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IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者

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第9話

大の字のまま、ゼロはゆっくりと喋り始めた。

「効いたよ…、ハル。俺は見失っていたんだな…、一番、大事な事を」
「…あった事を忘れろ、なんて言わない。ゼロには、頼りになる人達が居るんだ」

割り切れない事は百も承知、だが、彼には大事な人が彼を慈しんでいる。ゼロに言った、ヒーローになったゼロを見る日はそう遠くないだろう。

「一先ず、グラウンドに行こう。ゼロの晴れ姿を、彼女さん達に見せてあげないと」
「…そう、だな。よし、先に行くぞ、ハル!のぞみ達を惚れ直させないといけないからな!」

大の字から元気よく飛び起き、あっという間にゼロは走っていってしまった。

「まったく…、下手な芝居して…」

空元気なのは見て分かる。

しかし、暗いよりは何倍もましである事は確か。

ゼロのこれからに思いを馳せながら、グラウンドへ歩を進めるのだった。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

グラウンドに戻ってみれば、黄色い声がちらほら上がっていた。

グラウンドの一部に、女子が集まっている。

多分、あの中心にゼロがいるのだろう。

一夏達専用機持ちもそっちに向かっている。

授業が一時中断になったのだろうか?だとすれば、少々ゼロをグラウンドへ向かわせたのは早計だったかもしれない。

「織斑先生、現時刻をもってゼロ・グランツのIS起動を完了、授業に加わります」
「ご苦労、丹下。だがそう堅苦しくしなくていい。ここは軍ではないからな」

織斑先生の所に向かい、完了を報告すると、先生は苦笑しながらも労ってくれた。

うむむ、確かにちょっと軍隊じみてたかも。

「それにしても…、先生?これは一体…?」
「グランツが来たから、指導役を任せて再編成しようとしたら、これだ」

呆れて溜め息を吐く先生を見て、やはり早計だった、と臍を噛んだ。

「まあ、大半は終わっているし、後で困るのはあの馬鹿者達だからな。…それより、丹下。グランツの事は…、」
「…勝手にステージを使用してしまいました。お叱りは、如何様にも」
「いや、構わない。それが必要だった事にしておく。…聞いたんだな?」
「…ゼロが味わった事は」

女子達の明るい声とは対称的に、織斑先生との空気は重くなる。

不可抗力であるとは言え、当事者だ。思う所があるに違いない。

「グランツの気持ちは分かっている。だが…、私には、どうしてやれば良いか、分からなかった」

普段の凛とした雰囲気ではない、憂いを帯びた先生の独白を、俺は黙って聞くしかなかった。

「私にも一夏が居たからな、家族を失う痛みは想像に難く無い。が、何をすれば、何があったらグランツを癒してやれるか、それが全然見えてこなかった」

独白を聞きながら、織斑先生は優しい人なのだ、と節々からから感じ取った。

ゼロの為に何かしてやりたい、でもどうすればゼロの為になるか分からない。

…先生、何かをするだけが、『してあげるだけ』が、その人の為になるんじゃないんです。

「時に黙して耳を傾け、時に矛を交えて通じ会う。男には、そう言う単純な方法も、必要なんだと思います」

勿論これは俺の一意見であって正解ではない。その人その人に合った対応が出来るのが、一番良いに決まってる。

今回は偶々俺のやり方がゼロに響いた。ただ、それだけの事だ。

「先生の気持ちは、ゼロに届いていた、と思います。ゼロが少し意地っ張りなだけで…」
「…子供が気を使うな。だが、そうだな。そう思うようにしよう」

織斑先生は薄く笑ってみせると、すぐに元の教師としての姿勢に戻った。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「では、午前中の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行うので、各人格納庫で班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように。グランツ、丹下は追って指示を出す。では解散!」

