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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第5話 そして、魔法使いへ・・・

「とおさん、かあさん行ってきます」
「いってらっしゃい、アーベル」
「俺も、そろそろ出かけるか」
「いってらっしゃい、ロイズ」


14歳になり、冒険者になるため、王立の冒険者養成所に通う日も3年目を迎える。
冒険者になるだけであれば、16歳以上という年齢制限及び他の職業に就いている場合をのぞき、ルイーダの店などの登録所に届け出れば、誰にでもなれる。

ただ、将来のことを考えるのであれば、事前にみっちり養成所に通うことが望ましい。
理由の一つめは、成長に関することである。
事前に養成所で勉強していれば、あとは、戦闘経験を積むだけで、職業に見合った、技能やステータスを成長させることができる。そうでなければ、技能を身につけるために、一定期間、訓練所に通う必要が生じる。
パーティを離れて、一人で訓練を積むと、他の冒険者の冒険に支障が生じるため、声がかかりにくくなる。

あらかじめ1年間養成所に通うことで、技能習得をすることができる。
大きな国であれば、学費はともかく、誰でも学ぶことができる。
ちなみに、母親であるソフィアは、出身であるロマリアで魔法使いの技能を学んでいた。

二つめは転職についてである。
転職はダーマ神殿で行うことができるが、事前に養成所で学んでいれば、これまでの職業と同様に戦闘技能を積むだけで、これまでの職業と同様に成長していく。
ただし、養成所で学んでいない場合は、約一年間事前に転職のための講習を受ける必要がある。
一年間、仕事ができないのは、冒険者としては、非常に高いリスクを負うことになる。

ちなみに転職に向けての養成期間は3年かかるが、転職後のリスクを最小限に抑えることができることから、転職を視野にいれている人にとって、養成所の3年間は必須ともいえる。
ちなみに、この養成所があるのは、アリアハンとダーマだけである。

養成所入所時に、希望職種を選ぶことになっているが、俺は魔法使いで、テルルは商人、セレンは僧侶を選んでいた。

俺の場合は、商人になることも選択肢のひとつにはあったが、テルルが商人を選んだことから、一緒にパーティを組む場合、バランスが悪くなる。
また、俺自身が魔法を使うことに興味があったからだ。

「やっぱり、火の玉をバシーと飛ばしたいでしょ、バシー!と」
そういわれると頷くしかない。誰かからいわれたわけでもないが。



それはともかく、魔法には未来があると考えている。
現在の冒険者が使用する魔法は戦闘を中心としたもので構成されている。
しかし、平和利用としても十分発展性があると考えている。
具体的な例を挙げると、土木工事や工業分野への応用である。

物語やゲームであれば、世界が平和になればそこで終わることができる。
しかし、我々の人生はそこで終わりではない。
当然、「その後」を考える必要がある。

世界が平和になり、モンスターが出なくなれば当然、人間の活動領域は広がり、人口が増加する。
ただ、人口増加に食料や工業、経済が追いつかなくなれば、やがて人間同士の争いが始まる。
「人間同士の争いを無くす」という甘い考えなど持ったことはないが、それでも争う理由など少ない方がいい。



一方、セレンが僧侶になることを聞いたとき、俺は素直に喜んだ。
「セレンは僧侶になるのか?」
「うん」
「俺がけがをしたら、回復してくれよ」
「うん」
セレンは最近、俺にあまり話をしなくなった。
内気に戻ったわけでもない。セレンとテルルが話をするときは、普通に会話をしている。
かといって、俺のことをさけている様子もない。

「まあ、思春期特有の症状か」
俺は、テルルにぼやいたことがある。
テルルはあきれた顔で
「アーベル、あんた本当に「きれもの」?」
「テルル、意味がわからない」

養成所での訓練所から、成績表としてステータスの書かれた用紙をもらう。
そのなかには、能力値だけではなく、性格も知ることができる。
前の世界でもらった、通知票のノリだな。
ちなみに、テルルは「ぬけめがない」、セレンは「ふつう」だった。

「まあ、性格の評価なんてそんなものさ」
俺は肩をすくめて答える。
テルルは、俺に対して、何かあきらめたような表情をみせていた。


テルルから自分が商人になると聞いたのは、キセノン商会の一室であった。
「テルルは、商人になるのか。やっぱり家業を継ぐのか」
「あんたが、商人にならないからね」
一緒に話を聞いていたキセノンは、驚いて娘の顔を見る。

