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作者:uri
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転生

生物は基本生命活動を維持する為に睡眠をとる。人間も勿論それに該当する。さらに寝床を決め、大抵はそこで眠るだろう。人間の場合はベッドや布団などがそうだ。
 ではもし、寝た場所と起きた場所がまったく一致していなかったらどういう反応をするか? 丁度良いところにその例がいるので、その様子を覗いてみよう。



******



「……ん? ここ……は?」

 そこは何もなく、床や壁、天井があるかもわからない程真っ白な空間。その空間で彼は目覚めた。

「っな!? なんで!? ここどこ!? なんで家じゃないんだ!?」

 彼は何かに弾かれたかのように素早く起き上がり、周りを見渡しながら大声でこの空間に疑問を吐き出した。しかし彼の問いに答える者は現れず、無音な空間に戻るだけだった。だがその無音のおかげで彼は我に返り、冷静になることができた。

「……そういえば、こんな真っ白な空間から始まる小説がネットにあったよな?」

 つい最近友人に勧められるがままに読んだネットの小説のことを思いだす。その小説はアニメやマンガなどの二次元の世界に作者が作ったオリジナルの主人公……通称オリ主を埋め込み、原作を沿ったりブレイクしたりとかなり想像力を掻き立てる物だった。

「確かこんな空間から始まって、神様が手違いで死なせてしまったのでとか言ってチートみたいな能力……を…………あげ……て……」

 そこで彼は気が付いてしまった。神様とやらは出て来てはいないが、その小説と自分の今の現状が良く似ていることに……ということは、だ。

(俺……死んじゃったの?)

 そう思った瞬間、彼の背中に冷たい汗が流れ、体全体の血が一気に引いていく感覚に襲われた。

(おっ落ち着け! 落ち着くんだ俺! あれは小説の話であって現実の話じゃない! あれは空想だ! あれは妄想だ! そしてこれは夢だ! 寝て起きたら死んでたなんてことがあってたまるか!)

 彼は頭を抱え込む様にしゃがみこみ、ひたすら自分にこれは夢だと心の中で言い聞かせた。
 しかし、現実というものは時に非情である。

「お前何時まで現実逃避してんだ? さっさと顔あげろや」

 はっきり聞こえてしまった自分以外の何者かの声……何故か呆れているような哀れんでいるような声だったが……。
 こうなってしまってはもはや逃げ道はない。覚悟を決め、彼は恐る恐る顔を上げた……が、

「…………え?」

 ポカンと口を開けて暫く呆然としてしまった。なぜなら目の前には野球ボール程の黒色の球体が浮かんでいただけで、声の主らしき人影は何処にも見当たらなかったからだ。

「おい。どこみてやがる」

「うおぉっ!?」

 しかしその声は目の前の球体から発せられていた。

(なんでこんな球体から声が出るんだ? しかも浮いてるし……)

 彼はそれらのことを数十秒程考えたが、当然結論など出るわけもなく、彼はそのうち考えるのを止めた。

「諦めるの早過ぎだろ。もうちょい頑張ろうぜ?」

「…………すみません。ここがどこかわかりますか? できればあなたが何者か教えてくださると嬉しいのですが」

 なぜ自分の思考が読まれていたか疑問に思ったが、いちいち気にしていては話しが進まないので、そういうものだと自己完結させ気にしないことにした。

「ここは俺が作りだした空間だ。そんでもって俺は神だ。位は一番低いけどな」

「あ、あぁ……そうですか。ありがとうございます」

 聞いてもいない神の位が出てきて少し戸惑ったが、欲しい情報は得られた。
 この流れからするとあの小説と同じことが起こることは容易く想像できる。だが、小説と一つだけ違う点がある。

(死後の世界じゃなくて作った空間か……これは小説とは違う展開になりそうだ)

「なんだ知ってたのか。なら話しが早い……と、言いたいところだが、これはお前らのとこのテンプレとは違うんだよ」

「て、テンプレ? なんですか……それ?」

「あー……今のなし。忘れてくれ。いちいち説明してる時間ないんだよなこれ。ちなみにあと五分」

「え!? 時間制限!? な、なにがどうなって……」

 意味がわからない単語の後に、まさかの時間制限発言で彼の頭は爆発寸前だった。
 もし、この場に居合わせたのが彼の友人だったら一瞬で状況を理解し、壮大に「オリ主ktkr!!」とか「テンプレキター!!」とか言って大はしゃぎするだろう。

「まぁ一端落ち着けよ。今からわかりやすくざっくりと説明してやるから」

「……わかりました。お願いします」

「おうよ。それと質問は後にしてくれよ? マジで時間ないから」



*****



 黒い球体……ではなく神様からの説明をまとめるとこうだった。

 1『最高神が人間界で流行っている転生小説に興味を持ち、自分達もやってみようと提案』

 2『しかし小説と違って手違いで殺すことは全くない。だからといって適当に殺す訳にもいかないので、話し合いの結果合意のもとで転生させることに決定』

 3『ただし転生させる前に必ず特典チートを持たせること。戦闘物は勿論、日常物の世界も例外ではない』

 と、ざっとまとめるとこうだった。

「ということは……死んだんじゃなくて、誘拐されたんですね」

「確かに死んでないが、誘拐って……もっと他に言葉があるだろう。召喚されたとか」

(良かった。本っっ当に良かった!! 俺はまだ死んでない!! 生きてるって素晴らしい!!!!)

