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笑顔と夢と偶像

作者:qwerty
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第1話 遭遇

 
前書き
取り合えず触りだけ
メインは五代君でいきたいと思ってます
 

 
五代雄介は、暴力に向かない男である。
彼は、誰かの間違いを正す際も、誰かが心無い事を言った時でさえ暴力を行使しなかった。
彼が暴力を使うのは、誰かの笑顔を守るのにどうしても必要な時だけだ。
そして数年前。
彼は暴力を行使せねばならない場面に遭遇した。
未確認生命体と銘打たれた生物が無差別に殺戮を繰り返したのだ。
そうなった時、彼は迷いはしなかった。
皆の笑顔を守る為に、仮面の戦士となり暴力を使い未確認生命体を殺め続けた。
己の心を犠牲にして、仮面の下に涙を隠しながら。
そんな意地と言う名の仮面など、最後まで持つわけが無く。
戦いの果て、彼は笑顔を失った。
笑顔を宝とする男が、側に居る友も省みず涙を流したのだ。
其処には、どれ程の苦悩が、どれ程の葛藤があったのだろうか?
彼にしか解らない事だ。
しかし、解る事はある。
そういった経験を経たからこそ、彼は笑顔を更に大切にする様になった。
笑顔の大切さを一層強く実感した。
だからこそ、そう、だからこそ。
彼はこの話も引き受けたのかも知れない。
例えソレが

「ティンときたああああああああああ!!!!」

明らかに怪しい黒ずくめの初老の男性が相手であっても。













「はあ・・・・・・・はあ・・・・・」

バイクを止め、顔を隠す為の仮面を被る。
そして手近にあった積まれたビールケースに足を乗せた。
乗せた足に体重を預けると、両手を日除けの屋根に持っていく。
その後両手を軸にして、体を宙に浮かせた。
日除けに足を掛け、腹筋に力を込めると、日除けにその身を降ろした。
そして、屋根に面したベランダの縁に指をかけ、ベランダに飛んだ。
見知った窓を開け、中に入る。
瞬間、家庭用の蛍光灯の照明が彼の顔を照らし出した。
いや、正確には顔に付いた何処かの民族の仮面を、だ。

「ふんふんふーん♪」

鼻歌が聞こえる方向に、足を運ぶ。
音は段々大きくなっていき、遂に彼はその姿を見つけた。
楽しそうに、食器を弄っている中年の男性。
仮面の男は彼に近付いて、徐に両手を上げた!――

「おう雄介、帰ってきてたのか。おかえりー」

――所で、妙に間延びした声を掛けられた。
男は特に驚いた様子も無く仮面を外すと、彼の目の前に差し出した。

「只今、おやっさん。あ、これお土産ね」

仮面の下から現れたのは、柔和な顔立ちの青年だった。
太っている訳では無いが、全体的に柔らかな印象を与える顔の造りに、顔全体で表した笑顔が良く合っている。
深く刻まれたえくぼが、その笑顔の年月を物語っていた。
感じが良い。
それが殆どの人間が、彼に持つ印象だろう。
五代雄介。
それが、彼の名前だった。

「はいはい、お。これはチョモラマンの近くの・・・・・」
「うん、登った記念に買ってきたんだ」

相も変わらず目の潰れるほどの深い笑みを浮かべたまま、五代は彼に仮面を手渡した。
指や掌に浮かんだ傷や凍傷が露になる。

「そうかー、遂に雄介もチョモラマン制覇したかー。
よし、それじゃあ今日は僕が若い頃チョモラマン制覇した話でも・・・・・」

それを、あえて聞き出そうとはしなかった。
冒険の凄まじさを、彼は知っているからだ。
だから、話すまでは聞かない。
彼は、そういった事が自然に出来る男だった。
いや、もしかしたら自分の事を話したいだけかも知れないが。

「それは・・・・・また今度ね。所で俺に会いたいって人は?」

長年の勘という奴だろうか。
殆ど反射的に流れを五代が遮った。

「おおそうかそうか、お客さんなら下に居るよ。
 早く会いに行ってあげなさい。
 いや、本当は言うつもりは無かったんだけどさ。
 もうエベレストの話もチョモラマンの話もしちゃっててさー
 あ、ちなみに実はエレベストじゃ無くて正しくはエベレストって言うって知ってた?
 いや間違い易いんだよね、雄介位の歳の子はね。他にもさ・・・・・・」

