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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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黄巾の章
  第4話 「貴方って、嘘つきね」

 
前書き
なかなか話が進みません。
このままだと黄巾終わるのが……30話近くまで続きそうで怖いです。

黄巾の章だけで10話は絶対超えるでしょうけど…… 

 




  ―― ??? side ――




 盾二たちが黄巾党を撃破する一日前。
 その東方、五十里(二十五km)離れた場所にて、別働隊の黄巾党と戦い、勝利した一団があった。

「……それで?」
「はい、私たちが目標としていた敵の本隊と思われる陣です。そこに何度か攻め込む様子を見せては退いているようです」

 報告しているのは女性――頭に猫耳フードを被った女性だった。
 そして報告を聞いているのも女性。どちらかといえば少女、といった容姿である。

「そう……何かの策を用いている、と考えるべきかしら?」
「そうですね。決して敵にぶつからず、とはいえ姿を隠しきらず……といった様子です」
「なんだそれは。ただの臆病者ではないか?」

 そう口を挟むのは、黒髪で前髪を後ろに流したチャイナ服の女性。
 背には幅広の刀を背負っている。

「姉者。報告の最中に口を出すべきではないだろう」
「む、そうか? すまん」

 それを嗜めたのは、右半分の前髪をたらし、左半分は後ろに流した水色の髪の女性だった。

「……おそらくは敵を誘い出すための策かとは思いますが。ただ、それを行う数と頻度が少々おかしいかと」
「どういうこと?」
「はい、敵に姿を見せるのは決まって二千程度。それも最初の日は昼夜で二回、次の日は昼一回に夜三回、本日は夕刻までに二回……普通はそこまで執拗に挑発はしないかと」
「相手はよほど敵を誘き出したいのか……それとも引き篭もらせたいのかしら?」
「なんともいえません。その陣にいる黄巾党は約一万。二千程度の兵でどうにかなるとは思えません」
「……そう」

 報告を受けた少女は、自身のツインテールの髪を弄くりながら、思案に物耽る。

「どちらにせよ、先程倒した黄巾党の処理もある。本日はここに陣を敷くわ。明日までに状況をさらに探らせなさい。場合によっては相手の本陣に奇襲を仕掛けることになるでしょう。いいわね?」
「「「御意!」」」

 少女の言葉に、その場にいた三人の女性が頭を垂れる。

(さて……主戦場から離れているにも関わらず、戦略上では重要拠点となりうる場所。しかも、あそこに“あの書”があるかもしれないという報告……私たちが向かおうとしていた場所に目をつけたのが、一万の相手にたった二千の兵で立ち向う義勇兵、か。面白いじゃない)

 少女は、その口元に深い笑みを浮かべながら設置しようとしている天幕へと、歩を進めていった。




  ―― 盾二 side 冀州近郊 ――




 黄巾党の陣、その指揮官のような奴を矢衾にした後、残敵は全て殺しつくした。
 ここに集まっているのは義勇兵であり、各邑や街の暴れん坊である。
 そんな連中は、邑や街を守る、という意思より、暴れられることや恨みを晴らすという思惑が強い。
 だからこそ、存分に殺させ、指揮官側への恨みのないように黄巾党を殺しつくす。
 最初、そのことを愛紗たちに話すと、さすがに顔を顰めたものの、義勇軍に入った人間の恨みもわかるとのことで一度だけ勧告し、拒否するなら殺しつくす、と決定した。

「で、被害は?」
(ゼロ)です。すごいです、盾二様! 一万を六千で相手して、一人も味方を失わずに完全に殲滅しました!」

 報告を纏めた朱里が、興奮気味に声を上げる。
 その場にいた桃香たちもお互い手を叩いたり、抱きついたりして喜んでいた。

「さっすがご主人様だよね! 誰一人として失わずに相手を倒しちゃうんだもん! きゃ~、もうムテキ!」
「桃香様、はしゃぎすぎです……でも、気持ちはわかります」
「さっすがお兄ちゃんなのだ!」

 桃香たち三人は、きゃいきゃいと騒いでいる。

「こらこら……まだ終わってないよ。これからこいつらの陣に行って、残された糧食などを回収しないとね。雛里、準備はどう?」
「はい、盾二様。ご命令どおり、死んだ黄巾党の人たちは落とし穴に集めて火をかけます。その後、全部埋めなおします」
「そうか、じゃあ雛里は兵千ほど率いてその処理を頼む。入らない分は纏めてから火にかけて。死体は放置しないように気をつけてね。俺たちは残り五千で陣へ行き、糧食と武器を手に入れるとしよう。朱里!」
「はい、わかりました! 皆さん! 疲れているとは思いますが、もう一踏ん張りです! これが終われば暖かいご飯が食べられますよ!」

