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領主は大変

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第一章

                   領主は大変
 ヒルデスハイム辺境伯が突如落馬して死んだ。それを受けて嫡男であるグレゴール=フォン=ヒルデスハイムが跡を継ぐことになった。だが。
 次の辺境伯はまだ十五歳だった。その若さで辺境伯領の統治をすることになった。
 新しい伯爵は爵位を受け継いでその日に政治を見た。そして大いに驚くことになった。
「これはまずいね」
「どうまずいと思われますか」
「お金がないよ」
 領地の財政の話だった。
「何の使ったんだい」
「戦にです」
 代々伯爵家に仕えているオッフェンバッハ男爵が答える。謹厳な顔に黒い髪と髭を持つ中年の男である。
「それに使いました」
「そういえば今東から来ているね」
「はい、異教徒達が」
「騎馬民族で強いね」
 伯爵も難しい顔で言う。
「その彼等との戦いでかい」
「かなりの予算を使いました」
「それでないんだね」
「左様です」
「困ったね。赤字ではないにしても」
 幸いそこまで財政は悪化していなかった。だが苦しいのは確かだ。
 だから伯爵は困った顔で己の席でこう言ったのだった。
「これじゃあ何も出来ないよ」
「この状況をどうされますか?」
「そうだね。お金がないなら借りるしかないね」
「借金ですか」
「何処か貸してくれるかな」
「メゾッソ家が貸してくれますが」
 伯爵がいる帝国の南方の大都市を拠点とする大商人だ。貿易に金融で儲けており金も貸してくれるのだ。
 男爵はその家の名前を出す。伯爵もそれを聞いて頷きかけた。
 だが机の上の一枚の書類を見てこう言った。
「いや、ここに父上がメゾッソ家に借金をした時の話があるけれど」
「それがですね」
「あるけれど利子が凄いね」
「メゾッソ家は気前よく貸してくれますが利子が高いことで有名です」
「これは酷い、借りたら後が大変だよ」
「先代も返済に苦労されました」
「領地を売らないで済んでよかったね」
 証文もあるがそこには金の返済だけで済んだとある。だが、だった。
 多くの金を支払っている。それは伯爵が見たこともない額だ、それで男爵に対してややシニカルにこう言ったのである。
「メゾッソ家が大きくなった理由がわかったよ」
「はい、利子が凄いので」
「踏み倒せないよね」
「皇帝から直接爵位も戴き法皇も後ろにいますが」
「とても無理だね」
「この辺境伯領なぞ何でもありません」 
 歴代法皇の一人も出している相手だ、一領主がとても相手になる存在ではなかった。
 それで男爵も言うのだった。
「踏み倒せば地獄が待っています」
「問題外だね。それじゃあ」
「メゾッソ家からは借りませんか」
「借金自体を止めよう。ここはね」
「税金をあげますか?」
「そんなkとをしたら反乱が起こるよね」 
 伯爵は若いがそんなことをしたらどうなるかよくわかっていた。
「問題外だよ」
「その通りです」
「異民族は気になるけれど今はどうしているかな」
「とりあえずは大人しい様です」
「なら領地の境の警戒はそのままにして」
 そのうえでだというのだ。
「今は内政に専念しよう」
「そうして収益を挙げられますか」
「まず畑を開墾して」 
 最初はそこからだった。
「それにね」
「そのうえで、ですね」
「堤防に水車も充実させて災害に備えて農民の仕事を楽にさせよう」
「それが結果として収穫量をあげるからですね」
「そう。今は予算がないから」
 とにかくそれはない、だからこそとりあえずは内政を充実させて収入を上げる方針でいくことにしたのだ。 
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