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ロミオとジュリエット

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第三幕その六


第三幕その六

 そこに黒い髪と髭を持つ厳しい顔立ちの長身の男がやって来た。漆黒のマントに上着、ズボン。靴まで黒であった。それが余計に威圧感を周りに与えていた。
「閣下」
「どうしてこちらに」
「騒ぎと聞いて急いで参った」
 ヴェローナ公爵エスカルスは両家の者達を見据えて述べた。
「では話を聞こうか」
「はい」
 まずはキャブレット卿が一礼して述べた。
「私は甥を殺されました」
 横たわるティボルトの亡骸を指し示して説明する。
「そこにいるロミオによって」
「まことか?」
 公爵はロミオに問うてきた。
「はい」
 ロミオも一礼してそれに答えて真実だと認めた。だがそのうえで述べた。
「ですがこの者は我が友人マーキュシオを殺したのです」
「ほう」
「何よりの証拠です、ほら」
 彼もまたマーキュシオの亡骸を指し示した。
「御覧になって下さい」
「確かに」
 公爵はマーキュシオの亡骸も見た。二人共血の中で横たわっていた。
「だがそなたはティボルトを殺したな」
「ええ」
 それをまた認めた。
「またしてもだ。キャブレット家もモンタギュー家も争い続ける。それを止められぬか?」
「それは」
 それには誰も答えられなかった。
「止められぬのならば私が断を下す。ロミオ」
「はい」
「そなたの罪は殺人だ。これは死刑に相当する」
「はい・・・・・・」
 ヴェローナの法は彼も知っている。彼は今それを受ける覚悟をした。
「だがそなたは喧嘩を売ってはいないな」
「はい」
 それも認めた。
「証人は」
「私達です」
 モンタギュー家の者達が名乗り出てきた。
「しかと証言致します」
「ロミオ様はむしろ戦いを止めようとされました」
「そうか。ではわかった」
 それを聞いたうえでまたロミオに顔を向けてきた。
「それではそなたは罪一等を減じ追放とする」
「はっ」
 一礼してそれを受ける。
「それでよいな」
「わかりました」
「しかしだ」
 ここで公爵はそれぞれの家の者達を見やった。
「そなた達は飽くことを知らぬのか。何時までも争う」
「それは」
「ここで誓うのだ。神と領主の定めに従い二度と争わぬと」
「二度と」
「そうだ。次にこのようなことがあれば私にも考えがある」
 彼も我慢の限界であったのだ。
「よいな」
「わかりました」
 ロミオとモンタギューの者達は嫡子の追放によりそれを受けるしか心に余裕はなかった。だがキャブレット卿は違っていた。
「公爵様、ですが」
「異論は許さぬ」
 公爵は卿を見据えて言った。
「例えそなたでも。よいな」
「くっ・・・・・・」
「枢機卿殿にもお伝えしておこう。このことはな」
「枢機卿様にもですか」
「そうだ」
 彼は神の力を使ってでも争いを終わらせるつもりであったのだ。今それをはっきりと言ってきた。
「わかったな」
「はい・・・・・・」
 枢機卿を出されてはキャブレット卿も従うしかなかった。彼は教皇派であるからだ。それでどうして教会に従わずにいられようか。無理であった。
「以上だ。では」
「だが忘れはせぬぞ」
 それでもキャブレット卿は怒りと悲しみを隠してはいなかった。
「このことは何時までも覚えておく」
「こちらもだ」
 モンタギュー家の者達もまた同じだ。沈み込むロミオは別として両家葉またいがみ合いはじめた。
「これをどうにかせねば」
 公爵はそんな彼等を見て憂慮を禁じ得なかった。
「ヴェローナは。収まらぬ」
 彼は今両家の対立により乱れるヴェローナを憂いていた。だがその憂いは今のところ尽きる気配がなかった。憎しみはいつまでも続く。残酷な運命であった。
 
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