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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第52話 そして、勇者の旅立ちへ・・・

俺は、アリアハン城内にある訓練場にいた。
目の前の男、近衛兵隊長のロイズは、ひのきの棒で俺に攻撃する。
「!」
最初の上段からの攻撃は何とかかわせたものの、振り下ろされた棒から繰り広げられる連続の突きを避けることはできず、右肩とみぞおちにダメージを受ける。
俺は、膝を突くと、手にしたけんじゃの杖を使って傷をいやす。
「降参です」

俺は、のどもとに突き出されたひのきの棒を目にしながら、ロイズに答えた。
「まあ、全力なら負けるのは俺だけどな」
「仕方ないですよ、父さん」
俺は苦笑しながら答える。


俺のレベルは、種集めによる戦闘で37になっていた。
途中から、種集めが目的なのか経験値稼ぎが目的なのかわからなくなるほど、戦闘をこなしていた。
タンタルが、モンスターを呼ぶ特技「くちぶえ」を覚えていたため、効率的に戦闘をこなせたのも大きな理由ではある。

もう少し経験を積めば、最強の攻撃呪文「イオナズン(本物)」を習得できる。
一方で、俺の父ロイズのレベルは、18しかなかった。
アリアハン出身で、アリアハン以外の国を冒険する機会がなかったことから、経験値を得る機会に恵まれなかったのだ。

俺が魔法を使ったら、確実にロイズを倒せる。
俺が覚えている最強呪文「メラゾーマ」1回だけでも、瀕死のダメージを与えることができる。
しかも、俺は空を飛べるので、一方的に攻撃できるのだ。
訓練の結果、俺は空を飛びながらでも、別の呪文が唱えられるようになっていた。
とはいえ、飛行は不安定になるため、多用はできないが。

だが、俺は魔法を使わず、防具も外して、単純に技量だけで、父親と訓練をしていた。
魔法を封じられたときでも、ある程度自分の身を守る必要があると思っていたからだ。

普通のモンスター相手ならば、この上の世界であれば問題ない。
ただ、対人戦の時には、何があるかわからないのだ。
大魔王を倒し、モンスターが出現しなかった場合、次の相手は人間を相手に戦う必要があるかもしれない。

荒廃した国土を回復すれば、今の人口は十分養うことができると考えているが、どこの世界でも、人の財産を奪い取ろうと考える人間はいる。
そいつらから、自分の身を守るためには、キチンと技を身につける必要があるのだ。
レベル差は、戦闘で大きな力の差となるが、それが全てではない。
俺は、そう考えていた。


「そろそろ、帰るかアーベル」
「はい、父さん」

俺は久しぶりに実家に帰っていた。
明日は、勇者が16歳の誕生日を迎えて、冒険に旅立つ。
俺と、テルル、セレンはルイーダの酒場で勇者と合流し、旅に出るのだ。
タンタルは、アリアハンに滞在して、俺達を見送ると言っていた。
律儀なひとだ。


セレンもテルルも俺と同様に、それぞれ実家に帰っている。

テルルはあまり父親のキセノンに逢いたく無いようだったが、俺がキセノンに渡す物があったので、しぶしぶ実家に帰っていた。
俺がキセノンに渡したものは、勇者用の装備品であった。
王様が、勇者に渡す装備は貧弱なので、キセノン商会が資金を提供し、俺が世界中から武具をそろえて、アリアハン国王に献上したのだ。

俺達の資金から勇者の装備品の費用を捻出することも出来たのだが、キセノン商会が自分の力を示す機会だといって、資金提供をしたのだ。
好意は素直に受け取ろう。
「アーベルは、うちの父さんにまた、何か吹き込んだのでしょう」
テルルは俺の話を聞いて、あきれたように言われたが、気にしないことにする。

セレンは、彼女の父親に転職の相談をしていた。
俺が、けんじゃの杖を購入したことで、自分がこのままでいいのか悩んでしまったのが原因だ。
俺は何度も、「今のままでいいから」と言ったのだが、やはり転職の決意は固いようだ。
ただ、問題はどの職業に就くかという事だった。

セレンの呪文を生かすのであれば、盗賊が一番いいのだが、既にテルルが転職している。
武闘家や戦士の職業もいいが、最大MPが半減するため、長期戦の時に苦労してしまう。回復に専念出来る職業がいた方がいいからだ。

