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FULL魔法ブリッツ学園~魔法使「えな」い~

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序章
  2度あることは3度ある

「1年2組の榎井麻義(えないまぎ)。至急校長室まで来るように。繰り返す。1年2組の榎井麻義。至急校長室まで来るように」

 朝の余礼の後、俺の名前を呼ぶ全校放送が聞こえた。今日は立て続けに面倒に巻き込まれている。後一回は巻き込まれるんだろうな。2度あることは3度あるの法則が頭をよぎった。

 極々普通で真面目な俺は、校長室に向かうことにした。授業前の誰もいない廊下を一人で歩く、特例とは言え校則違反が多少後ろめたい。

 校長室のドアをノックすると、中から校長の声がした。

「入りなさい」

 ドアを開けると、白髪交じりのダンディーな校長が、机に両肘をつき着座していた。そして向かいにある椅子を手のひらで指差す。

「麻義、掛けたまえ」

 まさかの呼び捨て、俺はお前のツレではない。そして、孫でも親戚でも無い。Mを取るまでもなく、あかの他人だ。見かけによらず不躾なおとなだなおい。

「掛けたまえ」

「あ、はい」

 仕方なく着席、いまいち事態が飲み込めない。見た感じでは、怒られるわけではなさそうだ。とりあえず胸をなでおろす。

「不躾な大人で悪かったな。それに安心するのはまだ早い」

(おいおいおい、まさかのエスパーかよ。全て丸っとお見通しか)

「そう、エスパー。全て丸っとお見通しだよ」

(やめてくれ)

「やだ」

(駄々っ子かよ!!)

「そう、駄々っ子だよ」

(……)

「ほう、考えるのをやめたのかね?」

「はい、これで心は読めないはずです」

(しかし、驚いた。校長がエスパーだったとは)

「はははっ、驚くのも無理はない」

(また読まれたのか)

「そう、人は考える生き物だからね」

「もう、人の心の声に返事するの、やめてくれませんか?」

「これは失敬、つい楽しくてね」

 思ったよりは気さくな人の様で良かった。雰囲気も悪そうな人ではない。

「ありがとう」

「いや、だから……」

 ジョークだよと言いたげに軽く笑った後で、校長は本題に入る。

「実は、この学校に社会見学の一環として、選抜生徒交換の話が来ている」

 聞いたことぐらいはある。条件はわからないが、選ばれた生徒数名が他校の生徒と無期限で入れ換わる制度のことだ。一昔前ではあり得ない前代見門の制度だったが、現在では当たり前に、それも活発に行われている。狙いは偏差値の統一化らしい。

「良く知っているね」

「あの……いや、なんでもありません」

(全く、このおやじは……)

「君を産ませた覚えはないよ」

「ははは」

 つい、愛想で若干乾いた笑い声を出してみる。今のは反応に困った。マジでちょいちょい心読むのやめて欲しい。

「冗談はさておき、その選抜生徒を君にしようと考えている」

「本当ですか?」

「あぁ、本当だとも」

 校長は嘘も偽りもなさそうな、満面の笑みで答えた。これは進学するつもりの俺にとって、大漁の内申点をゲットするチャンスだ。

「ところで、交換先の学校はどこですか?」

「私立ブリッツ学園だよ」

「へ?」

 さらっと聞こえた名前が空耳であると信じたい。

「だから、ブリッツ学園だよ」

 いやいや、魔法も使えないのに魔法学園とか正気の沙汰ではない。向こうの生徒はラッキーだろうけど、こちらにしてみれば貧乏くじも良いところだ。

「ちょっと待って下さい。すぐに返答はしかねます」

 ほとぼりが冷めたころにやんわりと断ろう。向こうの授業で良い点を取れる気がしない。魔法なんか使えない人間に無茶な話過ぎる。

「良いのかね? 向こうからは学園主席の辻さんと、他二名がこちらに来るそうなのだが?」

 このおやじ、辻さんと俺の間柄を知ってて言ってるに違いない。ものすごくしたり顔なのがちょっと悔しさを煽る。行くも地獄、とどまるも地獄、こうなったら答えは一つしかない。

「わかりました。行きます。行かせてください」

 謀った通りに事が進みご満悦の様子の校長が、立ち上がり窓の外を見つめた。

「世の中には、才能が埋もれたまま一生を終える人間が大半だよ。君は若い、失敗しても良い、劣等生でも良い、チャンスには貪欲に喰らいついて生きなさい」

 良いこと言ったつもりか? 詐欺紛いなやりくちの後では何も響かない。お決まりの台詞と言うか、正論なんて吐けた立場かよ。

「君も一瞬は思っただろう。これはチャンスだと」

 何かの新しい勧誘かと思わせるほどの口ぶりで痛いところを突いてくる。ノーとはいえない雰囲気にされてしまった。

「で、僕はいつからブリッツ学園に通えば良いんですか?」

 色々と仕方なく肯定気味の返事を返すと、校長は俺に数枚のコピー用紙を手渡した。そのふざけた内容はまさかの急展開、やはり三度目が起きた。 
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