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メリー=ウイドゥ

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第一幕その七


第一幕その七

「グラヴァリ夫人もまた」
「あのね、男爵」
 ここでダニロは言う。
「僕の哲学は知ってるかな」
「私の専攻は政治学でしたのでそれは」
 首を横に振ってみせる。
「それに閣下は士官学校だったのでは?」
「だからだよ。モットーなんだ」
 こう言い換えてきた。
「女には惚れてもいい。婚約はたまに、けれど結婚は」
「結婚は?」
「絶対にするな」
「面白くないジョークですな」
 男爵はそれを聞いて憮然とした顔になる。
「生めよ満ちよ」
 それから聖書の言葉を出してきた。
「そうではなかったのですかな?」
「確かね」
 唯物史観でも何でもないがその言葉にもとぼけてきた。
「それでも僕は自分からは動かないよ」
「それはまた困ったことです」
 目を顰めさせ憮然とした顔で言う。
「こうしたことは御自身から」
「そうだったかな」
「そうなのです。ですから」
 何とかダニロに言わせようとする。かなりの努力と忍耐を使って。
「ここは」
「どうしろと?」
「最後まで言わずともわかる筈ですが」
「いや」
 男爵の言葉にまた首を振る。
「わからないけれど」
「御冗談を。いいですかな」
「おっと、またお客さんだ」
 男爵にとって都合の悪いことにまた客が来た。パリの踊り娘達である。
「マキシムの娘達だよ」
 ダニロは笑顔で男爵に説明する。
「僕の行きつけのね」
「左様ですか。これはまた」
 あでやかな美女達ばかりである。そうしてにこやかな笑みをたたえている。
「さあ、男爵」
 ダニロは彼にも声をかける。
「卿も踊り給え」
「いえいえ、私は」
 ここで彼は誇らしげに言ってきた。
「妻がおりますので」
「それでいいのかね」
「はい、そうです。だからこそ」
「だといいがね。じゃあ僕は」
「どうしますの?」
 ここでまたハンナが出て来た。
「御婦人が大勢いらっしゃいましたけれど」
「さて」
 ダニロは彼女に対してとぼけてみせる。
「どうしましょうか」
「一人空いていますが」
「それは皆さん同じこと」
 またそう言ってとぼける。
「では。誰にしようか」
「これは抜け駆けではありませんな」
「そうですな」
 四国の者達はお互いそう言い合って必死に美女を物色していた。
「誰がいいのか」
「さて、選り取りみどり」
「全く」
 カミーユはそんな彼等を見てシニカルに笑っていた。
「やはり余所者にはフランスの美女に溺れてしまうようだな。慣れていないとそれに溺れる」
 笑いながら言う。
「僕のように全てを遊ばないとね」
「いやいやこれはまた」
「お美しい」
 その前で四国の者達は相も変わらず楽しい思いをしようと躍起になっていた。
「実は我が国はですな」
「貴国とはかねてより」
「ああした欲の皮が突っ張った方々はともかくとしまして」
 男爵は妻を隣に置きながらダニロにまた言っていた。
「閣下、貴方は是非共」
「政治的な理由でかい?」
「といいますと」
「確かにね。僕は貴族だ」 
 政略結婚が当たり前の社会である。これは今でも同じだ。
「しかししがらみはできるだけ減らしたいとも考えている」
「それでは閣下、伯爵夫人とは」
「気楽にいきたいんだよ」
 そう男爵に述べる。
「わかったかね、それで」
「まあそうね」
 それを聞いてハンナも言う。
「私は政治はどうも」
「ちょっと、奥様」
 男爵はハンナまでもが言い出したのでいよいよ慌てだした。
「そんなことを仰られると」
「お待ちになって下さい」
 しかしハンナはそのにこやかな笑みでまずは男爵を制止してきた。
 
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