| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第65話 そして、師匠の話へ・・・

「順調ですね」
「そうだな」
俺とジンクは天幕の中で話をしている。
ジンクは王妃の衣装ではなく、かつて俺達と冒険していた頃の服装をしていた。


俺は、ロマリア王国が計画している、第2次開放計画「ネアポリ開放作戦」に参加していた。
ちなみにネアポリはロマリアの南方にあった港町で、開放することで南方の拠点都市となることが期待されている。

俺はジンクに呼ばれて作戦本部にいるが、今回は今のところ何もしていない。
計画作戦は、ロマリア王国近衛兵作戦本部が全て作成している。
俺達は、アリアハン王国軍事顧問の一員として、天幕内につめているだけだ。
言うまでも無いことだが、ぬいぐるみは身につけていない。


今回の開放計画は、1年前に行われたウエイイ開放作戦と基本的には一緒だ。
魔王バラモス、大魔王ゾーマが存在しないことから、ジンクや俺は都市の開放時にモンスターの大量襲撃はまず無いと考えていた。

しかし、新たな魔王が登場しないとは限らない。
そのため、今回も魔王バラモスと同程度のモンスター襲撃を考慮にいれて、俺が呼ばれていた。

いわゆる、秘密兵器扱いだ。
だが、驚異となるモンスターの出現どころか、モンスターの大量出現も今のところ報告はされていない。
どうやら、今回は最後まで秘密兵器のまま終わることになりそうだ。
最後まで秘密兵器扱いは、前の世界で中学校時代の部活動で経験して以来、2度目になるだろう。


俺は、勇者との再会後冒険にでることなく、のんびりとした毎日を送っていた。
勇者はすぐに、俺達と一緒に冒険をするつもりだったようだが、「しばらく家に帰って、母親を安心させろ」とがらでも無いことを言って、半ば強引に実家に帰らせた。
一緒にいた母ソフィアが、「お前が言うか」というような視線を俺に送ったが、無視した。

勇者と3姉妹(あとで、勇者から聞いた話では3姉妹は妹たちの世話をするために、元の世界に帰ったらしい。彼女たちは7姉妹のうちの3人だということだ)の話については、勇者達が大魔王を倒したが、3姉妹はその戦いで命を落としたと国王達に報告した。

ちなみに、ジンクがかつて一緒に冒険していた相手もこの3姉妹だったらしい。
ジンクは彼女たちに気に入られたため、タンタルのようなむごい扱いは一切なかったようだ。

話をもどすが、3姉妹の話や、大魔王の存在を公表しないことで、アリアハン王国の見解は一致した。
結局、アリアハン王国の公式発表は、魔王が最後の力でアリアハン王宮を襲撃し俺の父ロイズを含めた近衛兵を道連れにしたが、そこで力尽きた。
勇者がひとりでバラモス城に潜入したが、魔王バラモスは消え去ったと発表した。
だが、魔王の怨念でモンスターはしばらく出現するので気をつけることとあわせて、発表されている。

ゆっくりと休んではいたが、しばらくしたら冒険に出ることを考えていた。
テルルへの責任を果たすためだ。
テルルは俺の願いに応えて、商人から盗賊に転職していた。
だが、テルルの転職については、テルルの父キセノンとの約束「魔王を倒す」は果たすことができなかった。
俺はキセノンに、国王と同様の報告と謝罪をした。

キセノンは俺の話を聞くと、自分の後継者を娘のテルルにすることを決め、俺に対してテルルを商人に転職させて、一定のレベルまで育てて欲しいと依頼された。
俺には、断る理由はなかった。
だが、すぐに商人に転職するのもMPがもったいないので、魔法使いか僧侶の経験も積むことを考えている。


セレンも転職を考えているようだった。
勇者が持っていた本物の賢者の石を眺めながら、
「私みたいな普通の僧侶は、やっぱりいらない子なのね」
と言って泣き出したのを何とかなだめ、転職し一緒に冒険をすることで説得することができた。

俺が、これからの事をジンクに話したら、
「いいですねえ、ハーレムパーティですか」
「お前と一緒に冒険したときと、変わらんぞ」
ジンクとのボケに冷静なつっこみをいれる。
「勇者さんにも優しいようですが」
ジンクの視線は、天幕の隅で俺達の会話を聞いていた勇者に移った。


俺は当初、勇者をロマリアに連れて行くつもりはなかった。
だが、ロマリアに行くことを知った勇者が、
「ジンクお師匠様に、どうしても会いたい」
と言い出した。

俺は、かつて勇者にジンクの事を話したことがある。
ジンクが使用する変わった呪文の事を話すと、妙なことに勇者はジンクの事を「お師匠様」と呼ぶようになった。

「遊びに行く訳じゃない」
と説得したが、
「1日だけだから」「一つ呪文だけを教わったら帰るから」と言って、無理についてきた。
俺は勇者の頼みを、断る理由ことは出来なかった。
それにしても、勇者は、どんな呪文が覚えたいのだろう。


