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なりたくないけどチートな勇者

作者:南師
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11*ゆっくりさせてください

「…………で、あなたは一体何なんですか?」

「ですから、第三王女「それはもういい!!」……事実なんだからしゃーないやん。」

自分はフィーさんとやらによる取り調べを受けている。
まぁ、こんなやり取りが1時間程続いているのだが。

現在いる部屋にはフィーさんと自分だけである。

部屋は本棚と机と椅子だけの簡素な感じで、教室と同じ大きさくらいある。

ちなみにバリスはと言うと、フィーさんの怒りの矛先が自分に向かってしまったのであっさりと解放されてしまった。
くそ、忌ま忌ましい。

「しかも何です!髪をそんな色に染めて!あなたは魔族の誇りが無いんですか!そもそも髪の色とは…………」

ねーよ
人間だもの、ばい鳴海

つかよく喋るな、喉大丈夫か?

「聞いてるんですか!」

んなわけねーだろ。

「聞いてはいるけど認識してない。」

「………そんなに死にたいですか…」

そういいながら、剣を抜き、構えるフィーさん。
だが

「エクスペリーアームズ」

―――フェン、カランカラン

武装解除の術の餌食になりました。
ちなみに杖はシャーペンで代用。

「……あくまで私を馬鹿にする気ですか……余程私に殺されたいようですね!!」

うるせーよ、こちとらリミットブレイク寸前だぞ。

「え、するもなにも元から馬鹿でなかったの?
つか、君如きにできんの?」

「コロス!!」

いきなり殴り掛かるフィーさんと、全て紙一重で避ける自分。
受け止めては駄目である、ギリギリを見極め、避けられる事が相手にとっては一番屈辱なのだ。

「この!避けるな不審者!」

「いや、余りに遅くてつい。」

「うがぁぁぁぁぁ!!」

ハッ!笑止!
一秒を十秒に変える能力の前には余りに無力!!

と、そんな事をやってると部屋の扉が開いた。
よーするに誰か来た。

「おねーちゃーん、お土産持って…………なにやってんの?」

ゼノアと初めて会った時にいたちびっ子だ。
名前はしらん。









「………すいませんでした。」

「いや、もういいですって。」

今自分の前でフィーさんが謝ってくれている。
理由は簡単、さっき出現した彼女の妹、ノア・リディムちゃんのお陰である。

なんでも彼女はゼノアの隊の副隊長で、奴から自分のことを色々聞いてるんだって。

ノアちゃんの努力により誤解も解け、自分たちの空気もだいぶよくなった。
ホント、ありがとうですよ。

しかしこのナリで副隊長とは…
人、いや魔族は見た目に寄らないな。

「しかし、人間でサムライで勇者で覇王で近衛隊名誉顧問ですか……。
本当に何者なんですか?」

侍は出まかせで名誉顧問は姫の気まぐれなんだけどねぇ~

「う~ん、自分もよくわかんね。」

実際真面目に自分がわからん。

自分の回答の後、変な沈黙が訪れたので空気を変えようとノアちゃんが

「そ、そうだ。お土産の干しポリャの実食べましょう!」

ポリャの実ってなんだろ。
そう思っていると、彼女は持ってきた袋から15個程の、葡萄色の干し柿みたいなのを取り出した。

「モムモム……あ、おいしい。」

味はキウイにそっくりだ。

「やっぱりあの地方のお土産と言ったら干しポリャの実だよね、お姉ちゃん。」

「ん、毎回買ってきてくれて、ありがとね。」

そう言いながら妹の頭をなでなでする姉。
仲がよさ気で良きかな良きかな。

それから和やかになった自分達は、ポリャの実を食べながらお話をしていたのだが…

バンッ!

