| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第33話 凱旋式

 
前書き
ローマの凱旋式を参考にしました。 

 
「王様。ちゃんと、笑ってくださいよ」
「わかっているさ」
俺は馬車に乗っていた。

凱旋式の先頭にたち、両脇に群がる国民からの祝福を受けていた。
後ろには戦闘に参加した近衛兵達が、四列縦隊で延々と続いている。
隣に座る、近衛兵総統デキウスから指摘され、俺は笑顔をふりまく。
周囲から歓声が聞こえる。
「ロマリア王万歳!」
「勇者アーベル王万歳!」

「・・・。俺、魔法使いなのだが」
「皆は、英雄を勇者としてたたえているのです。さあ、応えてください」
俺は、右手をふる。
国民たちは、さらに歓声をあげる。
「ばんざーい!」
「ばんざーい!」

凱旋式。
戦いで、大きな戦果を果たしたものだけが得られる栄誉。
ロマリア王国の男なら、誰もがあこがれる。
俺は、この戦いでロマリアへのモンスターの進入を阻止したこと。
そして奪回計画を指揮し、成功させた成果で凱旋式に参加している。

俺はあまり祭りごとは好きではなかったが、凱旋式をやめるという選択肢は存在しない。
今回の成果を、国民の前で形にしなければ、改革の意味がない。
国民が成功を祝い、将来に希望をもたせなければ、先には進めないのだ。

隣に座るデキウスは、ウエイイ奪回にあたり、獅子奮迅の活躍をしたとして参加している。

「まあ、後ろで指揮するのが嫌なだけだろうがな」
近衛兵総統は、本来であれば、軍の指揮官として戦局をみる立場だ。
しかし、デキウスは戦闘が好きなので、最前線で暴れただけだ。
とはいえ、この男は兵士達から愛されている。
兵士達が怯えることなく戦えるのは、この男の力に違いなかった。

「いろいろあったなあ」
俺は国民の歓声に応えながら、魔王を倒したあとの事を思い出していた。



戦いが終わり、テルルやセレンが待機していた天幕に近づくと、テルルとセレンが抱きついてきた。
「アーベルのバカ!」
テルルは俺の体を叩き始める。
「・・・、置いていかないで」
セレンは一言つぶやくと、そのまま泣き出していた。
「いたいです、テルル」
「バカ、バカ!」
テルルはますます力を込めて、俺の体を叩いている。
体力が減っているかもしれない。
この怪我は、戦闘による公傷として認められるのか?
「ごめん」
「ゆるさないから、ゆるさないから・・・」
テルルは叩くことをやめたが、今度はすすり泣いていた。


後で、近くにいたジンクに話しかける。
「どうして、助けてくれなかった?」
「私に、どうやって助けろと?」
ジンクはにこやかに質問する。
「見てのとおり、俺は無傷だっただろう」
俺は身につけていた、みかわしの服を指し示す。
服には、少しも傷がついていない。
「私の説明で、止められると思いますか?」
ジンクは真剣な目で俺をみつめた。
「期待のしすぎか」
俺はあきらめた表情で、ジンクを見返す。
「期待のしすぎです。魔王相手なら、心配するのも当然でしょう」

俺はうなだれた。
「まさか、モンスターの情報を教えたのか?」
ジンクはうなずく。
「2人に殺されたくありませんから」
「・・・わかったよ」
俺はため息をついていた。

魔王バラモスの姿形は、ロマリアではある程度知れ渡っていた。
大昔に、バラモスの襲撃を受けたことがあるからだ。
ただ、魔王が出現ことが兵達に知れ渡ると、兵の士気が落ちる可能性があった。
このため、参謀や幹部達を除き、「要注意モンスターB」が魔王であることを伏せていた。


俺は、どうやら魔王を倒したようだ。
LVが17から一気に25まで上がっていたのを確認したからだ。
「あんな方法で倒したら、反則だよな」
自分のステータスシートを眺めながらつぶやく。
先ほどの戦いでジンクに唱えてもらった、魔法反射魔法マホカンタも覚えてしまっている。

「でも、まだ父さんの死亡フラグは出ないようだ」
魔王を倒したようだが、モンスターの気配は収まっていない。
魔王の姿が消えたとき、思わず血の気が引いてしまったが、引き続き戦闘が続いていたので思わず安心してしまった。
「本気になる前のバラモスとか」
俺は自分なりに考えた。
とあるボスモンスターのように、一度倒されても、もう一度戦う必要があるモンスターがいる。

おそらく、魔王バラモスは生きているのだろう。
今頃おとなしく城内で回復でもしているのだろうか。
「まあ、魔王退治は勇者にまかせるさ」
1年半後に旅立つ勇者候補生の顔を思い出す。

