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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第37話 そして、スーの村へ・・・

「たしか、このあたりだったかな?」
俺達は、3人での冒険を再開していた。
船による移動にも大分なれてきた。

しかし、船の移動でも不便なことがある。
「ルーラやキメラの翼がつかえないのがねぇ」
実際には、船の上だろうが、使うことはできる。
ただし、船はルーラやキメラの翼では移動しないのだ。
海上に残された船を再び使うためには、新しく別の船を用意する必要がある。

「ゲームでは簡単に移動できたのになあ」
「アーベル、何か言った」
「なんでもないよ」
ルーラの魔法を改良しようかと考えたが、移動場所の確保等問題が多いため、見合わせることにする。

「とりあえず、3人いればなんとかなるし」
現在の戦力であれば、海上のモンスターにまけることはまずない。
ただし問題なのは、追放呪文バシルーラでアリアハンにまで飛ばされることだ。
戦闘が終わっても、仲間は戻ってこないので、残されたもので残りの船旅をしなければならない。

ちなみに、この世界でのバシルーラは、術者以外の仲間にも使えるらしい。
確か、SFC版だと使えなかったはずだから、この仕様はFC版準拠ということか。
・・・いや、FC版だと自分自身にも使えた気がする。
自分で使うのなら、ルーラで十分か。
ジンクが餞別代わりに、俺に実演してくれた。
俺が全力で拒否をしたにもかかわらず。

飛ばされた時のことを思い出す。
・・・。どうでもいい話だな。

だが、ジンクからは、他にも「ふうじんの盾」をもらったので文句は言わない。
「ジンクはとても綺麗だったわねぇ」
「・・・」
最近、ジンクの話をすると、テルルは不満そうに俺に当たるようになった。
「あのドレスを着れば、誰だって綺麗になるさ」
「あら、そんなことジンクに言ってもいいの?」
「頼むから、勘弁してくれ」
今の俺は、ただのアリアハンの国民だ。
国際問題に巻き込まれるのは、もうご免だ。

「村がみえたわよ」
ようやく、目指す村がみつかったようだ。


「すてき」
「アーベル、ありがとう」
「どういたしまして」
俺達は、スーの村の道具屋にいた。
薬草などの道具類はまだたくさんあったのにと、訝しむ2人を俺は強引に連れて行った。
目的は、薬草ではない。
この村で作られている装飾品が目当てだ。

俺は、2人のために、銀の髪飾りを選ぶとそれぞれに手渡した。
テルルには、後ろ髪を束ねる髪留めを、セレンにはカチューシャを選んだ。
銀の髪飾りとよばれているこれらの装飾品は、いろいろなデザインがあったが、どれも防御力は同じで、しかも高い。
俺の装備品である皮の帽子と比較して、10倍の防御力である。
ああ、自分で言って少し悲しくなってきた。

セレンとテルルは俺の表情の変化に気付かず、二人して髪飾りをああでもない、こうでもないと位置決めをしていた。
「どう、似合うかしら?」
「うん、思っていた以上によく似合っているよ」
「そ、そう」
「ありがとう。アーベル」
2人とも、顔を真っ赤にして喜んでいる。
気に入ってもらってよかったと、俺も喜んでいた。
あとで、ジンクにもお礼を言わないといけないな。



「女の子が、剣をもらって喜ぶと思いますか?」
「攻撃力が高くなれば、早く戦闘が終わるから、けがが減って喜ぶかと」
「・・・。重症ですね、これは」
ジンクは大きなため息をついた。
俺とジンクは、サマンオサの宿屋で話をしていた。
俺は、僧侶と商人にとって最高クラスの武器をプレゼントしたにもかかわらず、セレンとテルルが喜ぶどころか、残念がった理由をジンクに質問していた。

どうやら、俺と女性陣との間では装備品に関して、意見の相違があったようだ。
「そうではありません。アーベル」
「何が違うのだ?」
「プレゼントの意味についての見解の相違ですよ」
「プレゼントの意味?」
俺は首をかしげる。

