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メリー=ウイドゥ

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第三幕その三


第三幕その三

「私の勝ちね、いいわね」
「じゃあそれでいいよ」
 ダニロも笑ってハンナに言葉を返す。
「それでね」
「そうね。じゃあダニロ」
「ハンナ」
 二人はカードを置いて笑みを見せ合う。もう言葉は必要なかった。
「これからは二人で」
「色々あったけれど」
 全てが決まった。そうすると部屋の中に皆雪崩れ込んできたのだった。
「やあやあ、やっと決まりましたな」
 男爵が満面に笑みを浮かべて二人のところにやって来た。そうして言うのであった。
「閣下、お見事です」
 ダニロに顔を向けて言う。
「これで公国は救われました」
「そう、そして男爵」
 ダニロは笑って男爵に声をかけてきた。
「あの時部屋にいたのは彼女ではなかったんだ。それはね」
「閣下」
 ここで秘書が出て来た。
「どうしたんだい?」
「これがあの部屋で見つかったのです」
「それは」
「あっ」
 それは扇であった。男爵夫人はその扇を見て声をあげた。
「私の」
「これは妻のだ。だとすると」
「あなた」
 しかし男爵夫人はしれっとして夫に対して言ってきた。
「浮気をしていたのを詫びるつもりかい?」
「いえ、ほらここを」
 夫に対して扇を広げてそこに書いてある文字を見せてきた。
「御覧になって下さい」
「むっ、これは」
 そこに書いてある文字は。こうであった。
「私は貞淑な人妻です」
 男爵はその言葉を読んだ。
「というと」
「そうです、私を信じて頂けますね」
「うん、勿論だとも」
 扇を妻から受け取って応える。
「こんなことだったとは」
「やれやれ」
 カミーユは何か全てが幸せに終わったと見て安堵の溜息をついてきた。
「今日は大騒動でしたね」
「全くです」
 日本の外交官が言った。
「しかもお株は全部奪われ」
「我々が貰ったのは」
 アメリカの外交官が続く。
「宴でのお酒だけ」
「しかしまあハッピーエンドを見れたのは」
 中国の外交官は苦笑いを浮かべていた。
「よしとしますか」
「しかし今回得られた教訓は」
 ロシアの外交官は薀蓄をたれてきた。
「とても大事なことですな」
「そうです」
 ハンナは皆に囲まれて優雅な笑みを浮かべて述べてきた。
「女を知ることは非常に難しいのです」
「僕達男を悩ませる」
 ダニロは苦笑いを浮かべてハンナ、自分の妻に顔を向けたうえで言った。
「女の心も身体も知ることは難しいもの」
「そう。それでも」
「優しい娘さんもおしとやかな奥様も」
 皆それに合わせて言い合う。何時しか皆の手にはシャンパンがある。あれ程あれこれと抜け駆けだの何だのと言っていた四国の者達もカミーユも踊り娘達も公国の者達も皆シャンパンを手にしていた。
「青い目をしたブロンドの美女も赤い髪の毛でも黒髪でも」
「皆同じこと」
「男は皆虜にされる」
「されど」
 ダニロはここで言ってきた。
「虜にされ、迷うことこそがこの世で最大の悦び」
「さあ皆さん」
 ハンナが音頭を取る。
「今こそ」
「ええ」
「乾杯!」
「乾杯!」
 こうして華やかな宴にまた入った。ダニロとハンナは何はともあれ収まるべき鞘に収まったのであった。そうして二人で楽しい日々の幕を開けたのであった。


メリー=ウイドゥ   完


                   2007・5・11
 
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