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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第12話 そして、ロマリアへ・・・

「ねえ、アーベル?」
「なんだい、テルル」
旅の扉を目の前にして、テルルは俺に質問した。
「どうして、宝箱を開けないの?」

俺たちは、このいざないの洞窟を始め、あらゆるところの宝箱を開けていない。
「まあ、宝箱には罠があるからな」
「たしかにそうだけど」
テルルは不満そうだ。

確かに俺が勇者であれば、ためらうことなく開けていただろう。
だが勇者は2年後に冒険する。
そのときに、すべて俺たちが開けていました。では、勇者は残念がるだろう。
「それに、俺たちではこれらの宝箱は開かないし」

基本的に、勇者と盗賊しか宝箱を開けることができない。
例外はモンスターを倒したときに入手する宝箱ぐらいだ。
俺が前の世界で遊んでいたゲームと逆だなどと、養成所での講義中に考えていたものだ。

「まあ、2年後にまた会いましょうということで」
「仕方ないわね」
そういって、テルルは旅の扉に入る。
俺とセレンも後に続いた。


「やはり、酔うな」
「大丈夫、アーベル?」
「大丈夫だと思うが、念のため少し休む」
俺はセレンに答えると、木を背にして少しやすんだ。

前の世界でも酔いやすかったことを思い出していた。
自動車を運転していたので、左右の揺れに対しては耐性があったが、エレベーターなどの上下の揺れには弱かった。
旅の扉による転移は上下左右の揺れがあるため、エレベーターよりもひどかった。
さすがに嘔吐感はないが、上下左右に動く違和感は残っていた。
普通の行動であれば問題ないが、この状態で戦闘をすることは自重すべきだろう。
船を入手したら、本気で揺れに慣れないといけないと思いながら起きあがった。


「にぎやかだねえ」
俺は、ロマリアに入ると感想を述べた。
前の世界の事を考えると、それほどでもないが、アリアハンに比べるとかなりにぎわっている。やはり、他国との交流があると違うということか。
「アーベル、これから、どうするの?」
「そうだね。数日ここで戦闘して、大丈夫ならカザーブを目指すよ」
「えっ?」
「アーベル、交渉はどうするの?」
セレンとテルルは疑問を口にする。
「最近交渉ばかりして、疲れたので後にする」
「えっ!」
「冗談だが」
「ふざけないで、アーベル!」
「疲れたというのは冗談だが、交渉自体は後にする」
そういって俺は、自説を展開する。

俺が交渉を後回しにする理由は2つある。
ひとつめは、このまま交渉してポルトガに行くのは、戦力的に問題があるからだ。
最初から、みかわしの服を着ているとはいえ、俺のレベルはまだ8でしかない。
HPが少ないため、いきなりポルトガにいくと死亡する確率が高くなる。

二つめの理由は、ロマリア王のことだ。
ロマリア王は、2年後に勇者が冒険したときはお調子者の王様であるのだが、今のロマリア王は一つ前の王であり、その王はかなりのしっかりものらしい。
その証拠に、王の性格が「ぬけめがない」のか「きれもの」なのか「ずのうめいせき」なのか、外部のものに知られていないことからもうかがい知れる。
この王様の情報を事前に多く集めなければ、交渉を成功させることは難しい。

俺の説明にセレンとテルルは納得したので、会議を打ち切り、近くの酒場でロマリア到着記念パーティを開くことにした。



「へぇ。そうなのですか」
「あそこのすごろく場の景品には、はがねのつるぎが用意されているのだよ」
「そうなのですか。よくご存じですね」
「知り合いと一緒に挑戦したときに、店の人から聞いたんだ」
「すごいですね。お二人で旅に出るなんて」
「まあな。さまようよろいにさえ気をつけたら、あとは余裕だな!」
「モンスターのことも詳しいなんて、すてきです」
「いやあ、てれるなあ」

セレンはカウンターで旅の戦士らしい男と話をしている。
セレンは人の話を聞くのが上手で、合いの手を入れるのも上手い。
戦士らしい男は、にやつきながら、セレンの顔と胸の部分を交互に眺めていた。
俺は、テルルとテーブルで食事しながら、セレンに情報収集を任せても問題ないといった。
「甘いわね、アーベル」
「どういうこと?」
「みていなさい。すぐにわかるわ」