せっかくの大金を手に入れたのだ、パーティの戦力強化にお金をつぎ込むのは問題ないはずだ。
大金を持っていても、全滅しては意味がない。
所持金の半分を持って行かれるし。
「普通に生活する女の子が、プレゼントといわれて何を期待しますか」
「・・・。そういうことか、わかったよジンク」
「ようやくわかってくれましたか。これでもわからなければ、これを使うところでした」
そういって、ジンクは杖をとりだす。
「理力の杖か」
「あなたには、魔法が通用しませんからね。物理攻撃で殴るしかありません」
俺はため息をついた。

一対一の戦いなら、回復魔法を使えない俺の方が圧倒的に不利だ。
俺が話を理解したことにほっとして、ジンクは話を続ける。
「私が、よいお店を紹介しますので、3人で行ってみてください」
そういって、注意事項とともにスーの村の道具屋を教えてもらった。


「どうしたの、アーベル?」
「なんでもないよ」
「ならいいけど」
俺は、テルルに返事をすると、注意事項を思い出していた。


「ひとつめは、私が紹介したことを決して話さないこと」
俺はジンクに理由を聞こうと思ったが、何故か自分の命の危機を感じて取りやめた。
「ふたつめは、銀のかみかざりよりもとんがり帽子のほうが防御力が高いからといって、セレンさんにあげないという選択を選ばないことです」
ジンクは急に真剣な顔をすると、俺の顔に近づいた。
「さもないと、セレンさんのザキの練習台になりますよ」
それだけは、勘弁して欲しい。
俺は、理由がわからないままコクコクと頷いていた。


「アーベル?」
「ど、どうした、セレン」
俺は、セレンから急に話しかけられて、驚いて反応する。
大丈夫だ、ばれていないはずだ。
俺は、平静をよそおいながら、セレンに話を続けさせる。

「相談したいことがあります」



「座りましょうか」
「そうだな」
俺とセレンは、スーの村はずれにいた。

テルルは、武器屋を見てくるといって、1人で出て行った。
スーの村はのどかだ。
1人で行動しても問題はないだろう。

俺とセレンは、柵の付近に腰掛けた。
セレンはさっそく、カチューシャを付けていた。
水色の髪の毛に、銀色の装飾品はなじまないかと危惧していたが、カチューシャのデザインが控えめなことから、落ち着いた感じのセレンには良く似合っていた。

「なんだい、改まって相談というのは?」
しばらく待ってから、俺は優しく声をかける。

俺はセレンがいて大変感謝をしている。
このパーティで唯一の回復役。
そして、冒険者でもっとも重宝されながら、人数が少ないため、競争率の高い職業でもある。
俺が王になったことから、セレンは1年間活動を休止していた。
その間に、多くの冒険者からパーティへの参加を呼びかけられたという。
多くの冒険者達は、セレンに癒されたいとか、マスコット役としておいておきたいとか理解不能な理由で誘っていた。
特に僧侶男の3人パーティから誘いがあったことを聞いたときは、冒険者ギルドの幹部になってパーティ編成システムを変えてやる!と、思わず息巻いたものだ。
実行に移すつもりはないが。

当然、純粋に戦力強化のため、誘われたこともあったそうだ。
女性ばかりのパーティからも声がかかったことがあったらしい。
本来なら、他のパーティに移ってもおかしくなかった。

だから俺は、なるべくセレンの期待に応えたいと考えていた。
「遠慮しないでいってくれ」
「・・・、魔法を覚えない僧侶なんて、いらないですよね」
セレンは目に涙をためて、俺に訴えた。

「どういうことだ?」
俺は意味が理解できず、さらに問いかける。
「私、わたし、もう呪文を覚えないかもしれない」
目を大きくして、俺に向かってうるうると訴える姿は、非常に保護欲をかき立てられる。

だが、俺はあわてて周辺を見渡す。
あたりにはだれもいない。
俺は少し安心した。
誰かに今の俺達の姿を見られたら、俺は殺されるかもれない。
「セレンを救うために、俺を殺した」と言えば、無罪を勝ち取ることができるだろう。
残念ながら俺を保護してくれる存在は何処にもない。
・・・、いかん。冷静にならなくては。

俺は、努めて冷静にセレンの話を聞いていた。
セレンが泣きながら話す内容はこうだった。

自分はレベル18になったが、レベル18で習得出来る呪文「ルカナン」を覚えることがができなかった。
ひょっとしたら、自分に僧侶の才能がないのかもしれない。
もしかしたら、もう呪文を覚えることが出来ないかもしれない。
そうなれば、使えない僧侶として捨てられるかもしれない。
自分の替わりに、俺が、新しくかわいい僧侶(女)を加えて冒険をするかもしれない。

