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魔法少女リリカルなのは~その者の行く末は…………~

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Chapter-0 Introduction~The beginning of everything~
  number-2 bulying

 
前書き


いじめ。


この場合は、三桜燐夜。


 

 



どうして訳も分からない悪夢に魘されるようになったのだろうか。
少年――――燐夜は思う。
やはりあの出来事は実際に過去にあったことで、それを自分が体験していた。
トラウマになり、心の奥底に封印したといった体であろうか。


燐夜は自分の母親のことを覚えていない。
というよりは、今更あの幸せだったときの記憶を思い出して心が壊れるかもしれないことを考慮したのだ。
自分で記憶を封じ込めたのだから。


「燐夜くーん」


後ろから声をかけられた。
その声に反応して振り向くと茶髪の髪を白いリボンでツインテールにまとめて、燐夜と同じような白い制服に身を包んだ少女。
名前を高町なのはという。
喫茶店『翠屋』の娘。3人兄弟の一番下。
燐夜と同じ聖祥大付属小学校の3年生。


実は高町家と三桜燐夜には関係がある。
燐夜が偶然高町家の家の前に倒れていたところを一家の長である高町士郎に保護されたのだ。
士郎によるとあと少しでも遅かったら間違いなく衰弱で死んでいたという。
燐夜自身にはそんな実感はなかったが。


5歳から少しの間、高町家でお世話になっていた。
ある事件が起こって、これ以上迷惑をかけたくなく、家を出ることにしたのだ。
幸い、住む家はすぐに見つかり、大家さんには感謝したものだった。
気の優しい大家さんはどうせだれも住む人なんていないからと、一部屋丸々タダで貸してくれた。


そのほんの少しの間だったが、お世話になっていた時に一番歳が近かった少女――――高町なのはとよく一緒に遊んだのだ。
そして今でもよく遊ぶ。


「燐夜君!」
「おおっ、わりぃ。考え事してた」


なのはは燐夜が話を聞いていなかったことに可愛く頬を膨らまして怒っているのだが、全然怒っているようには見えない。
宥めて機嫌を直させる。


あっという間に機嫌を直したなのはは意気揚々とバス停へ向かっていく。
見るからに機嫌がいいなのはを後ろから見ていた燐夜は、微笑むがこれからも事を考えると憂鬱になって溜息をついてしまう。
だが、その憂鬱な表情をすぐに隠すと置いて行かれまいとなのはを走って追いかけた。


      ◯


燐夜は学校に着くとまず図書室へと向かうのだ。
入学して5年。たいていの日は図書室にいた。
図書室の本は大体読みつくしている。あとは新刊図書の欄のあたりを読む。
私立なだけあって揃えはいい。下手すれば学校図書だけに限定すれば日本一かもしれない。
いや、それは有り得ないか。


「おっ、今日も来たね」


司書の人に挨拶してから新刊図書の欄に行く。
読んでない本を見つけると、それを司書の人のところまで持っていき、受付を済ませて借りる。
急がないと遅刻扱いになってしまう。
先生に見つからないように教室まで急いだ。


廊下にはそんなに生徒はいなかった。
もう時間が近いためだ。
5年生の教室にやっと着いた。


1学年3から5クラスあるこの学校は生徒数がとても多い。
普通は公立の方に行かせるのだろうが、このあたりで一番近い公立の小学校は5キロ離れているだろう。
だからこのあたりの親はここの私立小学校に通わせる。


燐夜は5年2組。
その教室の扉をガラッと開く。
教師がいないこともあって少し騒がしかったが、燐夜は気にすることはない。
だが、その周りはそうもいかないのだ。


燐夜の容姿は周りと違っている。
たったそれだけのことなのにいじめの対象になったりするのだ。
そして燐夜は格好の的なのだ。


銀髪、所々に赤も交じっている。
瞳の色もまわりと違うのだ。くすみのない赤色。
髪に関しては遺伝子上の突然変異と呼ぶしかないのだが、瞳の方は大体の予想はついている。
燐夜の能力の副産物。


子どもの感性は敏感で正直なのだ。
大人であるならばある程度心の中に留めておけばいいことだろう。
だが、子供はそうはいかない。


クラスのガキ大将が中心となって暴力を燐夜に対して振るうのだ。
燐夜はそれを黙って受け入れている。
ぼこぼこに打ちひしがれるが、燐夜にとってはそんなにダメージにはならない。
気分がすっきりしたあいつらが行った後に燐夜は起き上がり、服についた土埃を払って家に帰るのだ。
今日もそれは行われる。


      ◯


放課後。
高町なのはは1年生からの友達。
一人は気丈そうな蒼い瞳と、茶色に近い金の髪。
もう一人は長い黒髪を純白のヘアバンドでまとめた優しげな少女。
アリサ・バニングスと月村すずかの二人と一緒に3人で帰る。