セレンを呪文のスペシャリストとして専念させるために、遊び人を経験してから、賢者に転職する手もあるが、賢者に転職すると、成長が遅くなってしまう。
セレンの早期の成長を考えて、魔法使いに転職する手もあるが、今度は俺と職業がかぶってしまう。
それに、魔法使いはHPが少ないので、ボス戦では苦労することになる。

セレンは、蘇生呪文「ザオリク」を覚えていないため、転職はまだ先の話だが、かつて冒険者であった父親とじっくり話をしてから決めますと言っていた。


俺は、家までの帰り道、父ロイズと子どもの頃の話をしていた。
俺がアーベルに転生する前は、かなりわんぱくだったらしい。
俺が転生した日も、母親の目を抜け出し、1人で城に忍び込もうとしていたようだ。

俺が、転生してからずいぶんおとなしくなったので、逆に心配していたが、セレンやテルルと遊ぶようになって、一安心したという。
ただ、キセノン商会に入り浸っていたとき、俺が商人をめざすのかと思っていたらしい。
俺は、この世界の知識を得るために行動しただけだったが。

俺が、魔法使いを目指すと知ったとき、母親に似たのかなと思ったそうだ。
顔もどちらかといえば、母親に似ており、セレンは最初に出会ったとき、俺のことを女の子だと思ったようだ。
顔は似なかったが、声は父親に少し似ていた。
それを知ったのは、声変わりがするようになってからだ。
たまにロイズの声まねをすると、母ソフィアが勘違いして俺に声をかけるからだ。
ただ、悪戯の代償は大きかった。


「こうして、一緒に歩くのも久しぶりだな」
「そうですね」
俺は、子どもの時は勉強に明け暮れ、冒険者になってからも旅に明け暮れていた。
「ところで、アーベル?」
「なんですか」
「結婚はまだしないのか?」
「冒険が終わらないと」
「そうか」
「早く、孫の顔を見せろよ」
「気が早いです」
「そうだな。俺もまだ若い。孫の顔を見る前に死ぬことはないだろう」
ロイズはからから笑って答える。
「・・・。大丈夫です。絶対に大丈夫です」
「なんだ、アーベル。既に子どもでもいるのか?」
ロイズにからかわれた俺は、先に走って家路に急いだ。


絶対に、絶対に、大魔王を倒すと決意しながら。



「まだかな」
「まだですねぇ」
「まだだな」
セレンとテルルと俺は、ルイーダの酒場で話をしていた。
朝から、酒場に集まって勇者が来るのを待っていたのだが、昼前になっても、姿を現さなかった。

最初は、冒険の進め方について、ああでもない、こうでもないと話をしていたが、3ループ目に入るとさすがに疲れて、誰もしゃべらなくなった。
酒が入れば、少しは場が持つかもしれなかった。

だが、俺は酒を飲まないし、セレンやテルルも朝から酒を飲む事はしなかった。
いくらアリアハンにいるモンスターが弱いからといっても、足をふらつかせながら冒険に出るのは、遊び人だけで十分だ。
だいいち今の俺達には、周囲からの注目が集まっていたので、下手なことはできない。

1人は、前のロマリア王で魔王を倒した魔法使い。
1人は、アリアハンの経済を牛耳る、キセノン商会の一人娘。
1人は、有名な冒険者の娘でかわいらしい僧侶。
この3人はもうすぐ、勇者と一緒に旅立つのだ。
注目を浴びないはずがない。

事前に俺達は、勇者から一緒に冒険することの了解をもらっていた。
いくら、国王からの要請とはいえ、一緒に戦う仲間を選ぶのは勇者である。
きちんと勇者がルイーダの酒場等の、冒険者ギルドでパーティの登録をしない限り、一緒に冒険ができないのだ。

勇者は、初めて会ったとき以降、何故か俺になついていた。
俺は、最初のころは勇者の事を恐れていたが、俺にだけ特別に尊敬のまなざしを示すのを感じてから、恐れるのをやめた。
今では、勇者を弟のようにかわいがっていた。
ただ、セレンとテルルは俺が勇者をかわいがるのをあまり喜んではいなかった。

特に俺が、ロマリア王の時に行った演説の話を勇者の前でしたときは、勇者が顔を真っ赤にしてうつむいたので、
「どうした、大丈夫か?」
と、質問すると
セレンとテルルが2人でひそひそ話をして、10日ほど不機嫌な顔をしていた。

どうやら、
「勇者を邪魔する奴は絶対に許さない」
という演説内容が気に入らなかったらしい。
なぜだろうか?


