| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第5章 どちらかを選べといわれても、両方と答えるしかない
  第35話 そして、冒険の再開へ・・・

 
前書き
第5章が始まります。
各話のタイトルは、第3章までとあわせました。
第4章のフリーダムぶりは反省しています。 

 
「冒険の再開を祝して、乾杯」
「乾杯」
「乾杯」

俺たちは、バハラタで宴会をしていた。
明日から、3人での冒険が再開するのだ。
約1年間休止していたのだ。
俺たちは浮かれていた。


俺が冒険に出られない間、セレンとテルルは冒険をしなかった。
2人での冒険は、マヒ等での全滅の確率が高くなるからだ。

テルルは、父親が経営するキセノン商会で働いていた。
娘に事業を継がせる考えは変わっていないようだ。

キセノンは俺が王の間、一度も顔を見せなかった。
キセノンは前王とは直接面会したことはあったはずだ。
おそらく、俺がアリアハン出身であること、俺の治世が失敗したらキセノン商会の立場が悪くなることを懸念しての判断だろう。
俺が、キセノンの立場なら同じ判断をする。
「アーベルと面会すると、あいつが何を言い出すかわからないから顔を見せなかったと話していたわ」
テルルが自分の父親から聞いた話を俺に伝えた。
「俺も、キセノンに同じ事を言い返したい」
「あとで、顔を見せたらいいじゃない」
「あまり顔を合わせたくないな」
魔法の玉のこともある。

俺がバラモスを倒した時に使用したのだが、使用した事実を知っているのは、キセノンとテルルにセレン、そしてジンクだけだ。
他の者には、俺専用呪文として伝えている。
知られることで、アリアハンやキセノン商会が大量破壊兵器を所持している事実を露見したくないからだ。

俺がロマリアに残した資料には、「終焉の砲撃」という言葉と、俺が開発した呪文を「極秘資料・危険につき詠唱禁止」と記載して、厳重に管理させている。
当然秘密を解析しようと、ロマリア国内外から調査するものがいたが、成功するはずがない。

ちなみに、俺が開発した呪文は勇者専用の自己記憶消去呪文「わすれる」を誰にでも扱えるよう、改良したものであるはずだ。
あるはずだ、というのは人の記憶に作用する呪文など、怖くて他人に実験できない。
資料にはきちんと「使用者の記憶に影響を与える可能性があります」と警告している。
誰も試さないだろう。

このことを説明したジンクからは、
「あなたほど悪辣な人は、師匠しか知りません」
といわれてしまう。

そういえば、ジンクの師匠とはどんな人か、一度だけ聞いたことがある。
母ソフィアに質問したこともあるが、いつもはぐらかされていた。
ジンクの話によると、「巨乳の美女しか、弟子を取らない人」らしい。
むっつりスケベか。
いや、ただのスケベかもしれない。
俺の母親が、師匠の話をしない理由がなんとなくわかった。

ちなみにジンクは弟子入りするために、モシャスを唱えて変身したそうだ。
いろいろと突っ込むところはあるが、ジンクに対していったのは、
「ジンクよ、そこまでレベルを上げたのに、弟子入りする必要があるのか?」
だった。


・・・、話がずれたな。
テルルは、俺と打ち合わせをするときを除いて、旅に出ることはなかった。
当然移動にはキメラの翼を使用していたので、経験値を稼ぐ機会もなかった。
俺の母親との船旅を除けば。


セレンは、家で家事の勉強をしていた。
セレンは最初、アリアハンの教会で神父の手伝いをしていた。
手伝いを始めてからしばらくすると、急に教会へ参拝する男性信者が増えだした。
セレンは理由がわからず、信者が増えたことを純粋に喜んでいたが、教会の関係者はすぐに理由を理解した。

教会の関係者はいろいろと議論をしたようであるが、結局セレンの手伝いを断った。
テルルから聞いた話では、「これまでの信者に配慮して」ということで結論をつけたらしい。
同時にテルルから聞いた話では、密かに「セレンの肖像画」とやらが高値で取引されているようだ。

・・・。アリアハンは平和だな。

俺も1枚持っているが、母親のソフィアが俺の誕生日プレゼントとして俺に送ったものだ。
決して、俺が欲しいといって頼んだわけではない。

セレンは教会の手伝いが出来なかった事を、非常に残念にしていた。
だが、神父の一言で、家で熱心に家事の勉強をするようになったそうだ。
これもテルルから聞いた話だが、「料理の上手な女性は好かれるよ」と神父にいわれたらしい。

料理については、セレンの父親が指導していた。
セレンの父親は、「モンスターを食す」という本を出版し、ベストセラーとなるほど料理の造詣が深い。
モンスターを上手く食べる発想を得るためには、料理の基本が不可欠だ。
あまり機会はなかったが、セレンの家でよばれた料理は、すべて絶品だった。

セレンは、俺と打ち合わせをするときは、いつもお菓子を持ってきてくれた。
ちなみにこの世界では王様の食事といえども、毒味役は存在しない。
ステータスシートで確認すれば済むからだ。
いざとなれば、教会で復活してもらえる。