アリサ・バニングス。
日本とアメリカでいくつもの会社を経営するバニングス家の一人娘。


月村すずか。
工業機器の開発制作を営む会社社長の娘。


その3人はたまたま体育館裏の様子が見える所を歩いていた。
談笑しながら今日は何しようかとこれからとくに塾とかもない3人は遊ぶ予定を立てていた。
たわいもない日常会話。
しかし、それはすずかの一言で崩されることになる。


「…………ねえ、なのはちゃん」
「ん? どうしたの?」
「どうしたのよ、すずか」


急に立ち止まってある方向を見るすずか。
少し先を言っていたなのはとアリサは止まって振り返り、すずかの方を見る。
すずかは小さく見ていた方向――――植えられている木と木の隙間から見える体育館裏の方を指差した。
戻ってきてすずかが指差した方を見ると、なのはは動かなくなった。


すずかが指差した先には一人の少年を大勢の少年が囲んで、ただ一方的に殴る蹴るの暴行をしているところだった。
所謂いじめってやつだ。
なのはたちは虐められている少年が知り合いでなければ、先生を呼んであの場を収めようとするのだが……
虐められている少年になのはは見覚えがあった。
いや、見覚えというより友達以上に親しい少年。
三桜燐夜だった。


「ようやく見つけたぞ! 俺の嫁たち!」


いきなり訳の分からないことをほざいて現れたのはなのはたちの同級生。
名前を神龍雅(じんりゅうが)という。
空手か何か習っているのか強いことは確かだ。
性格さえ治せば誰にも好かれる――――いや、目の前でいじめを受けている燐夜とほとんど変わらない容姿を持つ龍雅。
違うのは瞳の色。燐夜が赤なのに対して、龍雅は右が灰色。左が金色。
燐夜と同じようにいじめの対象になってしまうだろう。
小学生にしては顔が整いすぎているが、今はどうでもいい。


「お願い! 龍雅君!! 燐夜君を助けて!!」
「ああっ? 燐夜だあ?」


龍雅はなのはが指さす方を向いて上級生の少年が虐められているのを確認する。
最初はやる気が出なかった。
だが、よく考えてみる。あいつを助けたらなのはたちはこの俺に惚れてしまうんではないかと。
そう考えてみると俄然やる気が出てくる。


俺に任せておけと一回り体格が大きい上級生たちの中へ龍雅は入っていく。


「寄って集ってかっこ悪い奴らだな。今すぐそいつを離せ」
「なんだあ、こいつ。いいか、やっちまうぞ!」
『おう!!!』


燐夜を虐めていたグループが狙いを龍雅に変えた。
近づいてくる奴らを一瞥した龍雅は鼻で笑った後、人差し指を立てて挑発する。
それに切れた少年が龍雅に殴りかかる。


――パシッ


軽い音とともに拳が止まった。
抑えられている少年がいくら力を込めても一向に動こうとしない。
龍雅が抑えた拳を上にあげて腹にパンチをしようとした時だった。
視界から先ほどの少年が消えたのは。


龍雅の目の前には制服のズボンのポケットに手を突っ込み、片足を上げていた燐夜がいた。
龍雅はやられたふりをしていた燐夜に腹が立って、鋭いパンチを繰り出した。
その直後、さっきの少年と同じ末路を辿った。


「なっ! お前強かったのかよ!」
「疲れた、もういいや。――――ブッ飛ばしてやる」


殴りかかってきたガキ大将を迎え撃ってやろうと手に力を込めた時だった。
なのはの声が聞こえたのは。


「もうやめてっ!」
「――――ッ!」


なのはの声に反応が遅れた燐夜は半身ずらして燐夜が元いたところをガキ大将が通った時に、足を引っ掛けて転び浮かんだ背中にかかと落としを捩り込む。
悶絶したガキ大将を置いてほかの奴らは逃げていく。
燐夜が蹴り飛ばしたあの二人のことは分からないが。


「どうして燐夜君は虐められてるの? 仲良くやってるんじゃなかったの? ねえ、答えてよ燐夜君」
「……お前が気にすることじゃない。俺のことはどうだって――――」


燐夜の言葉は続くことはなかった。
なのはが先ほどと同じように声をかぶせたから。


「どうだってよくないよ! だって、だって……私にとって燐夜君は大事な人なんだよ……どうしてそんなこと言うのさ…………燐夜君」
「ちょっとあんた! 何なのは泣かせてるのさ! 少しはなのはのこと分かってあげなさいよ!」


泣き出したなのはに代わってアリサが燐夜に怒る。
燐夜はどうすることもできない。
ただできることは。


「ごめんなのは。俺が悪かった」
「…………もういいよ、燐夜君。許してあげる……そのかわり、もう二度と嘘つかないで」
「分かった」


謝る事だけだった。



 
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