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なりたくないけどチートな勇者

作者:南師
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18*一難去って

自分が起きたらベットはいつもよりふかふかで、目の前には見知らぬ天井があった。
当然自分はこれを疑問に思う訳である。

しかし、そんな疑問も吹き飛ばす珍現象が自分の前で起きている。

『おハロー、もう夕方だけど。』

寝ている自分にあの疫病神が馬乗りになっているのである。
それを見た自分が真っ先にする行動は当然

「死にさらせ!!」

シュバッ!

渾身の右ストレートである。
だがしかし、それは当たる事は無く、ただ空を切るだけであった。

いや、正確には当たったが、奴の頭を通り抜けたのだ。

『ふっふっふ、これは私の分身、幻、神の奇跡!君の攻撃など当たらない!』

くそう!いつになったら自分はこいつに一矢報いる事ができるんだ!

……と、ひとしきりふざけたところで。

「んで、今回は何用さ。」

また問題事持ってきとらんだろうな。

『んー、しいて言うならお見舞い?』

は?
お前が?
ありえん。

『………てい。』

ゴッ!!

「おぶっ!?」

い、いたい。
何、何か頭にかったい物が落ちてきたんだけど。
我が親友によるジェノサイドディクショナリーボンバー(広辞苑の角による打撃)並に痛かったんですが、一体なんすか。

『お見舞いの品。』

お見舞いの品を頭に落とす奴がありますか!!
すっげー痛かったんですけど!!
しかもこれさ、ホントにお見舞い?
だってこれさ…

自転車じゃん。

『そ、自転車。』

いやいやいや、なんで自転車?
しかもこのマウンテンバイクは毎日自分が登校に使ってた愛自転車と同じ型だし。

……よく首の骨折れなかったな。

『だからいったしょ、人間は強い種族だって。』

いやそーだけども。
てゆーかなんでいきなり自転車?
しかもこれも徹底して真っ黒だし。
自分のはもっと青いかったよ?

それにこんなものプレゼントなんて、なんか裏がある気がぷんぷんすんですが。

例えば先の戦争の引き金をお前が引いたとか。

『…………………………いや、それは無い。』

……その間はなんだ?
まさかマジでやったのか?
そして目を逸らすな。

『いや、戦争の引き金は私では無い。』

引き金は?
じゃあそれ以外とかか?

『…………思いの外霊域が強くなって、障気が少し漏れちゃってた。』

なんぞ、その障気とはなんぞ。

『……人を欲望のままに動かす、そんな感じな魔力の亜種。これにとりつかれると欲望に任せて突き進むようになって、最後はだいたい狂う。しかもなまじ魔力だから無駄に力がつく。』

……つまり?

『…………あの気違いが暴走した原因。……テヘッ☆』

こんの疫病神がぁぁ!!

『だ、大丈夫。漏れた障気は全部あいつにとりついたから全部君がぶった切ったし、元栓締めたからもう漏れない!!』

なぜ元栓がゆるんだ?

『……………………間違えた。』

はぃ?

『4年くらい前に霊域付近の様子を見ようとして間違えて一瞬封印に小さな隙間作っちゃってさ、多分そんときに…………あは、あはははは。…………すいません。』

そう言って深々と頭を下げる自称神様。
そんな彼女に自分はやさしく

「よし、死ねカスクズマヌケアンポンタン。いますぐ死ぬか自分をもとの世界に戻せ。はたまたお前が霊域なんとかしろ。てゆーかお前が引き金の四分の三引いてんじゃねーか。」

罵声を浴びせます。

『うぅ……、今回ばかりは言い返えせない。』

ヨヨヨ、と泣きまねをする疫病神。
あくまでまね、実際泣いてない。

しかし、思いの外早く一矢報いる事ができたな。

「泣きまねやめい。」

『うう、でもでも、迷惑かけたお詫びに自転車あげたしょ!君のをもとに創った特製の自転車だよ!錆びない壊れない転ばないの理想の自転車だよ!!時速500キロまでなら堪えれるんだよ!!』

そんなに走れねーよ。
つか、音速越えてねーか?

『いや越えてないよ。学がないねぇ。』

うるせー!!
付け上がるな疫病神!
比喩だ比喩!

