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肉じゃが

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第一章

                    肉じゃが
 ある日のことだ。その時体調がよくなかった東郷平八郎は周りの者達にこんなことを言った。
「懐かしいものを食べたいものだ」
「懐かしいもの?」
「といいますと」
「英吉利にいた時に食べたものだが」
 その国への留学の時のもの、即ちあちらの料理だというのだ。
「ビーフシチューだ」
「ビーフシチュー!?」
「といいますと」
「牛肉にジャガイモに」
 東郷はまず素材を挙げていった。
「玉葱、それに人参だ」
「そうしたものをどうするのでしょうか」
「切って鍋に入れて煮る」
 次には調理方法も語った。
「そうした料理だ」
「牛肉にジャガイモですか」
「それに玉葱に人参ですか」
「カレーと同じ材料ですね」
「しかしカレーではない」
 東郷はこのことは断った。海軍ではとかくカレーをよく食べるのでそれではないことは念を押してそうしたのである。
「それではない」
「カレーではないですか」
「そのことはですね」
「わかっていてくれ」 
 また念を押した。
「だが材料はだ」
「はい、そうしたもので」
「そして煮るのですね」
「その通りだ」
 こう周りに話した。そしてだった。
 このことが給養にも伝えられる。話を聞いた給養班の面々はまずは頷いた。
「わかりました、牛肉ですね」
「それにジャガイモ」
「玉葱、人参ですね」
「切って煮るのですか」
「ああ、素材はそうする」
 給養班の曹長はこう兵達に話した。
「それで鍋で煮るからな」
「わかりました。じゃあ肉も野菜も切ります」
「そうしますね」
「頼んだぞ。それとな」
 曹長は兵達にさらに言った。
「調味料だが」
 ここで彼は勘違いをしてしまった、そのうえで兵達にこう言った。
「醤油とな」
「それですか」
「あと味醂だ」 
 和風だった。彼は彼の料理への認識から兵達に命じていった。
「砂糖に塩だ。肉の匂いを消していくぞ」
「はい、わかりました」
「それじゃあ」
「肉は細く薄い感じの方がいいな」
 曹長は肉の切り方についても命令を出した。
「ジャガイモだからじっくり煮るぞ」
「はい、わかりました」
「じっくりですね」
 給養の兵達も敬礼で応えそうしてだった。
 彼等は調理にかかった。その出来上がったものを見て皆会心の笑顔で言ったのだった。
「これはいけますね」
「滅茶苦茶美味いですよ」
「ビーフシチュー、はじめて作りましたけれど」
「これはいけますよ」
「司令も喜んで頂けますね」
「ああ、肉だけじゃなくて野菜もかなり入ってるからな」
 曹長も会心の笑顔だった。
「これはいけるな」
「じゃあお出ししましょう」
「司令に」
 こうしてその和風の料理が東郷の前に出されることになった。食事の時に士官室において出された、だがそれを見て。 
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