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ラインの黄金

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第二幕その四


第二幕その四

「それで光や暖かい炎が来たのは忘れたのか?」
「以前はそうだったな」
「今もだ。考えてもみるのだ」
 その余裕に満ちた言葉が続けられる。
「私が火を与えなければ鍛冶仕事なぞできないのだぞ。その私にその態度はいただけないのではないのか?」
「しかし今はそこにいる片目の男の仲間だな」
 そんなローゲをジロリとに睨んで言うアルベリッヒだった。
「そうだな。しかし」
「しかし?」
「最早この男も恐れることはない」
 今度はヴォータンを睨んでいた。
「全くな」
「では私はここで言おう」
「聞くつもりはない」
 またローゲに敵意に満ちた目を向ける。
「全くな」
「それはまたどうしてだ?」
「御前の不実は信じるがその忠実さを信じないからだ」
 だからだというのである。
「だからわしは御前の言うことは信じないのだ」
「御前は相当な力を手に入れたのだな」
「これを見ろ」
 誇らしげな顔で自分の周りにうず高く積まれたその金銀や財宝を顎で指し示す。
「これが今のわしの力だ」
「ふむ。これはまた」
 ローゲはそれを見て少し驚いた様子を見せてみせた。
「中々のものだな」
「これだけではないぞ」
 アルベリッヒはさらに言うのだった。
「わしの力はな」
「ほう、宝はこれだけではないのか」
「このニーブルヘイムは宝があちこちにある」
 このことを誇らしげに述べるアルベリッヒだった。
「その全てがわしのものなのだぞ」
「ではこれはほんの僅かなのか」
「そうだ。まだあるのだ」
 誇らしげな言葉は続く。
「まだな」
「しかしだ。アルベリッヒよ」
 今度はローゲではなくヴォータンが出て来てアルベリッヒに言うのだった。
「御前の宝は何の役に立つのだ」
「何の役にだと?」
「そうだ。このニーベルへイムには喜びがない」
 光がないということである。
「その宝も何だというのだ?一体」
「宝を掘り出しその宝を保つにはだ」
 ここでアルベリッヒは彼なりの理由を述べてみせてきた。
「このニーベルへイムの闇が役に立つのだ」
「この闇がか」
「そうだ。この洞窟の中に積み上げているこの宝で奇蹟を起こすのだ」
 アルベリッヒのその目が爛々と輝いていた。本気である証だった。
「そう、世界をわしのものにするつもりだ」
「どのようにしてだ?」
「御前達は風がそよ吹く天界で笑い興じたり恋をしたりしているな」
「その通りだ」
 ヴォータンもそれを認める。ローゲはこの時無表情であった。
「それはな」
「しかしわしは違う」
 アルベリッヒは言葉を変えてみせてきた。
「わしは黄金の力で御前達を全て捕らえ征服してくれるのだ」
「黄金でか」
「御前達はアルプの力を侮っている」
 これはその通りだった。もっと言ってしまえば彼等は神であるが故に他の種族全てをそう見ている。もっともそれを客観的に見ている神はローゲだけだが。
 そのヴォータンに対して。アルベリッヒはさらに言うのだった。
「気をつけることだ。御前達は全てわしの奴隷になるのだ」
「よくもそこまで言えるものだな」
「夜の軍勢が攻め寄せる、やがてはな」
 これもまたアルベリッヒの野心なのだった。
「そしてニーベルングの宝が沈黙の深みから明るみに昇っていくのだ」
「それは夢に過ぎぬ」 
 ヴォータンはアルベリッヒの言葉をこう言って全否定した。
「今その夢を抱いて永遠に眠れ」
「まあヴォータン」
 ローゲがタイミングよく出て来て槍を出そうとするヴォータンを止めた。
 
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