一気に捲くし立て、彼が気が付いた時には五代が階段を下りた後だった。

「・・・・・・・・・・・・相変わらず、急いでるな」

後にはおやっさん。飾玉三郎と、仮面が残された。
嘆息し、右手に持った仮面に気が付いたのか、視線を落とす。
被ってみた。
近くの鏡を見た。

「・・・・・・・・・・・意外に、似合ってるな」






階段を降りて、先ず始めに目に止まったのは、カウンターに面した席で、一人この店――ポレポレ――特製のコーヒーを飲んでいる男性だった。
影で顔が良く見えないが、スーツをキッチリ着こなし、顔が見えないお陰か清潔感のある好々爺だった。

「こんにちは」
「む、ああ。どうも」

階段を降りきると、カウンターの向こうに立ち、五代は男に話しかけた。
見知らぬ男に話しかけられる事に、最初は怪訝な顔をした男だったが。
彼の笑顔を見た事と、カウンター側に立っていた事から安心したのか、直ぐに微笑で挨拶を返した。
そういった行動も、好々爺の印象を強める。

「あ、遅れちゃいましたけど。俺、こういう者です」

五代は懐から名刺を取り出し、男に手渡した。
其処には流れる様な字でこう書かれていた。

「夢を追い続ける男、2012の技を持つ男。五代雄介・・・・・・・おお! 君が!」

興奮の余りか、名刺を見ると立ち上がって興奮した顔付きで五代を見た。
衝撃に押された椅子が、地面と衝突し音を立てた。

「はい! はじめまして。それでどうしたんですか? 俺に会いたいって」
「む?あ、ああ。それなんだがね」

言われ、少しは落ち着いたのか。
椅子を直し、付きっ放しだった店のテレビに視線を滑らせた。

「君は、アイドルという職業についてどう思うかね?」
「はあ、アイドル・・・・ですか」
「うむ、率直な意見を聞かせてくれ給え」
「そうですね、うーん」

男の視線の先には、何かの音楽番組が映っていた。
其処では、笑顔の少女が歌を歌っていた。
もしかしたら今流行しているアイドルなのかも知れないが、五代には良く解らなかった。
そもそも、旅先でそういった情報を入手する事は難しい。
精々が、大物グループの海外公演のチラシを見る位だ。
そんな程度の興味しか持っては居なかった。
だが

「やっぱり大変なんだろうけど、凄く素敵な仕事なんだろうと思います」


それと、好感の問題は、又別の話だ。
そもそも、五代はそういった職業の人間に、尊敬に近い感情を抱いている。
何故なら

「ほう、薬に売春、八百長に裏切り。
 ぱっと思いつくだけでも芸能界にはコレだけの汚いイメージがあるというのに、かね?
 それなのに君は何故、素敵な職業だと言えるのだね?」
「だって、誰かの笑顔の為に頑張れるって凄く素敵な事じゃないですか」

彼女達は、自分の憧れを、実行している人間だと思えるからだ。
五代にも、一定の音楽の心得はある。
それを芸として周囲の人間を笑顔にした事もある。
そういった事をより広い規模でする彼女達を、五代は素直に尊敬していた。

「俺がこの子位の歳の頃は、そんな事絶対に出来ませんでしたよ。
 いやー、神崎先生に会ってなかったらどうなってたかな、あの時の俺
 あ、神崎先生って言うのは俺が小学校の時の担任の先生なんですけどね?
 もうそれがすっっっごく素敵な先生で・・・・・」
「う、うむ。それは良いから続きを聞かせてくれ給え」
「あ、話逸れちゃいましたね。すいません」

気を悪くする様子一つ無く、五代は笑顔を浮かべた。
笑顔と共に見ると、テレビの向こうの少女を見る目が、優しい物である事が解る。

「昔、俺がその神崎先生に言われたことなんですけどね。
 どんな時でも誰かの笑顔の為に頑張れるって凄く素敵な事だと思わないかって。
 勿論、俺も今でもそう思います。
 だから、そういう噂を聞いても、あんまりイメージ悪いとかは無いですね」
「愛想を尽かしたりは・・・・・しないのかね?  
 最近はアイドルの問題も多数出てきている。そういった事に対して」
「うーん・・・・・・・・・まあきっと大丈夫ですよ。
 だって俺も、ファンだもん」 

言い切り、笑顔と共に親指を力強く立てた。
立てた親指を突き出し、男に見せ、えくぼが出来る程の笑顔を作った。

「・・・・・・・・・」

それを聞いた男は目を見開いたかと思うと、肩を小刻みに震わせ始めた。
顔を下に向けた所為で、表情を伺う事が出来ない。

「あの、お客さん?」

それを体調の悪化と思ったのか、カウンターから出てきた五代が男の側に立ち肩を叩こうとして。

「ティンときたああああああ!!!」

驚かされた。
立ち上がった男が、五代に向き直る。
そして男は鼻息荒く、先程よりも力強い口調で五代に詰め寄った。

「君は、プロデューサーをやってみる気は無いかね?」
「プロデューサー・・・・・ですか。あの、失礼ですが貴方は・・・」
「おお、これは失礼。紹介が遅れてしまったね。
 私は・・・・・・こういう者だ」