 朱里の言葉に、義勇兵達がオーッ! と声を上げる。

「じゃあ、桃香、愛紗、鈴々、朱里。四人とも放棄されている陣に向かおう。たぶん昨日の夜襲で負傷している黄巾党もいるだろうから、抵抗の意思がなければ捕縛。意思があるなら見せしめにして」
「御意。それでほかの負傷兵の戦意を削ぐのですね?」
「さすが愛紗、そういうこと。殺一警百(シャーイージンパイ)って言葉だったかな? 一人殺して百人に警告するってね。割とポピュラー……よくあることだよ」
「わかりました。では、先行します! 関羽隊、でるぞ!」
「張飛隊も出るのだ!」

 二千ずつ分かれた関羽隊と張飛隊が、それぞれ愛紗と鈴々に率いられて先行する。

「北郷隊は、半数を雛里に預け、半数を俺と朱里が率いる。雛里、死体の処理は頼む。つらいかもしれないが、しっかりな」
「はい、わかっています……ちゃんと見届けます」
「よし。朱里、俺たちは陣のほうだ。俺たちの策がどんな結果になったか、しっかり目に焼き付けろ」
「はい!」

 俺の言葉に覚悟を決めた朱里が、ぐっと顔を引き締めて歩き出す。
 さて……向こうもかなり人死にがでていたはずだ。
 そっちの処理もしないとな……

 そう思いつつ俺たちは、昨夜奇襲した陣へ移動を開始した。




  ―― 関羽 side ――




 我らは関羽隊、張飛隊合わせて四千の兵を持って、黄巾党の陣へと向かっていた。
 すでに黄巾党の本隊は全滅。
 残りは、昨夜のご主人様と鈴々が行った夜襲で負傷したか、少なくとも戦闘はできない者ばかりだろう。
 どんなに多くとも四千ほどあるかないか。
 なれば陣の柵もなくなり、ほとんど野晒しになった四千など、士気も高い我らの敵ではない。
 鎧袖一触――たとえ向かってきたとしても蹴散らしてくれよう。

「関羽様、先行させた斥候が帰ってきました」
「そうか。こちらに連れてきてくれ」
「はっ」

 さて、さすがに負傷兵とはいえ侮ってはならない。
 私の弱点は、敵を侮りやすいということをご主人様はおっしゃっていた。
 敵を知り、己を知れば――まさしく私に欠けていた言葉であろう。
 さすがご主人様、名将のお言葉です!

「それで。敵の負傷兵と陣の様子はどうだ?」
「それが……」
「どうした?」
「どういうわけか、周辺が炎上しているのです」
「む? 昨日の夜襲の火がまだ消えてなかったのか?」

 私は鈴々の方を見る。
 そんなに火が広がるように油をまいたのか?

「鈴々、昨日の夜襲でそれほど火を使ったのか?」
「にゃ? そんなはずはないのだ。柵しか燃えないように調節したのだ。何より、陣全体が燃える量の油なんて用意してないのだ」
「それもそうか……」

 はて? どういうことだ?
 もしや昨日の死体でも燃やしていたのか?

「それと……陣の中央に黄巾の旗ではなく、曹の旗が立っています」
「曹? どういうことだ?」
「わかりません」
「……」

 ……まさか。

「後続のご主人様に至急伝令! 今の状況を細かに伝えよ! また、斥候は陣周辺をくまなく調べろ!」
「はっ!」

 伝令の男が走っていく。
 もし私の想像が間違っているのならばそれで良い。だがその通りだったら――

「関羽様!」
「どうした!」

 先程とは別の伝令が戻ってくる。

「それが……官軍と名乗る軍がこちらに面会を求めておいでです」
「なにぃ……まさか、それは『曹』を名乗っているのか?」
「は、はい……『曹操』と」

 お、おのれぇ!
 私はその場に愛刀である青龍偃月刀を叩きつけた。
 伝令の男がヒッ、と身を竦ませる。

「功を奪っておいてなにが官軍かっ! 敵のいなくなった隙を突いて易々と制圧したということか!」

 私の怒りに、鈴々が不安げな顔をする。

「愛紗……お姉ちゃんにも知らせたほうがいいのだ」

 はっとして鈴々を見る。
 そうだ。もう一人の我らが主、桃香様。
 すぐにお伝えせねば!