俺は、キセノンを無視し、すまして答える。
「テルルの下で働いたら、しぼりとられそうだし」
「ばれたか。楽して暮らそうとおもったのに」
「テルルの考えなど、お見通しだ」
キセノンは黙ったまま、俺たちの会話を聞いている。
キセノンは、あきらかにひきつった顔をしている。
どうやら、勘違いをしているようだ。

直接的に言うのも気が引けるので、間接的に否定する。
「じゃあ、テルルが店に出たら、最初の客になるよ」
「ありがとう、アーベル。はじめてだから、やさしくしてね」
そういってテルルは、俺の手を取ってお願いのまなざしを向ける。
俺は、商品を高く売りつけるつもりだなと苦笑しようとしたとき、キセノンの殺気を込めた視線に気がついて、あわててテルルの手を離した。

テルルが残念そうな表情を見せたが、気にしてはいけない。
キセノン商会は、アリアハン内での政治的な力もつけ始めている。
キセノン商会を敵にまわすなど、愚行にもほどがある。



そんなことを思い出しながら、養成所にたどり着く。
「おはよう、セレン、テルル」
「おはよう、アーベル」
「うん、おはよう」
冒険のことを考えながら、今日の訓練を始めた。



「今日もつかれたね」
「ああ、そうだな、テルル」
「ごめんなさい」
「セレン。謝ることはないよ」
「うん」
「そうよ、セレン。冒険で死ぬことに比べたら」
「ありがとう、テルル」

セレンの父親は、冒険者を引退して、冒険者養成所で剣技指導を行っている。
素人目にみても、迫力ある攻撃にしては隙がなく、まだまだ現役で活躍できると俺はおもっている。
セレンも俺と同じ事を考えていたらしく、父親に尋ねたことがあったが、「将来のため」と言ってそれ以上教えて貰えなかったらしい。


セレンの父親は無理でも、戦士系の職業がひとり欲しいと思っていた。
テルルは一応戦士系ともいえるが、あまり力がなく、良い武器が見つかるまでは、どうしても見劣りしてしまうからだ。

とはいえ、自分たちが勇者と一緒に行動することで、問題は解決するのだが。
勇者は、2歳年下だが、俺たちが養成所に入所したときは、既に勇者としての修行を始めていた。

勇者は、他の冒険者とは異なる養成方法をとっている。
礼儀作法や、国家情勢、歴史の勉強などである。
勇者は普通の冒険者と違って、他国にとっては国賓待遇を求められる。
つまり、国の代表という立場での行動を求められるのだ。
アリアハンの勇者が無様な様子を見せれば、国際問題にまで発展するのだ。

一方で、勇者がしゃべれないことについては、問題にはならなかった。
人の話は理解できるし、筆談も可能だ。
いざとなれば、勇者ご一行の誰かが代わりに話をすればいい。
ということで、その役割が俺たちに回ってきたのだ。
画策したのは、テルルの親父であるキセノンであるが。

キセノンは、テルルを勇者様ご一行に加えることで、他国との貿易をキセノン商会が担うよう働きかけることを考えていた。
キセノンの力は、国の勇者派遣戦略に影響を与えるほど、強いものになっていた。

まあ、同年代の冒険者候補で、俺やセレン、テルル以上のものはいなかったこともある。
戦士系の能力では、商人候補のテルルは他の戦士候補よりも下回るが、勇者が物理攻撃役としてサポートすることと、性格が「らんぼうもの」、「いのちしらず」、「わがまま」の戦士を勇者に加えることはまずいため、だれも反対されなかった。

ちなみに、「らんぼうもの」、「いのちしらず」、「わがまま」の戦士候補三人は、かつて子どもだった勇者をいじめようとしていた連中の性格である。
自業自得か。因果応報か。

俺は最初、冒険の開始時期が2年ほど遅れることを懸念したのだが、どうせアリアハンを出てロマリアにいけるのは勇者が出発してからになる。
ちなみに俺が魔法使いになった後に33万もの経験値をためれば、アバカムという鍵開けの呪文を習得し、国外に出ることが可能となるはずだ。
だが、アリアハン国内のみで経験値33万を稼ぐつもりなど無い。
おそらく二年では間に合わないだろう。
ひょっとしたら、経験値を稼ぐ前にアリアハン大陸のモンスターが全滅してしまうかもしれない。