「よっすフィー、あいつ何者だった?つかいるし。」

ドアを蹴り開け、バリス乱入。

「お、干しポリャじゃん、俺も俺も。」

厚かましいなオイ。

「……そーいやさ、フィーさん。この直情型炎上馬鹿はだれ?」

変な二つ名は言っていたが、本名はしらんのだ。
その二つ名も覚えてないが。

「なぁ、直情型炎上馬鹿ってのはないだろ……いくら俺でも傷つくぞ。」

しらん。

「……ナルミさん、一応この方は王子なのでそのような口のききかたはどうかと……」

ふーん、王子ねぇ。
王子……おう…じって、まて。

「マジで?」

「は?」

「いや、本当に?」

「はい、我が国の第二王子バリス・ポポ・トゥインバル様です。真に残念ながら。」

たしかに、あの馬鹿エリザ姫とは似た傍若無人さ加減だが……

「…残念ってなによ残念って。お前らひどすぎるぞ。」

「いつもいつも近衛隊や一般兵士達を“稽古”して毎回ボロボロにしてる愚か者は何処の誰でしたっけ?」

「む、むぅ……でも!俺はこいつに負けそうになったぞ!あいつらが弱すぎなんだよ!」

うん、絶対あいつの兄貴だ。
間違い無い。

そして自分とノアちゃんは蚊帳の外らしいので、彼らを見ながら干しポリャの実をモシャモシャ食べている。

しかし、そんな自分の平穏をぶっ壊す発言を、フィーさんが言いなすった。

「彼は人間でサムライで勇者で覇王なんですよ!?勝てる訳無いじゃないですか。」

マテ。
ここでそのカミングアウトすると…

「は!?それ本当か!?」

うわ、大物釣れちゃった。
めんどくさい事になりそーだ

「おい!お前!えーっと…名前は…」

「鳴海だ。長谷川鳴海。鳴海のほうが名前だ。」

「そうかナルミ!それは本当か!」

……違うって言いたい、つかここから逃げたい。
でもやったら制裁くらうだろうなぁ
だいたい、あの姫がこいつに自慢してばれるんだろうから、嘘ついても意味ないよな…

「…………一応、本当…」

「そうか!ならお前俺のこの「兄様!ナルミは私の近衛兵です!」チッ!」

振り返り、ドアの方を見て見ると他の近衛隊の方々を引き連れた我らがエリザ姫様が仁王立ちなさっておられた。

「兄様!ナルミは私が先に近衛隊に入れたのです!勝手に引き抜こうとしない!」

「しらねーよんなこと!俺が欲しいから引き抜こうとしてんだよ!黙ってろ!」

「それこそ私は知りません!ナルミは私のものだ!」

……なに本人差し置いて自分の所有権あらそってんのさ。
つか王族だよね、君ら。
言葉遣い汚すぎね?

「よし!ならこいつに決めて貰おうじゃないか!ナルミ!俺のところに来るよな!」

ハィ?

「違うであろう!ナルミ!私のとこに残るであろうな!」

なに、この究極の二択。
つかいざ自分に選択権が与えられると困るね実際。

何たって、自由になる選択肢が無いんだもん。

「「ナルミ!!」」

はいはい、えーっとねぇ……

「……エリザ姫の方で。」

「いよっしゃぁー!!」

「なぜだー!?」

二人共本当に王族?
はしたなすぎ。

「何故だナルミ!?このじゃじゃ馬に惚れてるのか!?」

ない、それは地球が逆回転する程にありえない。

そしてシルバちゃん、怖いです。
やっぱりあなたはゼノアの妹ですねってくらい眼が怖いです。
何をそんなにお怒りですか。

「違う。お前のとこは毎日お前が“稽古”をするんだろ?やってられるか!」

ガーン

そんな効果音が聞こえるくらいにこいつはショックを受けている。

実際毎回屋上でやったみたいな事やってたら体がもたんわ。

「ではナルミ、行くぞ。」



「何処に。」

「父様、つまり王に会うための作法とかを教えるのだ。余りきにせんでも良いが、ナルミの国とは違うであろうからの。」

はぁ、そりゃどーも。
とてもめんどくさいです。

「なので今私の部屋へと行く。なので来い!」
めんどくせーな、おい

そう思いながら自分は引きずられながらフィーさんの部屋から連れ出されていった。

その時見たのが燃え尽きてる馬鹿と、何処からかお茶を出して干しポリャの実を食べながら談笑しているフィー&ノア姉妹。

……こいつら、面倒事自分に押し付けてたな。
だから助けてくれなかったのか。


…チクショー!








