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ルサールカ

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第二幕その三


第二幕その三

「答えられないのか?」
 王子はそんなルサールカに対して言う。
「話せない身体なのか、それとも理由があるのか」
「・・・・・・・・・」
「黙っていてはわからないではないか」
 少しずつ苛立ちを覚えてきた。
「話せないのなら。どうしたのだ」
「王子」
 司祭がそんな彼女を見て王子に声をかける。
「この者はやはり」
「精霊だというのか!?」
「御言葉ですが」
 彼は言う。
「間違いないかと」
「まことか!?」 
 再びルサールカに顔を向けて問う。
「そなたは精霊であると。司祭が申しているが」
「・・・・・・・・・」
「黙っていてばわからんではないか」
 次第に苛立ちが募る。
「話せぬのか?そなたは人だな」
「・・・・・・・・・」
 やはり一言も発しない。これでは自分が何者なのか言っているのと同じであった。
「王子、やはり」
 従者も声をかける。
「いや、待て」
 苛立ってはいたがそれでもまだ彼は諦めてはいなかった。
「もう一度聞こう」 
 ルサールカの整った顔を見て問う。ルサールカもまた王子の顔を見ていた。
「そなたは人であるな」
「・・・・・・・・・」
 だが答えはなかった。そのかわり悲しそうな顔で王子を見ているだけであった。その顔で充分であった。
「やはり答えはないか」
「王子」
 司祭と従者が彼にまた声をかける。
「やはり」
「だが」
 どうするべきか。彼は躊躇いを見せた。そこで急に扉が開いた。
「誰だ、今は下がれ」
 王子は開いた扉に顔を向けてまずはこう言った。
「重要な用件があるのでな」
「その重要な用件でお話があるのです」
「!?そなたは」
 王子がその入って来た者に顔を向ける。ルサールカもまた。するとその者の顔を見た彼女の顔に驚きの色が瞬く間に走った。
「私は水の精です」
 青い髭と目、そして服の蒼ざめた老人であった。その姿だけで全てがわかった。
「何っ、では」
「ルサールカ」
 お爺さんはルサールカに顔を向けた。とても悲しい顔をしていた。
「可哀想に。だから言ったのに」
 だが彼女を叱ることはなかった。そう言っただけであった。
「これでわかっただろう。精霊と人間達は永遠に分かり合えないのだよ」
「・・・・・・・・・」
「さあ、湖に戻ろう。白い花も緑の木々も紅の薔薇も御前を待っているよ。そして青いあの優しい湖も」
「まさか水の精霊がこんなところにまで」
「馬鹿なことと言われるか?」
 お爺さんはゆっくりとした動作で司祭に顔を向けた。
「可愛いルサールカの為にここまで来た老いぼれを。愚かと仰るなら仰ればいい」
「それは・・・・・・」
「ここには花も木も薔薇もないから。さあ帰ろう」 
 ルサールカを抱き締める。すると彼女の髪と目が青くなっていく。そして話せるようになった。お爺さんが魔法を解いたのである。そのルサールカを思いやる心で。
「お爺さん・・・・・・」
 ルサールカもお爺さんを抱き締めた。その目から一条の涙が伝わる。
「帰るね?」
「帰らなくてはならないの?」
「そうだよ」
 お爺さんは優しい声で言った。
「だからね」
「・・・・・・わかったわ」
「真に精霊だったとは」
 王子は蒼白になって抱き合うルサールカとお爺さんを見ていた。
「こんなことが・・・・・・」
「精霊であったならばどうだというのです?」
 お爺さんはその王子に対しても言った。悲しい声で。
「ルサールカは本当に貴方を愛していたのに。貴方は話せないというだけで」
「・・・・・・・・・」
 項垂れる。今度は王子が沈黙する番だった。
「これ程にまで責めて。ルサールカは言葉を捨てて貴方のところに入ったのに」
「言葉を捨てて・・・・・・」
「姉や妹達も捨てて。何もかも捨てて貴方の側に参ったのに。それなのに貴方は」
「そうだったのか・・・・・・」
「しかし所詮は」
「さっきも言いましたが精霊だからいいというのならそれでいいでしょう」
 また司祭に言い返した。
「ですが。精霊もまた生きていて恋をするのです」
「うっ・・・・・・」
 これには司祭も何も言い返せなかった。
「そしてその為には犠牲も厭わないのです。人と同じように」
「人と同じ・・・・・・」
「そうです」
 今度は王子に言った。
「同じなのですよ。だから今ルサールカは泣いているのです」
 自分の腕の中でさめざめと泣くルサールカに顔を向ける。
「さあ帰ろう。湖の中に」
「けれど」
「もういいんだよ。御前は何も心配しなくていいから」
 ルサールカを優しく抱いて言う。
「だから」
「けれど私は」
 王子の方を見る。彼と目があった。
「うっ」
 ルサールカと目が合い言葉を詰まらせる。背けはしない。だがその何処までも悲しい目に言葉を失ってしまったのだ。
 
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