それならば、後学のために魔法や商売の勉強をしたほうがよいだろう。
俺は、王宮の仕事に完全復帰したソフィアと一緒に魔法の研究をする許可は、既にもらっている。

一方で商売の勉強も、たまに行っていた。
去年までは、二年先輩のエレンズさんが、俺に声をかけていろいろと勉強を教えてくれた。
エレンズさんが俺に興味を持ったきっかけは、俺がノートに冗談半分で「5Gのおなべのふたを50Gで売る方法」を書いていたのが彼女に見つかってしまったからだ。

「君、変わったことを考えるね」
彼女は、俺のノートを取り上げじっくり確認した上で、興味深そうに評価した。
それ以降、彼女は、俺からさまざまなことを詮索するようになった。
おかげで、俺は転生知識をなるべく表に出さないよう、気をつけるようになった。
彼女も卒業し、キセノン商会で働くようになってからは、会う機会も減った。


一方で、勇者様ご一行になることで、行動の制限を受けるというデメリットもある。
勇者様と一緒の場面で、品位を疑われるようなことはできない。
だが、勇者様ご一行の称号は今後の生活を考えると十分うまみがある。
そう思い、三人で一緒に勇者の旅に従うことにした。

勇者は、俺たちと一緒に旅に出ることに反対しなかった。
まあ、「らんぼうもの」の戦士たちと一緒に行くことを考えれば、他に選択肢はないだろう。

ちなみに勇者のステータスは、限られたものしか知ることができない。
まあ、他国に情報が流されても困る。
仮に勇者の性格が「むってりスケベ」であることが明るみに出れば、他国が勇者をどのような扱いで味方に引き込むか自明のことである(勇者の名誉のために、性格が「むっつりスケベ」でないことを記載しておく)。
一緒に冒険をすれば、教えてもらえることになる。
さすがに生死の方が大事ということだ。


「アーベル。何を考えているの?」
「魔法についてだが」
「もしかして、レムオルの悪用法とか」
テルルはからかうような目つきで、俺をみる。
セレンは、レムオルがどのような魔法であるか思いだし、真っ赤な顔で俺の方をみる。

ちなみにレムオルは、透明になる魔法だ。
確かに悪用方法はいろいろあるだろう。

「違うって」
「じゃあ、何を考えていたのか、言ってみなさいよ」
テルルは、俺がぼろを出すことを期待しているようだ。
あいにく、俺には抜かりなどない。
「飛行魔法の活用法さ」
「飛行魔法?」
「テルル、トベルーラのことよ、そうでしょう。アーベル」
よくわからないといった表情をするテルルに、セレンが助け船を出す。

養成所では教わらない魔法の一つである。
一人でしか使用できない上に、魔力(MP)をかなり消費する。
冒険には向かないということで、養成所の講義内容からはずされている。

俺が長々と解説しようとするのを見抜いたテルルは、降参という表情をして俺の話をとめさようとする。
「はいはい、アーベル、話はそこまで」
「・・・、まだ何も話をしていないのだが」
「もう家に着くから、今日はここまでね」
「じゃあな、セレン、テルル」
「じゃあね、アーベル、セレン」
「それじゃあ」
四つ角で、3人は別れた。

俺は、転生してからずっと、この世界でどう生きるのか考えていた。
俺は、ある時から転生について考え方を改めていた。

俺は、前の世界から転生したのではなく、この世界で5歳のときに、前の世界に転生し、30を過ぎてから、この世界に戻って来たのだと。
都合の良い考え方ではあるが、この世界でアーベルとして生涯を終えるのであれば一番良い生き方になる。
それならば、他人に気付かれないように前の世界の知識を活用しようと、心に決めた。
前の世界の知識を活用した結果、この世界での人生設計が出来たので、安心していた。

だが家に帰るまで、それが油断であることに気がつくことはなかった。 
 

 
後書き
トベルーラは「ダイの大冒険」で使用された呪文から流用しました。
この世界では、呪文としては存在しているが、利便性の問題から冒険者には普及していないという設定です。

SFC版以外で他から借りた設定については、後書き欄等で記載するつもりです(さすがに、メドローアとかは出さない予定ですが)。

どうでもよい補足)
「5Gのおなべのふたを50Gで売る方法」の概要
・おなべのふたが防具(盾)になるという、新しい価値を持たせる
・武闘家にも扱うことができるという、独自要素を付加価値にする
・これらを効果的に宣伝することで50Gでも売れる商品にする 
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