「なかなか、いい子だな」
「そんなことはないですよ」
「どうだい、嬢ちゃん。俺と一緒に・・・」
セレンは顔を近づけてくる男の言葉をさえぎり、俺たちの方を見る。
「私は、あの2人と旅していますから」
「いいじゃないか、1日ぐらい。あっちも、2人きりのほうが邪魔がはいらなくてよさそうだし」
「セレン。そろそろ帰るわよ」
セレンは、テルルの腕をくみ、つれて帰ろうとする。
「おい、待てよ!」
戦士はセレンの手を取ろうとするが、テルルが素早くかわす。
どうやらみかわしの服に加えて、ピオリムをとなえていたようだ。

俺は、支払いを済ませると、2人をつれて帰った。
戦士は残念な様子を見せたが、別な話し相手を見つけたのか、女性の武闘家に話しかけていた。


宿屋に戻ると、テルルはセレンの行動を指摘する。
「セレンはすぐ、「すてきです」とか言うからね」
テルルは、セレンのまねをする。
「でも、すごいのは本当ですから」
「はぁ。天然なだけに対応が難しいわね」
テルルは、ため息をついた。

俺にもセレンの何がまずいのか、よく理解できた。
セレンは誰の話でも、素直に聞いて、よく驚き、感心し、敬意をしめす。
そのこと自体は問題ないのだが、感情を隠さないことと、セレンの魅力的な笑顔に問題がある。
耐性のない男が聞けば、ひょっとして自分に気があるのかと勘違いするのだろう。
俺も前の世界で、痛い目にあったことがある。
さらに言えば、セレン自身に自覚が無いというのも問題である。

それにしても、と俺は考える。
今日はやけに、前の世界の事を思い出すなと。
両親から離れての冒険で、寂しさが募ったのかと自問する。
そうかもしれない。でも、目の前に冒険の仲間がいる。
俺は少なくともひとりではない。

「どうしたの、アーベル?」
セレンは心配そうに尋ねる。
「もしかして、さっきの男にヤキモチでもやいたのかな?」
「違う」
俺はテルルのからかいを否定する。

「つまんないね」
「俺は、テルルの楽しみのために生きているわけではない」
「じゃあ、セレンのためならいいの?」
「まあ、テルルのためよりはいいかもな」

「えっ!」
「アーベル、ひどいよ~」
テルルは大げさに悲しそうな顔をする。
「ひどいのはそっちだろ。俺が否定しているのに、無視して話を進めるから」
「それぐらいで怒るなんて、どうかと思う」
テルルは頬を膨らませて抗議する。
「怒ってないから」

ため息をついてから俺は、2人に話しかける。
「もう夜も遅い。早く寝よう」
セレンは顔を赤くして頷いている。
ひょっとして、酒でも飲んだのか。
一応この世界では、16歳になれば酒を飲んでも問題ない。
ちなみに俺は、あの日から酒は飲まないことにしている。
「はいはい、おやすみ」
テルルは、心配そうにセレンを見つめる俺に、適当な相づちをうつとそのままベッドに潜り込んだ。



「やはり、そうでしたか」
「ソフィアお嬢様には、くれぐれもよろしくお伝え下さい」
「かしこまりました」
俺は、老婆に礼をいうと家を出た。

母ソフィアはロマリア出身だった。
ソフィアは父ロイズのところに嫁いでから、実家に帰ることがなかったので、祖父のことを気にしていながらも連絡が取れなかった。

そのため、俺は祖父のところを訪ねたが、屋敷は人手に渡ったということで、祖父の消息を調べたところ、母が子どもの頃の世話をしていたという老婆が見つかり、話を聞いていた。

予想通り、祖父は5年前に病気で死んでおり、ソフィア以外に親族がいないため、屋敷が国のものとなり、競売されたのだ。
俺も母ソフィアもアリアハンの国籍なので、いまさら所有権を主張するわけにもいかない。
母は、結婚するときにあきらめていたので、気にしてないとは言っていた。

俺は、セレンと一緒に宿に向かっていた。
昨日一日戦ってみて、このあたりのモンスターは、さまようよろい以外は俺たちの相手ではないことがわかった。
そのため、今日は休んで、明日北に向かうことを決めていた。

