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セビーリアの理髪師

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19部分:第二幕その三


第二幕その三

「リンドーロ・・・・・・でしたっけ」
「あいつがか」
 バルトロの表情が一変した。怒ったものになる。
「彼にあてたロジーナさんの手紙を持って来ました」
「そんな話は早く言ってくれっ」
 バルトロは激昂して彼に言った。
「何故今まで言わなかったのだ」
「ですから些細なことですので」
「全然些細ではないわっ」
 少なくとも彼には。
「あるのか、今それは」
「私の懐の中に」
 これは事実だ。何しろこれが今の彼の策略のメインだからだ。
「ありますが。では」
「すぐに見せてくれ」
 そう伯爵が化けている音楽教師に言う。
「すぐにな。いいな」
「わかりました。それでは」
 それを受けて懐から手紙を差し出した。バルトロはそれを見るとすぐにひったくるようにして受け取りその中を貪るようにして読みはじめた。まずは筆跡であるが。
「間違いない」
 その筆跡を見て言う。
「ロジーナの字だな」
「それでですね」
「それで。今度は?」
「アルマヴィーヴァ伯爵を御存知でしょうか」
 自分の名前をさりげなく出してきた。
「ああ、彼なら知っている」
 バルトロもその言葉に頷く。手紙を読みながら。
「その彼がどうしたのだ?」
「実は彼がロジーナさんを狙っています」
「何っ!?」
「それで何かとうろうろしているようなのですよ」
「それはまことか」
「私は嘘は申しません」
(嘘だがね)
(嘘だな)
 それは二人共嘘だとわかっていたがあえて口には出さない。
「ですから信じて下さい」
「わかった。ではすぐにロジーナを呼ぼう」
「ロジーナさんをですか」
「本人に知らせるべきだ、こうした話は」
 彼は真顔で述べる。
「だからこそだ。いいな」
「そうですね。いいかと」
 心の中では思うところがあったがそれは今は隠した。
「それではどうぞ」
「うむ。流石はドン=バジリオの弟子」
 これは完全にお世辞である。伯爵もそれはわかっている。
「感謝する。ではな」
「はい、有り難うございます」
 バルトロはすぐに二階の階段を登りロジーナのところに向かった。伯爵はそれを見ながら一人呟くのであった。
「まあ仕方ないな、今は」
 ロジーナの手紙をバルトロに渡したことを言う。実は事前に結構迷っていたのだ。彼にとってはかなり思い切った策略だったのだ。
「後は彼女に僕の計画を話して、と。それで行こう」
「ささ、ロジーナ」
 すぐにバルトロはロジーナの手を引いて戻って来た。どうやらシェスタをしていた彼女は今一つ浮かない顔をしていた。
「早く来なさい。今日の音楽の先生だよ」
「今日の!?」
 何か変な言葉に階段を降りながら首を傾げさせる。
「バジリオ先生ではないの?」
「どうも風邪らしい」
 伯爵が化けた音楽教師の言葉をそのまま述べる。
「それで今日はだな」
「ええ」
「ドン=アロンソ先生が来られている」
「ドン=アロンソ!?」
 ロジーナも聞きなれない名に目をしばたかせる。
「どなたなの、それは」
「何だ、知らないのか」
 自分も知らないのは内緒である。
「ドン=バジリオの弟子でな」
「バジリオ先生の」
 ロジーナはそれを聞いて今度は首を傾げさせた。さらに聞かないことだったからだ。
「弟子なのですの?」
「うむ、若いが素晴らしい方だ」
 そう述べる。
「わかったら早く。さあ」
「わかりましたわ。では」
 階段を完全に下りて一階に来た。すると彼がいた。
「まあ」
「どうも」
 伯爵はあえて恭しく一礼する。
「ドン=アロンソです」
「はじめまして」
 ロジーナもスカートの裾を掴んで恭しく一礼する。上品に見えるがそこには上品よりもおどけたものがあった。だがそれはバルトロにはわからない。
 
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