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英雄伝説 零の軌跡 壁に挑む者たち

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12話

地下の空間に子供たちの悲鳴が響き渡る。
さっきあれだけ苦戦した軟体魔獣と同じタイプの魔獣が比較にならないほど巨大なのである。
圧倒的恐怖から悲鳴があがったのだ。
軟体魔獣はロイドたちが入ってきた出入り口の前に立ちはだかり、完全に塞ぎ、じりじりと向かってくる。
ロイドたちは武器を構えてなんとか子供たちを守ろうと二人を背後に隠して立ちはだかった。
だが、打てる手はなかった。
あまりにも巨大な軟体魔獣相手に今出来る全ての攻撃を加えてもまるで効果がなかった。
殴っても撃っても導力波を放っても効かず後退りするしかなく追い詰められていく。

「奥の扉は」

「駄目です。ロックが解除されていません」

背後の昇降機のある扉はロックされておりこの場では開ける事が出来ない。
逃げることが出来ないことを悟ったロイドはこのままでは全滅するという最悪の考えが浮かんだ。
だが、ロイドは武器を構えて挑みかかろうとした。
兄貴ならどうするか。
ロイドがいつも苦難に直面した際に死んだ兄貴ならどうするかを考えて突破してきた。
兄貴なら最後まで諦めないはずだ。そして行動して見せるはずだ。
警官として保護した子供たちは絶対に助け出してみせる。リーダーとして仲間たちも助けてみせる。
その自負がこの絶望的な状況で怖気づく体を奮い立たせた。
どう考えても無傷で突破は出来ないが一瞬でも隙を生み出せれば勝機を見出せる。

「どうする気だ。今の装備じゃどうしたって勝ち目はないぞ」

ロイドの無茶な決意を察したランディが制止しようとしたが。

「わかってる。俺が引き付けてる間になんとか脱出してくれ」

そりゃ特攻じゃねえかとランディは思い、エリィもティオも子供たちもこの状況で引き付けることがそういう意味だと悟って正気なのと震えた。

「ランディとエリィが二人を抱えて逃げろ」

それっきゃねえか。ランディはこういう殿や囮、特攻を務める奴を何人も見てきた。
絶望的な包囲下で犠牲なくしては突破出来ない状況では多数を活かすために絶対に必要な犠牲だ。
戦場では日常茶飯事だが、警察に入ってからも見ることになるとは。
この手の奴は強い意志を持っている。仲間のためだったり集団だったり自分が出来ることを証明する為だったり。
何より会ってからまだ2時間の俺たちのために命を張るロイドには決意には応えてやらなければ。

「お嬢、そっちの子を頼む」

リュウを抱きかかえたランディの言葉にエリィは本気なの?と目線を向けてきたがエリィもこの状況では苦渋の選択が必要であると感じていた。
ロイドの決断を受けるかどうかだが、時間もなくほかの対抗策も思いつかない。
無言でアンリを抱えるとロイドの背中を見つめて震えが伝わってきた。それはリュウも同じだった。

「兄ちゃん」

「大丈夫だ」

心配そうなリュウの言葉にロイドは虚勢を張った。
震えはしなかったが内心では恐怖心で一杯のロイドは兄と姉のことを思い出していた。
初任務でこれだ。結局、兄貴みたいにはなれなかったな。セシル姉も泣かしちゃうな。
前に進み出たロイドの腕に軟体魔獣の触手が巻きついた。トンファーが腕ごと溶かされそうになり激痛が襲う。魔獣は巨大故に溶かす力も強い。だが引っ張って動きを止めることに成功した。

「よし。行ってくれ!」

ランディたちが駆け出そうとした時、吹き抜けの上層部から男の声が響いた。

「やれやれ、自己犠牲も結構だが短絡的過ぎるな」

全員の視線が上へ向いた。
そこには長身で長い黒髪のコートの男が立っていた。頬には深い傷痕があり、腕には刃が光る長刀が握られていた。
その男が魔獣の方へ跳ぶと刀を振るって一閃して着地した。
少なくとも見ていたロイドたちには一振りしたようにしか見えなかった。
その瞬間大型の軟体魔獣は斬り裂かれ爆発した。
ロイドは先に触手が斬られたのか触手が切れて背後に吹き飛び尻餅をついていて爆発で飛び散る粘液には当たらなかった。

信じられないものを見たと驚愕したまま動けないロイドたちは目の前の男を呆然と見ていた。
それを打ち破ったのは子供たちの歓声だった。

「すげえーー!すごすぎるよ!アリオスさん!うっわー!いいもん見ちゃったなあ!」

「わあ、ありがとうございます。アリオスさん。でも、どうしてここに?」

「広場のマンホールに子供が入っていくのを見たという報せがあってな。しかし無茶をする。もしものことがあればどうするつもりだ?」

恐怖から一転しての二人の大喜びのはしゃぎようで、態度がロイドたちとは全く違っていた。
絶大な尊敬と信頼と安心感。
それがこの現れた男に向けられていた。
その証拠に減らず口をたたく生意気なリュウが男が責める口調になればすぐに謝ったのだ。

「まあ無事だったのなら良いだろう。もう夕方だ。家に帰るぞ」

「はい!」

出口に向かって行く男に付いて行く二人をロイドたちは見つめているだけで動けないでいた。
絶体絶命のところから助かった安堵と一刀で助けてみせた男の実力。特攻覚悟で道を切り開こうとしたのに簡単に倒された拍子抜け感。
それは圧倒的な強さで助けられれば子供たちも感謝もするだろうし自分たちには文句を言って騒いでいたのにあっさりと帰るように言い含める手際の良さには当然だと思いつつも自分たちだって助けたのに礼も言われず最後に良い所を全部持って行かれた納得の行かなさもあった。
そういう状況であるから何を言ったら良いのかわからず何も言えなかったのだ。
そうしていると男がどうしたと振り返った。

「お前たちは戻らないのか?」

「あ、ええ、そうですね。助かりました。一緒に戻らせてもらいます」

「ならグズグズするな。先程のようなこともあるからな」

ようやく立ち上がったロイドに忠告だけすると子供たちを連れてさっさと行ってしまった。

「何者だ、あのおっさん。オーラが尋常じゃないというか、なあ?」

「腕前も尋常じゃありませんでした」

ランディとティオが一撃であの魔獣を倒した男の尋常じゃない強さ、態度の隙のなさについて語っているとエリィが納得したように頷いた。

「あの人が」

「知ってるのか、お嬢?」

「ええ。というかなんでお嬢って呼ぶの?」

「いや、なんとなく雰囲気で。それであいつは何者なんだ」

「アリオス・マクレイン」

男の背中を見つめているロイドが答えた。

「クロスベルタイムズで何度か読んだことがある。遊撃士協会・クロスベル支部に所属する最強のA級遊撃士。どんな依頼も完璧にこなして市民から絶大な信頼を得ているクロスベルの真の守護神」

「風の剣聖。アリオス・マクレインだ」 
 

 
後書き
ようやくジオフロント探索試験終了。
書いていてなんだが、本当なら10分ぐらいで終わるような最初の任務なのに長く書くのはどうなんだろうかと思ったり。

あと、これだけスライムに追い詰められてますけど、ちゃんと準備すれば余裕で勝てます。準備しなくても勝てるのがアリオスなのです。 
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