 神様がもっと違う言い方があるだろうと呆れるが、残念ながら当の本人はそれを無視して生きてる喜びを噛み締めていた。少しオーバーな気もするが、そこは多目にみてほしい。

「喜んでるとこ悪いけどどうするよ?」

「ん? 何をですか?」

「何をって……決まってんだろ。転生だよ転生」

「……すみません。生きてる素晴らしさに感動してて忘れてました」

「そうかよ。だがまぁ今はそんなことは置いといて、だ。どうするよ? 転生するならお前が向こうの世界で楽しめるように最低限のことはしてやるし、転生しないならちゃんと元の場所に帰してやる。ただし、この空間での記憶は消さしてもらうけどな」

 それを聞いてしばし彼は考える。今いる世界はマンガやアニメのように魔法もなければ超能力もない平凡な世界だ。だがそれは逆にいうとそれだけ平和な世界ともいえる。
 その平和な世界に若干物足りなさを感じているが、彼は今の生活を結構気に入っている。わざわざ危険を冒してまで刺激を求める必要はない。だが……

(どうしよう……転生したらどうなるのか物凄く気になる。こんな機会二度とないだろうし……)

 好奇心は時として最悪の展開を引き起こす。そのことは彼も重々承知している。

「時間ないからあと二分以内に決めろよ」

「ちょっ!? 早すぎませんか!?」

「お前の後ろが詰まってんだよ。だからお前ばっかに時間掛けるわけにはいかないんだよ」

 その言葉を聞いて彼は先程の話しを思い出した。転生するのは自分だけではないことを。

(それにしてもどれくらいの人数に声を掛けてるんだろう? まさか全人口じゃ……)

「んなわけないだろう。全国の少年少女だけだ。それよりいいのか? あと一分三十秒」

「十分多いです!……じゃなくて! 聞きたいことがあったんです。転生するメリットとデメリットを教えてください」

 あまりの人数の多さにおもわず突っ込んでしまったが、そんなことは今いい。転生するかの判断材料を増やすために彼は神様に質問した。……時間があるか少し心配だが。

「わかった。だが一度しか言わないからな? 聞き返すなよ?」

「はい。時間ないので巻でお願いします」

「お前がそれを言うかよ。では、ざっくりいくぞ。まずはメリットだが、複数特典チートを引っさげて別の世界に行ける。さらに五体満足持病障害無しがデフォルトだ。ちなみに容姿は不細工には絶対ならない」

 あまりのメリットの多さに彼はおもわずずっこけそうになった。特典チートを複数引っさげるだけでも十分だといのに、さらにざっくりの説明ということはまだなにかメリットがあるに違いない。

(けど、上手い話しには裏がある。これ絶対デメリット凄いでしょ……)

「そしてデメリットだが、一つ目は確実に原作に関わることになる。だから家に引きこもっても無駄だ」

「…………へ?」

 なんとデメリットの一つがまさかの原作介入だった。むしろ殆どのオリ主達からすればメリットでしかない。何もしなくても原作が向こうから来てくれるのだ。

(デメリット……なのかこれ? もっとこう……寿命が縮むとか、そういうのじゃないの?)

「別に良くね? 俺達神はお前らが好き勝手やるのを見て楽しむんだから」

「なるほど。つまり産まれてから死ぬまでずっと見られてるってことですか?」

「ずっと見てるわけじゃないから安心しろ。そして二つ目のデメリットだが、俺達……というより最高神様が飽きるまでひたすら転生してもらう。これで説明は終了だ。残り時間は三十秒だ。どうするよ」

 もはやデメリットですらないと彼は思った。未知の世界に一度ならず二度、三度と行けるのだ。もはや転生しない手などない。
 だが、彼には気掛かりなことがあと一つあった。

「ありがとうございます。それと、最後にどうしても聞きたいことがあります」

「まだあんのかよ。今度は何だ?」

「大丈夫です。すぐ終わりますから」

 そう言って彼は一度大きく深呼吸をした。この質問の回答で彼が転生をするかしないかを決める程重要なのだ。
 そして、神様である黒い球体を真っ直ぐ見据えてこう言い放った。

「俺が転生する世界は、戦闘物と日常物のどっちですか?」
 
 

 
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