懐から名刺を取り出し、五代に手渡した。
五代は名刺を受け取ると、すかさず其処にある文字に視線を滑らせる。

「えっと、CGプロダクション社長。高木順一郎・・・・・・社長さんだったんですか!
 凄いじゃないですか!」

文字を確認し、五代は目を輝かせて高木を見た。
其処に媚びや好奇の色は無い。
純粋な尊敬の眼差しだった。

「いやいや、そう凄い物では無いよ。
 部下に仕事を任せてこうして暇潰しに来ている只の道楽爺さ」
「けど、やっぱりそういう仕事をしてるって、凄く素敵な事ですよ。
 それで、プロデューサーをして欲しいって言うのは・・・・」
「ああ、それなんだがね、君には彼女達を支えて貰いたいのだよ」
「支える・・・・・・プロデューサーとしてって事ですか?
 でも俺、音楽なんてそんなに詳しく無いですよ」

精々が、ストンプを出切る位だ。
そんな素人に毛が生えた程度の人間を、態々選ぶ理由が解らなかった。

「勿論ソレもある。だが君には精神的にも支えて貰いたいのだよ
 私もこの業界には長く居る、夢破れ、去る者を多く見てきた。
 才能の有無。努力の不足。仲間同士の不和。
 様々な理由があったが一番多くあったのは第三者の悪意による物だった
 そしてそういった者は・・・・・決まって笑顔を失くすのだよ」
「・・・・・・・・・」

聞いて。五代は、顔を顰めた
同じ人間同士、きっと分かり合えない筈など無いのだ。
ソレが、どうして仲良く笑顔を振り撒く事が出来ないのか。
それが、五代には解らなかった。

「君にはそういった悪意から、守って欲しいのだよ。彼女達の笑顔を!」

五代が返事をするよりも早く、高木は五代から離れた。
膝を着き、地に手を付ける。
何をするかが解り、止めようとした五代だったが、ソレよりも早く高木が捲くし立てる。


「君が冒険が大好きで、一定の箇所に止まれない人間だという事も知っている!
 しかしそれでも声をかけたのは、君しか居ないと思ったからだ!
 可能な限りは君が自由になれる時間も作る!
 軽い旅行くらいなら出切る筈だ、私はもう彼女達のあんな顔は見たくないのだよ! だから頼む!」

とうとう地に額まで着け、高木は言った。

「彼女達の笑顔を守ってくれ! 五代雄介君!」

静寂が、辺りを支配した。
先ほどまでの喧騒が嘘の様な静けさだった。
やがて、耳の痛む様な静寂を破ったのは一つの足音。
五代が高木に近づく音だった。

「顔、上げて下さい。高木さん」

目線を合わせるためかしゃがみこみ、高木の肩に手をかけた。
そして顔を上げた高木の目に飛び込んできたのは、力強く突き出された五代の親指だった。

「んん? 何だね、それは?」
「これ、自分の行いに納得している者だけが取っていいポーズだって神崎先生に教わったんです。
 だから俺、いつもこのポーズをしてたい。中途半端はしたくないんです」

中途半端はしない。
それは、一度言った事に対してのみではない。
笑顔を守る事に、過去の誓いに。
そして、他人と関わる事に対してだった。
自分で持っていたこの持論も、五代は大切にしてきた。
そして話を聞いた時点で、五代は彼に関わっていると考えているのだ。
それに、彼がアイドルの話をした時の苦しそうな表情を、五代は見逃しては居ない。
ならば、半端な真似はしない。
アイドルと高木の笑顔を守り、最後まで関わる。
それが彼の決めた事だった。

「おお! では」
「はい。俺、決めました! 
 高木さんもアイドルの子達も皆に笑顔で居てほしい・・・・・だから」

多分何度問われても、彼はこの道を選ぶ。
大好きな冒険を我慢してでも。
大好きな人間の汚いところを見せ付けられて辛い目に会おうとも。
皆の笑顔を守りたいから――だから。だからこそ。
出てくる言葉は、”あの時”と似た物だった

「見てて下さい。俺の・・・・・・プロデュース」 
 

 
後書き
取り合えずプロデュースする子は有名所から取ってきます。
共通点は余り考えないかも知れないです。ご了承下さい。
 
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