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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第31話 おやつなんて、必要ない(あそびにんを除く)

「いやあ、引率は大変だったよ」
ジンクはお茶を飲みながら俺に話しかける。
「やっぱり、あそびにんと一緒だと疲れるよ」
「もとあそびにんのお前が言うな」
俺は、いつものように指摘したあと、ジンクから経過報告を受けていた。


ジンクはロマリアの冒険者ギルドを通じて集めたあそびにんを率いて、ロマリアの北にあるノアニールの村まで引率していた。
あそびにんの育成のためである。

つれてこられたあそびにんは、いずれもレベル10前後であった。
もうすこし成長すれば、必要な呪文を覚える事ができるとあって、慎重に戦闘を繰り返しながらレベル13を目指していた。
あそびにんの戦闘力は不安があるため、基本的に防御に徹しさせている。
衣服については、俺たちが身につけていたみかわしの服を貸与している。
闘技場の軍資金にさせないため、毎回町に入る前に返却させているが。


「いやぁ、危うく旅人の服を受け取りそうになりましたよ」
あそびにんの中に、ジンクをだまそうとした奴がいたらしい。
みかわしの服を受け取ったときに、みかわしの服に似せた旅人の服を代わりに着込んで、そのまま戦闘し、町に入る前にそのまま手渡そうとしたらしい。
「そいつは、あそびにんよりも悪徳商人の方が向いてそうだな」

とはいえ、そいつを商人にさせるわけにはいかない。
おとなしく賢者になってほしいものだ。
いや、賢者になったら、さらに手がつけられなくなるかもしれない。

当然、ジンク1人だとマヒ等で対処できない可能性を考慮し、近衛兵による1パーティを随行させていた。
今のところ問題は無かったが。


ノアニールの村で、近衛兵達と一緒にルーラの登録を行う。
ここが拠点基地となるのだ。
目指すところは、ノアニール西の洞窟。
俺たちがかつて経験値を稼いでいたところだ。
ここで、短期間に近衛兵の能力を底上げする。


「近衛兵の編成には疲れましたよ」
「お前ではなく、司令部が疲れたのだろうが」
パーティの編成に当たっては、100人、25パーティを1部隊として編成した。
6パーティを1小部隊として行動させ、残った4人1組を作戦司令部として全体の指揮を執らせる。
今後の解放計画に合わせて、指揮を容易にするための部隊構成である。

近衛兵総統のデキウスは当初、「勝手に編成を変えるな!」と激怒したが、俺が
「この方法でしたら、総統閣下も心おきなく前線で戦闘に参加できますよ」
と一言いったら、
「よし、あとは任せた」
と言い放ち、そそくさと訓練の準備に出かけていった。
俺と残された参謀達はため息をついたが。

細かい編成作業については、参謀達と、顧問として内務大臣マニウスの部下3人を登用して一緒に協力してやらせている。
参謀達は、マニウスの元部下達の加入に渋っていたが、効率的な運用方法の提案を受け入れているうちに、彼らに敬意を払うようになっていった。


編成を終えた部隊から、順次ノアニール西の洞窟へ移動させる。
絞ったとはいえ、25パーティが行軍しながら移動するのだ。
通常の魔物は逃げ出してゆく。
当初、兵力の集中によりモンスターが集団で部隊を襲撃する可能性を想定していたが、発生することなく洞窟にたどり着いた。


「予想どおりで助かりましたね」
「ああ」
俺はジンクの発言に頷いた。
奪還計画の際に配慮した点の一つが、軍隊の移動によりモンスター襲撃フラグが起きることだった。
過去の奪還計画の記録を見ると、モンスターの襲撃は都市の浄化開始と同時に始まるようだ。
モンスター襲撃フラグの発生条件は一つとは限らない。
であれば、大魔王や魔王を刺激するわけにはいかない。

ちなみに都市の浄化とは、結界によりモンスターの発生を押さえ、襲撃から身を守る結界のことだ。
ロマリアの都市は城壁により守られているが、農地は城壁の外に広がっている。
物理的な防御が不可能であれば、魔法的な要素で守る必要がある。

効果は絶大であり、魔王クラスの能力者か、千体以上のモンスターの集団か、逆に一時的に能力を無力化したモンスターでなければ、まともに進入することはできない。


俺はジンクに話の続きを促したが、ジンクはしばらく黙ったままだった。
しばらくして、ようやく重い口を開いた。
「洞窟に到着してからが、本当の地獄の始まりだったぜ」
「モンスター視点ですか?」
ジンクは喜んで頷いた。

俺はため息をついた。

洞窟内は狭く、パーティの展開は基本的に1列となるが、1戦闘ごとに最前列が入れ替わるため、兵士達の疲労は皆無である。
そのまま、目的地である地下2階に進む。

俺が訓練に使用した回復の魔法陣が目の前にあった。
ひとまず全員が魔法陣に入ることで体力と魔力を完全回復する。

その後、進入したパーティが、魔法陣を背にしながら周囲を取り囲み、モンスターの襲来に備える。
魔法陣のすぐそばにいる、司令部に配属された指揮官が号令をかける。
号令に従って、遊び人がくちぶえをふいた。