ロマリアで俺がセレンのお菓子をおいしそうに食べるのを見ると、セレンは幸せそうな顔をしていた。
「アーベル。家に戻ったら、ごちそうするね」
「それは、楽しみだ」
何故か、一緒に話を聞いていたテルルは不満顔だ。
「テルル、心配しなくても食べるときは一緒だ」
「・・・」
何が不満なのか、俺は最後までわからなかった。

今日の宴会も、本当なら、俺の家で一緒に食べる計画も考えていたが、ひょっとしたら俺の実家にロマリアの関係者が見張っている可能性を考慮し、延期することにした。


「まあ、いずれ見つかるかもしれないが」
俺はため息をつくと、知った顔が話しかけてきた。
「いやー、さがしましたよ」
「・・・。ジンクか」
俺は再びため息をつき、ジンクの疲れた様子を見ながら反論する。
「お前が本気をだせば、すぐここだとわかったはずだが?」
「そうですね」
ジンクは頷いた。

俺が退位したのはお昼だった。
どこかで宿を取る必要がある。
基本的に、俺たちの行動範囲はすべて、ジンクが行ったことのあるところだ。
それに俺が王様であることは、ロマリアはもちろんのことアリアハンやポルトガ、イシスも知っている。
俺は、ほとぼりが冷めるまで近づけないだろう。
となれば、残された町で食事の旨いところしか残っていない。
アッサラームの食事もうまいが、セレンとテルルはアッサラームがあまり好きではない。
となると、消去法でここにたどり着く。

ちなみにここの町は、辛さの強い鳥肉料理が名物である。
俺としては、名物ではないが、カレーみたいな味のするスープが好きだった。
お米のようなものもあるが、この町では炊飯の慣習はないため、カレーライスが食べられないのが残念でもあった。

「で、何のようだ。連れ戻しにきたのか?」
「それは出来ませんからね」
「そうだな」
俺は、退位した瞬間にアリアハンの国民に戻っているのだ。
理由無く、他国の者を勝手に捕まえるわけにはいかない。
さらに、俺が魔法反射呪文を覚えているため、魔法攻撃で俺を倒すことは出来ない。

「ならば、宴会に参加するためか?」
「したかったのですが」
ジンクは残念そうな顔をする。

「アーベルに渡すものがありますので」
「そうだったな」
俺は立ち上がると、セレンとテルルに声をかける。
「今日は楽しかった。またな」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
俺たちは、宿屋にむかった。


「これまでの代金です」
「これはすごいな」
俺は驚きの声をあげていた。

俺がジンクから受け取ったのは、「くろこしょう」でもうけたお金だ。
これだけのお金があれば、アッサラームの強欲商人の言い値で武器を買うことができる。
絶対にそんな無駄遣いはしないが。
「まどうしの杖を買ったでしょう」
「あれは、定価の2倍だったはずだ。いやまさか」
ひょっとして、定価の16倍で購入したのか?
「さすがに、そこまでバカではないですよ」
俺はほっとしていた。
念のため、出来るだけ値切れと指示をしたはずだ。

俺はジンクにお願いをした。
「ジンクよ。しばらく暇か?」
「あまり暇では、ありませんが」
「買い物につきあってほしい」
「買い物ですか」
「ふたりに、プレゼントしたいのでね。良い店を知っているのだ」
「そうですか。アーベルにしては良い心がけです」
ジンクは喜んで頷いた。
「でも、私がいないほうが良いのでは?」
「ジンクも一緒じゃなければ駄目なのだ」
ジンクは笑って頷いた。
「そのような言葉は、おふたりに言ったほうがいいですよ」


「なぜ、ここにいるのです?」
ジンクは俺に質問する。
「いや、昨日話したとおりだが」
「買い物に付き合ってくれと、いわれたはずですが?」
ジンクは目の前の扉を前にして質問する。

ここは、ロマリアとポルトガとをつなぐ洞窟の中だった。
「どうみても、お店にはみえませんが?」
ジンクの言うとおり、決して店の前ではない。

「この先にある国に行きたいのだ」
「だから、私の力が必要だと」
ジンクはため息をついた。
「どおりで、おかしいと思いましたよ」
「俺はおかしなことを言ったか」
「・・・。なんでもないです」
ジンクは失望したようすで俺を見つめた。
「それから、ジンク」
「わかっています。ここには私たちしかいませんから」
ジンクは解錠呪文アバカムを唱えると、すぐに中に入っていった。

「どうしたのかしら?」
「アーベル。ジンクに何か変なこと言ったの?」
「それはないから」
俺は、セレンとテルルの質問に答えると、あわててジンクに続いていった。

俺にとって、ここから先が試練になる。
目の前には旅の扉と呼ばれる転移装置があった。
「移動にともなう酔いが、きついからな」
「あきらめてください」
「ジンク。いつもより言葉がきつくないか」
「いつもと同じですよ」
ジンクは振り返ることなく旅の扉に入っていった。
どうやら俺はジンクの機嫌を損ねたようだ。 
 

 
後書き
主人公が転生したのは、2010年12月24日の深夜です。
皆さんは「終焉の砲撃」って「ティ■・フィナーレ」のことかと考えられるかもしれませんが、主人公は知らないはずです。偶然の一致でしょう。

すいません。作者の悪のりです。
反省はしていますが、後悔なんて、していません。

次回は、ついに結婚します。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