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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第二十三話 ホントいい子だよこの子は

「あ、ミラニ?」


 クィルは体裁(ていさい)を繕(つくろ)うように笑顔を作る。
 ミラニはそれを受け、丁寧に頭を下げる。


「これからトーゴを案内するご予定ではありませんでしたか?」


 すると思い出したようにハッとなる。


「あ、そうです! トーゴ様!」
「え? あ、何だ?」
「今日これから、この学園の案内をさせて頂きたいのですが、お時間はよろしいでしょうか?」
「まあ、帰っても特にすることもないし……ってかそれは知ってるだろ?」
「あは、そうでしたね」


 クィルは可愛らしくルビーのように赤い舌をピョコッと出す。
 その後、カイバ達と別れて闘悟とクィル、そしてミラニを加えた三人で学園を歩くことになった。





 クィルとミラニに付き添われ、学園内を案内してもらったが、学園長には会えなかった。
 闘悟としては、一度挨拶をしておきたかったが、当の本人は所用で出掛けているとのことだった。
 また帰って来たら、その時改めて声を掛けようと思った。
 学園内を一通り見て回り、三人は宮殿に帰ることにした。
 明日からは本格的な授業が始まる。
 それが闘悟には楽しみで仕方無かった。
 地球では絶対受けられない授業を受けられることに、知識欲が疼(うず)くのは自明(じめい)の理(り)だということだ。


 闘悟は自分に当てられている部屋に帰ると、いつもの日課をこなしていた。
 精神統一をして、あの魔法……第三の能力の修練をする。
 以前に魔力を大量に開放してしまい、宮殿を震わせてしまったことで、兵達が大慌して部屋に飛び込んで来るといった過去があったので、極力魔力を微量にしか解放しない。
 しかし、微量とはいっても一般人からすれば達人級以上にはなる。
 だが、宮殿の者達は闘悟の魔力の質を覚えてしまっているので、少々のことではもう驚かなくなっていた。そして、しばらく魔法の修練をする。


「……よし、これで大分ものにできたな」


 自信が納得いく修練ができたようで、闘悟は満足する。
 その時、ドアがノックされる。
 そんなに長い間ここにいたわけではないが、ドアの向こうに誰がいるか分かるようになってきていた。


「入っていいぞ、クィル」


 思った通り、声を掛けて入って来たのはクィルだった。


「あの……もしかしてお邪魔でしたか?」


 不安そうに尋ねてくる。


「気にすんなって。もう終わったから」
「それなら良かったのです」


 ホッと肩を下ろす。


「それで? どうした?」
「あ、はい。トーゴ様は今日初めて学園に行きましたです」
「おう」
「その、感想などをお聞きしたいと思いましたのです」
「なあんだ、そんなことか。いいぞ、こっち来いよ」


 闘悟が了承すると、嬉しそうに破願(はがん)する。


「はい!」


 それから、闘悟は学園の印象や、カイバ達について語った。
 クィルも楽しそうに聞いていた。
 すると、クィルが急に暗い表情になる。


「ん? どうした?」
「えと……ですね……」


 言い難そうに眉を寄せている。
 闘悟は彼女の態度の理由を考える。
 学園のことに間違いはないだろうが、果たしてここまで落ち込ませる出来事があったのだろうか?
 ………………あったな。


「もしかして、あのリューイとかいう貴族のことか?」
「…………はいです」


 やはりそうだった。


「私のせいでトーゴ様にご迷惑を掛けてしまったです……」


 そうか、朝の出来事が自分の責任だと感じているわけだ。
 確かにアイツと出会ったのは、闘悟がクィルと一緒にいたからだ。
 自分がいなければ、あんなことにはならなかったと後悔しているのだろう。
 闘悟はそんな彼女の様子を見て苦笑する。
 全く……この子は他人のことに気を遣い過ぎるな。
 まあ、それがクィルのいいとこでもあるし、オレが好きなとこでもある。
 少なくとも、地球ではクィルのような少女も、大人も周りにはいなかった。
 いたのは、獲物をつけ狙う小汚いハイエナのような連中ばかりだった。
 闘悟は目の前で落ち込んでいるクィルを見て、無意識に彼女の頭を撫でていた。


「ふぇ……」


 驚いたように上目を向けてくる。


「気にすんな。アレは俺自身が選んだ結果だ。むしろ、貴族って奴の一端を知れて感謝してるくらいだ」


 本当にそう思っていた。
 まだまだ、闘悟はこの世界のことを何も知らない。
 王族も、国も、民も、この国の一端しか理解していない。
 闘悟はいろんなことを知りたい。
 特にこの世界で生きている人達を知りたい。
 だから闘悟はあえて挑発するような言い方でリューイの人柄を知ろうと思った。
 貴族が全員ああいったタイプで無いことももちろん分かっている。
 ただ、貴族の中にもああいう自己顕示欲が強いタイプもいることが知れたので満足していた。
 その結果、自分に面倒な火の粉が降りかかろうと、自分で生み出したのだから責任は最後まで持つと決めていた。
 だから、リューイを結果的にだが、自分と引き合わせてくれたクィルには、感謝こそすれ、責める要素など何一つありはしない。
 闘悟は笑顔を作りながら礼を述べると、クィルの顔がタコのように真っ赤になっていく。


「ぅ……あぅ……」


 クィルは何も言えなくなって俯いている。
 だが、その時思い出したことがあった。
 確かこんなふうにヒナの頭を撫でていた時、クィル本人に、女性の頭は軽々しく撫でてはいけないと注意を受けた。
 それを思い出し青くなる。
 や、やべえ! これはもしかして怒られるのか?
 だから真っ赤に!?
 手の動きが止まって不審に思ったのか、クィルが顔をそっと上げる。
 そして、目が合う。
 とにかく謝罪するべきだと思った。


「ご、ごめんっ!」
「ふぇ?」


 いきなり頭を下げた闘悟に混乱するクィル。


「き、今日女の頭を撫でるのはダメだってクィルに言われたばかりなのに、ホントごめんっ!!」


 両手を合わせて必死に許しを請う。
 怒らせてしまって、宮殿から追い出された時のことを考えてしまう。


「……あ」


 クィルは思い出したように声を出す。


「え?」


 闘悟も放心したように顔を向ける。
 すると、彼女は恥ずかしそうに目をキョロキョロさせる。


「あ、あのですね、あの時は、その……何と言いますか……少しヒナリリスさんが……羨ましかっただけで……」
「え? 何?」


 ヒナの部分が聞き取れなかった。


「な、何でもありませんです!」


 凄い勢いで頭を横に振る。


「そ、そうか?」
「は、はいです! ですからその、私は怒ってはいませんです! むしろ嬉しかったです!」
「あ、そうなのか?」
「は、はいです!」


 ん~よくは分からんけど、今回の撫で撫では良かったみたいだ。
 そうか、撫でるタイミングとかがあるのかもしれない。
 今みたいなタイミングなら撫でるのは良いことみたいだ。
 よし、覚えておこう。
 闘悟の辞書には撫でるタイミングには気を遣えと記された。


「あ!」


 闘悟の声にクィルは首を傾げる。


「どうされたのですか?」
「なあクィル、今時間あるか?」
「え? あ、はいです。お夕食までなら大丈夫なのです」
「よっしゃ。それなら今から少しオレに付き合ってくれ」
「あ、はいです」


 一体何の用事なんだろうと彼女は不思議に思った。


「あの……どこに行かれるのですか?」
「第二修練場だ」    


 
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