アリアハンとポルトガの状況についても報告を受けている。
アリアハンはかねてから計画していた、なじみの塔奪回計画が成功したようだ。
詳細については、後日母ソフィアから報告を受ける予定である。

ポルトガについては、今回は開放計画を見送っていた。
現在ポルトガでは、艦隊を増設することに追われていたからだ。
このため、ポルトガ陸軍は、開放計画を行うことはなかったが、ロマリアに近い事を懸念して、ウエイイ開放計画に合わせてポルトガ周辺の防衛をおこなっていた。
結果として、ポルトガへの襲撃は発生しなかった。
この結果を受けて、今後ポルトガは何を考えるだろうか・・・


「王よ、考え事はあとにしろ」
「そうですね」
俺はデキウスの指摘で我にかえると、気持ちを凱旋式に切り替えていた。


「覚悟しておけ」
「はい」
俺は、デキウスの指摘に思わず身構える。

凱旋式も終盤近くにさしかかり、とある角を曲がろうとしていた。
「甲斐性なしの王様よ、早く后を迎えろよ!」
「ロマリアにも、いい女はたくさんいるぞ!」
俺は、思わず頭を抱えそうになった。

この国の凱旋式のしきたりで、ある場所だけは凱旋者を批難することになっていた。
聞いたところでは、凱旋者が調子に乗りすぎると、神様が嫉妬して天罰を与えないように、わざと批難の声をあげるとのことだ。
俺の考えでは、ここで住民や同僚からのやっかみをぶつけることで、妬みを減らすことに繋がると考えていた。
「伝統とはいえ、これはひどい」
「まあ、我慢するのだな」
デキウスに慰められていた。

「総統の嫁さんは、訓練だ!」
「金よりも、戦い大好き、司令官!」
「おまえら、うるさい!」
デキウスは周囲を怒鳴り散らす。
それでも顔は笑っている。
この男は子どもの頃から、凱旋式にあこがれていたはずだ。
望みがかなって、嬉しくないはずがない。
俺たちは、いつしか笑いあっていた。


俺たちは、小高い丘に向かっていた。
いつしか、にぎやかな声も収まり、俺たちも後に続く兵士達も、厳粛に歩みを進めていた。
向かっているのは、建国者たちが眠る神殿だ。
そこで、俺たちは祖先達に勝利の報告と感謝を伝えることになっている。
神殿の最奥部は俺たちしか入れない。

そこには、なにもなかった。
だが、ここには多くの人々の希望や感謝がつまっているのだろう。
少しも、寂しくはなかった。
俺たちは何もない場所で、頭をさげ、静かに祈りをささげた。





数日後、俺は執務室で手紙を書いていた。



母さんへ

お元気でしょうか。
先日のなじみの塔でのご活躍を聞いておりますので、心配はしておりませんが。
逆に、一緒に戦った、父さんより前衛に立っていたことを聞いて、少し心配しております。
近衛兵の戦力についてですが。

先日、こちらでは、凱旋式が行われました。
壮麗で、身が引き締まる思いでした。
ぜひ母さんにも見てもらいたかったのですが、戦後処理に追われていたそうで残念です。
凱旋式が終わったあと、宴会が始まったのですが、大変でした。



どのくらい大変かというと・・・



「おい、王様よ!酒を飲んでないのか」
「体が受け付けないので」
「おい、俺の酒が飲めないのか!」
「飲めません」
俺は、近衛兵総統のデキウスに断言した。

「・・・」
俺の固い決意に断念したのか黙っていると、
「!」
「おら、おら」
強引に酒を飲ませようとする。
「離せ!」
俺は素早く立ち上がり、逃げてゆく。

「主賓が逃げるな!」
「お前がいれば十分だ!」
俺は、逃げながら叫んだ。
主賓は2人だ。
1人残れば十分だ。

「ふう」
俺はため息をつき、水を飲みながら別の席に座る。
堅苦しいのが苦手な俺は、無礼講にしたのだが、あそこまで無礼だと問題がある。
次からは、無理に酒を飲ますのを禁止項目に入れておこう。


「王様」
「どうした、マニウス?」
「ご成功、おめでとうございます」
「どうした、改まって」
俺は、マニウスに話を促す。
彼には、首都防衛司令官をしてもらったが、彼の手柄を奪ってしまった。
本来なら、彼にも凱旋式に参加する資格は十分だったが、彼は固辞した。

「こうして、国中あげて楽しい宴を開くことが出来たのも、王様のおかげです」
「俺だけではない。お前を始め、国民達の総力のおかげだ」
俺は断言した
「だからこそ、みんなが本当に楽しく宴に参加しているのだ」
「・・・、王様」
マニウスの目から涙がこぼれる。
「前の王も、すばらしかったが、王様がいなければこの国は、この国は・・・」