『そーゆー事にしといてあげよう。』

こいつ…

……まぁ高スペックな自転車貰えてうれしいけどさぁ………
なんか納得いかないなぁ……
特に人の揚げ足取りするところとか。

『うぅ……あ、そーだ!よく君は他人に能力使わせれるように工夫できたね。私でも思い付かなかったのに。』

なんか、無理矢理話題を変えようとしてるよーに思うのだが………
まぁいい。

それよりあれね…
正直自分もまさかあそこまで出来るとは思ってなかったんだけどねぇ……


************ロ☆


「ちょい付き合え、実験したい事がある。」

自分はそうエリザに言うと、朝食もそこそこにエリザと近衛隊を引き連れて砦の外へと出て行った。
その道中、自分はポケットからカードを取り出し、自分以外の人も使えるようなイメージをカードに送っていた。

「で、実験とはなんだ?」

「んー、自分の能力を他人が使えるよーにできんかなーって。……よし。」

エリザの質問に対して自分はテキトーに答え、とりあえず試作品を完成さした。
そしてそれを近くにいたテトラ君にわたす。

「ほれ。」

「…え?なんですか?」

渡されたテトラ君は、よく意味がわからずにうろたえているようだ。

「あのな、これは……」

そして自分はテトラ君以外に聞こえ無いような小さな声で、使い方を説明した。
ちなみに、こっそり話す理由はその方が面白そうだからだ。

「わかった?」

「はぁ……わかりましたが、ホントに大丈夫なんですか?」

むぅ……うたぐり深いねぇ。

「大丈夫かどーかを試す実験なの。んじゃ誰かテトラ君に魔法を軽ーくぶっ放しちゃってくんね?」

そう言って自分はテトラ君から離れる。
もとい避難する。

だって巻き添えはいやだもん。

「……それは戦争直前に、わざわざ味方が負傷する危険を犯してまでやる価値はあるのだな?」

……そういやそーだね。
戦争前に味方が怪我したらやだもんね。

でも、まぁ…

「価値はあるよ。成功したら自分が居なくても君らだけで魔獣の処理が出来る。」

そう言うとみんな驚愕の顔をした。
そんなに驚くものかね。

「あ!もしかしてそれってこの前魔獣を殲滅した時使った魔術符ですか!?」

しばらくの沈黙の後、一気にテンションMAXになったミミリィ隊長が指をさし叫んだ。

「いや、魔術符なんて大層なもんでねーよ。」

つか魔術符って何?
お札的な物か?

「でも実験が成功したらそれを私達も使えるんですよね!?」

「うん、多分。」

やったー、と言ってはいないが、心の声として聞こえてくる気がするのはなぜだろう。

「じゃあ私がテトラに魔法を撃とう!」

ミミリィ隊長とのやり取りの後に名乗り出たのはやはりエリザだった。
そして

「全力でいくぞ!!」

そう言いながら奴は右手に燃え盛る1.5メートル位の炎の剣をどこからともなく出現させた。

かなりエリザから離れている自分のところでさえとてつもない熱気と何か言いようの無い圧力をかんじる。
きっと目の前で対峙しているテトラ君は、もっとすごい事になっているだろう。

………ヤバクネ?

「行くぞ、火炎まほ……」

「カウンタートラップ『マジックジャマー』!」

そして、エリザが魔法をだそうとした瞬間にテトラ君は持ってたカードを掲げ、叫んだ。

めっちゃ必死の形相で。

パキンッ

すると、マヌケな音と共にエリザの手にあった剣が霧散した。
赤い霧的に飛び散ったそれはけっこー綺麗だった。

「おー、実験成功。」

とりあえず実験の成功を素直に喜ぶべく、自分はその事実を口にした。
そしたら有り難みが減った気がしたのはなぜだろう。

「なっ!何がおこったのだ!?」

魔法を無効化されたエリザは、何が起こったかわからない様子でうろたえている。

ちょっと見てて楽しかった。

しかし、ここで問題が発生した。

バタッ!