************℃☆

さて、自分達は今この城の謁見の間へと来ております。
この前まで自分がいたウェンノルス城の約二倍はあるお部屋です。
ちなみに造りは同じような感じです。
周りには貴族っぽいのが犇めいております。

そんな謁見の間の玉座に座っているのが、燃えるような赤髪の、黒い翼を持つ50歳くらいの男性と、白い翼にこれまた赤い髪の、いかにもマダムな美しい女性である。

男性は王冠とこれまた真っ赤で上質なマントをしている事から考えるに、王様であろう。顔に刻まれたシワが、貫禄を生み出しなかなか渋い顔立ちだ。

女性の方は、緑っぽいドレスを上品に着込んでいる、多分王妃様。
顔は物静かで気品あふれる顔立ちだ。
ただなんか品定めするような眼が嫌だ。

「父様母様、ただいま参りました。」

……誰?
このおしとやかなお姫様は一体誰?

「おぉ、愛娘エリザよ、よく戻った!」

そう言って王様、エリザに駆け寄ろうとするが王妃様に止められる。
ちなみに貫禄は一瞬で消えた。

「またあなたは私に殴られたいのですか?」怖いです王妃様。

「いや、でも久しぶりに愛娘に会うのだぞ?このくらいいいではないか。」

「場所を考えて下さい。今は正式な場なんですよ?」

王妃様つよし、王様形無し。

「うぅ、ではエリザよ、何か報告はあるか?」

「はい、実はこのたび新しく近衛隊へと入れた者を紹介したいと思いまして。」

「…その者か?」

一気に周りの視線が集まる。
緊張してきた。

「はい、この度新しく近衛隊名誉顧問として入りました、長谷川鳴海と申します。以後、おみしりおきを。」

そう言いながらペコリと一礼。

あってるよね?
練習どーりやったんだし。

「そして父様。なんと彼は勇者と覇王の二色のオーラを有しているのです。」

『なんだと!?』とか『馬鹿な、ありえない!』とか周りが騒いでいるのを聞いて、ご満悦な顔の姫と微妙な表情の自分。
だってなんか、血統書尽きの犬的な気持ちになってきたんだもん。

「本当どうか疑わしいなら、今すぐに判別器を持ってきて確かめて見て下さい。」

「……誰か、判別器を持って参れ。」

……またあの球に手を突っ込むのか、やだなー。





結局判別器は前回と同じ反応を示し、それにより自分は二つのオーラを持つということが証明された。

その様子は、めんどいので割愛させて頂く。

「で、父様。お願いがあるのですが。」
「なんだエリザ、言ってみよ。」

なんかなー、この王様絶対娘に甘いよな。
だからこんなんなっちゃったんだな。

「ナルミに上級騎士としての二つ名を与えて欲しいのですが。」

……は?
ナゼニ?

「む、むぅ…。さすがにそれはそうやすやすとは……。」

よし、自分も中二患者が付けるような寒い名前は要らない!

「なんの武勲もあげてない者には……のぅ。」

そうだそうだ。

「ナルミは一人で、それも一撃で生きたカームルを挽き肉にした程の実力です。
十分上級騎士の資格はあります。」

いらんこと言うな!
しかも挽き肉になんかしてねぇし!