「誰かある! 桃香様をすぐここへ……」
「愛紗ちゃ~ん! お客様だよ~!」
「…………」

 わ、私の怒りが、やり場のないこの怒りはドコに……

「あなたが関羽?」

 私の目の前に金髪の女性が立つ。
 その両脇には隙のない武人が周囲に気を配りつつ、こちらを威圧する。

「……貴殿が曹操殿か」

 私の言葉に、彼女の脇にいた黒髪の女性が吼えた。

「控えろ、下郎! 我らが主、曹孟徳様に無礼であろう!」
「無礼だと……!」

 私は、再度湧き上がる怒りに目を吊り上げた。

「無礼はどちらだ! 我らが五日もかけ倒した敵の陣を横から攫うような真似をした相手が!」
「なんだと! 華琳様を侮辱するかぁ!」

 相手は背中の刀を抜く。
 幅広の刀で、本人の実力もかなりのものだろう。
 だが、たかがこそ泥!
 私も手に持つ青龍偃月刀を構える。

「貴様らこそ我々を侮辱するつもりのようだな……この関雲長、貴様らのような漁夫の利狙いの官軍など認めん!」
「貴様……死にたいらしいな!」

 くるかっ!

「やめなさい、二人とも!」

 曹操の言葉で相手が止まる。

「春蘭! 夏候元譲ともあろうものが、簡単に激怒するものではない! 私に恥を掻かせるつもりかしら?」
「い、いえ。そのような!」

 曹操の言葉に、女性――夏候と呼ばれた武人が刀を退く。
 そして私と相手の間に桃香様が立ち塞がった。

「愛紗ちゃん! 曹操さんに失礼だよ! 謝って!」
「桃香様! 悔しくないのですか!?」
「? どうして?」
「ご主人様や朱里や雛里があれだけ必死に考え、五日もかけて落とした陣ですよ!? どうして全て終わった後に乗り込んできた官軍にその功を取られねばならないのです!」
「え……?」

 桃香様は後ろを振り向き、曹操を見る。
 曹操は心外だ、という風に肩を竦めた。

「見損なわないでほしいわね。別に私は貴方達の功績を奪おうとなんて思ってないわ。あそこにある糧食、武器、資材は貴方達のものよ」
「ならば何故、あの陣に旗を立てたのだ!」
「決まっているじゃない。後始末をしてあげたのよ」

 そう言って私の傍に来る曹操。
 後ろで傍にいた青い髪の女性が「華琳様、危険です!」と叫ぶ。
 だが、曹操は止まらない。

「関羽。私たちは功を取りにきたのではない。貴方達と手を組みに来たのよ」

 そういって、手を出してくる曹操。

「手を組む……だと?」
「ええ、そうよ。受けてもらえるかしら?」
「……私が決めることではない。それは桃香様やご主人様が決めることだ」
「あら、そう。じゃあ劉備、先程も聞いたけど貴方は手を組むことでいいのね?」
「えっと……」

 桃香様が逡巡したとき――

「その話はちょっと待ってもらおうか」
「ご主人様!」

 そこにご主人様と朱里が立っていた。




  ―― 曹操 side ――




(この男――)

 私はかけられた声に目を見開く。
 その時、その場にいた黒ずくめの男に驚愕した。
 その、異様な覇気に。

(私と――同種の存在というの!?)

 その男は別段、なんともない男に見える。
 だが、その男が纏っている覇気が……まるで泰山府君(えんま)のような威圧感を持っていた。

「! 姉者!」
「! 華琳様! お下がりください!」

 春蘭も秋蘭も私の覇気に触れたことのある者。
 一瞬で気付いたのだろう。
 この男が危険であると――

「ご主人様!」
「ご主人様!」

 私に相対していた劉備と関羽が、あの男に駆け寄る。
 そう……

「あなたが劉備の言った天の御遣いってことかしら?」

 私は内心の震えを叱咤しながら、平静を装う。
 男は、ほう、と一瞬見下すような目をした。
 それが私の顔を一瞬歪ませる。

「報告に受けた曹操、というのは貴方のようだな。俺は北郷盾二。劉備軍の……参謀のようなものだ」
「参謀……軍師ということね?」
「まあ、そう思ってもらってかまわない」

 男はそういって、私の傍に来る。

「貴様! それ以上、近寄るな!」

 春蘭の怒号に殺気が籠もる。
 だが、男――北郷は涼風を受けたような様子でこちらに数歩、歩を進ませ止まった。

「君が誰かは知らないが、手を組みにきたという割に殺気満載だな。とても友好的とは思えんが?」
「くっ……」
「春蘭、下がりなさい」
「華琳様!」
「聞こえないのか、夏候惇!」
「!」