休みとなった今日、テルルは、商品を見に行くため、1人で商店街へ向かっていた。
セレンはすることがないといって、俺の祖父捜しに付き合ってくれていた。

「すてきな、お屋敷でしたね」
セレンは、祖父の家を思い出して話をしていた。
「そうだったな」

家の中に入ることは出来なかったが、それでも優雅な外観を見ただけで、かつての持ち主が、いかに資産を持っていたか一目でわかる。
だが、俺には関係ない。

もちろん、祖父の資産が使えたら、冒険はもう少し楽になっていたかもしれない。
だが、それだけのことだ。

「アーベルに聞きたいことがあるの」
「なんだい」
「・・・、「ふつう」の性格って、どう思う?」
セレンは、意を決したように質問する。

セレンは自分の性格が、普通の性格と評価されたことを気にしていた。
俺は、そのことを知っていたが、思い詰めるほどの事だとは思っていなかった。
やっかいな問題だと俺は考えた。

ほかの性格であれば、その性格の良い部分を誉めて自信を持たせることができるだろう。
「らんぼうもの」であれば、そもそも悩むこともないだろう。
仮に悩んでいて、今の性格を変えたいと望んでいるようであれば、装備品を持たせればいい話だ。

だが「ふつう」となれば話は別だ。
まず、他の性格のように良い部分を誉めるという手段が使えない。
他の性格のものが、「普通が一番」といっても慰めにはならない。

だからといって、他の性格を簡単に勧めるわけにもいかない。
他の性格と違い、ある意味これまでの生き方を全否定することになるからだ。
「きれもの」や「ぬけめがない」などという評価は、所詮人が持つ性格の一部分でしかない。

他の性格に変わったとしても、全人格を否定することにはならないが、「ふつう」と思われていた人が変わるとなれば、全否定にとられかねない。
だから、別の観点からセレンを納得させる必要がある。

「セレン。ステータスシートに記載されている性格だが、本当は何のためにあるか、知っているかい?」
「たしか、能力の成長に関係するとか」
セレンは養成所の講義内容を思い出していた。

「そう。能力の成長率を数字ではなく言葉で示したものだ」
「!」
セレンは、俺の説明に目を見張った。
「レベルアップしたときに、どの能力がどの程度上昇するかという研究は、養成所でも研究されてきた。
分類すれば、だいたい45種類くらいに分かれるという事が、明らかになった。
もともとは、数字による区分が用いられたが、成長タイプごとにある程度性格が反映しているのではという俗説により、成長タイプと性格が同一視されたのだ」
俺はたたみかけるように解説する。
前の世界のたとえを使えば、血液型と性格との関係性みたいなものか。

「それじゃあ!」
「成長タイプが平均的な人が「ふつう」と記載されるだけだ」
「ほんとうなの、アーベル!」
「だいたい、職業欄の下に書いてあるだけで、どこにも性格欄とは記載されていないぞ」
「でも、アーベルだって性格と言っていたし」
「俺は、みんながそれで理解できるから、使っているだけだ。「成長タイプ欄」とみんなが言えば、俺も成長タイプ欄と言うさ」
俺は、肩をすくめて答える。
「だいたい、「おおぐらい」は性格か?」
「そうよね」
セレンは、なにか吹っ切れた感じに見えた。
俺は何とか上手くいったと思ったとき、その油断が命取りになることをすっかり忘れていた。
「ねぇ、アーベル?」
セレンの真剣なまなざしに俺は、緊張感を取り戻す。
「なんだい、セレン」
「わたしのこと、どう思っているの?」
いつか、聞かれると思っていた質問だ。

普通というのが成長タイプであれば、自分はどういう性格なのか知りたいはずだ。
きちんと答えることが出来なければ、今までの説明はすべて無駄である。
俺はまず、無難な答えを返す。

「セレンは、セレンだ」
「答えになってないよ~」
まあ、これでは納得しないよな。

「セクシーギャルという性格があるのだが」
「セクシーギャル!」
セレンは顔が赤くなる。
自分自身の胸を思わず隠すしぐさをする。
「セレンはどちらかといえば、「かわいい」ということになるか」
「えっ?」
俺は、セレンの頭をなでる。
セレンは、うつむいておとなしくなっていた。
「いくぞ、テルルが待ちくたびれている頃だ」
「・・・、まって」
そういってセレンは俺の後に付いてくる。

完璧だ、俺は思っていた。
テルルが、俺たちの後ろでニヤニヤと笑っていることに気がつくまでは。 
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