「…しかしのぅ…本当に彼がやったのかわからんしのぅ…」

「うぅ……、父様は私が嘘をついているというのですか…?そんな父様なんて………」

「!!?」

エリザ必殺泣き落とし、炸裂。
やばいな、これ。

案の定王様はうろたえている。

「ま、まてエリザ!泣くな!わかった!彼の上級き「いけません。」

自分の危機を救ったのは、以外にも王妃様だった。

「そんな事をしては他の騎士達に示しがつきません。エリザも嘘泣きはやめなさい。」

物静かそーだけど、けっこー飛ばすよねこの人。
さすがあいつらの母親。

「むぅ?。」

エリザ姫ご立腹。
だがすぐに何かを思い着いたような顔をした

「なら、武勲をあげればいいのですね。」


……あ、なんか企んでるな、こいつ。



*************∋☆

いまこの国の西の山脈の向こうにある“エンダルシア帝国”がこの国を狙っているらしく、今にも戦争が起きるかも知れない状況である。

このトゥインバル王国は、戦争は嫌だからなんとか回避したいが、あちらの国の帝王には今実質権力は無く、全ての実権は将軍が握っているのでそれも難しい。

では、その戦争が起きた時に自分が全て蹴散らせば上級騎士と認められるのではないか。

「つまりこーゆー事ね。」

「うむ!」

「ざけんな。」
自分達近衛隊と姫様は、姫の部屋でこれからについて話し合っている。
つーか姫の突拍子もない話しを聞いている。

「戦争なんて誰が好き好んで……」

「でもできなくはないですよね。」

「確かに、あの盗賊達みたくやれば死人もでないしね。」

「…君達黙ってくんね?」

くそ、なんだかんだで出来ちゃうからやなんだよ。

「うぅ?、でもでも、戦争は危険ですし、先生も危ないですし、怖いです。」

よく言ったシルバちゃん。

「ほら、彼女も怖がってるしょ。だから戦争はダメ、ゼッタイ。」

「戦争は私達の意志に関係無くす起こるだろうに。それに何かあったら護って貰えば良いではないか。そのための近衛隊だ。」

むぅ、確かにそうだが…
自分は自分の意志に関係無く入れられたんだぞ。

「まぁ起きたらその時は活躍して貰う、わかったかナルミ。」

「………ハァ、わかりましたよ。」

「でもいつ起きるかはわからないけどねー。」

全く、起きない事を祈るよ。

と、そういえば…

「なぁ、なんで自分が人間だって暴露しなかったん?
真っ先に言うと思ってたんだが。」

「ん?あぁ、シルバいわく人間だと暴露したら昨日の兄様みたいな輩がナルミを引き抜こうとするという結論に至ってな。
しかもそれを聞いたエンダルシアが何をしてくるとも解らんからな。
大丈夫だ、知ってる奴には口止めしてるし、父様と母様には後で知らせとくから安心しろ。」

何が安心しろだ馬鹿者!
人の口に戸は立てれねーんだよ!
つーかあの二人に言っていいのか?

そしてシルバちゃん、あそこで面倒に巻き込まれなかったのは君のお陰か。
これは感謝せねば。

「ありがとうな。」

そう言いながら自分はシルバちゃんの頭をナデナデした。

「うぅ、あぅあ……」

すると彼女のお顔が真っ赤になった。
ナゼ?

「……どうしたん、風邪?」

「……先生、本気で言ってます?」


なによリム副隊長、めっちゃ本気で心配してるよ。
どうした、なんで他の隊員みんなして『こいつダメだ』的な空気だしちゃってんのさ。

「……とりあえず、先生が人間でサムライだって言うのはいずればれると思います。」

ミミリィ隊長が無理矢理話しを戻し、空気の打破を開始した。

「まぁの、しかししばらくは持つであろう。
少なくとも、エンダルシアが戦争を仕掛けてくるまではもつと思うぞ。
私の見立てでは奴らはあと5日以内に攻めてくる。」

何を根拠にゆーとるのかね、こいつは。

しかし、今の姫の発言により、空気が凍った。
なんで?

「姫、それは本当ですか?」

隊長、あなたはなに子供の戯言を真に受けてんすか。

「あぁ、私がここに戻ったという事くらい奴らももう知っとるだろう。
こっちにその気が無くとも、あっちが勝手に勘繰って“先手を打たれる前にこっちがせめてやる”と考えるだろうよ。」

何をエラソーに、お前みたいな馬鹿が戻ったところでどんだけ影響あるってんだよ。

と、馬鹿の発言を聞き流してるとバタバタと部屋の外が騒がしくなってきた。

そして

バタバタバタバタ

バンッ!

「姫様!至急会議室へ!エンダルシア帝国が宣戦布告をしてきました!」

一人の兵士がそう告げてきた。

え、エリザ姫の予言的中!?

「わかった、すぐ行く。」

姫はそう言って兵士を追い出し、自分達の方をむいて

「だからいったろ、まぁ今までならともかく、今となっては勝てる戦だ。
何たって、ナルミがいるのだしな。」

と、不敵な笑みでのたまった。

なにそれやだよ!
自分はそんなのやりたくない!
勝手にお前らでオ○リスク建ててろ!!

「行くぞ皆の衆!この“謀将姫騎士”エリザ!その力を見せてやる!!」

なにその大層な名前!?
ちょま!引っ張るな!
やめなさい姫はしたない!

「フフフフフ、この戦、私の策略とナルミの力を持ってすれば3日で片が付く。
そしてナルミには上級騎士としての箔が付く!」

やっぱりそっちかい!
くそー、もうどーにでもなれだ。

人生諦めが肝心なんだよ。









………でも納得いかねー!!
 
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