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堕天使の誘惑

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第四章

「ちょっとね」
「頑張るねえ」
「頑張ってるかな」
「うん、ファミコンをする様になってからね」
 ゲームだけではなかった、それは。
「仕事もはきはきとしてきたね」
「何か楽しみがあるとね」
 カトエルは寝袋から半身を起こしてサトエルに答えた、
「違うんだよね」
「趣味があると変わるね」
「神も楽しんでおられるよ。けれどね」
「けれど。何だい?」
「君はどうして僕にファミコンを勧めたのかな」
 最初のそのことを今サトエルに問うたのだった。
「それはどうしてかな」
「そのことだね」
「それがわからないけれど」
「面白いからだよ」
「面白い?」
「そう、僕は堕天使だよ」
 彼の今の立場からの言葉だった。
「ただ何も考えずに動いたりはしないよ」
「誘惑?まさか」
「そのまさかだよ」
「けれど僕達は特に」
「堕落していないというのかな」
「酒や淫欲、贅沢には」
「そうだね。そういうものではないね」
 サトエルもそれはその通りだと言う。
「ゲームは堕落ではないよ」
「だからこそ神も夢中になっておられるんだよ」
 所謂クソゲーハンターになっている。神としての仕事をする以外にはいつもそればかりしているのだ。だからカトエルも言う。
「堕落ではないよ」
「うん、神は決して堕落をしないね」
「じゃあ何故僕にゲームを」
「だから四角四面な君達がああしたゲームに熱中するjのを見たかったんだよ」
「僕達が」
「そうだよ、それを見たかったんだよ」
 そうだったというのだ。
「堕落ばかりを仕掛けたりはしないよ」
「面白いことをだったんだ」
「そうだよ、そうしたんだよ」
「ううん、誘惑じゃなくて」
「そう、楽しみを仕掛けたんだよ」
 サトエルは笑顔でカトエルに話していく。
「そしてそれは成功したみたいだね」
「僕は、僕達は負けたのかな」
「負けたと思うかい?」
「実際に君の誘惑に乗ったじゃないか」
 だから負けたというのだ。
「もうゲームから離れられないよ」
「僕もしてやったりと思ってるよ」
「じゃあ君の勝ちだね」
 カトエルは顔を顰めさせてサトエルに言った。
「悔しいけれどね」
「いや、悔しいって思ってるかな今は」
「?何それは」
「そうだよ。今君は悔しいって思ってるかな」 
 サトエルは思わせぶりな笑顔でカトエルに問う。
「それはどうかな」
「いや、そう言われると」
「ゲームを知ることができてよかったと思ってるね」
「だからあれがないともう生きていけないよ」
「そうだよ。僕も善意でした訳じゃないけれどね」 
 面白いからだ、悪意はないにしても悪戯の類であることは間違いない。
「君達は確かにそうなった」
「楽しみを知ったよ」
「君達は確かに僕に負けたけれど悔しくとも残念とも思う負けじゃない」
「そういう負けもあるんだね」
「そうなるんだよ。世の中は四角四面だけじゃないからね」
 天使にはどうしてもわからないことだが堕天使であるサトエルはあえてこう言った。そしてそのうえでだった。
 サトエルはカトエルにあらためて言った。
「そんな負けもあるんだよ」
「ううん、わからないな」
 生真面目で白と黒しかない天使であるカトエルにはだった。だが。
 確かに悔しくも残念でもない。だからだった。
「ゲームはするよ」
「今度は何をするのかな」
「うん、ネットゲームもはじめたからね」
「じゃあそっちもやるといいよ」
「そうさせてもらうよ」
 こうサトエルに答える、カトエルも天界の誰もこの敗北には悔しいとも無念とも残念とも思わなかった。そしてまたゲームをするのだった。サトエルの誘惑に乗ったまま。


堕天使の誘惑   完


                2012・11・28 
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