「とりあえず、昼食でもとりながら、計画を確認するか」
「そうですね」
「わかったわ」
俺は、適当に頼んだが、鳥の手羽先を食べようとして、先日行った、鳥の飼育場のことを思いだし、手羽先を戻した。
テルルも、同じ事を考えたのか、食べようとはしない。
「テルル、これおいしいよ」
「今は、いいわ」
「じゃあ、いただきます」
セレンは、テルルの分まで食べ始めた。

「テルル。セレンはあの鳥をかわいいと言ってなかったか?」
「そうよね」
「どうしたの、二人して。内緒話?」
「なんでも、ないよ、セレン」
「そ、そうよ。おいしそうに食べているわ、と感心していたのよ、ね」
「あ、ああ」
「じゃあ、アーベルも一緒に食べようよ」
「・・・。わかった」
俺は、顔色を変えないよう注意を払って、手羽先を食べ始めた。
「アーベル。キメラの翼の話を知っていたのでしょう?」
テルルは、俺に小声で質問する。
「鳥の特徴までは、知らなかったよ」
俺は、適当に食べながら返事をする。


「とりあえず、確認をしよう」
俺は、午前中の話をまとめて、確認した。
俺達や勇者の武器や防具は、最強クラスなので、戦闘だけはできる。
ただし、勇者のHPが低いので、いきなり強力な呪文を使う相手と戦うことはできない。
また、パーティの中に遊び人の経験者がいないため、敵を呼び出す呪文「くちぶえ」が使用出来ないので、訓練はできない。
このため、俺達の最初の旅をなぞる形で、ダーマまで旅をすることを確認した。

その後は勇者の強さをみながら、オーブを集めることを提案するつもりだ。
オーブに関する噂は、テルルも知っているが、あまり信じていないようだ。
ならば、無理に今の時点で説明するつもりもない。
オーブを集めて、不死鳥ラーミアをよみがえらせた後に、竜の女王の城まで出向いて光の玉を入手する。
この光の玉がないと、大魔王ゾーマを倒すのは困難を極めるからだ。

光の玉を入手後は、下の世界アレフガルドで原作通りに冒険を進めて、大魔王ゾーマを倒すのだ。
幸い、勇者を納得させるための材料がある。
勇者の父親であるオルテガの存在だ。
オルテガは、勇者がゾーマの城に侵入した時点で、モンスターに殺されてしまう。
だが、魔王バラモスを倒す前ならば、オルテガが殺される前に勇者とあえるかもしれない。
そう話をすれば、勇者はバラモスより先にゾーマ討伐を優先するだろう。
ひょっとすれば、夢の勇者親子パーティが出来るかもしれない。

「なに、にやにや笑っているのよ」
テルルが厳しい視線を俺に向ける。
セレンも同じように厳しい視線を向ける。
俺は、別に変な妄想をしたわけではないのだが。
一応弁明しておくか。
「勇者と一緒の冒険が楽しみなだけだ」
「・・・」
「・・・」
なぜか、さきほどよりも視線が厳しくなっていた。

「・・・。とりあえず、ダーマまでは歩くということで、いいですね」
俺は、なんとか返事を返す。
「はい」
「わかったわ」


俺達の昼食は終わろうとしていた。
いまだに、勇者は酒場に姿を見せなかった。
「遅いですね」
「王宮で何かあれば、父さんから連絡があるはずだし」
俺は、違和感を覚えていたが、それがなにかわからなかった。
ひょっとしたら、勇者は迷子になったのかとも考えた。
ルイーダの酒場は、成人になるまで入ることが出来ない。
とはいえ、冒険者であればルイーダの酒場の場所は誰でも知っている。
人に尋ねれば問題ないはずだ。
いや、勇者はしゃべれなかったな。
俺は、セレンとテルルに探しに行こうかと提案しようとしたとき、


「アーベルさん!」
「タンタルさん」
タンタルは、酒場内をかけだして大声で俺に話しかける。
「どうしたのですか」
俺達は、慌てるタンタルの様子を疑問に思いながらも、タンタルに話しかけた。

「まつ、まつなんとかさんが・・・」
「まつまつなんとかさん?」
長い名前だ。
聞いたことがない。
「と、とにかく、勇者がさらわれたのだ!」
「なに!」
「なんですって!」
俺達は、思わず立ち上がった。
「アーベル」
セレンが俺の服をひっぱる。
「・・・、わかった」
俺達が騒いだため、みんなから注目されている。
ただでさえ、勇者の随行と知られているので、余計に目立つのだ。

俺は、合図をして自宅に呼び寄せることにした。
 
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