「ハー、ハー……こ、これ、は……異常に魔力持ってかれますよ。」

魔力の使いすぎでダウンしているテトラの姿がそこにはあった。

「……なんかごめん。」

「……い……いえ。」

なんか、麻痺ったナルガ○ルガみたいって思ってしまった。
二重でごめん。

と、自分が心からテトラ君に謝罪をしているところに後ろから

「ナルミ!訳わからん!説明しろ!」

怒鳴ってきた。
まぁ全力をたった二言三言で潰されたらイライラもするか。

「んー、このカードさ、魔力を使って発動出来るように出来るかなーってやってみたのさ。あっち行ったら自分居なくなるからね。その間に魔獣出てきたら危ないしょ。」

「つまり使えたって事は私達も使えるんですよね!?」

自分の言葉に真っ先に反応したのは、やはりミミリィ隊長だった。
他の近衛隊メンバーも、喜びと期待とで目を輝かしている。

だけどね、皆さん。
現実を見よう。

「そうなんだけど、ねぇ……新たな問題が………」

そう言って自分は情けなく倒れているテトラ君に視線を送る。

新たな問題とはずばり、魔力の消費が激しいと言う事である。
戦場でこんな状態になったら、はっきり言って命は無い。

「……魔力ってどんくらいの速さで回復するん?」

「個人差はあるが、だいたい一日寝たら回復する。ただ全部、それこそカケラも残らないほど使うと一週間は起きないな。下手したら死ぬ。」

エリザの答えに、自分はしばらく頭を抱えて考えた。
なんかビミョーに打開策が思い浮かびそうなのだ。

そして、一つの考えを思い付いた。

「……そっか………回復させる薬とかないの?」

エーテルとか清らかな水とかAPブーストみたいなのを使えば万事解決じゃん。

「……先生の血を飲めば私はすぐに回復できます。」

自分の思い付いきに遠慮がちに答えるのはシルバちゃん。
ちなみに彼女の目は自分の血が飲めるかもと言う期待を如実に表してる。

多分本人は隠してるつもりだろーが。

しかし血か……
貧血にならない程度なら提供しても良いが……

ん?血で魔力回復するって事は……

「あー……もしかしてエリザも?」

「そうだな、確かにお前の血は飲むと中から魔力が込み上げてくるな。ただナルミの血の旨さの影に隠れる副産物的な物だが。」

……ふつー魔力回復のがメインでね?

「………ハァ。じゃあ二人はそれで。」

「よし!では血液保存用の瓶を持ってこよう。行くぞシルバ!」

そう言って駆け出す二人。
ちなみに自分はこれから血を抜かれる事に対して若干鬱になっている。

「……他はどう?」

「俺の種族は魔力保有量が多いので大丈夫かと。少なくとも俺はテトラの四倍魔力を保有していますので二三回は大丈夫かと。」

間髪入れずにムー君が答えた。
なんでもムー君の種族はかなりの魔力保有量を誇りって、この世界の歴史に残っている魔法使いの四割が彼と同じ種族だったりするらしい。

あくまで彼の言だから。
ホントにかはしらん。

「そっか……じゃあ練習も一回だけにして、あっち行っても使う回数に制限つけてやるか。」

とりあえず彼の言う事を信用しておこう。
ムー君は悪い奴ではなさ気だし。

と、ここまでは順調に決まった。
そう、ここまでは。

「……先生、私達はどうすれば…」

そう、残りの三人についてである。

なんでも他の三人は、ムー君みたいな馬鹿でかい魔力をもってる訳でも、エリザやシルバちゃんみたいに血を吸って回復できる訳でも無いらしい。
しかもこの世界に魔力を回復させるアイテムは無いときたもんだ。

つまり八方塞がり。

「………あー、どしよ。」

自然とこんな事を言ってしまった自分を誰が攻めれようか。

自分の発言に目に見えて落胆する三人。
罪悪感がバリバリ生えてきた。

「あー、あれだ、あの……今度他に教えてあげるから今回は我慢してくれ。」

つい自分が口走った言葉にすかさず三人は

「消える術が知りたいです!」
「破壊の光を教えて欲しいです!」
「カタナの使い方をぜひ!」

うん、ナイスコンビネーション。

ちなみに上からリム、ミミリィ、ムゥである。
思わず三人の気迫にたじろいでしまう。

「わ、わかった。出来る限り教えるから。」

「約束ですよ。」

そして、なんとかこの場はおさまった。
そして、自分がホッとしているところに、砦からエリザとシルバが帰ってきた。

手には大量の小瓶が。
全部で軽く四十はある。

「さあナルミ!これ全部に血を注ぐのだ!」

「いや死ぬから。戦争より先に貧血で死ぬから。」

なんとか一人五本に収めたけどそれでもつらい。
しかも血を入れてる途中にいきなり理性を失ったシルバちゃんが首筋に噛み付いてきたから焦るのなんのって。

多分、他の人達がいなけりゃ死んでたね、自分。


***********ジ☆

とまぁこんなやり取りがあった末に完成した技よ。
どうだ、すごいだろ。

『うん、ホントにね。やっぱり人間ってすごいわ、考えが違うもん。』

で、元栓開けた上にそれが原因で戦争おきた見返りが自転車なの?

『……まだいってんの?友達無くすよ。』

うるせ。
まぁ冗談はおいといて。

こっから質問なんだけど、なんで自分倒れたん?
いままでんなことなかったのに。

『あぁ、それね。能力の使いすぎ。』

んー?
そんな使った気はしてなかったんだがなぁ。

『いや、確かに人間の君は精神力ハンパ無いからフツー倒れないけど、さっき言ってた君の奇策に問題があるの。』


とゆーと?

『あの君がアレンジしたカードはまだ未完成で、術を他人が発動するとかなりの負荷が術者にかかるしょ?その負担の10分の9が君にのしかかったのさ。』

……つまりあのテトラ君の状態ですらまだ10分の1しか負担かかってなかったって事?

