


『自分はニホンジンだ。チキュウという世界からやって来た』


 この言葉も大分曲解(きょっかい)されて書かれてあるのかもしれない。
 初めて会う人に、いきなりそんなことは言わないだろう。
 普通はここがどういう場所かとか、自分の名前を言うだろう。
 もしくは、闘悟のように先にある程度知識を与えられたのかという疑問も浮かぶ。
 そうであれば、若干変な感じはするが、自分が異世界人だと告げることも許容範囲に入りそうだ。
 実際闘悟自身も、すぐに自分が異世界から来たことを、初めて会ったクィルに暴露している。


 闘悟は二百年前の異世界人が、間違いなく日本人だということを知った。
 そして、本の中にはもちろんその人物の名前も載っていた。


 『ミサキ』……それがその人物の名前。
 どうやら、女性だったようだ。
 本にも代名詞が『彼女』になっている。
 また彼女は名字を名乗ってもいなかったのか、その記述は見当たらなかった。
 いや、もしかしたら名字が『ミサキ』なのかもしれない。
 どうでもいい話だが、どうせならもっと判断し易い名前だったら助かった。
 その『ミサキ』がこの『ネオアス』に来て、ある伝説を残している。
 それはこの世界を見て回った彼女が、ある魔物と戦い、命を落とした話だ。
 これが本当のことかは分からない。
 だが、自分と同じ日本人が『ネオアス』に来ていたのは事実だった。
 会って見たかったなぁ……。
 闘悟はその話を頭の中で反芻(はんすう)する。
 そして、ふと窓の外が夕焼けに包まれていることを知る。


「あ、やっべ! あんまり遅くなるとクィルに怒られる!」


 慌てて本を元の所へ戻し、ヒナを探した。
 ヒナは図書館に設置されてある椅子に腰かけていた。
 手には一冊の本を持って、熱心に目を通している。
 声を掛けにくかったが、さすがにこれ以上時間を掛けると暗くなってしまうので、仕方無いと感じ声を掛ける。


「……終わった……の?」


 ヒナは闘悟の声に反応し首を傾げる。


「ああ、ヒナのお蔭でいい勉強になったよ。ありがとな」
「それなら……良かった……よ」
「それ、何読んでんだ?」
「これは……はい」


 そう言って表紙を見せてくれた。
 だが、そこに書かれた題名を見て顔を引き攣(つ)らせる。


「……『俺の恋が修羅場(しゅらば)ってる!』……?」


 え? 何この本?
 何かのライトノベルかよ!
 闘悟はタイトルを見て硬直する。


「そ、それって……面白いのか?」
「ん……よく……わからない……よ?」


 だったら何で読むんだ?
 そもそも十歳が読むような本なのかそれ?
 だが、いきなり拒否するのもどうかと思ったのでやんわり聞いてみる。


「分からないのに読むのか? 勉強熱心なんだな」
「恋が……知りたい……の」
「は?」


 こい?
 鯉……なわけないか。
 もしかして、恋のことか?


「な、何で?」
「トーゴが……言った……よ?」
「んん?」


 オレが何言ったって?
 何か変なこと言ったかなオレ? 


「恋仲は……恋を……知らなければ……だめ」


 お~の~!
 オレってばバカ!
 言ったよ! 言ってしまってたよそんなこと!
 背中に変な汗が流れるのを闘悟は感じる。


「だから……メイムに……聞いた……よ」
「ま、まさかその本を薦(すす)めたのって……?」
「ん……メイム……だよ」


 あんの能天気娘!
 十歳の女の子に何て本を薦めやがんだよ!
 百歩譲って恋のアドバイスをするのはよしとしよう!
 だが、なぜ修羅場本なんかを薦めんだよ!
 あんのバカ! 今度会ったら頭グリグリの刑だ!
 闘悟が怒りに震えている様子を見てヒナが首を傾げる。


「どうした……の?」
「あ、あのなヒナ、確かに恋を知ろうとするのは良いことだと思う。だけどな、その本だけは止めとけ」
「どうして……なの?」
「お前は純粋のままでいいんだよ」


 闘悟は物凄く良い顔をしてヒナを諭(さと)す。
 だが、当の本人はよく分かってはいない。
 そこで闘悟は小さく溜め息をついて一つの考えを言う。


「そうだな。だったら、オレがもっと勉強になる本を選んでやるよ」


 すると、彼女はいつもの無表情から少し頬を緩める。


「……ほんと?」


 この無邪気さがすっげえ可愛い!
 バカメイムめ!
 もう少しで無垢(むく)な少女が変な道に迷い込むところだったぞ! 


「ああ、今日はもう遅いし、また明日にでもここに来て、オレが探してやるよ」
「ん……分かった……よ」


 素直に頷き、ヒナは本を元に戻しに行った。
 そして、闘悟達は王立図書館を後にした。

 
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