俺は、考えをジンクの質問に戻して、
「レベル1だから仕方ない」
と、もっともらしく話をしたが、
「私がパーティに参加したときも、レベル1ですが」
屈辱的なことだが、正確な事実をジンクに指摘される。

「イオナズンを使うレベル1と、一緒にするな」
「アーベルは、信じていなかったくせに」
ジンクは、悲しい表情で俺に詰め寄る。

作戦が順調とはいえ、自重してくれ。
俺は、周囲を見回してジンクを諫めてくれる相手を探したが、俺以外いないようだ。
勇者などは、目を輝かせて俺達のやりとりを聞いている。
早く作戦が終わって欲しい。
俺の願いが通じたのか、作戦成功の知らせは、すぐにもたらされた。



「お久しぶりです」
「ソフィアの息子だったな」
「はい、アーベルです」
俺は、ロマリア王宮内を歩いていると、小太りした中年の男と挨拶を交わしていた。
母ソフィアとジンクの師匠である。

「今日も、ひとりなのか」
「はい、そうですが」
「・・・。そうか、残念だ」
男は肩を落とした。
幸運にもセレン達は、先に宿に戻らせている。
勇者もアリアハンに帰している。
今の勇者なら・・・、いやなんでもない。

「お師匠様、久しぶりです」
「ふん。お前などに用はない」
男は、ロマリア王妃の挨拶にもすげない返事だ。

「それなら、これはどうですか」
ジンクは、悪戯っぽく微笑むと、呪文を唱えた。

「ジンクは王妃だろ。自重しろよ」
俺は、呪文の内容に気がつくと、ため息をつきながら注意する。
ジンクの胸は豊胸呪文「特盛り」で大きくなっている。
ジンクの服装は、薄い赤のドレスだった。
構造は不明だが、胸の大きさが変わっても、問題ないように作られているようだ。
ジンクは、男に胸を見せつけている。


男は、ジンクの胸を観察すると、
「偽物には、興味がない」
と、言いながら、視線をジンクの豊かな胸から外すことなく、歩いていった。
「さすが、師匠です」
ジンクは、にこやかに手を振っていた。

俺は、師匠と呼ばれた男を強引に部屋に押し込んだ。


「あなたも、転生者とは思いませんでした。
いや、前回はうまくだまされました」
「すまんな、アーベルよ」
男は、自分が転生者であることを隠すため、助手の女性を変身呪文「モシャス」で自分の姿に変えて俺と話をさせたらしい。
どおりで、「電話」という言葉にも全く反応を示さなかったわけだ。
「ソフィアから話は聞いている。ならば、正直に自分の話をしても問題ないと思ってな」
そういって、男は自分の過去を教えてくれた。


トシキと名乗った男は、あかつき号という船に誤って入船してしまい、物置で隠れていたところ、海難事故に巻き込まれ、溺れてしまったらしい。
あかつき号の事件といえば、偶然付近にいた警官が、嵐の中にもかかわらず単身で乗り込み全員救助したと、俺の記憶にある。
だが、乗員リストに無かったため、トシキの存在がわからなかったかも知れない。

ただ、俺の前世の記憶では、事件が発生したのは俺が転生する10年前の夏の話であるのに対して、トシキの話では俺の転生する3年前の話であった。
ひょっとすると、俺とトシキが転生する前の世界が異なる可能性が出てきた。
一度、時間を作ってゆっくりと検証作業を行う必要が有るだろう。

トシキは島で隠居生活を送っていた老人に助けられた。
老人の話では、樽の中に入っていた少年を発見し、救助したが、意識が戻らなかったらしい。
老人は最後の手段として、少年に対して、失われた魔法を唱えた。
そのことで、転生したらしい。

「転生呪文だったのですか」
「たぶんとしか言えないが」
トシキは悔しそうにつぶやく。
この男は、魔法を生涯にわたって研究していた。
それでも、解明できないのだ。

老人は、助けた少年に魔法を教えて育てることにした。
少年は魔法の才能があったことから、やがて老人を越える力をもった。
老人が老衰で亡くなると、男は1人で孤島に住み続けた。
ちなみに、漂流した少年の氏名を表す物がないことから、前世の名前をそのまま使用しているとのことだ。

俺は、トシキの話を聞いた後、問いかける。
「俺に何の話をするつもりですか?」
「エロ神様のことだ」
「はい?」 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