どうやら、マニウスは酒を飲むと、なみだもろくなるようだ。
「そう思うのなら、明日からも頼むぞ」
「はい」
俺は、マニウスの肩を叩いて、テーブルを離れる。

俺の言葉に嘘はない。
彼の折衝能力と、彼のかつての部下達の才能は、今後の都市開発に欠かせない。
俺の都市計画案は、概要部分だけしか作っていなかった。
彼らの力で、計画に血肉がつき実を結ぼうとしていた。
俺だけの計画なら、蜃気楼で終わったはずだ。


「よーし、がんばって特盛りいっちゃうぞー」
「さすが、ジンクさん、すてきー」
「ねえ、私にもお願い」
「抜け駆けは、ずるい。次は私の番でしょう!」
ジンクの周囲は盛り上がっているようだった。
何をやっているのかは、人垣ができているので、こちらからはよくわからない。
・・・。
興味はないので別のところに向かう。


「勇者殿。待ってましたよ」
「俺は、勇者ではない」
「またまた、嘘ばっかり。あなたが勇者でなければ、誰が勇者になるのですか」
外務大臣のレグルスは俺を見かけると、肩を捕まえ強引に椅子に座らせる。

「いやあ、実は僕、勇者にあこがれていましてね」
レグルスは酒を飲みながら、勇者について熱く語っている。
戦いが始まるまでは、俺の事を毛嫌いしていたのだが、戦いが終わると手のひらを返したようにこっちにすり寄ってきた。

ジンクからの情報では、レグルスは勇者にあこがれており、アリアハンに行く機会を密かにねらっていたらしい。
俺が、3カ国交渉で、レグルスを使わなかったことから、俺に反発していた。
ところが、俺が魔王を倒したばっかりに、俺が勇者であると勘違いするようになった。

「だから、俺のことを勇者と呼ぶな!」
「失礼しました、あなたが勇者であることは極秘でしたね」
「だから違う!」
「とぼけ方も上手いですね。見習います」
俺は隙を見て立ち上がると、逃げ出していった。
俺は酒を飲んでいないので、簡単に逃げ出すことができた。


「王様、ここの席あいていますか?」
「そのようだね」
「失礼します」
見知らぬ女性が、俺のそばにすわる。
薄い水色のパーティドレスを身につけている。
装飾品から判断するとどうやら、貴族の娘のようだ。

貴族達は、俺の政策に反対していた。
当然だ。
既得権益を奪ったからだ。
だが、俺の作戦が成功したことで、俺に対する態度は大きく変わる。

沈んでゆく船の貴賓席にしがみつくよりは、普通席でも新しい船に乗った方がいい。
貴族達も俺についてゆけば、利益になると考えたのか、親しげな態度を示しはじめた。
まあ、だからといって、今後の方針を変えることはないが。

「さすが、王様ですわ」
「運がよかっただけだ」
「そういって、自慢されないところがすてき」
娘は俺に腕を絡めてくる。

「!」
娘は、急にねむりはじめた。
「さっそく、マホカンタの力を使うことになるとは」
俺は、ため息をつき、娘の腕をふりほどく。
娘は、ラリホーで俺を眠らせようとしたようだ。
俺の魔法の壁で反射され、自分が眠りについたようだ。

「いやあ、あぶない、あぶない」
「どうか、なさったのですか?」
こんどは、別の貴族の娘が声をかけてきた。
いや、1人ではない。後ろに4人いた。

「王様、ぜひとも武勇伝が聞きたいですわ」
「すごい怪物を倒したおはなしとか」
「わたくしは、将来のことをお聞きしたいですわ」
「将来のことって、ご結婚のことですか」
「お姉様、ぬけがけは、ずるいですわ」
「あら、まだ何も始まっていませんわ」
「そうですわね」
「王様、ご一緒ねがいますか?」
「・・・、ああ」

俺は、引きずられるように別室に連れ込まれた。



「・・・で、続きはどうなるの?」
「母さん。人が手紙を書いている途中に邪魔をしないでください」
俺はため息をついて、母ソフィアに注意する。
俺が書いた手紙は、9行目で止まっている。

「それに、ジンク」
俺はジンクに指摘する。
「勝手に、話を作るな」
「違うのですか。ならば説明してください」

俺はため息をついた。
「アーベル!」
「・・・、ごまかさないでください」
テルルとセレンが追求した。

悔しいことに、ジンクの話は事実だ。
ジンクの説明のとおり、別室に連れ込まれたが、そこで前王の息子とジンクが話をしていたので、普通に世間話をして俺は帰った。
やましいことなど何もない。

それよりもだ。
「ジンク、どうして詳細まで知っている」
「情報網の違いですよ」
俺はうなだれた。

ジンクは王宮内にある、侍女達のネットワークを完璧に把握している。
俺は密かに、ジンクに支配されることを恐れていた。 
 

 
後書き
手紙のネタは一度試したかったネタです。
一度で十分ですが。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