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アドリアーナ=ルクヴルール

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第四幕その三


第四幕その三

「王妃様のものにそっくりね」
 姫君がうっとりとした眼差しで言った。
「ええ。まさか本当にそうだったりして」
 女神が言った。彼女もその首飾りに見とれている。
「まさか。そんな事したら私はこんなところにはおれませんよ」
 ミショネは少し慌てて言った。
「そうだね。監督がそんな事するわけないし」
「そんな事をする度胸が無い」
 高官と庶民が囃し立てる様に言った。
「からかわないで下さいよ」
 ミショネはその言葉に対し困ったような顔で言った。
「けれど本当に綺麗・・・・・・。ミショネさん、有り難うございます」
 アドリアーナは首飾りを受け取り彼に深々と頭を下げた。
「いえいえ、そんなに感謝されたらかえってこっちが畏まってしまいますよ」
 彼は謙遜して言った。
「けれどこんなものを一体どうやって手に入れたの?」
「そうよねえ。ちょっとやそっとじゃ買えないわよ、こんなの」
 女優達が少し首を傾げて言った。
「それは簡単です。ブュヨン公爵に譲って頂いたのです」
「公爵に!?」
 ミショネの言葉に一同思わず声をあげた。
「叔父の遺産を使いましてね。それで譲って頂いたというわけです」
 彼は少し芝居がかった調子で言った。
「けれどあの遺産は結婚資金にされるおつもりだったのでしょう?ご結婚は・・・・・・」
「そのお話は綺麗さっぱりとなくなりました。まあ私の柄ではないですし構いませんよ」
 彼はアドリアーナに対し笑って言った。だが密かに心の中では泣いていた。
「私の為にそこまでして頂いて・・・・・・」
 アドリアーナは彼の両手を握って言った。
「有り難う、本当に有り難うございます・・・・・・」
「いえ、本当に構いませんから。私は私の気の済むようにしただけですから」
 彼は彼女のその言葉だけで充分だった。それこそが彼の生きがいなのだから。
「ところでアドリアーナさん」
 男優二人が彼女に話し掛けて来た。
「はい」
 アドリアーナは彼等の方へ顔を向けた。
「同僚としてお話があるのですが」
「私達も」
 女優達も入って来た。
「何でしょうか」
 アドリアーナはそれに対して尋ねた。
「是非舞台に戻って来て下さい。皆貴女を待っていますよ」
 彼等は口を揃えて言った。アドリアーナはそれに対し微笑みで返した。
「そうですね。皆さんが私を待っていて下さるのですから」
 彼女は半ば自分自身に言い聞かせるように言った。
「もう一度舞台に戻り、そして皆さんに私の演技を見てもらいましょう」
 彼女は言った。これは自らへの決心の言葉であった。
「ええ、是非そうすべきです。パリの皆が貴女をお待ちですよ」
 ミショネが笑みをたたえて彼女に言った。
「はい。ところで私がいない間に何かありましたか?」
 彼女はふと気付いて皆に尋ねた。
「ええ、一つ大事件がありまして」
「大事件?」
 庶民の言葉に対し彼女は尋ねた。
「はい、デュクロの事で」
「彼女の?」
「そうです、公爵と別れたんですよ」
 高官が真剣な表情で言った。
「えっ、本当ですか?」
「はい、まあ公爵が飽きられたと言う方が適切でしょうかね」
「あの公爵も女好きですし」
「もういいお年だというのに」
 女優達もその話について言う。
「それで今彼女はどうしていますか?」
「変わりありませんよ。そんなヤワな人ではありませんし」
「はい。今は新しいパトロンを見つけちゃいまして」
「それも美男のオルレアン公爵」
「こちらの方がお若いしいいかも」
「それはまた・・・・・・。彼女は相変わらずみたいですね」
 アドリアーナはそう言って苦笑した。デュクロとはライバル同士だが同時に友人でもあるのだ。
「はい。歌ではやされているのに全く気にしていませんしね」
「そこら辺は本当に凄いというか流石というか」
「歌、ですか?」
 アドリアーナは男優達の言葉に反応した。
「ええ、今パリで流行っているんですけれどね」
「知りませんか?」
「生憎。どんな歌ですか?」
「お聴きになりたいの?」
「ええまあ」
 姫君の言葉に答えた。
「それでは」
「さん、、はい」
 女神が音頭を取った。そして四人は歌いはじめた。
「昔々一人のお年寄りの公爵がおられました。もういいお年なのにケチでとても女好きでした。女の子を口説くのにいつもお薬と魔法を使う悪い魔法使いでもありました」
「公爵の歌みたいですね」
「まあ最初の方は」
「面白くなるのはこれからです」
 男優達はアドリアーナの言葉に答えた。そして歌を再開した。
 
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