一二組合同班の方々が必死になって訓練機を格納庫に移し、ヘトヘトな状態で先生の連絡事項を聞いていた。

幸か不幸か、俺とゼロは訓練機を使った訓練に一切参加していなかった為、移す作業に関わらなかった。

大変そうなので、手伝おうとはしたのだが、先方に拒否されてしまった。

前々から、女子からはあまりいい感情は感じられてはいなかったが、今回は特にそれが強い。

特に、二組の生徒らしい、金髪縦ロールな生徒には、露骨に嫌がられた。

どうもおかしい。まるで俺が邪魔者みたいじゃないか。

「あー……、あんなに重いとは……」

重たい訓練機を運んで疲れた様子の一夏と、それを見て苦笑しているシャルルが丁度こちらに来たので、思いきって聞いてみることにした。

「一夏、シャルル、この実習で何かあったか?二組の生徒に散々な扱いを受けたんだが…」
「あったと言えばあったんだが…、」
「うん…、ちょっと…、ね」

態度から何かあったことは明らか。だと言うのに、俺に言いたくない内容となれば、ある程度は予想出来る。

「接点が無いから俺自身ではない、初対面であんな態度をとるからには、俺に関する何か、二組で俺関係…、分かった、真琴か」

流れ的に、あの縦ロールは百合で、真琴にアタックして振られる。

そんな真琴が慕っている俺に逆恨み、と言う所だろう。馬鹿馬鹿しい。

「トモ…、察し良すぎだろ…」
「それでいて感想が馬鹿馬鹿しい、の一言なんだ…」

絶句している一夏とシャルル。あのね、

「一々色恋沙汰で右往左往してたら身が持たないんだよ、只でさえ身近にタラシが二人も居るんだし」

許容、寛容、不干渉。俺が身に付けた、色恋沙汰に溺れる者達を効率よく相手にする、有効な手段。

「………大変なんだね、トモって」
「そう思うなら、少し肩代わりしてくれよ、シャルルさんよ?」
「それは遠慮しとく」

同情の視線を浴びせるシャルルを巻き込もうとしたが、軽く避けられてしまった。

「……二人とも、何を話しているんだ?」

そして、話の意味をこれっぽっちも理解していない一夏君。

君の話をしたんだよ、俺は。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

時は過ぎて昼休み。

一夏達、いつもの面子は、屋上へ向かい、俺とは一緒ではない。

俺は、普段以上に活気溢れる食堂の片隅で、ゼロと男二人での昼食をとっていた。

「ゼロ、彼女さん達は?」
「今日は友達と食べるってさ。たまには俺も、ハルとメシ食いたいしな」

そう言うものか、と納得し、麺を啜る。

今日は再びカレーうどん。前回果たせなかった、無傷での完食、今度こそやり遂げる!

「…丹下智春!!」
「ふぉっ!?」

視界の外から怒鳴られて、机に手を叩き付けられたから、カレーうどんの出汁が跳ねる。

間一髪、席を立って出汁をいなしたため被害はないが、こんな暴挙に出た不届き者には一言言わぬと気が済まない!

「服にかかったらどうすんだ!!」

クリーニング大変なんだぞ!!

「そんな些細な事、どうでもいいのよ。丹下智春、私と戦いなさい!」

些細だと?ふざけるな、俺が何度この戦いに挑んだと…!

「そうやって無駄口叩いて逃げようとしても無駄。丹下智春、私が勝ったら丹下さんはいただきますから」

丹下さん?ああ、真琴か。良いよ別に。好きにしなよ、俺は気にしないから。

「…丹下智春、それが妹に対する態度なの?」

言いながら肩を震わす縦ロール。妹の為に怒るのは結構だが、本人そっちのけで勝負を吹っ掛けるのはどうかと思う。

後、フルネームで呼ぶのはやめていただきたい。

「いいでしょう、丹下さんの目を醒まさせる良い機会、もう一度言います丹下智春、私と戦いなさい。拒否はさせません」
「無理だな、そもそも動機が不純、加えてあんた、専用機持っていないだろう?」

仮に、勝負をしたとしても、得るものが無い。

向こうは勝つまで挑み続けそうな性格のようだから、デメリットは無いに近い。

「俺じゃなくて妹に挑め、それが礼儀ってものだろう」

振られた腹いせに俺に当たるのは筋違い、そう言う色恋沙汰は当人同士で解決してほしい。

「そうやって逃げるのかしら、丹下智春?」
「安い挑発だ。その手は桑名の焼き蛤ってな」
「なら、懇意にしている織斑さんがどうなっても?」
「…どういう意味だ」
「もし、まだ拒否するようなら…、彼等の身に、何か『不幸』が起こるかも、しれませんわね」

そう来たか、と内心で吐き捨てた。

一夏がいくら異性に好かれやすくとも、その存在が不愉快な奴は沢山いる。

この女は、俺と戦うためならば、躊躇い無く一夏達に手を上げるだろう。

「………分かった。受けてやる。日時は?」
「また後で知らせます。それでは」

苛立たしいほど優雅に、縦ロールは去っていった。

「…教えてやるぞ、誰を怒らせたか。勝利の為に、俺がどれだけ残酷になるかを…!」

去っていった縦ロールの背を睨みながら、俺は目まぐるしく思考を巡らせるのであった。 
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