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シモン=ボッカネグラ

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第三幕その一


第三幕その一

                   第三幕 官邸の中にて
 騒ぎは収まった。ガブリエレの説得により激昂した民衆は落ち着きを取り戻した。
 パオロとピエトロは捕らえられ誘拐及び煽動の罪で死刑を言い渡された。
 ガブリエレはアメーリアと結婚する事が発表された。この時同時に彼女がシモンの娘であることも公表された。
 ここは官邸の正面の近くにある格間である。そこからジェノヴァの市内が見える。
 港町が今ガブリエレとマリアの婚儀を祝って光で覆われている。そこに誰かがやって来た。
 見ればフィエスコである。士官の一人と一緒である。
「外が騒がしいな」
 フィエスコはふと言った。
「ああ、ガブリエレ殿とアメーリア様のご結婚が決まったのだ」
 士官は言った。彼はここでアメーリアと言った。その為フィエスコは気付かなかったのだ。
「そうか。牢屋から出てすぐか」
「ああ。騒ぎの鎮圧に功があってな」
「ふむ。昨日の夜の騒ぎはそれであったか」
 彼は頷いて言った。
「そうだ。爺さんも察しがいいな」
 士官は笑って言った。
「伊達に今まで生き長らえているわけではない」
 フィエスコは笑いながら言った。
「ははは、それは少し冗談が過ぎるぞ」
 士官はそれを聞いて笑った。
「ほほほ、そうかな」
 彼はそれに対し悪戯っぽく笑った。だが本心は違っていた。
(生き恥をさらしているわけではな)
 彼は心の中で自嘲して言った。
「まあいいさ。これは返すとしよう」
 士官はフィエスコに剣を差し出した。
「あんたは自由だ」
「そうか」
 フィエスコはその剣を受け取った。そして内心思った。
(惨めな自由だ)
 彼にとってそれはシモンから与えられた自由であった。
(よりによってあの男からとはな)
 そこへ誰かが引き立てられて来た。
「おや、あの男は」
 フィエスコはその男達の姿を見て言った。
「ああ、あの二人か」
 士官はその声に答えた。
「今回の煽動の罪でな。死刑になったんだ」
「そうか。自業自得だな」
 フィエスコは二人を見ながら言った。
(思えばあの時もこの連中は民衆を煽動したな)
 彼はふと思った。
(そして今こうして斧で首を落とされるか。愚か者に相応しい結末だな)
 それは奇しくもシモンと同じ考えであった。
「ええい、離せ」
 パオロとピエトロは両腕を押さえる兵士達に対して言った。
「今更何処へも逃げはしない。大人しく断頭台へ出向いてやる」
 二人は吐き捨てる様に言った。
「やれやれ、最後までふてぶてしいな」
 士官はそんな二人を見て言った。
「俺はこう見えても一応貴族でね。あの連中には色々と煮え湯を飲まされているんだ」
「そうか」
「ああ。おかげで顔も見たくないよ。これで失敬させてもらうぜ」
「うむ。ではな」
「ああ。しかしあんたも態度がでかいな」
「それだけは余計だ」
「じゃあな」
 士官はその場を去った。フィエスコは二人と擦れ違った。
「おや、あんたは」
 先にパオロの方から声をかけてきた。
「何だ」 
 それは予想していた。フィエスコはそちらに振り向いた。
「出て来たのか。だが俺達はこうして刑場行きだ」
 ピエトロは皮肉をまじえて言った。
「自業自得であろう」
 フィエスコはそんな彼に対しても言った。
「フン、相変わらずだな」
 パオロはそんな彼を口の端を歪めて笑った。
「まあいいさ。どうせボッカネグラの奴もすぐに俺の後にやって来るさ」
「それはどういう意味だ」
 フィエスコは周辺の兵士達へ顔を向けた。
「少しこの場を離れてくれ」
「しかし・・・・・・」
 兵士達はその言葉に困惑した。
「心配無用。その間この二人はわしが責任をもって見張っておく。この剣に誓ってな」
 そう言うと剣を掲げてみせた。
「そう言われるなら」
 兵士達はそれに納得した。同時に宝石も掴まされた。
「ほんの少しの間でいいからな」
 フィエスコは彼等に対して言った。兵士達はその場を後にした。
「さて、今の言葉だが」
 フィエスコは兵士達がいなくなったのを見届けると二人に対して問うた。
 
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