 私の覇気をその身に受け、春蘭は下がる。

「失礼したわね。我が名は曹操。陳留刺史よ。貴方の名は聞いているわ。公孫賛の四客将と呼ばれた一人ね?」
「……その名が知れ渡っているのか。まあいい。それで?」
「さっきも言ったとおりよ。今は私たちと手を組みなさい。それがこの乱を早く鎮める唯一の道よ」
「ほう……たかが義勇軍に手を組みたい。そうおっしゃるか」

 北郷は、そういって獰猛に笑う。
 まるで猛虎ね……

「ええ。あなたは弱兵で知られた公孫賛の部隊を瞬く間に纏め、客将であるにもかかわらず賊相手とはいえ連戦連勝。その上、ここには関羽、張飛という優れた武人も行動を共にしている。引き込みたいと思うのは当然じゃないかしら?」
「弱兵、ね……白蓮も舐められたものだな」
「仕方ないわよ。公孫賛の評価は『善政は敷けども優政ではない』が大陸の評価ですもの」
「……まあ、当たらずも遠からず、ということにしておくよ。恩を受けた立場上な」

 この男……面白いわね。

「ふふ、面白いわね……貴方、私の下に来る気はないかしら?」
「む? 話がずれていないか? 手を組むことではなかったのが?」
「同じことよ。私の元に来るのならば義勇軍を全て受け入れてもいい。関羽や張飛たちも受け入れましょう。どうかしら?」

 思わず口に出た勧誘の言葉。
 自分でも驚いてはいるけど、実力があるものを引き入れるのはむしろ本意ではある。

「俺だけでなく愛紗たちも、ねえ……」
「それで? 貴方の決定は?」
「ふむ……返答は、すぐでなければダメ、と?」
「当然よ。私は忙しいの。今も他の黄巾党の情報を集めているところよ。すぐにでも動いて討伐しなければならない」
「……なるほど。さすがは音に聞こえた曹孟徳、か」

 ……この男。私の(あざな)を知っている?

「……貴方もさすがね。私の(あざな)はどうやって知ったのかしら?」
「ああ、それは簡単だ。君の事を知っている人間から前知識で教えてもらっただけだからな」
「へえ、誰かしら」
「さてね。だれが書いたか知らない歴史書だろうよ」
「……馬鹿にしているの?」
「いやいや、冗談に思えて本当なんだな」

 歴史書……?

「それも”天の知識”というものかしら」
「ふむ……そう言っても過言じゃないか。俺も言われて気付いたが」
「……どうやら人をおちょくるのが好きみたいね」
「そんなつもりはさらさらないが……まあ、好意から始まっていない外交なんてこんなもんだろ」
「そう……で?」
「ふむ。やはりわかりづらいか。返答は……断る、だ」

 ……もう少し利巧かと思ったのだけど。

「理由を聞かせてもらって良いかしら?」
「ああ。まず第一。君らの兵の弾除け……いや、矢避けと言うべきか? 正規兵の代わりに義勇軍が傷つくような作戦を立てられるのが目に見えていること」
「……」
「第二に、君らは信義にもとるような行為をしている。例え残敵掃討とはいえ、勝ち戦している相手の手柄を横から掠め取るような行為をする者を、信用も信頼もできん」
「……そう」
「第三に、君は『今は』といったな。そして『唯一の道』とも。そうして相手の思考を狭め、都合の良いように誘導する話術をする輩は、大概どこかで裏切るもんだ。俺は裏切りをするのもされるのも嫌いでね」

 裏切る……そう聞いて私の柳眉が逆立つ。

「……それは私の誇りを(ないがし)ろにしていると、とっていいのかしら?」
「君の誇りがどんなものか、俺は知らない。だが、自分に誇りがあるように他人にも誇りがある。それを話術で煙に巻くような言い方をする相手に、誇りを語られても受け入れられんよ」
「そう。じゃあ交渉は決裂ね」
「ああ。残念だが」
「嘘おっしゃい。最初から断る気だったくせに」
「なに、条件次第な部分もあったさ。ただ、そのハードル……高さが異様に高かったがな」
「そう」