「ふぅ」
すごいよセレンさん。
よくもまあ、こんなにも突っ込みどころが満載の話をしてくるとは。
責任は俺にあるか。
俺はこのパーティのリーダーである。
一年ぶりに冒険を再開したのに、あまりセレンと突っ込んだ話をしなかった。
こうなったら、時間をかけて何度も話をする必要がある。
信頼を取り戻すには時間は必要だ。

「セレン。まずは、ひとつづつ誤解を解こうか」
「誤解?」
「そうだ、あまり話をする機会が無かったことは、済まなかった」
俺は、セレンに頭をさげる。
「・・・」
「まずは、呪文の習得についてだが」
俺は頭の中で考えを整理しながら話を始めた。
「セレンは講義の内容をおぼえているかい?」
セレンは頷いて話を始める。

「呪文は一定のレベルで覚える事ができることと、習得には「かしこさ」が関係することだったかな」
セレンはようやく泣きやんで、落ち着いたようだった。
「そうだね、講義ではその程度しか話は無かったとおもう」
「・・・」
「ここから先の話は、誰にも言わないと約束できるかい」
「はい」
これから先の話は、俺が前の世界でインターネットを使って調べた話だ。
現在、母ソフィアに、冒険者ギルドから統計データを入手してもらうようお願いしているが、間違いはないだろう。

「呪文には、確実に覚えられる呪文とそうではない呪文がある。
そして、そうではない呪文については、ある程度のかしこさがあれば半分程度の確率で覚えることが出来る」
「だったら、ルカナンの習得も運しだいなの?」
セレンは安心して質問する。
「ルカナンは、必ず覚える呪文だよ」
「そ、そんなぁ」
セレンは、再び涙ぐんでいた。
この涙は見たくなかった。
だが覚えている以上、嘘はつきたくなかった。

俺がこの世界に来て最も変わったことは、記憶力だった。
もともと、記憶力はあまり良くなかった俺だが、前世の知識のうちドラクエ3に関係ある知識だけは、かなりはっきり覚えている。
確かにこのゲームを何十回も遊んでいたが、他のゲームも遊びまくっていたのだ。
この世界に転生したことと無関係ではないと思う。

「話は途中だ、セレン」
「えっ」
セレンは心配そうな顔をむける。
俺はセレンを思わず抱きしめて、頭をなでなでしたくなるほどかわいらしかったが、我慢して話を続ける。
「ルカナンは一定以上のレベルがあれば確実に覚えるよ」
「そうなの?」
「レベルが20になれば、確実に覚えるよ」
「本当?」
セレンは目を輝かせて期待している。
「俺が、セレンに嘘をいったことがあるかい?」
「ごまかしたことはあるけど、嘘はないわね」

俺はごまかしたことなどなかったはずだが、追求されるとまずい気がして話を続ける。
これもごまかしたことになるのだろう。

「だから、セレン。安心して一緒に冒険をしよう」
「はい!」
セレンは元気よく頷く。

「それに、」
俺は、セレンの頭をなでなでしながら答える。
「こんなにかわいらしい僧侶を見捨てたら、世界中の冒険者に殺されるよ」
「私を、子ども扱いしないで」
言葉はともかく、セレンの表情は、全く不満を持っていなかった。


「さあ、そろそろ戻ろうか」
テルルが探しに来るかもしれない。
俺が周囲を見渡すと、セレンはいたずらっぽく微笑む。
「テルルは宿で待っているわ」
「そうなのか?」
「だから、お願い」
セレンは俺の腕を取ると、腕を組むようにして歩き始める。
「宿屋では、テルルの話も聞いてあげて」
「・・・。わかった」
俺は頭をかきながら、宿屋に向かった。
俺はリーダー失格かもしれないな。 
 

 
後書き
セレンは、おとなしいので主人公から積極的に話しかけない限り、存在が薄くなります。

セレンのかわいらしさが少しでも伝わればいいのですが、伝わらないようでしたら「残念な描写あり」タグを追加しておきます。

最後に、設定の参考として攻略サイトの情報も参考にさせていただきました。
攻略サイトの管理人の皆様には、この場を借りて感謝を申し上げます。 
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