モンスターが口笛に反応して出現し、魔法陣に向かって向かってくる。
が、警戒していたパーティにより殲滅される。
傷ついた兵士がいれば、司令部に配属された僧侶によりすぐさま回復される。

体力が回復した段階で、再び指揮官が号令を下し、モンスターを呼び寄せる。

半日が経過した段階で、戦闘に慣れてきたのを指揮官が確認し、作戦を変更する。
僧侶による回復を行いながら、連続してモンスターを呼び寄せるのだ。

たまに、包囲を抜け出して進入するモンスターもいたが、指揮官が一刀のもとに切り捨てる。
1日が経過することには、司令部を除きレベル18に近い力を身につけた。
周囲にはモンスターの屍の山ができていた。
「つかれたなあ」
ジンクはぼやきながら、ゴールドとアイテムの回収を始める。

兵士達も全員で回収作業に励む。
これらの金は、軍の維持費や給与に回される。
大貴族を始めとした税制の改革で収入が増えるとはいえ、急激な課税は強い反発を生む。
徐々に税率を上げる必要がある。

それに貴族への課税自体初めてのため、準備作業等で時間がかかるのだ。
直ちに税収の増加には繋がらない。
また、解放計画が成功したら、復興するために莫大な金が必要だ。
金があって困ることなどないのだ。
地道ではあるが、こういった収入の確保は大事なことである。

回収作業が終わった段階で、洞窟の入り口まで引き返す。
兵士達は一撃でモンスターを倒せるとはいえ、気を抜くことはなかった。
「休む時間がなかったのは残念だよ」
「モンスターの屍の山を前にして休むのも、どうかとおもうが」
「なれれば気にならないけどね」
ジンクは澄まして答えた。


洞窟を抜けた部隊は全員がいることを確認し、キメラの翼で、ロマリアへ帰還する。
「すごい、行列だったねえ」
「行列はすぐ終わっただろ」
俺はジンクに指摘する。

ロマリアのルーラ到着場所には、到着者を確認するための詰め所があった。
だが、今回の作戦のため、通常の来訪者とは別に専用の詰め所を設置し、部隊指揮者の確認の元で、効率よく確認作業が進められ、すぐに入場を許された。

「これも、軍事行動だと解釈できるのだけどねぇ」
「まあ、そのためにレグルスに交渉を任せたのだけどね」
俺は、外務大臣の名前を出した。

ルーラによる軍事行動を制限するため、呪文やキメラの翼の効果自体は「1度に4人まで」と決まっている。
だが、同時に数百パーティが移動したら、軍隊の奇襲と同様の効果がある。
当然、到着先にも工夫がされており、同時に5パーティまでしか到着できないこと。
到着先は魔法が使用できないこと。
などにより、他国からの奇襲攻撃が制限されているのだが。

それでも、今回の作戦はインチキくさい手段と指摘されかねないので、「この手段による軍隊の移動は自国の都市に制限する」というルールを追加することをポルトガとアリアハンに合意をさせたのだ。
都市解放計画の作戦内容の公表と併せて。

「他国に計画を教えるなんて、気前がいいねぇ」
「どうせ、計画を実行して成功すれば他国もまねをする。だったら、交渉材料として使えばいい」
ジンクは頷いた。
「せっかくなら、同時に解放計画を実行すればモンスターの襲撃数を減らすことが出来るかもしれない」
俺は解放計画の成功率を上げるため、他国と時期を合わせた計画の実行を考えたのだ。
モンスターの襲撃に魔王の力が関与するのならば、効果が期待できる。
「まあ、過度の期待は禁物だが」
「そうですね」


「ところでジンク、依頼したものは用意できたか」
「高かったよ、なにしろ定価の2倍だったからね」
「そうだな」
俺はため息をついて、ジンクから品物を受け取る。

まどうしの杖と呼ばれる武器である。
この武器には特殊な効果があり、MPを消費することなく火炎呪文メラを使うことができるのだ。
ただ、問題なのが、入手できるところが現時点でアッサラームの悪徳商人からしか購入できないので、定価の倍もかかったのだ。

「アーベル。こんな杖が役に立つのか?」
ジンクの質問ももっともだ。
俺はメラの上位呪文であるメラミを使用できるし、ロマリアの敵はメラの一撃で死ぬ訳ではないのだ。
俺はジンクに調子を合わせて答える。
「役に立たない方がいいと思うのだが、念のためだよ」
俺は、ジンクに礼を言った。

俺は計画に問題が生じた場合の切り札を考えていた。
あとは、キセノン商会に依頼したものが手に入れば切り札が完成する。
本当は世界が平和になるまで使用するつもりはなかったのだが、計画が失敗して兵士を失うわけにはいかないのだ。


 
 

 
後書き
困ったときのノアニール西の洞窟だのみです(話の展開という意味で)。

とはいえ、ゲーム世界での日付を変えることなく、序盤で安全に経験値を稼ぐ方法としては最適なのですが。 
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