『そ、まぁそれでも普通は倒れ無いけど、血を吸われて多少貧血なとこに慣れない負荷がかかったから気絶したんでないかな。』

ふーん。
なんか、血って大事だね。

『まぁね。てゆーかさ、いまさらだけどあの姫達バカ?フツー魔獣に自ら突っ込む?』

あー、あのヒューが暴走した時ね。
あれはマジビビった。

『その時は他の魔獣倒した事で調子にのってあいつ倒す気満々だったらしいけど、後で後悔したっぽいけどね。』

ん?

『冷静になって考えたら恐くなったって事。まぁそのお陰で即座に君は回収され、フカフカベッドで二日間可愛い吸血美少女に看護されてた訳なのだけど。』

まて、二日?
マジで?

『あれ?言ってなかったっけ?君は二日間このベッドを占領してたんだよ。まぁ原因は姫達が特訓と称して君が渡したカード使いまくってたからなんだけど。』

マジか……
早急に回収せねば……

それともう一つ。
あのロストとか言う物ってまだいっぱいあんの?

『あるっちゃあるけどあそこまで理不尽に気持ち悪いのはもう無い。少なくとも人形はあれで全部。』

そっか、なら安心。

『まぁ他のやつが出て来ても、君の能力でなんとかなるしょ。あとあの気違いが使ってた石と人形は全部壊れたから。ちなみに洗脳も石の力だからとっくに解かれてるよ。』

ほぅ、そうか。
ならもうあんなじり貧には追い込まれる心配は無いのだな。

『そうだね、今のところは。っと、とりあえずもう元気そうだから今日は私帰るよ。そろそろ彼女がくる頃だし。』

彼女?
あぁ、看病してくれてたシルバちゃんね。

ほんと、優しい娘だよ。
自分みたいなオタッキーな奴にまで。

『………君、気付いて無いの?』

ん?
何が?

『………どこのギャルゲー主人公だよ。』

だから何が?
てか神もギャルゲーやるのか。

『やらないよ。とりあえず彼女に立てたフラグはきっちり回収しなさい。じゃ、オーバー。』

なんだったんだ、いったい。



***********ー☆


ガチャ。

自分があのパツキン疫病神がいなくなってほっとして数十分、不意に扉が開いてそこにいたのは

「あ……せ、せんせー!!」

噂の吸血美少女が泣きながら飛び付いてきた。

「せ、せんせー!もう、だ、だめかと……うわーん!!」

うーん、なんと言うか。
対処に困るね。

とりあえず背中をぽんぽんとはたきながら頭をヨシヨシと撫でてやった。
するとしばらくぐずってたが、おちついたのか

「…あ、あの、すいません!」

モーション無しでいきなり離れた。
顔が真っ赤でアワアワいってる。
なんか見てて癒される。

「いや、大丈夫だよ。心配かけてごめんね。」

とりあえず優しく諭す。
しかし、さらに赤くなるシルバちゃんの顔面。

なぜだ?

とりあえずどうしたら良いか解らなくなった自分は意味も無く辺りをキョロキョロし始めた。

そして、入口をみたときに

「…………あー、邪魔だったか?」

開いた扉の向こうにいるエリザと目が合った。
後ろには近衛隊もいる。

「……いつから?」

「シルバと一緒にここにきた。」

最初からかい!

とりあえず自分の顔も赤くなるのが自分でもわかる。
なんかかなり恥ずかしい。
シルバちゃんは相変わらずアワアワやってるし。

と、自分が途方に暮れてると、リム副隊長が

「結納はいつですか?」

はい、爆弾投下。
結納っておい。

「まてまてまて、なぜにそうなる!?」

「え!?結婚しないんですか!?」

「いや隊長まで何を言ってるんすか!?シルバちゃんもなんか言ってやって!!」

彼女なら弁解してくれるは…ず……

「わ、わた、私と先生が、け、けけけけっこん!?」

戻ってこーい!!

なんかこれデジャヴ!!
なんか見た記憶ある!!

もう誰か助けて!

と、慌てふためく自分に一瞬の希望の光が

「シルバ!!」

まさかの大穴、エリザである。
よし、このままシルバちゃんを落ち着かせてくれれば……

「しつこいようだが子供の名前は私が付けてやろう!!」

「はい!!先生!!最初は女の子が良いです!!」

うおぉい!!
ちょっとまてぇい!!





この後は日が暮れるまでシルバちゃんの暴走は続き、面白がったエリザ&近衛隊にからかわれて一日が終わった。

なんか、戦争やるよか疲れた気がする。


…………はぁ。



……しかもカードの回収忘れてたし。
もう、イヤ。
 
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