 この男は飼えないわね……いずれ潰すしかないかもしれない。

「春蘭、秋蘭、帰るわよ。すぐに兵を纏めなさい」
「ハッ!」
「華琳様、こいつは危険です。今……」
「私の命令が聞けないというの、春蘭!」
「……御意」

 春蘭は、キッ、と北郷を睨むと陣のほうへ引き上げていった。

「ああ、そうだ、北郷。関羽には言ったけど、あの陣にある糧食や資材は好きになさい。手はつけていないから」
「ほう。なら、なんで制圧したのかな?」
「気紛れよ。さっきもあなたが言った残敵掃討して迎える気だったのよ。私としたことが失策だったかしら」
「かもな……まあそれ以外の目的があったんだろうが、それは不発に終わったようだな」

 !!
 ……この男、どこまで知っているのかしら。
 いえ、知るはずがない。ただの邪推ね。

「……なんのことかしらね。じゃあね、またどこかで会いましょう」
「ああ……相対する戦場でないことを祈っているよ」
「貴方って、嘘つきね」

 私はその場を後にする。
 北郷盾二……彼はきっと私の覇道に立ち塞がる。
 そう確信めいた予感が、私の身を震わせた。




  ―― 盾二 side ――




「ふう……」

 俺は息を吐く。
 まいった、あれが曹操、か……
 乱世の姦雄といわれるだけはある。
 魏の初代皇帝か……まったく。
 劉備がいるなら曹操や孫権がいるのも当然だったな。
 もっと早くに気付くべきだった……本当に三国志を適当に読んでいたことが悔やまれる。
 何度目かわからないが、こんなときに一刀がいれば……そう思ってしまう。

「ご主人様……」

 桃香がこちらを上目遣いに見てくる。
 どうした……あ。
 しまった。桃香に断りなく一方的に断ってしまった。

「すまんな、桃香。勝手に断ってしまって」
「ううん。それは……ご主人様が決めたことだし、たぶん深い考えがあるんでしょ?」
「ああ。さっきも言ったとおりだ。相手は官軍。絶対に義勇軍は捨て駒にされる。俺は俺と共に戦った仲間をそんな目に合わせたくはない」
「うーん……でも、あの曹操さんはそんなひどい官軍の人には見えなかったけど……」
「桃香、ひどい官軍ってのは愚かなって意味か? それとも強か(したたか)な官軍って意味か?」
「え……?」
「桃香が思い描いているのは恐らく愚かな方。で、曹操は強か(したたか)な官軍だ。強か、という意味には狡猾という意味もあるのさ」
「…………」
「俺たちが仲間を死なせたくないのと同様に、曹操も自分の兵を死なせたくはない。なら、使い潰せる手駒を増やしたいってことなのさ。傭兵なんてその最たる者。俺はその部隊の生き残りだぜ?」
「! そ、そっか……」
「そういうこと。そんな俺だから権力者ってやつの考えには過敏なのさ。参考になったか?」
「うん!」

 桃香はやっと納得したようだ。

「でも、盾二様」
「うん? なんだい、朱里」
「先程、曹操さんに陣を制圧したのは目的があるとおっしゃっていましたけど……盾二様はご存知なのですか?」
「いや? ただ、あれだけ誇りを気にする曹操が、他者の誇りを汚すような行為を平然とするわけないだろう? さっきも曹操自身言っていたけど失策だよ、あれは」
「では……?」
「さてね。まあ、別の目的があったのはまず間違いがないな。あれだけ聡明な人間だ。何かを探していた……人か、モノか。その両方か。ともあれ、あの様子じゃ手に入らなかったようだがな」
「……あれだけの会話からそこまでの事を。さすがです!」

 朱里の目が、ちょっと狂信的(あぶないぐらい)に輝いている。
 ……そのうち神様とか言われないだろうな。新興宗教の教主なんてやだぞ、俺。

「とにかく。曹操の手勢が敵陣から退いたのを見計らって制圧する。糧食や資材などは見つけ次第、報告! 手をつけるような恥知らずはいないと思うが、厳命しておくからな!」
「「「ハッ!」」」
「よし、雛里もそろそろ戻ってくる頃だろう。合流したら説明は朱里が頼む。愛紗、鈴々は陣内の捜索の指揮を。桃香は負傷者の救護。あと、朱里、近くの邑や街に喧伝するように細作を放て。内容は任せる」
「「「御意!」」」
「さて……次はどうするか」

 俺は撤収しようとする曹操軍を見ながら、今後の行動を模索する。
 それは広い海の上を航行する船のように揺れていた。
 
 

 
後書き
原作では曹操の庇護下に入って1戦したら、平原の相になってました、で終わりな黄巾。

それでは話がつまらな過ぎるので、独自ルートになったのですが……さてはて。

曹操と分かれたためにいろいろな人と出会うかもしれません。
ええ、もうあの人やあの人なんかと……

オリキャラ作るか激しく悩んでます。 
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